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発表・掲載日:2014/10/17

太陽電池の電荷移動を妨げるメカニズムを見いだす

-変換効率のさらなる向上を目指して-

ポイント

  • 発電層内の輸送障壁に捕捉された電荷を定量的に評価する手法を開発
  • 電荷の輸送障壁が界面と粒界であることを発見
  • 太陽電池の変換効率の向上への貢献に期待

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)太陽光発電工学研究センター【研究センター長 仁木 栄】先端産業プロセス・低コスト化チーム 布村 正太 主任研究員とミシガン大学 電気工学科Stephen R. Forrest教授(材料科学科、物理学科兼務)は、半導体薄膜の電荷の輸送特性やトラップ電荷を評価する手法を開発した。この手法により有機薄膜太陽電池の発電層を評価して、電荷の移動を妨げる輸送障壁の起源がドナー分子アクセプター分子の界面や結晶粒界であることを発見した(図1)。

 この発見により、電荷の輸送特性に優れる発電層を作製することで、より高い変換効率の有機薄膜太陽電池の実現が期待される。

 なお、本研究は、独立行政法人 日本学術振興会 科学研究費助成事業「基盤研究C(平成24~26年度)」の一環として行われ、この成果の詳細は科学誌Advanced Materialsに2014年10月17日(日本時間)にオンライン掲載される。

有機半導体薄膜の電荷の輸送と捕捉の図
図1 有機半導体薄膜の電荷の輸送と捕捉
上段:空間的な移動の様子。負電荷は左から右に、正電荷は逆方向に移動する。 
   電荷は結晶粒界およびドナー分子とアクセプター分子の界面で捕捉される。
下段:電荷移動時の障害をエネルギー的に図示したもの。凸部が障壁に該当する。


研究の社会的背景

 有機薄膜太陽電池は、安価、フレキシブルで、意匠性に優れる次世代太陽電池として近年注目を集めており、変換効率と耐久性の向上に向けた研究開発が世界各地で進められている。通常、有機薄膜太陽電池は、電荷の受け渡しを行う2種類の分子(ドナー分子とアクセプター分子)が複雑に混ざり合い(図1(b)、(c))、発電層内部に自己組織化したナノ構造を形成して高い変換効率が実現する。しかし、発電層内のナノ構造と電荷の輸送との関係はほとんど解明されておらず、変換効率を向上させるための指針を得ることが難しい状況だった。

研究の経緯

 産総研では、有機薄膜太陽電池の変換効率の向上に関する研究開発を積極的に進めている(2014年4月17日 産総研プレス発表2014年5月8日 産総研プレス発表)。今回、発電層内部の電荷輸送を簡便に定量評価する手法を開発し、ナノ構造と電荷輸送との関係を明らかにした上で、変換効率の向上を目指す研究を進めた。

研究の内容

 開発した電荷の輸送特性を評価する手法では、試料に2種類のレーザー光(ポンプ光およびプローブ光)を照射し、それぞれの光によって励起される光電流を測定する(図2)。ポンプ光は光励起キャリア(正負の電荷)を生成するための光で、その光子のエネルギーは半導体のバンドギャップよりも大きい。そのため、ポンプ光によって励起される光電流を測定することで電荷の流れやすさが評価できる。一方、プローブ光は輸送障壁によって捕捉された電荷(トラップ電荷)を輸送レベルにまで引き上げて取り出すための光で、その光子のエネルギーは、半導体のバンドギャップより小さく、輸送障壁の高さより大きくする必要がある。そのため、プローブ光によって励起されるトラップ電流はトラップ電荷の量を反映する。また、これらの電流比から、トラップ電荷の定量値(トラップ電荷密度)が得られ、この値は太陽電池の変換効率を決める重要な指標になる。

今回開発した電荷の輸送特性を評価する手法の図
図2 今回開発した電荷の輸送特性を評価する手法

 今回、評価用の試料としてDTDCTB(ドナー(D)分子)とC60(アクセプター(A)分子)の2種類の分子からなるD-A分子混合膜を作製した。混合膜の成分比は、ドナー分子の割合が10 %から80 %である。さらに、C60だけからなる単成分の薄膜を作製し、これらの試料について電荷の輸送特性を評価した。図3(a)はC60単成分薄膜表面の原子間力顕微鏡像で、表面にナノサイズの凹凸が多く形成されていることがわかる。図3(b)は、単成分薄膜の制限視野電子線回折像で、面心立方構造(fcc)のナノ結晶からなること、また、回折線がシャープで結晶性が高いことがわかる。一方、D-A分子混合膜の原子間力顕微鏡像(図3(c))から、表面が比較的平滑であること、また、制限視野電子線回折像(図3(d))では、回折線がぼやけ、結晶性が低いことがわかった。

試料薄膜のナノ構造の解析例の図
図3 試料薄膜のナノ構造の解析例

 これらのナノ構造の異なる試料について、電荷の輸送特性を調べ太陽電池特性と比較した(図4)。ポンプ光励起の光電流はドナー分子の割合が20 %で最大となり(図4(a))、トラップ電荷密度はドナー分子の割合が50 %で最小になった(図4(a))。太陽電池特性はドナー分子の割合に対し強く依存し、変換効率はドナー分子の割合50 %で最大となった(図4(b))。変換効率とトラップ電荷密度を比較すると(図4(a)、(b))、曲線の形が反転し、ちょうど相反関係になっていた。これは、トラップ電荷を低減すると高い変換効率が得られることを示唆している。

太陽電池特性と電荷輸送特性の図
図4 太陽電池特性と電荷輸送特性

 トラップ電荷密度がドナー分子の割合に対しU字型の依存性を持つことから(図4(a))、ドナー分子とアクセプター分子の界面が電荷の輸送障壁となると考えられる。アクセプター分子が過剰になると正電荷の移動が妨げられ(図1(b))、逆に、ドナー分子が過剰になると負電荷の移動が妨げられるためと考えられる(図1(c))。ドナー分子とアクセプター分子が50 %ずつの場合には、両者の界面、すなわち輸送障壁が最も少なくなるためトラップ電子密度が最小になる。また、トラップ電荷密度がナノ結晶からなるC60単成分薄膜で最大になったのは、結晶の粒界が輸送障壁として働くためと考えられる(図1(a))。

今後の予定

 今回得られた知見をもとに、電荷の輸送特性に優れる発電層を作製し、太陽電池の変換効率のさらなる向上を目指す。



用語の説明

◆トラップ電荷
半導体中で一時的に捕捉された電荷。通常、格子欠陥や不純物が電荷の捕捉場所になる。今回の場合、分子混合界面と粒界が輸送障壁を形成し電荷を捕捉する。トラップ電荷の増加に伴い太陽電池の変換効率は低下する。[参照元へ戻る]
トラップ電荷説明図
◆ドナー分子
有機半導体分野で、電子を周囲の分子に与えやすい有機分子の総称。電子供与体やp型半導体とも呼ばれる。有機薄膜太陽電池では、正電荷の輸送層として用いられる。[参照元へ戻る]
◆アクセプター分子
有機半導体分野で、電子を周囲の分子から受け取りやすい有機分子の総称。電子受容体やn型半導体とも呼ばれる。有機薄膜太陽電池では、負電荷(電子)の輸送層として用いられる。[参照元へ戻る]
◆変換効率
入射光強度(Pin)に対する出力電力(Pmax)の割合。変換効率 = Pmax/ Pinで定義される。通常、疑似太陽光(100 mW/cm2)を試料に照射し、出力電力の最大値を測定し変換効率が得られる。[参照元へ戻る]
◆自己組織化
有機分子間の相互作用により、自発的に規則正しい配列・構造を形成すること。[参照元へ戻る]
◆ポンプ光
半導体中で、正負の電荷を生成するために使用する光。ポンプ光に用いる光子のエネルギーは半導体のバンドギャップよりも大きい必要がある。[参照元へ戻る]
◆プローブ光
トラップ電荷を輸送レベルにまで引き上げるために使用する光。プローブ光の光子のエネルギーは、半導体のバンドギャップ以下、かつ、輸送障壁以上とする必要がある。[参照元へ戻る]
◆光子
光の粒。半導体中で吸収されると正負の電荷を発生する。[参照元へ戻る]
◆DTDCTB
波長700 nm付近の近赤外光を効率よく吸収する有機ドナー分子。近年、有機太陽電池用ドナー分子として開発された。DTDCTBは2-{[7-(5-N,N-ditolylaminothiophen-2-yl)-2, 1,3-benzothiadiazol-4-yl] methylene}malononitrileの略称。[参照元へ戻る]
◆C60
炭素原子のみで構成されるサッカーボール形の有機アクセプター分子。有機薄膜太陽電池のアクセプター分子として欠かせない材料。青色の光を吸収する。フラーレンとも呼ばれる。[参照元へ戻る]
◆原子間力顕微鏡
試料表面の微細な凹凸を観察する装置。AFMとも呼ばれる。試料表面に探針を近づけ、探針の上下動を利用して凹凸を検出する。ナノサイズの凹凸まで測定可能。[参照元へ戻る]
◆制限視野電子線回折
薄膜材料の結晶構造を調べる手法。試料に電子線を照射し透過電子の回折パターンを観察する。電子線の照射エリアを絞り、ミクロな領域(<1 um)の格子定数、格子型、結晶方位を明らかにすることが可能。[参照元へ戻る]
◆面心立方構造(fcc)
立方体の角と面の中心に原子・分子を置いた構造。これらの構造が上下左右に並ぶと結晶が形成される。[参照元へ戻る]


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