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発表・掲載日:2015/08/03

有機鉛ペロブスカイト太陽電池の発電層形成過程をリアルタイム解析

-SPring-8のX線を使い、結晶形成過程の異常拡散現象を初めて確認-

ポイント

  • 発電層形成過程を、X線2次元検出器で毎秒10コマ撮影し、詳細に観察
  • 結晶形成過程で生じる異常拡散や結晶の流動的な配向変化などの特異な現象を測定
  • 発電層の構造解析と素子作製プロセス開発により、今後の研究開発を加速


概要

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)太陽光発電研究センター【研究センター長 松原 浩司】有機系薄膜チーム 宮寺 哲彦 研究員、近松 真之 研究チーム長らは、公益財団法人 高輝度光科学研究センター【理事長 土肥 義治】(以下「JASRI」という)産業利用推進室 小金澤 智之 研究員と共同で、有機鉛ペロブスカイト太陽電池の作製過程を、大型放射光施設SPring-8を利用したX線回折により解析し、発電層ができる過程を明らかにした。

 有機鉛ペロブスカイト太陽電池は、高効率で低コストの太陽電池として期待され、研究開発競争が加速している。しかし、高効率のものを再現性良く作製することが難しいなど、作製プロセスに多くの課題がある。今回、X線回折法を用いて、製造過程で発電層が形成されていく様子を毎秒10コマの撮影速度でリアルタイム観察し、異常拡散などの現象を初めて見出した。発電層形成過程について今回得られた知見をもとに発電層の構造解析と素子作製プロセスの開発を相補的に行うことにより、研究開発のさらなる加速が期待される。なお、この研究の詳細は、2015年8月3日22:00(日本時間)に米国の学術誌Nano Lettersのオンライン版に掲載される。

有機鉛ペロブスカイト太陽電池作製過程のリアルタイム観察の図
有機鉛ペロブスカイト太陽電池作製過程のリアルタイム観察


開発の社会的背景

 有機鉛ペロブスカイト太陽電池は2013年に15 %を超える変換効率が報告されて以来、研究開発が活発に行われており、現在では20 %を超える効率が報告されている。高効率で低コストの太陽電池として期待されている一方、高い効率の太陽電池を再現性良く作製することが困難な点が問題となっている。

 再現性良く高い効率を実現させるためには、製造時の発電層形成メカニズムを明らかにすることが重要と考えられるが、これまでの研究では十分な速さでのリアルタイム観察は行われておらず、発電層形成過程の理解が十分ではなかった。

研究の経緯

 産総研では高効率で低コストの太陽電池を目指した研究開発を行っており、有機鉛ペロブスカイト太陽電池に関して、発電層形成メカニズムに関する基礎研究から素子開発に至るまで一貫して取り組んできた。特に今回、大型放射光施設SPring-8のビームラインBL46XUにおいて、放射光X線を用いてX線回折像を毎秒10コマ取得するリアルタイム観察を行い、発電層形成メカニズムの解明に取り組んだ。

 なお、本研究の一部は、国立研究開発法人 科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「ヘテロエピタキシーを基盤とした高効率単結晶有機太陽電池(平成23年10月~平成27年3月)」による支援を受けて行った。

研究の内容

 有機鉛ペロブスカイト太陽電池の発電層を構成するペロブスカイト結晶は、ヨウ化鉛(PbI2)などのハロゲン化鉛とヨウ化メチルアミン(CH3NH3I)などのハロゲン化有機アミンを混合して形成される。図1に各材料の分子構造と、結晶構造を模式的に示す。

各材料の結晶構造や分子構造模式図
図1 各材料の結晶構造や分子構造の模式図

 今回、大型放射光施設SPring-8の放射光X線ビームライン上にPbI2薄膜を設置し、そこへCH3NH3I溶液を滴下してペロブスカイト結晶が形成されていく過程をX線回折法により観察した。X線2次元検出器を用いて、毎秒10コマで、試料から散乱された回折X線のデータを取得し、結晶形成のダイナミクスを解析した。

 図2に、原料のPbI2が時間と共に減少し、ペロブスカイト結晶が形成される様子をとらえた測定結果を示す。この反応の進行速度の解析により、通常の拡散現象ではない異常拡散過程によって反応が進行することが分かった。これは、PbI2を媒質として、CH3NH3Iが拡散していく際に、媒質の不均質性を反映して樹状に枝分かれしながら拡散していると考えられる。

X線回折強度の時間変化(a)とPbI2媒質中をCH3NH3Iが拡散する過程模式図(b)
図2 X線回折強度の時間変化(a)とPbI2媒質中をCH3NH3Iが拡散する過程の模式図(b)
媒質の不均質な媒質を反映した異常拡散現象が生じていると考えられる。

回折X線の散乱方向(結晶の向きを反映)の時間変化の図
図3 回折X線の散乱方向(結晶の向きを反映)の時間変化
反応開始初期には特定の2方向に配向し、その後ランダムな配向に移行する。

 さらにX線回折像の角度の解析を行った(図3)。反応初期には、特定の2方向に配向した結晶が形成されていくが、時間とともにランダムな配向に移行していった。このことから、ペロブスカイト結晶の形成過程では、結晶が流動的に変化していると考えられる。

 これまでもX線回折を用いてペロブスカイト結晶の形成過程を観察した研究例は報告されているが、今回、毎秒10コマの速い撮影速度で測定し、反応速度や結晶の配向を詳細に解析したことにより、異常拡散や結晶の流動的な配向変化などの特異な現象を世界で初めて見出すことができた。結晶形成過程に見られるこれらの挙動により、ペロブスカイト薄膜形成の再現性が悪くなっていると考えられる。再現性良く高効率の太陽電池を作製するには、これらの特異な現象をいかに制御していくかが重要となる。

今後の予定

 今後は今回の知見を素子作製の研究にフィードバックし、高効率の太陽電池を再現性良く作製するためのプロセス開発を行う。放射光によるX線回折法がペロブスカイト結晶の形成過程の解析に有効とわかったので構造解析と素子開発の研究を相補的に行い、研究開発を加速させる。2020年までに有機鉛ペロブスカイト太陽電池を実用化することを目指す。



用語の説明

◆有機鉛ペロブスカイト太陽電池
ハロゲン化鉛とハロゲン化有機アミン化合物を混合させ、ペロブスカイト構造(3成分からなり、下図のような構造を持つ結晶)の結晶を形成した材料を発電層とする太陽電池。桐蔭横浜大学の宮坂教授らにより2009年に発表された。2013年以降、効率が急速に向上したことで注目を集め、研究開発が活発となった。[参照元へ戻る]
ペロブスカイト構造図
ペロブスカイト構造
◆大型放射光施設SPring-8
大型放射光施設とは、様々な波長(X線、紫外線、可視光線、赤外線)の強力な光を発生させるための施設。電子を光とほぼ等しい速度まで加速させ、電磁石によって進行方向を曲げると強力な光(放射光)が発生する。この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。SPring-8は世界最高水準の放射光を生み出す国立研究開発法人 理化学研究所の施設であり、その運転管理と利用者支援などはJASRIが行っている。その名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来する。[参照元へ戻る]
◆X線回折
結晶のような規則的な構造を持つ物体にX線を照射すると、波の干渉現象によって特定の方向にX線が散乱される現象。1912年にドイツのマックス・フォン・ラウエにより発見された。X線の波長と散乱角度の関係から結晶構造を解析するために用いる。X線の波長をλ、散乱角度を2θとしたときに、2sinθ/λを散乱波数と定義し、この値が結晶の面間隔の逆数と等しい値となった時に散乱が生じる。[参照元へ戻る]
◆発電層
太陽電池の構成要素のうち、光エネルギーを吸収し、正負の電荷のペアを発生させる部分のこと。太陽電池は発電層の材料によって分類され、シリコン太陽電池、化合物太陽電池、有機太陽電池などがある。有機鉛ペロブスカイト太陽電池は新しい太陽電池であるため、分類に関しては様々な意見があるが、有機・無機ハイブリッド太陽電池に分類されるのが主流である。[参照元へ戻る]
◆再現性
同じ工程で作製した素子の性能がある一定のばらつきの範囲内で同じ値となること。同じ値になるときやばらつきの範囲が小さい時に「再現性が良い」と表現する。[参照元へ戻る]
◆異常拡散
土壌などのように不均質な媒質中を物質が拡散する際に、通常の拡散とは異なる速度で物質が移動すること。拡散する物質は媒質内で樹状に枝分かれして移動する。[参照元へ戻る]
◆ビームライン
加速された電子を曲げることにより得られた放射光の取り出し口のこと。ビームラインを通過する放射光は、分光器で特定の波長の光だけが選択されたり、集光鏡で細く絞られた後、測定対象である試料に当てられる。今回は、BL46XUというビームラインを利用した。[参照元へ戻る]
◆配向
物質内で結晶の格子の向きがそろっているとき、「配向している」と表現する。[参照元へ戻る]



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