発表・掲載日:2012/08/30

放射性セシウムを含む玄米の認証標準物質を開発

-国際規格に従った仕様で2012年8月31日から頒布開始-

ポイント

  • 2011年産玄米の放射性セシウムの放射能濃度を測定・評価し、認証値を付与
  • 付与された認証値は約85 Bq/kg(厚生労働省による一般食品の基準値は100 Bq/kg)
  • 放射能検査機関における測定の妥当性確認と信頼性向上に貢献

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)計測標準研究部門【研究部門長 千葉 光一】量子放射科 放射能中性子標準研究室 海野 泰裕 研究員、柚木彰 研究室長、齋藤 則生 研究科長、無機分析科 無機標準研究室 三浦 勉 研究室長は、独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構【理事長 堀江 武】 食品総合研究所 【所長 林 清】(以下「食総研」という)放射性物質影響ワーキンググループと共同で、放射性セシウムを含む玄米の認証標準物質を開発した。

 この認証標準物質は、2011年に収穫された玄米を、食総研で十分な混合により均質化し、その放射能を産総研のゲルマニウム半導体検出器で測定し、放射性セシウム濃度の値付けを行ったものである。放射能の検査機関における測定の妥当性確認に用いることができ、放射能測定の信頼性向上への貢献が期待される。開発した認証標準物質は、2012年8月31日から委託事業者を通して頒布を開始する。

頒布する放射性セシウムを含む玄米の認証標準物質の写真
頒布する放射性セシウムを含む玄米の認証標準物質

開発の社会的背景

 東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、放射性物質による食品の汚染が懸念され、多くの検査機関で放射能測定が行われている。検査機関では、公益社団法人 日本アイソトープ協会が頒布している標準ガンマ体積線源を用いて測定器を校正し、測定のトレーサビリティを確保している。しかし、食品中に含まれる放射性セシウムの放射能を測定する場合、放射能が微小であるため、装置が置かれた場所の放射線や、測定試料中の放射性セシウム以外の放射性物質の影響を受け、正しい測定ができている確証が得られない場合がある。そこで、測定対象と類似の物質で構成され、同程度の放射能をもち、放射能の値が分かっている認証標準物質を測定し、認証値と同じ結果が得られることを検査機関が自ら確認し、評価することが重要となる。そのため、放射能測定用認証標準物質の頒布が求められていた。

研究の経緯

 産総研は、放射能の国家計量標準を維持し放射能標準を供給するとともに、放射能の高精度測定法を開発してきた。食総研は、食品研究の専門機関として、食品の安全性・信頼性確保と革新的な流通・加工技術の開発、食と健康の科学的解析など、幅広い研究を行ってきた。両研究所は、東京電力福島第一原子力発電所の事故で生じた放射性物質による広範囲の汚染に対応して、2011年に収穫した放射性セシウムを含む玄米を原料とした認証標準物質の開発に取り組んだ。放射能の認証値の決定に際しては、産総研のほかに、財団法人 日本分析センターおよび公益社団法人 日本アイソトープ協会で放射能測定を行い、産総研の測定結果を検証した。完成した認証標準物質は国や地方自治体、地方衛生研究所、登録検査機関などを中心に広く活用されることが期待できる。

研究の内容

 今回頒布する放射性セシウムを含む玄米の認証標準物質の仕様は、次の通りである。

  • 容器  標準U8容器(外径 55 mm、高さ55 mm)
  • 試料  玄米粒
  • 試料量 81 g(正味質量)
  • 放射能濃度  セシウム134とセシウム137の合計で約85 Bq/kg

 

 作製に当たっては認証標準物質生産に関する国際規格であるISOガイド34およびISOガイド35、ならびに試験所や校正機関が有するべき能力を定めた国際規格であるISO/IEC 17025に従った。開発の手順は次の通りである。

 先の東日本大震災に伴う原子力発電所事故に由来する、放射性セシウムを含む約60 kgの玄米を食総研において均質化し、標準U8容器に81 gずつ詰めて試料とした。次に、産総研で、全試料の中から12個をサンプリングし均質性を評価した。その結果、試料の放射能測定値のばらつきは、相対標準偏差で3 %程度であり、サンプリングの範囲では放射能が大きく外れた試料はなかった。そこでこの試料を用いて標準物質を作製することとし、産総研で認証値の付与のためにゲルマニウム半導体検出器を用いて放射能測定を行い、その結果から放射能濃度を決定した。

 今回頒布する認証標準物質の放射能濃度は約85 Bq/kgであり、厚生労働省による一般食品の放射性セシウムの基準値(100 Bq/kg )より若干低い。そのため、検査機関がこの認証標準物質の放射能を正しく測定できれば、基準値を超える食品の放射性セシウムの測定ができることの確証となる。

認証値の付与のための放射能測定に用いた外径110 mmのゲルマニウム半導体検出器の写真
認証値の付与のための放射能測定に用いた外径110 mmのゲルマニウム半導体検出器

今後の予定

 開発した認証標準物質は、2012年8月31日から委託事業者を通して頒布する。頒布価格は、U8容器入り1個当たり1万円程度の予定。



用語の説明

◆放射性セシウム

セシウムは原子番号55番の元素で、そのうち放射線を放出する性質があるものを放射性セシウムと呼んでいる。放射性セシウムは何種類かあるが、その中でセシウム134の放射能とセシウム137の放射能の和に対して、食品中の基準値が定められている。[参照元へ戻る]

◆認証標準物質
試料全体にわたり均質化された物質で、国際規格に定められた手順に従い、特性値が国家計量標準と結び付けられて定められており、認証書が付されているもの。放射性セシウムを含む玄米の場合は、試料全体均質化したのち容器に詰め、放射能の国家計量標準にトレーサビリティが確保されている放射能測定装置を用いて放射能濃度を決定し、放射能に関する認証書が付されているものとなる。[参照元へ戻る]
◆放射能
放射性セシウムなどの放射性物質の原子核は不安定で、放射線を出すなどして別の原子核になる。これを壊変と呼び、放射能はこの壊変の頻度を表している。単位にはベクレル(Bq)が用いられ、1秒間に1壊変する時、その放射能を1 Bqとしている。このように放射能は放射線を出す頻度を示す言葉であるが、放射性物質の量を示す際にも用いられる。[参照元へ戻る]
◆ゲルマニウム半導体検出器
放射線のうちガンマ線は、放射性物質の種類によってエネルギーが決まっており、ガンマ線のエネルギーを測定すると、どんな放射性物質があるのかが分かる。またガンマ線の発生頻度からその放射性物質の放射能が分かる。この性質を利用して放射性物質の種類と放射能を測定できるよう、半導体であるゲルマニウムの結晶を用いて作られた放射線検出器をゲルマニウム半導体検出器と呼んでいる。[参照元へ戻る]
◆妥当性確認
対象とする試料の放射能が実際に測定できるということを、客観的な証拠をもって検証すること。放射能測定器は、自然界に存在する放射線の影響を十分に遮蔽しないと、微弱な放射能は測定できない。そこで、標準ガンマ体積線源を用いた校正により測定器で得られる計数と試料の放射能の関係を求めたうえで、さらに、測定対象と類似の物質で構成され、同程度の放射能をもち、放射能の値が分かっている認証標準物質の放射能を測定し、測定対象と同程度の放射能が正しく測定できることを示す、測定の妥当性確認を行うことが望ましい。[参照元へ戻る]
◆標準ガンマ体積線源
アルミナ粉末などに既定量の放射性物質を吸着させて容器に封入した放射線源で、その放射能は日本の国家計量標準までたどることができる。ゲルマニウム半導体検出器など放射能測定器の、ガンマ線に対する検出感度を校正する際に用いられる。ある程度の体積を有しているので、点線源に対比して体積線源と呼ばれている。[参照元へ戻る]
◆トレーサビリティ
計測器の信頼性が、それを校正する標準器が国家計量標準までたどれることによって証明されていること。[参照元へ戻る]
◆放射能濃度
単位質量あるいは単位体積あたりの放射能のこと。2012年4月1日に施行された食品中の放射性セシウムに関する基準値は、放射能濃度(単位は[Bq/kg])で示されている。[参照元へ戻る]
◆ISOガイド34、ISOガイド35、ISO/IEC 17025
ISOガイド34は標準物質生産者が能力を実証するために満たすべき要求事項をまとめた国際規格、ISOガイド35は認証標準物質の特性データのばらつき評価に係わる原則をまとめた国際規格である。ISO/IEC 17025は品質システム、トレーサビリティなど試験所や校正機関が有するべき能力を定めた国際規格である。[参照元へ戻る]


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