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発表・掲載日:2013/06/21

乳酸菌に特有の抗炎症メカニズムを発見

-二重鎖RNAがインターフェロン-β産生を活性化し腸炎を予防-

ポイント

  • 小腸の主要な常在細菌である乳酸菌が多量の二重鎖RNAを持つことを発見
  • 二重鎖RNAは樹状細胞のインターフェロン-β産生を介して、抗炎症効果を発揮
  • 腸内や食品由来の乳酸菌が健康増進に貢献することが期待される

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)バイオメディカル研究部門【研究部門長 近江谷 克裕】分子複合医薬研究グループ 辻 典子 主任研究員らは、キッコーマン株式会社【代表取締役社長 染谷 光男】(以下「キッコーマン」という)研究開発本部【本部長 松山 旭】川島 忠臣 研究員らと共同で、乳酸菌が腸管免疫を活性化する新たなメカニズムを発見した。

 乳酸菌は小腸に常在すると同時に、ヨーグルトや漬物などの発酵食品としても摂取され、人々の健康維持・増進に関わっている。今回、乳酸菌内にある二重鎖RNAが小腸の樹状細胞を活性化してインターフェロン-βを産生させることによって、抗炎症効果を発揮すること、腸炎の予防など腸管の免疫レベルの維持に直接関与することが明らかとなった。この性質はこれまで解析したほかの細菌にはみられなかった。乳酸菌に特有の健康維持・増進効果が初めて分子レベルで明らかになったことで、予防医学分野における活用も期待される。また、二重鎖RNAを豊富に含む乳酸菌群が、腸管の免疫を活性化する機能性食品成分となる可能性も考えられる。

 なお、この研究は独立行政法人 理化学研究所、国立大学法人 東京大学医科学研究所、国立大学法人 大阪大学、学校法人 兵庫医科大学の協力を得て行われた。詳しい研究の内容は、米国科学雑誌Immunityに2013年6月20日(米国東部時間)にオンライン掲載される。

乳酸菌による腸炎予防や免疫レベルを一定に保つしくみの図
乳酸菌による腸炎予防や免疫レベルを一定に保つしくみ

研究の社会的背景

 腸内に常在している乳酸菌や食物に含まれるプロバイオティクス乳酸菌は人々の健康維持・増進に効果があることが知られている。その安全性の高さ、さらには発酵食品への応用の観点から、乳酸菌は食品•医薬品業界から非常に注目されている。特に免疫増強効果については多くの報告があり、さまざまな免疫疾患への効果が期待されている。しかし、これまで乳酸菌特有の免疫活性化メカニズムやそれに関わる菌の成分については明らかになっていなかった。

研究の経緯

 産総研とキッコーマンは共同研究を行う中で、健康増進のために腸管免疫を活性化•調節する技術の開発を目指し、腸内細菌や食品成分の機能性に着目してきた。産総研は免疫応答能力の成熟にとりわけ重要な役割を持つ小腸免疫細胞の機能解析について世界最先端の技術を有しており、常在細菌や機能性成分の効果についても国内外の企業•研究所と共同研究を行ってきた。キッコーマンは独自に分離した乳酸菌の効果・効能について検証を続け、プロバイオティクス乳酸菌の応用に努めてきた。

研究の内容

 乳酸菌はほかの細菌に比べて多量の二重鎖RNAを含んでいる(図1)。乳酸菌が小腸の樹状細胞に取り込まれると、乳酸菌はエンドソームにあるトル様受容体3(TLR3)と呼ばれる免疫反応に関わるタンパク質を刺激し、さらにTLR9も協調して、樹状細胞によるインターフェロン-β産生を引き起こした。インターフェロン-βは抗ウイルス活性を持つことが知られているが、それと共に腸管の炎症を抑え、健康な腸を保つために重要な役割を果たすことも見いだした。

 小腸から分離した乳酸菌、プロバイオティクス乳酸菌を調べたところ、菌株によって差異がみられるものの大多数(約7割)の乳酸菌に共通する性質として、免疫細胞から多量のインターフェロン-βを誘導した(図2)。

乳酸菌と病原菌の菌体内二重鎖RNA保有量の図
図1 乳酸菌と病原菌の菌体内二重鎖RNA保有量
乳酸菌は病原菌に比べて多量の菌体内二重鎖RNAを保有している。

乳酸菌と病原菌によって誘導された樹状細胞のインターフェロン-β産生量の比較の図
図2 乳酸菌と病原菌によって誘導された樹状細胞のインターフェロン-β産生量の比較
乳酸菌は樹状細胞による多量のインターフェロン-β産生を誘導する。横棒は平均値。 乳酸菌4属11菌種、病原菌5菌種について解析した。

 プロバイオティクス乳酸菌のうち、二重鎖RNAを多く含有するテトラジェノコッカス・ハロフィラスKK221株をモデル株として用い、インターフェロン-βの腸管生理機能の解析を進めた。その結果、乳酸菌摂取により産生されるインターフェロン-βは強い抗炎症作用に関与し、動物試験によりDSS誘発潰瘍性大腸炎を効果的に予防することがわかった(図3)。また、乳酸菌による抗炎症作用は、腸内の常在細菌である乳酸菌と食物から摂取されるプロバイオティクス乳酸菌に共通してみられることがわかった。

インターフェロン-βによる腸炎の抗炎症効果の図
図3 インターフェロン-βによる腸炎の抗炎症効果
乳酸菌はインターフェロン-βの抗炎症効果を介してDSS誘発潰瘍性大腸炎を効果的に予防する。青丸で囲んだ部分は炎症により細胞の浸潤がみられるが、乳酸菌群でそれが穏やかになる。乳酸菌を摂取しても、中和抗体でインターフェロン-βを不活性化すると、乳酸菌の効果が打ち消される。

今後の予定

 今後は、消化管免疫細胞の機能を詳細にモニターする技術を開発する予定である。また、腸内に常在する乳酸菌や、プロバイオティクス乳酸菌の機能を、より効果的に暮らしや臨床の場で実用化するための技術や社会基盤作りも進めて行く予定である。


用語の説明

◆乳酸菌
代謝により糖から乳酸を生成する細菌の総称。腸内にも常在しているほか、さまざまな加工食品、発酵食品に含まれているため、日常的に摂取されている。[参照元へ戻る]
◆二重鎖RNA
2本の相補的な配列を持つRNAが二重鎖を組んだもの。[参照元へ戻る]
◆樹状細胞
免疫細胞の一種。体内に進入してきた抗原、微生物などを認識し、サイトカイン(細胞間で情報を伝達する物質)産生やT細胞(免疫反応に関わる細胞)に対する抗原提示を介して免疫応答を開始する。[参照元へ戻る]
◆インターフェロン-β
ウイルスの侵入や腫瘍細胞の増殖に反応して樹状細胞などが分泌するタンパク質。ウイルスの増殖抑制や腫瘍細胞の増殖抑制、炎症の抑制などの作用を持つ。[参照元へ戻る]
◆プロバイオティクス
人体に有益な作用をもたらす微生物、およびそれを含む食品。[参照元へ戻る]
◆常在細菌
ヒトなどの消化管や皮膚に常在している細菌のこと。[参照元へ戻る]
◆エンドソーム
細胞外の物質をファゴサイトーシス(食作用)により細胞内に取り込んだ際に形成される小胞。その後、リソソームという細胞内の小器官と融合することで、酵素などの働きにより取り込まれた物質は分解される。[参照元へ戻る]
◆トル様受容体3(TLR3)
二重鎖RNAを認識する受容体で、二重鎖RNAウイルスを認識するものとして知られている。エンドソームに発現する受容体。[参照元へ戻る]
◆TLR9
非メチル化DNA(DNAの炭素原子にメチル基がついていない配列部分)を認識する受容体で、細菌やDNAウイルスのDNAを認識する。[参照元へ戻る]
◆テトラジェノコッカス・ハロフィラスKK221株
しょうゆもろみから分離した乳酸菌で、これまでの研究成果から、抗アレルギー作用の指標であるインターロイキン12(IL-12)の高い産生活性を持つことがわかっている。[参照元へ戻る]
◆DSS誘導潰瘍性大腸炎
デキストラン硫酸ナトリウム(Dextran sodium sulfate:DSS) の経口摂取により誘導される腸炎を指す。潰瘍性大腸炎(大腸の粘膜にただれや潰瘍ができる大腸の炎症)のモデルとして広く研究されている。[参照元へ戻る]
◆中和抗体
タンパク質などの抗原に結合して活性を消失させる抗体。[参照元へ戻る]


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