発表・掲載日:2008/12/04

二酸化炭素吸着性能に優れ、生産性に優れた無機多孔質材

-大気圧以上でも吸脱着ができ、効率的な二酸化炭素回収材として最適-

ポイント

  • 大気圧以上の加圧で大容量の二酸化炭素を吸着し、大気圧まで減圧すると可逆的に脱着
  • 現在主流の二酸化炭素回収材ゼオライト13Xに比べ、大気圧以上の圧力で2倍以上の吸着性能
  • 安価な工業用原料から合成ができ、工業レベルの生産が可能に

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)地圏資源環境研究部門【研究部門長 矢野 雄策】地下環境機能研究グループ【研究グループ長 竹野 直人】鈴木 正哉 主任研究員と同部門 月村 勝宏 主任研究員、サステナブルマテリアル研究部門【研究部門長 中村 守】メソポーラスセラミックス研究グループ【研究グループ長 田尻 耕治】前田 雅喜 主任研究員と犬飼 恵一 主任研究員は、大気圧以上の圧力領域で大容量の二酸化炭素の吸脱着が可能な高性能無機系吸着材を開発した。

 圧力スイング吸着法による二酸化炭素の回収・分離材としては、これまでゼオライト13Xが用いられている。しかし、ゼオライト系吸着材による二酸化炭素の吸脱着では、真空から大気圧までの圧力領域における吸着量が多く、脱着(放出)させるには再度真空近くまでの減圧が必要であるため、かなりのエネルギーを消費している。そのため、大気圧以上で多量の二酸化炭素の吸着と脱着の両方が可能な吸着材が求められていた。

 今回、安価な工業用原料から穏和な条件で合成できる方法を見いだし、大量生産が可能で、部分的にイモゴライト構造をもつ非晶質アルミニウムケイ酸からなる無機系二酸化炭素吸着材を開発した。この吸着材は、大気圧以上の圧力で10 wt% (重量%)以上の可逆的な二酸化炭素の吸脱着が、繰り返し可能である。300℃程度の耐熱性をもち、大気圧に戻すだけで吸着した二酸化炭素を脱着し、再生が可能である。そのため、二酸化炭素回収・分離に用いることで、二酸化炭素回収の省エネルギー効果が期待される。

開発した高性能無機系二酸化炭素吸着材の写真
開発した高性能無機系二酸化炭素吸着材

開発の社会的背景

 地球温暖化が地球規模での問題となり、二酸化炭素の回収法や処理法・利用法の開発が、急務となっている。回収した二酸化炭素の利用法についての研究が各分野で多数進められているが、大気中からの二酸化炭素回収は国や企業に定められた排出枠には計上されない。そのため、火力発電所や製鉄所など二酸化炭素の排出量が多い事業所をはじめ各方面で、高効率かつ低コストで経済活動によって排出された二酸化炭素を回収できる吸着材が求められている。

 これまで、大規模な鉱工業活動による大容量の排出に適した回収システムとして、アミン系の吸収材を用いるアミン法が検討されているが、メンテナンスや中・小規模での採算性が悪いといった問題がある。そのため簡単に二酸化炭素の吸脱着が可能な圧力スイング吸着法(PSA)が検討されてきているが、ゼオライト系吸着材では、効率的な吸脱着を行う上で脱着時に真空まで減圧しなければならずコスト高につながるため、大気圧以上での吸脱着が多い、すなわち低エネルギーで再生できる二酸化炭素吸着材が求められていた。

大気中からの二酸化炭素回収の概要図

研究の経緯

 産総研は、多孔質材料による吸着材の開発を進め、天然の土壌中に存在するナノチューブ状のケイ酸塩であるイモゴライトに着目し、その水蒸気吸着性能について調べるとともに、大量合成法の検討を行ってきた(2008年10月8日プレス発表「安価な高性能無機系吸放湿材を開発」)。さらに、部分的にイモゴライトの構造をもつアルミニウムケイ酸塩の大量合成法の開発とともに、二酸化炭素など水とは異なり極性の弱い物質の吸着についての研究を進めてきた。

研究の内容

 今回開発した無機系二酸化炭素吸着材の合成は、まずケイ素源(例えばオルトケイ酸ナトリウム水溶液)とアルミニウム源(塩化アルミニウム水溶液など)を混合し中和する。その後1日加熱を行うこと(水熱合成)で、部分的にイモゴライト構造をもつ非晶質アルミニウムケイ酸からなる二酸化炭素吸着材が得られる。特殊な試薬は必要ではなく、一般的なゼオライトの合成にも用いられる安価なケイ素源とアルミニウム源から合成できる。また、1Lあたり数十g程度を合成でき、工業的な生産が可能なレベルに達している。そのため、合成コストも市販のゼオライトと同等レベルまで低コスト化が可能であると推測される。さらに、今回開発した吸着材は無機系であることから、300℃程度の耐熱性を有している。

 図1は大気圧をゼロ基準(大気圧101kPaを0kPaとして圧力軸をシフト表示し、大気圧からどれだけ加圧されたかを示す)としたときの二酸化炭素吸脱着等温線で、今回開発した吸着材の二酸化炭素吸脱着等温線(赤)と、現在PSA用吸着材として用いられているゼオライト13Xの吸脱着等温線(青)を示す。今回開発した無機系吸着材は、大気圧以上の圧力では、圧力を高めると二酸化炭素の吸着量が増加し、また吸脱着ヒステリシスがほとんどないことから繰り返し利用することが可能である。0kPa(大気圧)~約900kPa(10気圧)の圧力範囲での二酸化炭素吸着量は、ゼオライト13Xの2倍以上の吸着量であった。また、0kPa(大気圧)まで圧力を下げると、吸着した二酸化炭素はほとんどが放出される。ゼオライト13Xは真空から大気圧までの吸着量が多いが、脱着に際してはかなりの低真空まで圧力を下げる必要がある。それゆえ、PSA法による二酸化炭素の回収においては、低真空~大気圧程度までの領域で二酸化炭素の吸脱着を行うよりも、大気圧以上の領域において二酸化炭素の吸脱着を行う方がエネルギーとして効率的である。

 以上のように、安価で大量合成が可能な材料でありながら、大気圧以上の圧力で二酸化炭素を10wt%以上吸着でき、大気圧まで圧力を下げるだけでその大部分を放出できる、高性能なSi(ケイ素)-Al(アルミニウム)系二酸化炭素吸着材を開発した。

開発した吸着材とゼオライト13Xの二酸化炭素吸脱着等温線の図
図1 開発した吸着材とゼオライト13Xの二酸化炭素吸脱着等温線
(大気圧をゼロ基準とする)

今後の予定

 今回開発した高性能二酸化炭素吸着材のPSA材料としての適性を検討するとともに、吸脱着を行う圧力範囲、共存ガスの吸着選択性や性能への影響などについて研究を行う。また、今回開発した二酸化炭素吸着材は、大気圧以上の圧力範囲でも吸脱着が可能という特徴的な吸着性能をもつので、新規用途の開発を目指した研究も進めていく。


用語の説明

◆圧力スイング吸着法(Pressure Swing Adsorption:PSA)
圧力を高くすることにより気体を吸着材に吸着させ、圧力を低くすることで吸着材から気体を脱着させることにより、気体の分離・回収を行う方法である。[参照元へ戻る]
◆ゼオライト
ナノメートルオーダーの細孔が規則的に並んだ多孔性アルミノ珪酸塩総称を指す。天然でも産出されるが、さまざまな構造・性質をもつものが人工的に合成されている。Si(ケイ素)、 Al(アルミニウム)、 O(酸素)もしくはP(リン)から成り、分離材、吸着材、触媒(担体)など、広範囲に利用されている。[参照元へ戻る]
◆イモゴライト
外径約2.5nm(ナノメートル)、内径約1nm、長さ数十nm~数µm(マイクロメートル)のチューブ状アルミニウムケイ酸塩で、天然の火山灰土壌中に風化生成物として見られる粘土鉱物の一種。水との親和性や優れた吸着能力をもつ。産総研ではこれまでに、大量合成を目指した、合成方法の開発などを行ってきた。[参照元へ戻る]
◆アミン法
二酸化炭素の分離・回収技術のうち、化学吸収法の一手法で、アルカノールアミン水溶液と二酸化炭素との中和反応を利用する方法である。40~50℃で二酸化炭素と反応させ、110~130℃で脱離再生させる。低圧・低濃度の二酸化炭素でも高い除去率が得られる反面、再生に多大なエネルギーを必要とすることが課題となっている。[参照元へ戻る]
◆吸脱着ヒステリシス
吸着等温線で吸着の時の軌跡と脱着の時の軌跡が一致しない時に表現する用語で、吸着プロセスの分類に利用される。主な原因としては、メソポアサイズの領域での毛細管凝縮といわれている。吸脱着ヒステリシスは、吸着と脱着の差が大きいほどヒステリシスが大きいと表現されるが、逆に差が少ない物質は、可逆的な吸脱着をしていると表現されることが多い。[参照元へ戻る]

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