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発表・掲載日:2013/03/27

光照射によるめっき薄膜の密着性向上法とパターニング法の開発

-新しい微細金属パターンの形成技術-

ポイント

  • プラスチック基板上のめっき膜にパルス光を照射するだけで密着性が向上
  • マイクロ秒単位の短時間で大面積(A4サイズ)の処理が可能
  • フォトマスク上から光照射することで、めっきした金属薄膜のパターニングが可能

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)ナノシステム研究部門【研究部門長 山口 智彦】ナノシステム計測グループ 堀内 伸 上級主任研究員らは、無電解めっきによりプラスチック基材上に形成した金属薄膜に高強度のパルス光を瞬間的に照射すると、基材にダメージを与えずにめっき膜の密着性を向上できることを見いだした。また、この技術によってめっき膜のパターニングも可能である。

 無電解めっきは、プラスチックなどの絶縁材料や複雑な形状の部品に金属薄膜を成膜する方法として、電子部品や自動車部品など広く産業界で用いられている。一般に、金属膜の作製では、基材との密着性を得るため、基材にあらかじめプラズマ処理や化学的なエッチング処理などの表面を荒らす処理(表面粗化)を施すが、特に無電解めっきでは、このような処理を行わないと、十分な密着性を得ることが難しい。

 今回の技術では、基材の表面処理を行わずに成膜しためっき膜に高強度のパルス光を極短時間(数百マイクロ秒)照射して、めっき膜を瞬間的に高温にする。これによって、めっき膜とプラスチック基材の界面だけが瞬間的に加熱されるため、密着性が向上する。また、短時間(マイクロ秒)で大面積(A4サイズ)のめっき膜を処理できる。さらに、パルス光をフォトマスクを通して照射すると、マスクされた部分の密着性が低く、粘着テープで容易に剥がせるため、めっき膜のパターニングが可能である。

PETフィルム上に作製した無電解金めっき膜のパターンの画像 用いたフォトマスクの画像
PETフィルム上に作製した無電解金めっき膜のパターン(左)と用いたフォトマスク(右)

開発の社会的背景

 無電解めっきは、プラスチックやセラミックスなどの絶縁材料や複雑な形状の部品へ金属めっきを施す化学的な成膜プロセスで、電子部品(プリント配線板など)や自動車部品(ホイルキャップ、ハンドルなど)など広く産業界で用いられている。高価な真空装置を用いるスパッタリングなどの成膜プロセスと異なり、安価であるため、銅、ニッケル、金などの成膜方法として幅広い用途で利用されている。

 これまで、無電解めっきには、めっき膜の密着性を向上させる表面粗化工程が必要で、プラズマ処理など真空装置を用いた物理的な方法や、危険度の高い酸化剤を使うエッチングなど化学的な方法がとられてきた。しかし、基材表面を粗化すると、表面に形成される金属薄膜の平滑性が悪く、電気・光学特性に悪い影響を及ぼすといった問題がある。また、金属薄膜に配線などのパターンを形成するには、基材全面に金属めっき膜を作製後、フォトレジストによりマスクパターンを膜上に作製して、金属薄膜をエッチングすることにより行われており、表面粗化工程と同様に、環境負荷が大きいという問題がある。

研究の経緯

 産総研では、無電解めっきの触媒となるパラジウムや白金などの貴金属ナノ粒子をプラスチック表面に固定化する手法を見いだし(2008年9月18日 産総研プレス発表)、基材の表面処理を行わずに高い密着性が得られるエッチングレス無電解めっきプロセスの開発を行っている。また、電子光技術研究部門【研究部門長 原市 聡】メゾ構造制御グループ 島田 悟 主任研究員らと共同で、高強度のパルス光を利用した成膜プロセスの研究を行っている。今回、これらの研究を融合させて、めっき膜の密着性を向上させ、さらに、フォトマスクを用いた、めっき膜のパターニングの研究開発に取り組んだ。

 本研究成果は、独立行政法人 科学技術振興機構 復興促進プログラム(A-STEP)探索タイプ「高密着性エッチングレス無電解めっきプロセスの高度化に関する研究」によるものである。

研究の内容

 無電解めっきでは、基材の表面にあらかじめ触媒を固定化し、溶液中の金属イオンを化学的に還元することにより、金属薄膜を形成する。今回、触媒として、ポリマーで覆われた直径3 nm(ナノメートル)の均一な大きさの白金ナノ粒子が水中に安定して分散している白金コロイドを用いた。これにプラスチックなどの基材を浸すと、白金ナノ粒子が基材表面に均一に固定化される。その後、低濃度の過酸化水素と塩化金酸の混合水溶液に浸すと、白金ナノ粒子の触媒作用により、以下化学式のように過酸化水素水が塩化金酸を還元し、約100 nmの金めっき膜が得られる。

2HAuCl4+3H2O2→pt 2Au+3O2+8HCl

 これまでは、めっき後に100~250 ℃(基材の特性により温度は異なる)で約30分加熱処理していた。これによりめっき膜の密着性が向上し、JIS K5600-5-6に準じたテープはく離試験では、はく離しない金めっき膜が形成される。このプロセスでは、表面粗化せず、めっき後に加熱処理を行って密着性を向上させることが特徴であり、同様の方法でパラジウムコロイドを触媒として銅めっき、ニッケルめっき、白金めっきが可能である。しかし、このような後加熱処理は、基材のそりや変形などの問題を引き起こす恐れがあり、また、10~30分の処理時間を要する。

 今回、従来の加熱方法に替わる方法として高強度パルス光による後処理法を検討した。プラスチック基材上に成膜しためっき膜に、パルス光照射装置を用いて数百µs(マイクロ秒)のパルス光を照射すると、めっき膜とプラスチック基材の界面だけが瞬間的に加熱される。これによって、めっき薄膜の密着性が向上する一方で、加熱が瞬間的であるためプラスチック基材には、そりや変形などは生じない。図1にパルス光照射条件と照射後のPETフィルム上の金めっき膜の状態(密着、除去、はく離)を示す。300 µs、1.21 J/cm2のパルス光を1回照射したところ、密着性は向上し、テープはく離試験ではく離しない密着性が得られた。一方、より高いエネルギーのパルス光(例えば300 µs、 2.06 J/cm2)を1回照射すると、めっき膜は除去(エッチング)された。また、図1に青で示すような、より低いエネルギーのパルス光照射では、密着性は向上せず、テープはく離試験により容易にはく離した。

パルス光の照射条件(照射時間と照射強度)に対するPETフィルム上の金めっき膜の密着性変化の図
図1 パルス光の照射条件(照射時間と照射強度)に対するPETフィルム上の金めっき膜の密着性変化

 パルス光照射によって配線などの金属パターンを形成できるかどうかを確認するため、所定パターンをPETフィルムにレーザープリンターで印刷したマスクパターンを金めっき膜の上に載せ300 µs、1.21 J/cm2のパルス光を1回照射した。パターンによりマスクされた部分のめっき膜は、パルス光が照射されなかったため密着性が悪く、粘着テープを貼り付けて剥がすとこの部分がテープと一緒にはく離し、金の金属パターンが基材上に残った。一方、パルス光のエネルギーを高くすると、露光部のめっき膜がエッチングされ、逆のパターンが得られた。なお、このようなパルス光による密着性の向上、エッチングは種々のプラスチック基材でも可能であることを確認している。また、微細パターンをもつフォトマスクを用いれば、図2に示すような、微細金属パターンの作製が可能である。

PETフィルム上に作製した金めっき微細パターンの画像
図2 PETフィルム上に作製した金めっき微細パターン

今後の予定

 今回開発した無電解めっきプロセスは、ほかの金属めっき膜やさまざまなプラスチック基材にも適用可能である。この無電解めっき技術は被災地企業への技術移転を進めているところであり、今後は、被災地企業の要望を踏まえつつ、さまざまな金属とプラスチックの組み合わせに対する有効なパルス光照射条件の収集を行うとともに、用途展開を図っていきたい。また、今回見いだした現象は、めっき膜に特有であり、スパッタリングなどのほかの方法で成膜した金属膜では同様の効果が得られないため、この現象のメカニズム解明を進めていく予定である。


用語の説明

◆無電解めっき
鉄など金属へのめっきは電気的な還元による電気めっきにより行われる。一方、プラスチック、セラミックスなどの絶縁体では電気めっきができないため、化学的な還元を利用した無電解めっきが行われている。無電解めっき液はめっき原料となる金属塩と還元剤に、安定剤や緩衝剤が適宜加えてある。めっきの対象物(基材)の表面にあらかじめ触媒となる物質を付けておき、これを無電解めっき液中に浸すと、触媒の付いている基材表面で優先的に金属が析出してめっき被膜が形成される。金のほか、ニッケル、コバルト、銅など多くの無電解めっきプロセスが考案されている。[参照元へ戻る]
◆パルス光
短い時間の間だけ生じる光のことで、強度の弱い光はデジタルカメラのフラッシュや印刷機に利用されている。今回使ったものはパルス光照射装置から発生するマイクロ秒の発光時間のパルス光である。一般に、パルス光は、発光時間が短いほど強度が高くなる。[参照元へ戻る]
◆フォトマスク
ガラス、フィルムなどの透明な基材に所定の画像を形成し、光の透過量を調整し、基材へパターンを転写するためのもの。[参照元へ戻る]
◆パターニング
材料を所定の位置に配置する技術。配線回路などを形成するのに使う。[参照元へ戻る]
◆フォトレジスト
光リソグラフィーで樹脂のパターンを作製するための感光性樹脂。[参照元へ戻る]

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