English

 

発表・掲載日:2009/11/04

マイクロ波を利用した高分子合成プロセスの実用化

-化学合成用マイクロ波加熱装置による乳酸重合を初めて実現-

ポイント

  • マイクロ波を応用した世界初の重合物製造装置を開発
  • 製造時間の大幅な短縮による量産化と品質の安定を実現
  • 従来の加熱方式に比べてCO排出量を約70 %削減可能

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)環境化学技術研究部門【研究部門長 中岩 勝】循環型高分子グループ【研究グループ長 国岡 正雄】 竹内 和彦 主任研究員、長畑 律子 主任研究員らは、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構【理事長 村田 成二】(以下「NEDO」という)、株式会社GLART【代表取締役社長 山口 博】(以下「GLART」という)、四国計測工業株式会社【取締役社長 四宮 幸生】と共同でマイクロ波重合物量産装置を開発し、乳酸重合用の省エネルギープロセスを世界で初めて実用化した。

 有機化合物や高分子材料の合成にマイクロ波による加熱を利用することによって、反応時間の大幅短縮や廃棄物の低減、省エネルギー化、CO2排出の削減等の効果が期待されており、これまで多くの研究が行われてきたが実用化に至った例は少ない。産総研では、これまでマイクロ波を利用した有機化合物や高分子材料の高効率生産技術の開発を行ってきたが、今回の共同研究では、マイクロ波の照射方法の改良によるエネルギー利用効率の向上や、マイクロ波の漏洩等を防止した、安全な装置の開発などにより実用化のめどを得たものである。

 GLARTは、これまで電熱ヒーターによる加熱を用いる少量製造ラインを複数稼働して機能性食品素材であるオリゴ乳酸を製造してきたが、今回開発した装置を導入することで、量産化による品質の安定とともに、製造時間の大幅な短縮により従来法に比べCO2発生量を70 %低減する省エネルギー効果を達成した。

 なお、本研究は、2006年度NEDO産業技術研究助成事業「マイクロ波を駆動源とするバイオベースポリマーの高効率製造技術開発」(研究代表者:長畑 律子 主任研究員)の成果の一部を応用したものである。

 本技術の詳細は、2009年11月19~20日に東京理科大学(神楽坂キャンパス)で開催の第3回日本電磁波エネルギー応用学会シンポジウム、および2009年11月18~20日に東京ビックサイトで開催のプラントショー(INCHEM TOKYO 2009)で発表する。

今回開発したマイクロ波重合物量産装置の写真
写真 今回開発したマイクロ波重合物量産装置

開発の社会的背景

 一般に有機化合物や高分子材料などの化成品の製造には高い温度で長時間の反応を必要とし、多量の有機溶剤の使用や、有害な廃棄物を副生してしまう反応系が多い。地球温暖化対策の一つとして、化成品製造プロセスにおける、生産効率の向上によるCO2排出抑制技術の開発が緊急の課題となっている。中でもポリエステル等の高分子材料の製造には高温で長い反応時間が必要で、このため省エネで廃棄物を出さない製造プロセスの開発が求められている。

 ポリ乳酸やオリゴ乳酸のような乳酸重合物は、トウモロコシやサトウキビ等のバイオマス資源を発酵させて得られる原料から製造され、生分解性や透明性に優れた高分子材料として農業用マルチシートやハウス用のフィルム、家電製品の外装用材料として実用化されている。また、生分解性を利用して、手術糸や人工骨、薬物徐放製剤などの医療用材料や機能性食品としても利用されている。乳酸重合物は乳酸の重縮合反応によって合成されているが、乳酸そのものの反応性が低いため、一般的にはスズ化合物や硫酸等の鉱酸類を触媒とし、高温・長時間の反応で合成されている。しかし、医療用途や機能性食品用途の乳酸重合物は、体内に直接導入されることから、有毒な触媒の使用をできる限り控える必要がある。このため低分子量の重合物であるにもかかわらず、触媒を用いないで極めて長い時間をかけて合成されており、エネルギー効率の低い製造プロセスとなっていた。また、反応時間が長いため異種構造体が副生し易く、高品質品を製造するため細心の注意がはらわれていた。このような背景から、環境負荷が低く効率的で、かつ安定した品質の製品を量産する技術が求められていた。

研究の経緯

 マイクロ波は、物質を高速・均一に直接加熱できる新しい方法として電子レンジのほか、産業界でも広く用いられている。産総研では、有機化合物や高分子材料の合成プロセスに対するマイクロ波の有用性に早くから注目し、これを応用した高効率製造プロセスの研究を行ってきた。特に、原料のカルボン酸やアルコール、脱離する水分子が高い極性をもつことから、マイクロ波により効率的に反応が加速される例としてポリエステルの製造に着目し、マイクロ波を利用することで反応時間を約10分の1に短縮した高効率な製造プロセスを開発している。

 一方、GLARTは、機能性食品としてのオリゴ乳酸の製造を行ってきたが、需要の増大とさらなる高品質化に対応するため、従来の工程を一新して高品質な製品の量産化に対応できる、効率の高い新しい製造方法を求めていた。今回、産総研のマイクロ波重合技術を応用した新製造プロセスを共同で開発することとした。

研究の内容

 乳酸重合物は乳酸の重縮合反応によって合成されているが、乳酸そのものの反応性は低く、このため一般的にはスズ化合物や硫酸等の鉱酸類を触媒とし、高温・長時間の反応で合成されている。産総研では、乳酸の重合反応にマイクロ波を応用することにより、スズ化合物や硫酸などの触媒なしでも反応が比較的早く進行することを見いだし、特許出願している。これは、マイクロ波が極性をもつ反応の中間体を効率的に加熱したためと考えられる。この技術をGLARTが製造するオリゴ乳酸の合成に適用したところ、電気ヒーターによる加熱を用いて行っていた従来の合成法に比べ、反応速度が大幅に加速されるとともに、消費エネルギーが大きく削減されることが分かった。

 次いで、この合成法の実用化のため、四国計測工業(株)と共同で新しいマイクロ波重合用量産装置の開発を行った。まず、反応容器内部での電磁界(電波)分布を精密に制御することによりマイクロ波をできるだけ効率的に吸収させるよう反応容器の形状を設計した。また、この合成法では反応系が高粘度の溶液となるが、これを効率的に扱う反応技術を開発し、さらにマイクロ波の漏洩等の懸念に対する確実な安全対策を開発、装置に施すことで、今回の量産装置の実用化につなげた。

 今回の装置で製造される乳酸重合物は、機能性食品用途や医療用途を想定しているため、製品の品質管理は極めて重要である。今回、製品の品質を安定化させる反応条件を探索することで品質の安定化、高品質化を実現した。

 今回開発した装置は、原料の乳酸水溶液に2.45 GHz、6 kWのマイクロ波を照射するもので、従来と比べ高速にオリゴ乳酸を合成する。製造規模は1バッチ当たり約20 kgであり、高効率と製品の安定した品質を確保している。GLARTでは、これまで電熱ヒーターを用いた少量製造ラインを複数、長時間稼働することでオリゴ乳酸を製造してきたが、本装置を導入して、大量の製品を短時間で合成できることになり、従来品と同等以上の高品質を保持した製品を、安定して量産化することが可能となった。また、本装置により省エネルギー化が図られ、従来法に比べ約70 %のCO2が削減でき、環境負荷の低減にも大きな効果がある。マイクロ波法は、通常加熱法に比べ反応時間が短いので異種構造体が副生しにくく、機能性食品素材用途へ適した合成法といえる。

今後の予定

 エステル化反応や重縮合反応だけではなく、さまざまな有機化合物や高分子材料の合成など、広範な用途の拡張をすすめる。また、蒸留や抽出プロセスにも応用することで、化学プロセスの省エネルギー化によるCO2排出の大幅な削減や無溶媒化、廃棄物の削減によるグリーン化、製品の高品質化など、わが国の化学産業に貢献していきたい。


用語の説明

◆マイクロ波
 
マイクロ波は、周波数が300 MHzから30 GHzの電磁波(電波)で、レーダーや通信、医療分野で広く利用されている。1950年代以降、新しい加熱装置として食品の乾燥や加熱用途で家庭から産業界まで急速に普及した。伝統的な加熱手段であるスチームや電気ヒーター、直火が物質表面から内部へ熱を伝える伝導加熱であるのに対し、マイクロ波加熱は物質を内部から直接加熱するため高速で均一な加熱が可能で、エネルギー効率の向上や加熱時間の短縮に大きな効果がある。
有機合成や重合反応でもマイクロ波加熱の利用により反応の高速化や選択性向上、無溶媒化などの効果がある。CO2排出削減、環境負荷低減、製造設備の小型簡略化、製造コストの低減など多くのメリットが期待され、数多くの研究が行われている。エネルギーコストの大幅削減効果が見込まれるため、マイクロ波反応プロセス技術の実用化が望まれているが、これまで、ほとんどの研究はデスクトップスケールの検証試験にとどまっている。 [参照元へ戻る]
マイクロ波加熱の原理と効果の図
マイクロ波加熱の原理と効果

 

◆乳酸
 
乳酸(lactic acid):有機化合物で、ヒドロキシ酸の一種(式1)。化学式 C3H6O3、示性式は CH3-CH(OH)-COOH で分子量 90.08。不斉炭素があり、L-体とD-体がある。L-乳酸は解糖系の最終生成物である。工業的には、乳酸菌を用いてトウモロコシやサトウキビなどから得られる炭水化物(デンプン)を分解(乳酸発酵)させて製造している。[参照元へ戻る]
乳酸の化学式
式1 乳酸
ポリ乳酸(polylactic acid)・オリゴ乳酸(oligolactic acid):乳酸を脱水縮合させたもので、分子量1万以上の重合物をポリ乳酸、それ以下をオリゴ乳酸といい、まとめて乳酸重合物という(式2)。トウモロコシやサトウキビなどのさまざまなバイオマスから得られる炭水化物(デンプン)を発酵して得られる乳酸を原料とする非石油系材料として注目されている。
ポリ乳酸およびその合成法の化学式
式2 ポリ乳酸およびその合成法

 

◆重合
 
高分子材料は、多数の低分子(モノマー)を長い鎖状に連結して合成される、分子量の大きな化合物で、この合成反応を重合(または重合反応)といい、得られた長鎖状分子を重合物(または高分子、ポリマー)という。[参照元へ戻る]
重合反応の概念図
重合反応の概念図

 

◆ポリエステル
 
カルボン酸基をもつ化合物とアルコール基をもつ化合物から脱水反応でエステル結合(-CO-O-)を形成させることにより進行する重縮合反応で合成される高分子。PETやポリ乳酸などがある。(ポリ乳酸の場合はカルボン酸基とアルコール基を両方もつ化合物から合成される。)[参照元へ戻る]
◆重縮合
 
2分子以上のモノマーから水などの簡単な分子を脱離させることによって新しい化学結合を形成させ、高分子量体を合成する重合反応を重縮合(または縮合重合)という。[参照元へ戻る]
重縮合反応の例
重縮合反応の例(PET(ポリエチレンテレフタレート)の合成)


お問い合わせ

お問い合わせフォーム

▲ ページトップへ