発表・掲載日:2015/08/25

安心・安全・高効率なフローリアクターの実現

-産総研のシーズ技術を発展させフローリアクターを大型化-

ポイント

  • 8インチMEMSプロセスを駆使したフローリアクター製造技術を開発
  • 除熱強化による反応制御法もあわせて開発し、並列運転による量産にも目処
  • 水素と酸素からの過酸化水素の直接製造法をはじめ、暴走リスク反応の高度制御に期待


概要

 株式会社 テクニスコ【代表取締役 関家 圭三】(以下「テクニスコ」という)は、国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)集積マイクロシステム研究センター【研究センター長 廣島 洋】化学バイオインターフェース研究チーム 井上 朋也 研究チーム長と共同で12 cm x 18 cmのサイズのフローリアクターを開発した。

 今回、テクニスコのクロスエッジ®微細加工技術を駆使した8インチMEMSプロセスを用いて、産総研のシーズ技術であるマイクロリアクターを12 cm x 18 cmまで大型化した。リアクターあたりの製造量は10倍以上向上している。反応リスク管理の観点から、医薬品やファインケミカル製造用のフローリアクターへの応用が強く期待される。

 なお、この技術の詳細は、平成27年8月27日~28日に東京ビックサイトで開催されるJSTフェア2015で発表される。

開発したフローリアクターの写真
開発したフローリアクター


開発の社会的背景

 最近、医薬品やファインケミカルの製造技術として、従来のバッチプロセスに代わるフロー反応システムが注目を集めている。特に近年、世界的大手製薬企業がフロー反応システム技術の採用を発表するなど、利用拡大が見込まれている。

 しかし、システムで用いられるリアクター(反応器)は、加工技術上の制約から構造が限定されるため適用できる反応に限界があり、特に固体触媒を用いる反応には不向きであった。

研究の経緯

 産総研は、微細加工技術により熱・物質移動効率を高めたフローリアクターである独自のマイクロリアクターの開発を進めていた。特に水素と酸素の直接反応による過酸化水素の製造に関して、従来の条件より低圧、常温で実用濃度である10 %の過酸化水素を高効率で製造できるリアクターを開発してきた。マイクロリアクター技術により水素や酸素の爆発リスクを回避できたこと、最適な反応場を実現して反応条件を温和にできたことがかぎであった(2010年9月14日産総研・三菱ガス化学共同プレス発表)。

 当初の10 %過酸化水素の製造能力が40 g/日であったため、テクニスコとの共同研究によりフローリアクターの大型化と並列運転による製造能力向上をめざした。

 なお、本研究開発は、国立研究開発法人 科学技術振興機構の委託事業「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)ハイリスク挑戦タイプ(平成25~26年度)」による支援を受けて行ったもので、産総研の実用化への橋渡し活動の一環である。

研究の内容

 今回、産総研のもつシーズ技術であるマイクロリアクター技術に対して、テクニスコのクロスエッジ®微細加工技術を駆使してB6サイズ(12 cm x 18 cm)のフローリアクターを精度良く製造した。このフローリアクターは3層のガラス基板から構成されている。図1はフローリアクターの整流機構部分であり、50 μm幅のチャンネルとサブミリメートル幅のチャンネルを精度良く3次元的に構築してある。B6サイズのフローリアクター製造プロセスは8インチのガラス基板やシリコン基板を丸ごと用いる8インチプロセスとなる。一工程での瑕疵が歩留まり0に直結するため、各工程をミス無く行うことが重要である。テクニスコのクロスエッジ®微細加工技術により、マイクロチャンネル内の傷(チッピングなど)がなく、寸法精度が向上、さらに溝加工を施した基板間の密着性が向上して、世界的にも例のない8インチMEMSプロセスによるフローリアクター製造を実現できた。なお、テクニスコではフローリアクターをはじめとしたマイクロ流体デバイスを8インチ基板対応のMEMSプロセスにより製造できる環境を構築している。

B6サイズフローリアクターの整流機構の写真
図1 B6サイズフローリアクターの整流機構

 過酸化水素製造では発熱量は約190 kJ/molであるが、フローリアクターが大型になると反応に伴う熱が蓄積して高温になり、製造された過酸化水素がさらに反応して水に転換してしまう問題が生じる。テクニスコでは今回開発したガラス製のフローリアクターに熱伝導度のよいシリコン基板を接合して、除熱効率に優れたフローリアクターを開発した。これにより空冷だけでも十分な除熱が可能となった。たとえばガラス製フローリアクター(図2左)を用いた場合には、リアクター温度が80 ℃付近まで急激に上昇するような反応条件であっても、除熱を強化したフローリアクター(図2右)ではリアクター温度が50 ℃以下に留まり、安定した反応が可能となった。また、過酸化水素の収率も向上した。

ガラス製B6サイズフローリアクター(左)とシリコンにより除熱を強化したフローリアクター(右)の写真
図2 ガラス製B6サイズフローリアクター(左)とシリコンにより除熱を強化したフローリアクター(右)

 さらに、反応器の4並列運転により10 %過酸化水素を2 kg/日の規模で製造できることを実証できた。並列運転において各リアクターに反応流体(過酸化水素の直接製造であれば水素、酸素、および水)がそれぞれ均等に供給されることが必須であるが、テクニスコのクロスエッジ®微細加工技術により加工性が向上したことで構造を簡素化できたため、より円滑な並列運転が可能となった(図3)。

シリコンにより除熱を強化したリアクターの4並列運転の写真
図3 シリコンにより除熱を強化したリアクターの4並列運転

今後の予定

 医薬品やファインケミカルの製造では、温度を精密にコントロールする必要のある反応は少なくない。今後は、そのような反応にカスタマイズしたフローリアクターを受注生産する仕組みを整え、医薬品やファインケミカル製造におけるフロー反応プロセスの利用拡大に貢献していきたい。

 また今回整備したマイクロ流体デバイス製造環境は、創薬支援などの用途のマイクロ流体デバイスを安価に供給する上でも有用である。そのようなデバイス開発・製造を通じて健康長寿社会実現に貢献していく。



用語の説明

◆フローリアクター
回分式反応器(バッチ反応器)に対し、原料を連続供給し、製品を連続的に生産するための反応器である。[参照元へ戻る]
◆クロスエッジ®微細加工技術
テクニスコの微細加工技術の特徴であり、1つの製品の製造の中で異なる2つ以上の加工を組み合わせるもので、最先端技術をクロスさせるという意味である。“切る”、“削る”、“磨く”、“メタライズ(表面を金属膜化する)”、“接合”の5つの加工技術が中心である。[参照元へ戻る]
◆MEMS
マイクロ電子機械システム(Micro Electromechanical System)およびそれを実現するための加工技術を総称する。[参照元へ戻る]
◆マイクロリアクター
フローリアクターの中でも、とくにマイクロチャンネルを反応場とする反応器であり、爆発などのリスク抑制、除熱効率の向上といった特長を持つ反応器。[参照元へ戻る]
◆ファインケミカル
大量に生産される化学製品に対し、少量でも高い付加価値をもつ化学品の総称で、化粧品や香料、塗料や顔料、工業分野で幅広い用途に使用される。広い意味で医薬品もファインケミカルである。[参照元へ戻る]
◆バッチプロセス
攪拌槽に必要な分量の原料を投入し、混合するタイプの生産プロセス。原料の投入や混合方法などを精緻にモニタリングする必要がある。また反応によっては副生成物の除去が必要なこともある。[参照元へ戻る]
◆フロー反応システム
原料の投入から製品の取り出しまでの工程またはその一部を流通(フロー)させながら行う反応。生産プロセスのモニタリングの簡素化によるプラントの無人化・省力化や副生成物の低減などのメリットがある。[参照元へ戻る]
◆8インチプロセス
8インチ(約20 cm)直径の基板を微細加工するプロセスを指す。微細加工のパターン作成から実際の加工までを一貫して基板サイズに合わせた専用の機械を用いて行うため、基板のサイズを冠して加工プロセスが名付けられている。[参照元へ戻る]
◆チッピング
微細な欠けなど。ガラスのような硬くてもろい材料を削って加工する場合に生じ、製品の破損につながる。[参照元へ戻る]


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