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発表・掲載日:2010/08/04

無色性と高い可視光透過率を両立した新規調光ミラー材料を開発

-従来の合金薄膜を用いた調光ミラーの欠点を解消-

ポイント

  • 鏡状態と透明状態の切り替えができる調光ミラーをマグネシウムとカルシウムの合金薄膜を用いて実現
  • 透明状態では無色性と高い可視光透過率(60 %)を両立
  • オフィスビルの窓材として用いることで、冷房負荷を大幅に低減可能

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)サステナブルマテリアル研究部門【研究部門長 中村 守】環境応答機能薄膜研究グループ【研究グループ長 吉村 和記】山田 保誠 主任研究員らは、透明状態での無色性と高い可視光透過率を両立させた新しい調光ミラー用の薄膜材料を開発した。

 調光ミラーを用いた複層窓ガラスは、通常の透明な複層窓ガラスと比べて30 %以上の冷房負荷低減効果があり、その実用化が期待されている。しかし、産総研がこれまでに開発したマグネシウムと遷移金属との合金を用いた調光ミラー用薄膜材料は、透明状態では少し黄色を帯びていたり、無色であっても可視光透過率が低いなど、建物や自動車の窓ガラスとして実用化するには光学特性が不十分であった。

 今回開発した調光ミラー用薄膜材料は、マグネシウム・カルシウム合金で、8 cm×8 cmのガラス上に均一に成膜することに成功した。調光ミラーは2重ガラス構造となっていて、鏡状態のガラスの内側空間に低濃度の水素(約4 %)を含むガスを導入することで透明状態に変化する。また、酸素(約20 %)を含むガスを導入することで鏡状態に戻すことができる(図1)。

 今後は、耐久性を向上させる技術や調光ミラーを用いた複層窓ガラスの省エネルギー効果の評価手法の開発を進め、オフィスビルの窓材などへの実用化を目指す。

マグネシウム・カルシウム合金薄膜を用いた調光ミラーの鏡状態の写真 マグネシウム・カルシウム合金薄膜を用いた調光ミラーの透明状態の写真
図1 マグネシウム・カルシウム合金薄膜を用いた調光ミラー(左:鏡状態、右:透明状態)

開発の社会的背景

 外部から入ってくる光の透過率を自由に調節できるガラスを調光ガラスといい、建物や自動車の窓ガラスとして用いることで大きな省エネルギー効果が期待されている。これまでにもさまざまな調光ガラスが開発され、電気的に光の透過率を調節できるエレクトロクロミック調光ガラスは商品化もされている。しかし、エレクトロクロミック調光ガラスは、着色した薄膜部分で光を吸収して調光するため薄膜部分の温度が上昇してしまい、薄膜から赤外線が室内に再放射されて、エネルギーの節約を妨げるという欠点があった。

 これを解決するため、光を吸収するのではなく反射することで光の透過率を調節できる調光ミラーが求められた。1996年にオランダの研究グループが、薄くパラジウムを付けたイットリウムやランタンの薄膜が水素化と脱水素化により、透明状態と鏡状態を切り替えられることを発見した。しかし、この材料は資源存在量が少なく高価な元素を含むため、大型窓ガラスなどへの工業応用は難しいとされてきた。また、2001年に米国の研究グループが、安価なマグネシウム・ニッケル合金系の薄膜調光ミラーを開発したが、透明状態でも赤茶色に色づいているなど光学特性に問題があった。そのため透明性が高く安価な調光ミラー用材料の実現が切望されていた。

研究の経緯

 産総研では、2002年から調光ミラー用薄膜材料の研究開発に着手し、マグネシウム・ニッケル合金薄膜の光学特性を向上させる研究開発に取り組んできた。その中で、マグネシウム・ニッケル合金を用いた調光ミラー用薄膜材料を窓ガラスに応用し、実際の建物に設置しその冷房負荷を実測して、通常の透明な複層窓ガラスと比較して30 %以上の冷房負荷低減効果があることを実証した。

 このマグネシウム・ニッケル合金を用いた薄膜材料では、透明状態でも黄色みが残り無色ではなかったため、他の薄膜材料の探索を行い、透明状態の時にほとんど無色であるマグネシウム・チタン合金薄膜材料を開発した(2006年12月21日プレス発表)。しかし、透明状態での可視光透過率がマグネシウム・ニッケル合金を用いた調光ミラー用薄膜より低いという問題があったため、さらなる薄膜材料の探索を行うこととした。

 なお、本研究開発は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の平成20年度産業技術研究助成事業「調光ミラー複層ガラスの省エネルギー効果の評価手法の開発、及び省エネルギー効果を最大にするように光学特性を最適化した調光ミラーの作製」による支援を受けて行った。

研究の内容

 本研究開発では、調光ミラー用薄膜材料として、マグネシウム・カルシウム合金が有力であることを見いだした。この合金を用いることで、マグネシウム・チタン合金薄膜材料と同じように無色であり、かつ、マグネシウム・ニッケル合金薄膜材料のような高い可視光透過率を実現できた。

 今回開発した調光ミラー用薄膜は、マグネトロンスパッタ装置を用い、ガラス板上に金属マグネシウムと金属カルシウムを同時にスパッタして、厚さ約50ナノメートル(nm)のマグネシウム・カルシウム合金薄膜を蒸着させ、さらに真空中でごく薄く(約4 nm)パラジウムをスパッタ・蒸着して作製した。ガラス上の薄膜は、作製時は銀色の鏡状態であるが、酸素を含まず水素を含んだ雰囲気にさらすと透明になり、逆に水素を含まず酸素を含んだ雰囲気にさらすとまた鏡状態に戻るという変化を示した。このマグネシウム・カルシウム合金を用いた調光ミラー用薄膜材料の透明状態における光学特性は、可視光透過率が60%で、着色も認められなかった(図2右)。従来の、少し黄色みが残るマグネシウム・ニッケル合金材料や可視光透過率の低いマグネシウム・チタン合金材料と比較して非常に良好な光学特性を持つことが確認された(図2)。

マグネシウム・ニッケル合金の写真 マグネシウム・チタン合金の写真 マグネシウム・カルシウム合金の写真
図2 調光ミラー用薄膜材料の透明状態における比較
左:マグネシウム・ニッケル合金(可視光透過率50 %)
中:マグネシウム・チタン合金(可視光透過率30 %)
右:マグネシウム・カルシウム合金(可視光透過率60 %)

今後の予定

 透明状態と鏡状態を繰り返し切り替えることによる性能劣化を抑え、耐久性を高める技術の開発を進める。また、薄膜材料の研究開発だけでなく、調光ミラーを用いた複層窓ガラスの省エネルギー効果について、実測とコンピューターシミュレーションの両面から見積もるなど、近い将来、オフィスビルの窓材に用いて冷房負荷を大幅に低減できるよう研究開発を進める。

用語の説明

◆調光ミラー
水素や酸素の導入や電気化学的作用などにより、光学的な性質を透明状態、鏡状態、さらにそれらの中間状態に自由に制御できる材料。[参照元へ戻る]
◆マグネトロンスパッタ装置、スパッタ
マグネトロンスパッタ法を用いて成膜を行う装置。スパッタ法とは薄膜の作製方法のひとつで、真空中にアルゴンガスを入れて放電を起こしてターゲット材料をアルゴンイオンによって叩き出し(スパッタし)、基板に堆積させる。制御された成膜ができる手法として薄膜作製に広く用いられている。マグネトロンスパッタはこの放電の効率をよくするため、マグネットによる磁界を利用するもので、高純度の成膜を行うことができる。[参照元へ戻る]

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