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発表・掲載日:2013/08/19

「高齢者・障害者の感覚特性データベース」を公開

-年齢や障害の有無などに応じて視覚・聴覚・触覚特性をグラフィカルに表示-

ポイント

  • のべ3,000人以上の高齢者・障害者などを対象に感覚特性を測定してデータベース化
  • 産総研提案の日本工業規格「高齢者・障害者配慮設計指針」の活用ツールも提供
  • 高齢者・障害者を含むさまざまな人々に対応した製品・環境づくりでの活用を期待

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)ヒューマンライフテクノロジー研究部門【研究部門長 赤松 幹之】アクセシブルデザイン研究グループ 倉片 憲治 研究グループ長、伊藤 納奈 主任研究員、大山 潤爾 研究員、佐藤 洋 主任研究員、佐川 賢 名誉リサーチャーは、「高齢者・障害者の感覚特性データベース」を構築した(図1)。

 このデータベースは、産総研がのべ3,000人以上を対象として測定した視覚・聴覚・触覚の感覚特性を、年齢や障害の有無などの検索条件に応じて表示する。これらの特性データは日本工業規格(JIS)「高齢者・障害者配慮設計指針」に採用されているため、このデータベースは、数式や表で記述されたJISの規定内容をグラフィカルに表示する機能も合わせ持つ。

 従来、身の回りの製品・環境・サービスなどは、若い健常者を対象に設計・開発される傾向があった。今後は、製品などの設計者がこのデータベースを参照することで、高齢者や障害者を含むさまざまな人々に対応した製品などの設計(アクセシブルデザイン)が容易となり、安心・快適な製品づくり・環境づくりが進むものと期待される。

 このデータベースは、平成25年8月19日より、ウェブ(http://scdb.db.aist.go.jp/)で日本語版・英語版ともに一般公開される。公開されたデータは誰でもアクセス可能であり、「利用条件」に基づいて無料で利用することができる。

「高齢者・障害者の感覚特性データベース」のトップページ(一部分)画像
図1 「高齢者・障害者の感覚特性データベース」のトップページ(一部分)

開発の社会的背景

 これまで身の回りの製品・環境・サービスは、若い健常者を対象に設計・開発されることが一般的であった。しかし、近年の高齢者人口の著しい増加や障害者への配慮の高まりを受けて、年齢や障害の有無に関わりなく誰もが安心して使える製品の開発、快適に暮らせる生活環境の構築が求められるようになっている。

 製品などの設計者が、高齢者や障害者が日常で感じている不便や困難を理解するためには、加齢や障害によって生じる感覚(視覚・聴覚・触覚など)の特性の変化を科学的に測定して客観的に示す必要がある。しかし、これまで、健康に暮らしている人々の加齢の様子や障害の程度を体系的に測定する試みはほとんど行われてこなかった。また、高齢者・障害者は、一般に個人差が大きい。そのため、感覚特性の全体像を明らかにするには数十から数百名の規模のデータが必要であり、コスト面、労力面からも実施は容易ではなかった。

 さらに、測定データを揃えるだけでは、高齢者にも障害者にも適した製品の設計仕様を決定することはできない。データや知見に基づいて、加齢や障害によって生じた変化を効果的に補うデザイン技術が必要であり、製品の設計者にとっては、高齢者・障害者のデータに基づいて最適な仕様を定める新しい設計手法(アクセシブルデザイン技術)の開発が待たれていた。

研究の経緯

 産総研ではこれまで過去15年以上にわたって、高齢者や障害者の視覚・聴覚・触覚などのさまざまな感覚特性を測定しており(図2)、対象者は、のべ3,000人を超える。

 さらに、測定した結果を若齢健常者の特性と比較することで、アクセシブルデザイン技術の開発も行ってきた。このアクセシブルデザイン技術は、JIS「高齢者・障害者配慮設計指針」として規格化し、広く実社会で活用されている。また、それらの規格の一部は国際標準化機構(ISO)の規格にもなり、国際的にも通用するものとなっている。

 そこで、収集した感覚特性データのうち社会的な需要が高いものを一般に公開するとともに、関連するJIS「高齢者・障害者配慮設計指針」の活用ツールを提供することによって、高齢者・障害者を含むさまざまな人々に対応した製品・環境づくりが、迅速かつ簡便に行えるようになることを目指した。

 なお、このデータベースに含まれるデータの一部は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構の協力を得て収集した。

La2-xBaxCuO4結晶のab面に電圧端子を取り付けた場合とac面に電圧端子を取り付けた場合の電気抵抗率測定用の電極配置の図
図2 感覚特性の測定の例
(左上)色票を用いた視覚測定(右上)無響室での聴覚測定(下)浮き上がり文字を用いた触覚測定
例えば、視覚測定では、色票と呼ばれる色のサンプルを用いて、互いに区別して見やすい色を測定する。聴覚測定では、無響室内でさまざまな音に対する大きさの感覚を測定する。触覚測定では、指先で触って識別できる浮き上がり文字の大きさを測定する。

研究の内容

 この研究では、見やすさ・聞きやすさ・わかりやすさなど、視覚・聴覚・触覚のさまざまな側面について測定し(図2)、それらの感覚特性の加齢による変化や障害による影響を明らかにした。この測定にあたっては、さまざまな年代の人々、ロービジョン・色覚障害など障害の種類と程度の異なる人々の協力を得た。これによって得られた感覚特性データを、検索可能なように集計しなおし、見やすいグラフィクスで表現したものが今回開発したデータベースである。

 このデータベースでは、利用者は、視覚・聴覚・触覚に分類された16のデータ項目(表1)から関心のある項目を自由に選ぶことができる。利用者はデータ項目を指定し、調べたい対象者の年齢、性別、測定条件などを選択または数値で入力する。入力された条件に合致したデータが引き出され、所望の測定結果がグラフや詳細な数値で表示される。

表1 本データベースで公開する16のデータ項目
本データベースで公開する16のデータ項の表

 一例として、「可読文字サイズ」のデータベース画面を示す(図3)。画面左側で年齢、視距離、輝度、文字種を指定すると、右側にその条件に応じた「最小可読文字サイズ(読み取れる最小の文字の大きさ)」、「読みやすい文字サイズ」などが表示される。

 この可読文字サイズの推定は、JIS S 0032「日本語文字の最小可読文字サイズ推定方法」に規定される方法に基づいている。規格書から可読文字サイズを得る場合、表や数式を使って計算で求めなければならないため、必ずしも使い勝手の良いものではなかった。このデータベースで提供されるツールを活用すると、それらの細かな表や数式を読み解かなくても、読みやすい文字サイズなどの推定結果が得られる。

 また、設定条件は、スライダーを使って変更することもできるため、さまざまな年齢や条件を連続的に変えて、読み取れる最小文字サイズを見ることができる。さらに、その推定結果は、数値(ptおよびmm)だけでなく実寸大の文字としても表示されるため、条件による文字の読みやすさの違いを、データベースの使用者自身の目で見ることで直感的に理解することができる。

データベース画面の一例画像
図3 データベース画面の一例:可読文字サイズ推定

 なお、本データベースの基である測定データはきわめて大規模であるため、すべてをウェブで公開することはできない。そこで、より詳細なデータに関心のある利用者(企業の製品設計者など)のために、データベースに記載された問い合わせ窓口を通じて、データ公開の相談も受け付ける。

今後の予定

 このデータベースでは、利用者からの意見や要望を受けるために、上記問い合わせ窓口だけではなく、アンケート入力のページも用意している。今回公開するデータは16項目だけであるが、アンケートなどによって得られた利用者からの反応を参考に、未発表のデータの整備や新しい項目の追加など、一層の拡充を図っていく。


用語の説明

◆日本工業規格(JIS)「高齢者・障害者配慮設計指針」
鉱工業品の品質の改善などを目的として工業標準化法に基づいて制定される国家規格、日本工業規格(JIS)の一群。いわゆる健常者を想定して設計された製品などを高齢者・障害のある人々が使用する際の不便さを取り除き、日常生活の自立及び生活の質を高めることを目的とする。これまでに約30編が制定され、うち7編は産総研の研究成果に基づいている。[参照元へ戻る]
◆アクセシブルデザイン
高齢者や障害者を含む、より多くの人々が使いやすいように製品・サービス・環境などを設計する手法。いわゆる健常者を利用者に想定した製品などの設計を変えるためにヒトの感覚・身体特性データを積極的に活用する点が、このデザイン手法の特徴の一つである。[参照元へ戻る]
◆ロービジョン
本データベースでは、日常的に何らかの視覚機能を利用しているが、医学的な疾患や異常が原因で、治療や矯正を施しても視力や視野の機能低下が大きく改善することがない状態を指す。[参照元へ戻る]
◆JIS S 0032「日本語文字の最小可読文字サイズ推定方法」
産総研が提案し、2003年に制定された日本工業規格(JIS)「高齢者・障害者配慮設計指針」のひとつ。10歳から80歳までの各年齢の人が、平仮名、漢字などの日本語文字1文字を正しく読み取れる最小のサイズを、視距離などの条件に応じて推定する方法を規定する。この規格は、印刷物や標識などのデザインに活用されている。[参照元へ戻る]

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