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発表・掲載日:2011/10/27

生体内で発電できる光熱発電素子

-光と熱のエネルギーによる体の中での発電を目指して-

ポイント

  • カーボンナノチューブの光発熱特性を熱電変換素子に組み入れた光熱発電素子
  • 近赤外レーザー光による生体内での遠隔発電と制御を実証
  • 体内埋め込み型、ウエアラブル型医療機器への新しい電力供給システムとして期待

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)健康工学研究部門【研究部門長 吉田 康一】ストレスシグナル研究グループ【研究グループ長 萩原 義久】 都 英次郎 研究員らは、光によって容易に発熱可能なカーボンナノチューブ(CNT)の特性(光発熱特性)を熱電変換素子に組み入れることにより、生体内で発電できる新たな光熱発電素子を開発した。

 カーボンナノチューブ(CNT)は、ナノ炭素材料の一つとして大きな注目を集めているが、溶媒に分散しにくい点が応用上の制約となっていた。今回、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)を用いると、CNTをシリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン;PDMS)中に均一に分散できることを見いだした。このCNTを分散させた樹脂は生体透過性の高い近赤外レーザー光によって発熱する。この樹脂フィルムをビスマス-テルル型の固体熱電変換素子の表面に接合した光熱発電素子は、近赤外レーザー光によって樹脂フィルムが発熱して熱電変換素子に温度差を生じ、それによって体内で効果的な熱電発電動作を示した。今回開発した光熱発電素子により、心臓ペースメーカーなどの数多くの体内埋め込み型ウエアラブル型医療機器などへの光による遠隔電力供給システムの実現が期待される。

 なお、この技術の詳細は、ドイツの化学誌Angewandte Chemie International Editionに2011年10月27日(日本時間)にオンライン掲載された。

CNT-シリコーン複合フィルムとCNTの光発熱特性を利用した光熱発電素子の図
CNT-シリコーン複合フィルムとCNTの光発熱特性を利用した光熱発電素子

開発の社会的背景

 心臓ペースメーカーをはじめさまざまな体内埋め込み型医療機器の需要が世界中で高まっている。また、健康状態などを常時モニタリングできる生体貼り付け型のウエアラブルデバイスに注目が集まっている。しかし、このような機器を持続的に駆動させるための安定した電力供給システムが問題となっている。プルトニウムを使って半永久的に使用できる原子力電池は、被曝の恐れや多くの規制、法的な問題があり普及には至らなかった。現在は、リチウムイオン電池が主流となっているが、その寿命は10年程度であり、電池交換やデバイスメンテナンスのための大掛かりな外科的手術が患者への大きな負担となっている。また、手術を伴わない方法として電磁誘導によるワイヤレス充電があるが、電磁波による生体への影響や、医療機器内の電子回路の誤動作などが大きな問題となっている。そのため、生体内に埋め込まれたデバイスへの安全な遠隔電力供給システムが求められている。

研究の経緯

 21世紀を支える基幹材料の一つとして各種CNTの産業応用が期待されている(経済産業省「技術戦略マップ2010」)。今回、生体内に埋め込まれたデバイスなどへの新しい遠隔式電力供給技術として生体透過性の高い近赤外レーザー光により容易に発熱するCNTの特性(光発熱特性)を、温度差によって発電する熱電変換素子に組み入れることで、生体内で機能する新しい発電技術の開発に取り組んだ。

 なお、本研究開発の一部は、独立行政法人 日本学術振興会の科学研究費補助金「若手研究(B)(平成23~25年度)」による支援を受けて行っている。また、本研究における動物実験は、動物の愛護及び管理に関する法律を遵守し、産総研の動物実験委員会の承認を受けた実験計画に沿って行った。

研究の内容

 生体内に埋め込まれたデバイスなどに電力を遠隔から供給するためには、周辺の臓器等へ影響が少なく、生体透過性の高い近赤外光を利用することが望ましい。そのため、CNTを近赤外光で発熱させ、それによって生じる温度差で熱電変換素子に発電させるという新しいメカニズムによる光熱発電素子を作製した。光発熱層としてCNT-高分子複合材料を用いるが、CNTをそのまま高分子材料中に分散させようとすると、CNT間の強い相互作用により、束状や粒状に凝集してしまう。高い光発熱特性をもつCNT-高分子複合材料を作製するためには、このような凝集を防いで、高分子中にCNTをナノメートルレベルで分散させる必要がある。今回、導電性ポリマー[ポリ(3-ヘキシルチオフェン); P3HT]を用いて、単層CNT(SWCNT)をシリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン、PDMS)中に分散させることに成功した。 P3HTは、SWCNT表面との親和性が非常に高く、表面に吸着してSWCNT間の強い分子間相互作用による凝集を防ぎ、SWCNTをPDMS中に分散させる(図1a)。また、このCNT-高分子複合材料は柔軟性や加工性が非常に高いため、熱電変換素子表面への接合が容易である(図1b)。図1cに、PDMSに分散させたSWCNTの光発熱特性を示す。このようにして作製したP3HT-SWCNT-PDMS複合材料に近赤外レーザー光を照射するとCNTの光発熱特性によりレーザー光による温度上昇が観察できた(図1c)。なお、CNTを含まないPDMSでは、近赤外レーザー光による温度上昇が起こらなかった。

CNT-高分子複合材料の特性の図
図1 CNT-高分子複合材料の特性
(a: P3HT-SWCNT-PDMS複合材料の概念図、b: 作製したP3HT-SWCNT-PDMSフィルム、
c: P3HT-SWCNT-PDMSの光発熱特性)

 このようにして作製したP3HT-SWCNT-PDMS複合材料をビスマス-テルル型熱電変換素子表面にコーティングして、最小で幅4.0 mm×高さ4.0 mm×厚さ4.4 mmの小型光熱発電素子を作製し、レーザーによる発電量を検証した(図2)。試作した素子に各種レーザー光を30分間照射すると、熱電発電動作を示し、各レーザー出力に応じて効果的に電気エネルギーを得ることができた。また、SWCNT、多層CNT(MWCNT)、グラファイト、フラーレン(C60)などのさまざまな炭素材料を用いた場合の発電量を比較したところ、P3HTによってPDMS中に高分散化させたSWCNTが最も高い発電量(≒185 mV)を与えることが明らかとなった。

各種光熱発電素子の発電挙動の図
図2 各種光熱発電素子の発電挙動

 このCNT光熱発電素子を用いることで、生体外においてゼブラフィッシュの心筋を効果的に電気刺激できることを見いだした(図3a)。さらに、この光熱発電素子をラット背面に埋め込みレーザー光を30分間照射したところ生体内においても発電動作が起こることを実証できた。また、CNTの光発熱特性により、ラット体表面(素子埋め込み部位)の温度が30℃から40℃付近まで上昇することがわかった。このとき、この光熱発電素子は、生体外と同様の発電挙動を示し、P3HT-SWCNT-PDMS複合材料を用いたときには、最大の発電量(≒8 mV)が得られることがわかった。

CNT光熱発電素子を用いた生体外でのゼブラフィッシュ心筋への電気刺激とラット生体内における発電挙動の図
図3 CNT光熱発電素子を用いた生体外でのゼブラフィッシュ心筋への電気刺激(a)と
ラット生体内における発電挙動(b)

今後の予定

 今後は、CNT-高分子複合材料や熱電変換材料のナノ構造制御、レーザーの効率的な照射システムの構築などによって、素子自体の光熱発電効率のさらなる向上を目指す。同時に素子の生体適合性評価や耐久性試験を行い、生体内で安心・安全に利用できる光熱発電素子の開発を目指す。また、共同研究企業を募集し、製品化に向けた研究開発を行う。


用語の説明

◆カーボンナノチューブ(CNT)
カーボンナノチューブは炭素原子だけからなり、直径が0.4~50 nm、長さがおよそ1~数10 μmの1次元性のナノ材料である。その化学構造はグラファイト層を丸めてつなぎ合わせたもので表され、層の数が1枚だけのものを単層カーボンナノチューブ、複数のものを多層カーボンナノチューブと呼ぶ。[参照元へ戻る]
◆光発熱特性
数多くあるカーボンナノチューブの特性の一つであり、レーザー光などの光を受けることによって発熱する特性のこと。[参照元へ戻る]
◆熱電変換素子
熱を電力にエネルギー変換する素子。素子の両端に温度差がかかると、電荷が流れることで発電する。[参照元へ戻る]
◆ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)
含硫黄複素環化合物の一種であるチオフェンの重合体であり特定の処理により導電性を持つようになる。[参照元へ戻る]
ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)の化学式の図
◆ポリジメチルシロキサン(PDMS)
シロキサン結合(-Si-O-Si-)を主骨格に持つ高分子化合物。主骨格の結合が強いことから耐熱性が高く、また生理活性が低いことから生体毒性が小さい。[参照元へ戻る]
ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)の化学式の図
◆体内埋め込み型、ウエアラブル型医療機器
体内埋め込み型は心臓ペースメーカー、脳深部の電気刺激装置、薬物投与デバイスなど生体内において電気エネルギーで駆動する装置。ウエアラブル型は健康状態などを常時モニタリング可能な生体貼り付け型装置の総称のことである。[参照元へ戻る]
◆電磁誘導
コイルの中の磁界が変化すると、コイルに電流が流れる現象のことである。この電磁誘導現象を利用することで数多くの電子機器へのワイヤレス充電が可能であるが、電磁波の生体に対する悪影響や電子回路の誤作動を引き起こす恐れがあることなどが問題となっている。[参照元へ戻る]

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