発表・掲載日:2013/06/03

導電性接着剤に用いる塩素フリーの高純度エポキシ化合物を開発


 NEDOの基盤技術開発プロジェクトの一環として、昭和電工株式会社と独立行政法人産業技術総合研究所は、導電性接着剤として極めて優れた長期絶縁信頼性を発揮する、塩素フリーのエポキシ化合物を開発しました。

 通常、電子部品回路の配線にはハンダが用いられますが、高温処理を避けたい用途には、銀を導電剤とする導電性接着剤が使用されています。しかし銀にはマイグレーションを起こしやすいという問題があります。本プロジェクトで開発した塩素フリーのエポキシ化合物を使用することにより、銀のマイグレーションを大きく低減できる導電性接着剤を開発しました。これにより、塩素系化合物の存在による製品の性能低下の防止が可能となります。

開発した導電性接着剤の写真
開発した導電性接着剤
開発した導電性接着剤で接合したチップの写真
開発した導電性接着剤で接合したチップ


1.背景

 機能性化学品製造プロセスの中でも、酸化プロセスはコア技術として重要ですが、重金属酸化剤や有機過酸化物などの酸化剤を用いた従来の酸化プロセスでは、原料や酸化剤由来の副生成物が大量に発生するという環境上の問題があり、環境に対する負荷が低く、かつ高効率に高性能な化学品を製造することが可能な酸化プロセスが望まれてきました。そこで、酸化力が弱いため触媒による活性化が必要なものの、比較的安価で発生する副生成物が水のみという強みを持つ、過酸化水素を酸化剤とする酸化プロセスが着目されました。NEDOは、2008年9月から経済産業省が開始した「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発/革新的酸化プロセス基盤技術開発」プロジェクトを、2009年4月~2012年3月に継続実施しました。このNEDO委託事業により、産総研、昭和電工、電気化学工業株式会社、荒川化学工業株式会社、JNC株式会社は、過酸化水素を酸化剤としたクリーン酸化プロセスの研究開発を実施しました。

 産総研に設置した集中研(プロジェクトの期間中、プロジェクト参加企業から研究員が派遣され、共同で研究開発を行うシステム)にて、「三元系触媒」をベースにさまざまな性質の基質へ適用できる酸化技術開発を行い、電子材料としての需要があるエポキシ化技術を中心に、過酸化水素酸化技術を体系化・融合化しました。本技術によって得られた化合物は、全て従来品を上回る高純度品であり、高選択合成、塩素フリー、高効率触媒除去などは、本プロジェクトオリジナルの技術開発成果です。

 一方で、加水分解しやすい多官能基質に代表される、高難度かつ産業上必要な基質の中には、2011年度までに開発した技術では適用が困難な基質もあり、また、電子材料を構成するエポキシ化合物もさらなる高性能・高機能化が求められていたことから、NEDOは2012年度に追加的に研究開発を実施することとし、昭和電工と産総研は、引き続き研究開発を実施しました。

2.今回の成果

 本プロジェクトにおいては、従来知られているエポキシ化合物よりも低粘度で、かつ銀粒子との親和性も高いエポキシ化合物として、3か所以上のグリシジルエーテル構造を同一分子内に有する化合物(多官能グリシジルエーテル)に着目しました。グリシジルエーテルはアリルエーテルの酸化反応により製造できますが、グリシジルエーテル構造が増えるにつれて加水分解を起こしやすくなるため、多官能グリシジルエーテルの合成は難易度が飛躍的に高まります。これまでに知られている触媒では目的とする多官能グリシジルエーテルをほとんど得ることができませんでした。

 この課題を解決するために産総研でさまざまな検討を行った結果、これまで塩素フリーエポキシ化に用いてきたタングステン触媒-リン系添加剤-アミン系添加剤に、さらに2種類の固体触媒を混合した触媒を使用すると、高効率に多官能グリシジルエーテルを合成できることを見いだしました。この、過酸化水素を利用したクリーンな酸化プロセスを利用して得られる多官能グリシジルエーテルは、不純物として塩素系化合物を含んでいません。また、この製造方法は、触媒によって直接的に過酸化水素酸化を行うため、有機溶媒などの有機化合物を使用する必要のない、クリーンで低コストのプロセスとして優位性があります。

新規触媒による過酸化水素酸化技術の革新の図

 昭和電工は、塩素フリーの多官能グリシジルエーテルを接着性樹脂とし、配合を最適化することで、これまで課題とされてきた塩素系化合物の存在による製品の性能低下の防止が可能な導電性接着剤を開発しました。

 本プロジェクトにおいて開発した、多官能アリルエーテルなどの多官能性原材料の高効率酸化により製造されたエポキシ化合物は、塩素を使用しない製造法により作られていますので、不純物として塩素系化合物が含まれることがありません。そのため、本開発のエポキシ化合物を用いた導電性接着剤は、従来問題となっていた銀のマイグレーションが起きにくく、配線とデバイスの接合信頼性を高めるのに極めて有用で、低耐熱基材の使用を可能にし、デバイスへの熱負荷も低減するものです。

 本開発の塩素系化合物を含まない低粘度液状のエポキシ化合物は、導電性接着剤のような金属や無機フィラーを高充填する必要がある用途への使用適性が高いので、今後、さらに高伝熱材料や封止材への適用も期待されます。

3.今後の予定

 昭和電工は、子会社の昭光通商株式会社を通じ、今月より導電性接着剤のサンプル出荷を開始します。また、6月5日から7日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催される「JPCA Show 2013」にて成果を展示する予定です。


用語の説明

グリシジルエーテル構造図
アリルエーテル構造図
◆導電性接着剤
固着を担う樹脂と、導電を担う金属(導電性フィラー)を混合したもので、電気を通す性質と物質同士を固着する性質を併せ持つ。一般には、エポキシ樹脂と銀を組み合わせたものが多い。[参照元へ戻る]
エポキシ
炭素2個と酸素1個から成る三角形型の構造をもつ化合物で、各種電子材料の原料として幅広く使用されています。[参照元へ戻る]
◆マイグレーション
金属成分が非金属媒体の表面や中を横切って移動することで、回路のショート(短絡)などが生じる現象。[参照元へ戻る]
◆三元系触媒
機能の異なる3種類の触媒を組み合わせたもので、合成反応で使用する触媒を三元系触媒と称しています。3種類の触媒の内訳はタングステン化合物、リン化合物、アンモニウム塩です。これら3成分の種類および割合を最適化することで、さまざまな種類のエポキシを合成できます。[参照元へ戻る]
◆グリシジルエーテル
エポキシに炭素-酸素-炭素からなる構造(エーテル結合)が組み合わさった化合物。機能性化学品として注目されています。[参照元へ戻る]
◆アリルエーテル
炭素-炭素二重結合を含む炭素3個からなる構造(アリル基)がエーテル(前述)を形成している化合物。[参照元へ戻る]

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