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発表・掲載日:2010/05/14

リチウムと水の反応を制御してクリーンな水素を製造する

-電気化学的な制御で電気と水素を同時に供給できるコンセプトを実証-

ポイント

  • リチウムと水の電気化学反応を制御しながら、エネルギー需要に応じて水素を製造
  • クリーンな水素と同時に電気も供給できるシステム
  • 太陽光などによる充電操作で生成物の水酸化リチウム(LiOH)の回収と再利用が可能

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)エネルギー技術研究部門【研究部門長 長谷川 裕夫】エネルギー界面技術研究グループ 周 豪慎 研究グループ長、王 永剛 産総研特別研究員は、リチウムと水の電気化学反応を制御することによりクリーンな水素を製造するシステムを考案し、その実証に成功した。

 近年、化石燃料の消費に伴う二酸化炭素排出量の増加を抑制するため、クリーンなエネルギー源としての水素が注目されている。しかし、水素をエネルギーとして利用するには、多くの課題があり、特に水素を安全・簡便に貯蔵する技術の確立が求められている。したがって水素を必要とされるサイトで需要に応じて製造することができれば、安全・簡便の観点から望ましい。

 以前に、リチウム金属を負極側、水を正極側の活物質として用いる、リチウム-水電池と呼ばれる装置のアイデアがあったが、副生する水素の利用は考慮されていなかった。周らは、金属リチウム負極と炭素正極を組み合わせ、これに電解液としてハイブリッド電解液(=有機電解液/固体電解質/水性電解液)を用いることにより、安定に制御された反応により、水素と電力を同時に製造する新しいコンセプトを考案し、今回システムとして実証することに成功した。このシステムを用いれば、電気化学反応に伴う放電により発生する電気と同時に、クリーンな水素を必要なときに必要な量だけ製造することができる。現時点で、正極1cm2あたりの水素製造量は約230 µmol/hである。本システムは充電により再生できるため、太陽電池など自然エネルギーや夜間の余剰電力を利用して金属リチウムの形でエネルギーを貯蔵し、必要に応じて水素と電力を取り出すエネルギー貯蔵システムとしての利用が可能である。今後、本システムの最適な利用形態などをさらに検討していく予定である。

 本成果は、2010年5月14日にドイツの学術誌ChemSusChemHighlightとして掲載される。

リチウム-水電池と水素製造のイメージ図 リチウム-水電池正極から製造した水素の量の図
左図:リチウム-水電池と水素製造のイメージ
右図:リチウム-水電池正極から製造した水素の量

開発の社会的背景

 化石燃料の大量消費に伴う二酸化炭素排出量の増加や、原油価格の激しい変動などが起こる中、持続可能な低炭素社会を構築するために、水素エネルギーの有効利用が注目されている。しかし、水素を本格的なエネルギーとして使う水素エネルギー社会を実現するために、革新的な水素製造技術とエネルギー貯蔵技術の確立が求められている。

研究の経緯

 産総研エネルギー技術研究部門では、リチウムイオン電池の開発過程で、電極材料をナノ構造化することにより、電池の大出力化が期待できることを示してきた(2005年1月18日2007年11月19日2008年8月27日 産総研プレス発表)。また、さらに大幅なエネルギー密度の向上を目指してリチウムのリサイクルなどが可能なリチウム-空気電池リチウム-銅二次電池2009年2月24日2009年8月24日 産総研プレス発表)の研究も進めてきた。

 今回新たに、ハイブリッド電解液を活用したリチウム-水の電気化学反応に着目し、エネルギー需給に応じて、発電しながら水素を製造するシステムを着想した。

研究の内容

 リチウム-空気電池やリチウム-銅二次電池で用いた、ハイブリッド電解液のコンセプトを応用して、金属リチウムを負極側活物質、水を正極側の活物質とし、正極集電体としてカーボンを使い、負極側の有機電解液と正極側の水性電解液との間に、リチウムイオン(Li+)だけを通す固体電解質をセパレーターとして使用するシステムを構築した。この構成によって、両電解液の混合を防ぐことができ、かつ水素イオン(H+)あるいは水酸化物イオン(OH-)が有機電解液に到達しないため、リチウムと水の電気化学反応を制御することが可能となった。

 放電時の電極反応は次のようになる。
1) 負極での反応:Li → Li+ + e-
 金属リチウム(Li)がリチウムイオンとして有機電解液に溶解し、電子(e-)は配線に供給される。リチウムイオンは固体電解質を通り正極側の水性電解液に移動する。
2) 正極での反応:2H2O + 2e- → 2OH- + H2(gas)
  配線から電子が供給され、活物質の水が分解し、正極の集電体付近から水素(H2)が発生する。

 このように本システムにおける水素の生成は、リチウム-水電池における放電反応に伴うもので、放電電流量を制御することにより水素の製造速度を制御することができる。現時点で、電流密度12 mA/cm2で放電すると、正極集電体の水素製造量は約5.2 mL/h/cm2(約230 µmol/h/cm2)である。固体電解質セパレーターのリチウムイオン伝導率の向上と作動温度を上げることにより、数十倍の水素製造能力向上が見込まれる。

 本システムは放電の逆反応によって(充電)、生成物の水酸化リチウム(LiOH)を回収でき、システムとして再利用できるため、風力や太陽電池など変動する再生可能エネルギーや夜間の余剰電力をリチウムの形で貯蔵し、需要に応じてリチウム-水電池の放電電流量を制御して水素と電力を取り出すことができる。太陽光発電などを利用すれば電力ネットワークが届いていない地域の住宅用エネルギーの貯蔵と供給システムとしての利用も可能であろう。

今後の予定

 今回開発したリチウムと水の反応制御による水素製造のシステムは、まだ実験室レベルのものであり、実用化のために、固体電解質のリチウムイオン伝導率の向上と耐久性の改善を目指す。また電気と水素を同時に供給できる点、また充電反応により再生できる点などの本システムの特徴をどのように活用すれば、将来のエネルギー技術体系の中で貢献できるのか、今後さらに検討を進めていく予定である。


用語の説明

◆活物質
電解質との化学反応によって、電子を放出したり、取り込んだりする物質。電子を出す活物質を負極活物質、電子を取り込む活物質を正極活物質という。[参照元へ戻る]
◆リチウム-水電池
負極活物質として金属リチウム、正極活物質として水、電解液として有機電解液/固体電解質/水性電解液を用いて、構築した電池である。[参照元へ戻る]
◆ハイブリッド電解液
電解液として、負極側に有機電解液、正極側に水性電解液、また、負極側有機電解液と正極側水性電解液の間にリチウムイオンだけを通す固体電解質セパレーター(分離壁)を設置する構造を有する電解液である。[参照元へ戻る]
◆固体電解質
電解質とは塩化ナトリウム(NaCl)のように、水に溶かしたときにイオンになるものをいう。電解質の水溶液には電気(イオン)が流れる。「固体電解質」とは固体状態のままでイオンが流れる(移動する)物質である。[参照元へ戻る]
◆リチウムイオン電池
現行の電池の中で最も高い作動電圧(3-4 V)を有し、コバルト酸リチウムに代表される遷移金属酸化物を正極、黒鉛系炭素材料を負極として、非水系電解液を構成材料とした電池。充電時に正極から負極へ、放電時に負極から正極へリチウムイオンが移動することにより電池として作動する。1990年代初めに実用化され、電池容積あるいは重量あたりに取り出せるエネルギー(エネルギー密度)が他の電池系に比べ格段に大きいことから、携帯電話、ノートPC等のモバイル機器の電源として必要不可欠なものとなっている。[参照元へ戻る]
◆リチウム-空気電池
金属リチウムを負極活物質とし、空気中の酸素を正極活物質とし、充放電可能な電池を指している。リチウムは金属のうち最もイオンになりやすくこれを負極として用いると、正極との電位差が大きく、高い電圧が得られる。また原子の大きさが小さいため質量あたりの電気容量をかせげる。正極の活物質である酸素は電池セルに含める必要がないため、理論上リチウムイオン電池よりも大きな容量を期待でき、自動車用電池として研究されている。[参照元へ戻る]
◆リチウム-銅二次電池
金属リチウムからなる負極側に有機電解液、金属銅からなる正極側に水性電解液を用い、両電解液を固体電解質の分離壁で仕切る構造の二次電池。[参照元へ戻る]

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