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発表・掲載日:2014/10/06

低環境負荷の人工硫化銅鉱物で高効率な熱電変換を可能に

-レアメタルレスで低毒性元素からなる熱電変換材料を開発-

研究成果のポイント

  • 天然の硫化銅鉱物コルーサイトに倣った、レアメタルレスで低毒性元素が主成分の熱電変換材料の開発に成功
  • 銅、硫黄、スズを主成分としている人工鉱物コルーサイトが、400℃付近で高い熱電変換性能を示すことを発見
  • コルーサイトは低毒性で地殻埋蔵量の多い元素を主成分とするため、熱電発電の大規模化に資すると期待


概要

 国立大学法人広島大学(以下、「広島大学」という)大学院先端物質科学研究科の末國晃一郎 助教、高畠敏郎 教授、独立行政法人産業技術総合研究所(以下、「産総研」という)エネルギー技術研究部門熱電変換グループの太田道広 主任研究員らの研究チームは、天然硫化銅鉱物の一種コルーサイトと同じ結晶構造の人工鉱物Cu26V2M6S32(M = Ge, Sn)を合成し、400℃付近で高い熱電変換性能を示すことを発見しました。この物質は、低毒性で地殻中の埋蔵量が豊富なCu(銅)、Sn(スズ)、S(硫黄)を主成分としているため、レアメタルレスの熱電変換材料といえます。この新しい熱電人工鉱物の発見は、環境負荷の低い高効率熱電発電の実現に大きく寄与するものと期待されます。

 この成果は、10月3日(米国時間)に、米国物理学協会の専門誌「Applied Physics Letters」のオンライン版で公開される予定です。

 なお、本研究は、科学研究費助成事業(独立行政法人日本学術振興会:若手研究(B)<課題番号 26820296>、基盤研究(C) <課題番号 25420699>)、一般財団法人熱・電気エネルギー技術財団 研究助成、公益財団法人中国電力技術研究財団 研究助成の支援を受けて行いました。



研究の背景と経緯

 熱エネルギー(温度差エネルギー)と電気エネルギーを相互に効率よく直接変換できる材料を熱電変換材料と呼びます。この材料を用いた熱電発電は、化石燃料を必要としないため地球温暖化ガスを排出せず、さらに、機械的な可動部がないため、長寿命・静音・無振動という長所も併せ持ちます。熱電発電技術を用いることで、従来捨てられていた未利用熱エネルギーや自然熱エネルギーから有用性の高い電気エネルギーを生み出すことができます。

 近年では、自動車から放出される膨大な量の中温廃熱(約400℃)を回収・利用した発電の実用化に向けた取り組みが進められています。しかし、この温度領域で使用されてきたテルル化鉛(PbTe)は、有毒元素であるPb(鉛)とレアメタルであるTe(テルル)を含んでいます。そのため、地殻埋蔵量が多く毒性の低い、すなわち低環境負荷な元素を用いた熱電変換材料の開発が急務となっていました。

 昨年、末國助教(当時、国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学(以下、「北陸先端科学技術大学院大学」という) 助教)、産総研、独立行政法人理化学研究所らの研究グループは、天然に存在する硫化銅鉱物のテトラへドライトをベースにした人工鉱物のCu12-xNixSb4S13が高い熱電変換性能を示すことを発見しました。この材料の主成分が、低環境負荷なCu(銅)とS(硫黄)である点が注目され、現在、実用化への取り組みが行われています。しかしながら、このテトラへドライトにもレアメタルのNi(ニッケル)とSb(アンチモン)がわずかに含まれています。そのため、広島大学と産総研の研究グループは、レアメタル含有量のさらに少ない(レアメタルレスな)新規材料の探索を進めてきました。

研究機関の連携

 広島大学で行われた新規な「熱電人工鉱物」の探索によって、Cu26V2M6S32(M = Ge, Sn)を作製しました。高密度な焼結体の作製にはエス・エス・アロイ株式会社(東広島市)の小型焼結装置を使用しました。室温から400℃までの熱電物性測定は、種々の硫化物系熱電変換材料の研究開発に実績がある産総研で行いました。電子状態計算には、北陸先端科学技術大学院大学の並列計算機Cray XC30と第一原理計算プログラムOpenMXを用いました。

 本成果は、学・官・産の設備を有効に使用して、広島大学と産総研の密接な連携により得られました。

研究の内容と成果

 本研究で注目したコルーサイトCu26V2M6S32は、CuとSを主成分とし立方晶(等軸晶)系の結晶構造を持ちます。天然のCu26V2M6S32はMとして毒性元素のAs(ヒ素)を含んでいます。また、Mの中に含まれるAs, Sb, Ge(ゲルマニウム), Snの割合がさまざまであるために、熱電特性が一定ではないと考えられます。そこで本研究では、AsとSbを含まないM = GeとM = Snを人工的に合成して熱電特性の評価を行いました。

 まず、構成元素を1000℃以上の高温において直接反応させ、次に、その粉砕試料を加圧しながら高温で焼結させて高密度試料を得ました。物性測定の結果、これらの試料がpの金属的な電気伝導性を示し、400℃(673 K)において高い無次元熱電変換性能指数ZT = 0.7 (Ge), 0.6 (Sn)を示すことを見いだしました(図1)。この値は熱電変換効率に換算すると6-7 %程度に相当し、既報のPbTeやNiを置換したテトラへドライトに匹敵します。コルーサイトでは、構成元素の一部を価電子数の異なる元素で置換すればホールキャリア密度を容易に調節できるので、既存材料を上回る高いZTが得られると期待されます。

無次元熱電変換性能指数ZTの温度依存性の図
図1 無次元熱電変換性能指数ZTの温度依存性
コルーサイトCu26V2M6S32(M = Ge, Sn)のZTはPbTeやテトラへドライトのNi置換系Cu10.5Ni1.5Sb4S13に匹敵する。

 コルーサイトがこのような高いZTを示す原因は熱電出力因子が高く、しかも格子熱伝導率が低いためです。p型伝導と高い出力因子はCu-3dとS-3pの混成軌道からなる価電子帯に由来することが第一原理電子状態計算によって分かりました。また、格子熱伝導率がSiO2ガラスにくらべて半分以下という極端に低い値を示すのは、単位格子中に66個もの原子を含んだ複雑な結晶構造(図2)を持つためです。以上のように、高い熱電変換性能をもたらす結晶構造と電子構造の特徴が明らかになったので、今後、さらに高い性能を示す人工鉱物の開発が進むものと期待されます。

コルーサイトCu26V2M6S32(M = Ge, Sn)の結晶構造念図
図2 コルーサイトCu26V2M6S32(M = Ge, Sn)の結晶構造
立方格子中に66個もの原子が含まれるため複雑である。

 今回の研究では、人工硫化銅鉱物コルーサイトCu26V2M6S32(M = Ge, Sn)が優れた中温熱電変換材料であることを見いだしました。元素戦略の面から見たコルーサイトの長所は、ベースメタルであるCuおよびSnと地殻埋蔵量の多いSを主成分にしていることと、レアメタルであるバナジウム(V)をごくわずかしか含有していないことです。さらに、毒性が強いために使用が制限されている元素を主成分としていない点も、重要な特徴といえます。これらの特徴を併せ持つ高性能コルーサイトの発見は、熱電発電の大規模化に資すると期待されます。

今後の展開

 元素置換や組成制御を行ってコルーサイトの熱電変換性能を向上させます。さらに、実用化へ向けて、環境にやさしい鉱物熱電変換システムを世界に先駆けて試作します。これらの取り組みにより高効率で低環境負荷な熱電発電をいち早く実現させ、持続可能なエネルギー社会の実現に貢献します。



用語説明

◆熱電発電
金属または半導体素子の両端に温度差をつけることにより、その両端間に電圧が発生するというゼーベック効果を応用した発電。素子の一端を高温熱源に、他端を低温熱源に接触させて温度差をつけると、温度差に比例して発生する電圧は高くなります。[参照元へ戻る]
◆レアメタル、ベースメタル
レアメタルとは、地殻埋蔵量や産出量が少ない、精錬が難しいなどの理由で、調達環境が不安定な金属、具体的には、リチウム、ベリリウム、ホウ素、希土類(17元素)、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ゲルマニウム、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、インジウム、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、白金族、タリウム、ビスマスを指します。一方、ベースメタルとは、地殻埋蔵量や産出量が多く、精錬が簡単な金属のことです。[参照元へ戻る]
p型、ホールキャリア密度
一般的に半導体に用いられる用語で、電荷キャリアのタイプを示します。p型物質では、プラス電荷をもつ正孔(ホール)が電気伝導を主に担います。単位体積当たりのホールの数をホールキャリア密度[m-3]と呼びます。熱電変換材料の電気的特性はキャリア密度(1024~1027 m-3)に強く依存します。[参照元へ戻る]
◆無次元熱電変換性能指数(ZT)、熱電出力因子、格子熱伝導率
熱電変換材料の性能を表す無次元熱電変換性能指数ZTは、絶対温度Tに比例し、電気抵抗率ρ、ゼーベック係数S、および熱伝導率κを用いてZT = S 2Tρ-1κ-1と表されます。それぞれの単位はT [K]、S [VK-1]、ρ [Ωm]、κ[WK-1m-1]です。この式からわかるように、ZTを大きくするには、分子のSを大きくし、分母のρを小さくすることが求められますが、それは通常の物質では困難です。S 2/ρを熱電出力因子と呼びます。また、素子の両端の温度差を維持するために、κを低くすることも必要です。固体中で熱を伝えるのは、電荷キャリアと結晶格子の振動で、κにおける後者の成分を格子熱伝導率と呼びます。[参照元へ戻る]



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