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発表・掲載日:2009/11/27

金属型と半導体型のカーボンナノチューブを高純度で簡便に分離

-繰り返し連続自動分離が可能で低コストを実現-


 NEDOと産業技術総合研究所は11月27日、NEDOの産業技術研究助成事業の一環として、産業技術総合研究所の田中丈士研究員らが、アガロースゲル(注1)を充填したカラムを用いて、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(注2)を金属型と半導体型に高純度で分離する方法の開発に成功した、と発表しました。この方法は、自動化とゲルの繰り返し使用による分離の低コスト化が可能なため、金属型・半導体型SWCNTそれぞれの利点を活かした産業応用が期待できます。

 この成果は、応用物理学会刊行のApplied Physics Express誌(オンライン版)に、本日、公開されます。また、2010年2月17日~19日に開催されるnano tech 2010(東京ビッグサイト)で展示を予定しています。

アガロースゲルビーズ充填カラムを用いた金属型・半導体型SWCNTの分離の写真
図1 アガロースゲルビーズ充填カラムを用いた金属型・半導体型SWCNTの分離。SWCNT分散液をカラムに通すと、赤みを帯びた金属型SWCNTは通り抜け(ピンクの太線)、緑色の半導体型SWCNT(緑の太線)のみがゲルに吸着します。吸着した半導体型SWCNTは溶出液を用いて溶液状態で回収できます。(数字は、分’秒”を表す)

(注1)アガロースゲルとは、海藻に含まれる多糖類であり、寒天の主成分であるアガロースを熱水に溶かした後、冷やし固めてゲル化したもの。
(注2)単層カーボンナノチューブ(SWCNT)とは、黒鉛と同じく、炭素原子による6角形のネットワークからなる、直径0.7~4 nm(1ナノメートル:10億分の1メートル)程度の筒状の物質のこと。6角形の並び方の違いで、金属的性質を示したり、半導体的性質を示したりする。


概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)ナノテクノロジー研究部門【研究部門長 南 信次】自己組織エレクトロニクスグループ 片浦 弘道 研究グループ長、田中 丈士 研究員は、NEDOの産業技術研究助成事業の一環として、アガロースゲルビース充填カラムを用いて、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を金属型SWCNTと半導体型SWCNTに高純度で分離する方法を開発しました。

 SWCNTを合成すると、金属型と半導体型が1:2の混合物になり、電気的な応用のためには金属型と半導体型に分離しなければなりませんが、両者の分離は容易ではありませんでした。これまでに産総研では、アガロースゲルを用いた金属型と半導体型のSWCNTの分離法を開発してきましたが、今回これを発展させ、高純度化と低コスト化を同時に実現する方法を見いだしました。この方法は、アガロースゲルのビーズを充填したカラムを用い、半導体型SWCNTの選択的吸着と溶出により分離するものです(図1)。ゲル充填カラムは繰り返し使用でき、また自動化も容易であり、低コスト化が可能なので、金属型・半導体型SWCNTの産業生産の実現につながると考えられます。

1.背景

 SWCNTは炭素原子の並び方によって、金属的な性質のものと半導体的な性質のものが存在します。通常、合成するとこれら異なる性質のものの混合物となっています。二つの型を高純度に分離できれば、金属型SWCNTでは、希少金属を用いた透明導電材料の代替品として液晶ディスプレーや太陽電池パネル用の透明電極への利用が期待できます。また、半導体型SWCNTでは、透明で折り曲げることができるフレキシブルトランジスターなどへの利用が見込まれます。将来的には、金属型SWCNTを配線に、半導体型SWCNTをトランジスターに用いた、超高集積・超高速の高性能SWCNTコンピューターの実現も期待されています。

 現状では、これらの電気的性質の異なるSWCNTを選択的に合成する手法がないため、混合物からそれぞれのSWCNTを分離することが試みられています。しかしながら、これまでの金属型・半導体型の分離法はいずれも、回収率や純度、コストなどに問題があり、大量に分離精製する段階には至っておらず、高純度で安価、なおかつ大量処理が可能な分離技術の開発が望まれていました。

2.研究成果概要および本成果の意義

 産総研は、SWCNTをアガロースゲルに固め込んだ状態の「SWCNT含有ゲル」に対して電気泳動を行うと、高い回収率で金属型と半導体型に分離できること、そして、電場を用いないでも分離できることを報告してきました。今回さらに研究開発を進め、より優れた分離法に発展させました。

 

カラムを用いたSWCNTの金属型・半導体型分離の概略図
図2 カラムを用いたSWCNTの金属型・半導体型分離の概略図。

 以前に開発したアガロースゲルを用いた金属型・半導体型SWCNTの分離方法では、ゲルに吸着した半導体型SWCNTを分離回収するには、ゲルを溶かして取り出す必要がありました。また、分離純度についても改善の余地がありました。今回、これらの課題を解決するため、カラムクロマトグラフィーの手法を応用しました(図2)。アガロースゲルのビーズを充填したカラムに、SWCNTの分散液を添加した後、分離液を流すと、半導体型のSWCNTがゲルに吸着する一方、金属型のSWCNTはカラムを通り抜け分離回収されます。カラムに残っている金属型SWCNTを十分に洗い流した後、適切な界面活性剤を含む溶出液をカラムに流すと、吸着していた半導体型SWCNTを脱離・溶出させて回収できました(図1)。アガロースゲル充填カラムは平衡化を行えば再生されるので、再度分離が可能となり、しかも繰り返し使用しても分離精度は低下しませんでした(図3(a))。従来のSWCNT含有ゲルを用いて電気泳動や遠心分離で分離した試料と比べても、分離したSWCNTの純度が向上しており、半導体型SWCNTで95%、金属型SWCNTで90%となりました(従来法ではそれぞれ95%、70%)(図3(b))。これは分離純度が非常に高いものの分離効率やコスト面で劣る、密度勾配超遠心分離法で分離した試料の純度に匹敵します。

 高純度化が生じる理由として、以前のSWCNT含有ゲルを用いた分離では、長さ分布をもつSWCNTがゲルの網目(ふるい)構造の影響を受けやすく、SWCNTの電気的な性質だけではなく長さの違いも分離に影響し、純度の低下が生じていましたが、今回のカラム法では吸着・脱着がゲル表面で起こるため、ゲルの網目構造の影響を受けにくく、主に電気的な性質の違いによって分離が起こったためと考えられます。

同じゲル充填カラムを用いた1、2回目の分離後の光吸収スペクトルと1回目分離後のラマン散乱スペクトルの図
図3 (a)同じゲル充填カラムを用いた1、2回目の分離後の光吸収スペクトル。(b)1回目分離後のラマン散乱スペクトル。緑色の領域は金属型SWCNT、黄色の領域は半導体型SWCNTに由来するピーク。

 カラムクロマトグラフィー法は、化成品や医薬品の産業生産工程において、分離処理に広く用いられている手法です。分離の自動化や大量分離に向けたスケールアップの方針や技術が確立されているため、産業生産へ移行する上での障害はほとんど存在しません。

 今回開発した分離法は、分離純度が高い密度勾配超遠心分離法で分離した試料に匹敵する純度が得られる上、ゲルの繰り返し使用や分離の自動化による人件費削減などにより分離コストは10分の1以下になると試算され、安価で高純度の金属型・半導体型SWCNTの供給が実現可能となります。

3.今後の展望

  今後は、分散液調製の効率化・低コスト化が重要になってくるため、SWCNT分散液調製に関する研究も進めます。また、企業等と協力して、金属型SWCNTと半導体型SWCNTの大量分離に向けた研究を推進するとともに、分離したSWCNTの用途開発を行っていく予定です。



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