発表・掲載日:2013/09/26

CIGS太陽電池サブモジュールで変換効率18.34 %を達成

-量産化に向けたCIGS太陽電池モジュールの高効率化・高機能化に期待-

ポイント

  • 集積化技術を向上させ、電気的・光学的損失を低減
  • 光吸収層の高品質化にも取り組み、サブモジュールとして初めて18 %を上回る変換効率
  • 大面積モジュール、フレキシブルモジュールなどへ幅広く応用可能

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)太陽光発電工学研究センター【研究センター長 仁木 栄】先端産業プロセス・高効率化チーム 柴田 肇 研究チーム長、上川 由紀子 産総研特別研究員、小牧 弘典 研究員らはCIGS太陽電池サブモジュールとして初めて18 %を上回る変換効率η=18.34 %(指定面積:3.576 cm2)を達成した。

 一般的に、CIGS太陽電池モジュール、太陽電池サブモジュールでは、薄膜太陽電池の特性を生かした集積構造が用いられる。産総研では、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトのもと、集積化工程に伴う電気的・光学的損失を低減するための、集積化技術の向上・最適化を進めてきた。また、CIGS光吸収層の高品質化にも取り組んできた。今回、これまでに確立した高品質光吸収層製膜技術と高い集積化技術の集約により、CIGS太陽電池サブモジュールとして初めて18 %を上回る高い変換効率を達成した。今回開発した技術は、太陽電池モジュールの変換効率向上の鍵となる要素技術であり、大面積太陽電池モジュールや、フレキシブル太陽電池モジュールなどへ広く応用できる。量産化レベルの太陽電池モジュールの変換効率の向上、またそれによる発電コストの低減、太陽電池モジュールの高機能化などへの貢献が期待される。


変換効率18.34 %のCIGS太陽電池サブモジュールの外観の写真
変換効率18.34 %のCIGS太陽電池サブモジュールの外観 (基板サイズ:3 cm × 2 cm)


開発の社会的背景

 CIGS太陽電池は2 µm程度の薄い光吸収層で十分な光吸収が得られること、基板には安価なガラスや金属薄膜などが利用可能であることなどから、低コストかつ高い変換効率が得られる太陽電池として注目されている。また、最近では、表1に示すように工場生産ラインにおいて製造された太陽電池モジュール(125.7 × 97.7 cm2)で14.6 %の変換効率が達成されるなど、量産レベルでの太陽電池モジュールにおいても変換効率が向上している。一般的に太陽電池モジュールの変換効率(世界最高効率:15.7 %)は小面積単一セル(世界最高効率:20.4 %)と比べ低くなってしまうが、モジュールと小面積単一セルとでは製造方法や構造の違いなど異なる点も多く、変換効率の損失原因の解明を複雑にしている。

表1 CIGS太陽電池の構造(1行目)および、各構造においてこれまでに報告されている主要な変換効率(2行目)およびその面積(3行目)
小面積単一セル 太陽電池
サブモジュール
(今回の成果)
太陽電池
サブモジュール
太陽電池
モジュール
太陽電池
モジュール
(工場生産ライン)
20.4 % 18.3 % 17.4 % 15.7 % 14.6 %
- 3.576 cm2 15.993 cm2 - 12280.89 cm2
大きさ
右に行くほど大きくなる

研究の経緯

 産総研では、多元蒸着法を用いたCIGS太陽電池光吸収層の高品質製膜技術の開発に取り組んできた。製膜中の製膜温度、原料供給比などの製膜条件の最適化を進め、小面積単一セルでは、世界最高クラスの約20 %の変換効率(自家測定にて19.8 %)が得られる条件を確立している。また同時に、小面積単一セルとモジュールの中間的な位置づけにある太陽電池サブモジュールの研究を通して、集積化に伴う本質的な変換効率損失要因の探求・改善を進めている。市販品でも使用されるレーザースクライビングメカニカルスクライビングといった集積化工程を採用し、高度化することで、集積化に伴う特性損失を抑え、2011年にガラス基板上の太陽電池サブモジュールで16.6 %と世界最高クラスの変換効率を達成している。また、フレキシブル基板を用いた太陽電池サブモジュール作製技術の開発も行っており、2010年2月に集積型構造のフレキシブル太陽電池サブモジュールで15.9 %を達成している(2010年2月25日 産総研プレス発表)。今回、さらに集積化構造の高度化・改良を進め、その集積化技術と高品質CIGS光吸収層製膜技術を集約した。

 なお、今回の研究開発は、NEDOの委託事業「太陽光発電システム次世代高性能技術の開発(平成22~26年度)」により行ったものである。

研究の内容

 CIGS太陽電池で一般的に用いられるソーダ石灰ガラス基板を用いて、CIGS太陽電池サブモジュールを作製した。光吸収層には、これまで培ってきた高性能CIGS製膜技術を集約し、表面のミクロなくぼみ(ボイド)が少ない表面平坦性に優れた、均質かつ高品質な光吸収層を作製した(図1)。

走査型電子顕微鏡により撮影したCIGS光吸収層表面像(左)とCIGS光吸収層/モリブデン裏面電極 断面像(右)の図
図1 走査型電子顕微鏡により撮影したCIGS光吸収層表面像(左)とCIGS光吸収層/モリブデン裏面電極 断面像(右)

 今回作製した太陽電池サブモジュールの断面概略図を図2に示す。4つの太陽電池セルを直列に接合した集積構造を持つ。この集積構造は、(P1)モリブデン(Mo)裏面電極のレーザースクライビングによる切り分け、(P2)バッファー層/CIGS光吸収層のメカニカルスクライビングによる切り分け、(P3)透明導電膜/バッファー層/CIGS光吸収層のメカニカルスクライビングによる切り分けからなる方法によって形成される。

今回作製した太陽電池サブモジュール断面概略図
図2 今回作製した太陽電池サブモジュール断面概略図

 これらのスクライビングされた領域は太陽電池の光電流生成に寄与しない領域(デッドエリア)となり、光電流の損失原因となる。今回、スクライビング条件、パターン形状などの最適化を進め、集積化工程により導入される電気的損失を最小限に抑えるとともに、デッドエリアの低減により光学的損失を低減した。高い集積化技術と高品質CIGS光吸収層製膜技術を融合した結果、CIGS太陽電池サブモジュールとして初めて18 %を上回る変換効率η=18.34 %(開放電圧:2.963 V、 光短絡電流:29.05 mA、 曲線因子:76.2 %、指定面積:3.576 cm2)を今回実現した(図3)。

 今回の研究で確立された、高い集積化技術および高品質光吸収層製膜技術は、大面積太陽電池モジュールや、フレキシブル太陽電池モジュールなどへ広く応用展開が期待される。

今回作製されたCIGS太陽電池サブモジュールの発電特性の図
図3 今回作製されたCIGS太陽電池サブモジュールの発電特性

 今回作製されたサブモジュールの変換効率を独立機関で評価した際の公式記録データ。グラフの赤線が電流-電圧特性、緑線が出力-電圧特性を示し、ピークが最大出力になっている。図中のEff(da)は変換効率、VOCは開放電圧、F.Fは曲線因子、ISCは短絡電流を表す。

今後の予定

 今回の研究で確立されたモジュール作製における要素技術をより大きな面積のCIGS太陽電池サブモジュールやフレキシブル太陽電池サブモジュールに応用し、CIGS太陽電池サブモジュールの高効率化・高機能化を進める予定である。



用語の説明

◆CIGS太陽電池
銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)からなる多元系化合物半導体Cu(In、Ga)Se2薄膜を光吸収層とした薄膜系太陽電池。インジウムやガリウムなどの構成元素の比率や硫黄などの混合によって禁制帯幅(バンドギャップ)などの物性を制御できるのが特徴。CIGS太陽電池は薄膜系太陽電池の中でも最も高い光変換効率が得られており、以前から次世代型太陽電池として注目されていた。現在では量産販売も開始され、欧州を中心に市場導入が進んでいる。[参照元へ戻る]
◆太陽電池サブモジュール
分割できない一つの基板に複数個同時に形成した太陽電池セル群の最小単位。文中のCIGSサブモジュールとはCIGS太陽電池セルを直列に接合、集積化し、取出し電極を取り付けた構造を指す。[参照元へ戻る]
◆指定面積
疑似太陽光を照射し変換効率を測定する際には、ある面積の開口部を持ったマスクなどを用い、光が照射される領域を限定して測定する場合がある。今回の測定では、取り出し電極部分(+およびー)がマスクの影に入っており、このように光に照射されていない構成部がある場合のマスクの開口部により限定された領域の面積が指定面積(Designated Area: da)である。[参照元へ戻る]
◆太陽電池モジュール
太陽電池モジュールとは太陽電池セルまたは太陽電池サブモジュールを、耐環境性のため外囲器に封入し、かつ、規定の出力を持たせた最小単位の発電ユニットを指す。CIGS太陽電池モジュールは、一般的にガラス基板上に裏面電極、光吸収層、透明導電膜を製膜・集積し、その上に封止材と透明なカバー材(ガラスや光透過性フィルム)を積層し、電気出力を外部取出し用端子ボックス内の端子につなぎ、四辺にフレームを取り付けるなどして作製される。[参照元へ戻る]
◆集積構造
一般的なCIGS太陽電池における集積構造は(P1)モリブデン(Mo)裏面電極のレーザースクライビングによる切り分け、(P2)バッファー層/CIGS光吸収層のメカニカルスクライビングによる切り分け、(P3)透明導電膜/バッファー層/CIGS光吸収層のメカニカルスクライビングによる切り分けからなる方法によって形成される。この方法では、1枚の基板上に裏面電極層や光吸収層のパターンをつくりこむことによって個々の太陽電池間の接続を行うため太陽電池表面のグリッド電極や導線が不要となる。また、1枚の基板で高い電圧が実現できる。[参照元へ戻る]
◆多元蒸着法
薄膜作製法の一種である真空蒸着において、多種類の蒸発源を同時に供給する製膜方法。[参照元へ戻る]
◆レーザースクライビング
1枚の基板上に集積構造のCIGS太陽電池を作製する場合、通常は3回の切り分け工程が必要となる。この切り分け工程はスクライビング工程やパターニング工程と呼ばれる。現在のところ一般的に、裏面電極であるモリブデン層を切る1回目の工程(P1)はレーザーを用いて行われる。これをレーザースクライビングと呼ぶ。[参照元へ戻る]
◆メカニカルスクライビング
CIGS層や透明導電膜を切り分ける2回目(P2)と3回目(P3)の工程では機械的(メカニカル)にカッターの刃などを用いて行われ、これらの工程をメカニカルスクライビングと呼ぶ。[参照元へ戻る]
◆ソーダ石灰ガラス
窓ガラスや、瓶ガラスなどに使われる一般的なガラス。ソーダ灰(Na2CO3)、石灰(CaCO3)、ケイ灰(SiO2)を主な原料とする。[参照元へ戻る]

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