発表・掲載日:2010/02/12

環境技術や健康医療に貢献するナノテクノロジー部品の精巧な模型を製作

-リアルで立体感のある表現を工夫-

ポイント

  • 光触媒や二次電池、センサーなどを構成するナノテクノロジー部品の精巧な立体模型
  • ナノテクノロジーのしくみや部品がよくわかる
  • ナノテクノロジーを身近にする展示用の模型として期待

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)は、太陽光発電、燃料電池、強くて超軽量な新素材などグリーン・イノベーションに貢献する材料やシステムの開発、あるいは健康、医療などのライフ・イノベーションに寄与するセンサーやバイオ材料に関するナノテクノロジーの先端的な研究開発を推進している。今回、ナノテクノロジーの理解を助けるナノ粒子やナノ薄膜などを精巧に模擬した立体模型6点を製作した。

 これらの模型は、電子顕微鏡などの先端装置を用いて得られた情報を反映して、構成要素となっている大きさがナノメートル単位(nmナノメートルは10億分の1メートル)の部品を数百万倍に拡大して作られた。模型は種々の金属、プラスチック、セラミックスなどの素材を用いて作られ、わかりやすい彩色とリアル感、立体感を表現する工夫がされ、ナノテクノロジーの理解を助ける。

 本模型6点は、2010年2月17日(水)から19日(金)まで、東京ビッグサイトにおいて開催される「国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」で展示公開される。なお、産総研ではナノテクノロジー・材料・製造分野を中心として、環境・エネルギー分野および地質分野から計18件の研究成果の出展も予定している。

ダイヤモンドを用いた電気化学的DNAセンサー模型画像
ダイヤモンドを用いた電気化学的DNAセンサー 模型

背景

 カーボンナノチューブや光触媒など先端ナノテクノロジーを支えるナノメートルサイズの微細構造をもつナノ材料が知られているが、一般市民にとっては、そのサイズがあまりにも小さく、その長さ、形態や構造の理解が進んでいないのが現状である。これまでに動物や植物の実物模型などが展示素材として数多く製作されているが、ナノ材料の展示模型はカーボンナノチューブなどごく一部の素材を除いてほとんどなく、早急に代表的な展示模型の製作が求められていた。

模型の詳細

 以下に、今回新たに製作した代表的なナノ材料の展示模型を紹介する。

(1)ナノ結晶のダイヤモンド薄膜
 鉄やプラスチックの表面にダイヤモンドの薄膜をコーティングする技術を開発した。この技術により、表面の平坦性に優れ大面積のダイヤモンド薄膜を低温で成膜することができる。これまでのダイヤモンド薄膜(写真左の模型)の表面はざらざらであったが、開発品(写真右の模型)の表面形状はダイヤモンド結晶の粒子サイズが小さく平坦であるのが特徴である。今後の研究開発によってプラスチックなどの表面に平坦性にすぐれたダイヤモンドをコーティングできるようになると期待される。

ナノ結晶のダイヤモンド薄膜模型画像
模型左側は従来技術のダイヤモンド薄膜で、表面はざらざらしている。模型右側は産総研開発品で表面形状はダイヤモンド結晶の粒子サイズが小さく平坦であるのがわかる。

(2)粒径が制御された触媒ナノ粒子
 1~2ナノメートルサイズの金のナノ粒子を保持した触媒粒子を開発した(写真中央)。一般的に、金ナノ粒子は小さいほうが化学反応の活性化に有利であるが、反応によってはナノ粒子が特定のサイズを持ったときに反応性が高まるものもある。産総研では、2~4ナノメートルサイズの金ナノ粒子を用いた場合に触媒としての活性が非常に高まることを見いだした。写真右は、触媒粒子がある物質の表面上で化学反応を触媒している様子を示している。今後、本技術は化学工業プラント用の合成触媒に応用できるものと期待される。

粒径が制御された触媒ナノ粒子模型画像
模型の左は金ナノ粒子を保持した触媒粒子で、その一部を切り開いたのが中央。青色は白金原子で、オレンジ色は金原子である。右は触媒粒子が、ある物質の表面で化学反応を助けている様子。黄色は酸化チタン表面である。

(3)セラミックスナノ粒子
  各種の溶剤への分散性にすぐれ、かつ1個1個の粒子が凝集せずに分散する直径が100ナノメートルサイズのセラミックスナノ粒子を開発した。高分子(サイズが10ナノメートル程度)がナノ粒子の表面を覆っているために、溶剤中に均一に分散させることができる。この模型では、高分子を構成する分子の鎖が毛糸素材を用いて表現されている。内部にある粒子は2~3ナノメートルサイズ径のセラミックスナノ粒子である。今後はガスセンサーやUVカット製品に使用される。

セラミックスナノ粒子模型画像
模型のオレンジ色は直径が100ナノメートルサイズのセラミックスナノ粒子。セラミックスナノ粒子は凝集して沈殿しやすいが、表面を柔らかい高分子で覆うと凝集せずに、溶液中に均一に分散させることができる。高分子の鎖が毛糸素材で表現されている。

(4)メソポーラスカーボン
  電気の充放電を自在に行うことが可能なキャパシタの電極材料として2~50ナノメートルサイズの細孔が空いた炭素材料を開発した。電極を構成している最小単位の炭素材料をリアルな模型で表現した。今後は、二次電池よりも高速な充放電が可能な電気化学キャパシタとしての応用が期待される。

メソポーラスカーボン模型画像
模型の左は2~50ナノメートルサイズの細孔で、赤矢印はそれが右の炭素材料に含まれていることを示す。

(5)ナノバイオテクノロジー再生医療
 蛍光を発するナノ粒子を特定のタンパク質と複合化して、幹細胞に高効率に導入する技術を開発した。この模型ではナノ粒子と精密な細胞の模型とによって、今回開発した蛍光ナノ粒子が細胞中に導入される状態を表現している。今後は、移植した細胞が治療に役立っているかを長期間追跡できる可能性があるため、再生医療の有効性や安全性の評価に応用できると考えられる。

ナノバイオテクノロジーと再生医療模型画像
模型は蛍光性ナノ粒子(オレンジ色)が細胞に入る様子。中央のオレンジは細胞核

(6)ダイヤモンドを用いた電気化学的DNAセンサー
 ダイヤモンドからできた針状の電極を10ナノメートルの間隔で剣山のように配置して特定のDNAのみを検出できる高感度センサーを開発した。従来の金電極によるセンサーの1000倍もの高感度でDNAを検出できる。この模型は、1本鎖DNAが特定配列のDNAを引きよせて2本鎖DNAになることによって、特定のDNAのみを検出できる仕組みを体感できるように工夫されている。医療や食品検査など使い捨てのセンサーではなく、恒常的に使用可能な高感度センサーとして利用できる。

ダイヤモンドを用いた電気化学的DNAセンサー模型画像
ダイヤモンドからできた針を10ナノメートルの間隔で剣山のように配置したDNAの高感度センサーの模型。左は針の先端に1本鎖DNAが結合している。右はそのDNA配列を認識した特定の配列のDNAがやってきて、2本鎖になったところを表している。


用語の説明

◆セラミックス
元々は陶磁器のことであるが、ここでは金属以外の固体の無機物質(プラスチックなどの有機物以外の物質)に対する総称として用いている。[参照元へ戻る]
◆カーボンナノチューブ
六角網目状に並んだ炭素原子が巻き付いてチューブ状の構造を形成している物質。ナノテクノロジーの代表的素材として注目されている。チューブが1重の単層カーボンナノチューブと、複数の層からなる多層カーボンナノチューブがある。[参照元へ戻る]
◆ナノ結晶
サイズが通常数ナノメートルからおよそ100ナノメートルの結晶で、超微細結晶ともいう。半導体の場合、その大きさが10ナノメートル以下になると新しいエネルギー準位が形成され、これまでにない機能が発現することがある。[参照元へ戻る]
◆触媒
化学反応に関与して反応速度を速めたり反応選択性を変えたりすることのできる材料。触媒自体は化学反応で消費されることがない。[参照元へ戻る]
◆UVカット
太陽光線などに含まれる紫外線(UV, ultraviolet)を反射や吸収などにより除外する機能のことである。日焼け止め製品などに利用されている。[参照元へ戻る]
◆メソポーラス
メソはミクロとマクロの中間という意味があり、多孔質体(たくさん穴の空いた物質)の分野ではミクロポーラス物質(ゼオライト等)とマクロポーラス物質(多孔質ガラス等)の中間の孔(メソポア)を多く持つ状態をメソポーラスと呼ぶ。メソポアを多く持つ物質をメソポーラス材料と呼び、その孔径は2ナノメートルから50ナノメートルの大きさ程度である。[参照元へ戻る]
◆キャパシタ
コンデンサーのことであり、電子を蓄えたり、放出したりする機能をもつ素子等のことを指す。電気製品の部品などに用いられる。[参照元へ戻る]
◆二次電池
蓄電池や充電式電池とも呼ばれ、充電により電気を蓄え、放電により電気を供給し、繰り返し使用できる電池のことである。 [参照元へ戻る]
◆電気化学キャパシタ
電気化学キャパシタとは、主に電解液と電極の間でイオンの吸着や脱着を利用することで電気を蓄えるコンデンサーのことである。[参照元へ戻る]
◆ナノバイオテクノロジー
ナノテクノロジーとバイオテクノロジーとをつなぐ技術。ナノテクノロジーを利用した生命現象や生体分子の解析を行う研究のほか、生体分子の自発的な組織化などを利用した新規物質の創製など、生体のものづくりのしくみを利用した技術を意味することもある。[参照元へ戻る]
◆再生医療
損傷を受けた生体の機能を、幹細胞などを用いて復元させる医療。臓器移植と異なり、ドナー(臓器提供者)不足などという問題を克服できる革新的治療として期待されている。[参照元へ戻る]
◆蛍光
分子に光(励起光)を照射したときに、その分子が一般的に励起光より長波長の光を放出する現象。蛍光を出す分子を蛍光分子と呼ぶ。蛍光を発するたんぱく質や半導体量子ドットを用いて、様々なバイオ分野への応用が検討されている。[参照元へ戻る]
◆幹細胞
筋肉、骨、脂肪など、種類の異なる様々な細胞に分化できる能力を持ち、かつ自己複製の能力を持つ未分化な細胞。胚からは胚性幹細胞(ES細胞)、成人からは成体幹細胞を採り出すことができる。幹細胞を用いて損傷を受けた生体機能を復元させる再生医療は、未来の医療として期待されている。[参照元へ戻る]
◆DNA
核酸の一種であり、デオキシリボ核酸(Deoxyribonucleic acid)を省略した名前である。地球上のほぼ全ての生物において、遺伝情報を担う物質となっている。[参照元へ戻る]


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