発表・掲載日:2008/07/03

「患者一人ひとりに合わせた医療」の実現に向けた分子臨床医学データベースを公開

-網羅的疾患分子病態データベース(iCOD; Integrated Clinical Omics Database)-

ポイント

  • 400以上のがんの患者症例について、詳細な臨床情報と網羅的な分子(オミックス)情報*1を蓄積し公開
  • 疾患の予後予測と早期診断などを可能にする、オミックス情報と臨床情報の関係を解析するツールを提供
  • 共同研究機関のデータベースと連携した多施設にわたる分子臨床医学データベースを実現
  • 早期診断や手術後の再発の予測など「患者一人ひとりにあった医療」(オミックス医療*2)の実現のための知識の集積を目指す


 東京医科歯科大学(所在地:東京、学長:大山喬史)の情報医科学センターの田中博教授を中心とするグループは、科学技術振興調整費の重要課題解決型研究「網羅的疾患分子病態データベースの構築」プロジェクトにおいて、国立がんセンター研究所、産業技術総合研究所、理化学研究所、日立ソフトと共同研究で構築した分子臨床医学データベースを、ウェブサイト(http://omics.tmd.ac.jp/)で平成20年7月3日(木)15:00より、公開を開始します。



背景

 ゲノム、プロテオームなど、近年まとめてオミックス情報と呼ばれている生命分子の網羅的情報の発展に関しては、最近目覚しいものがあります。すでに一部では医療への応用も始まっていますが、これらの分子的なオミックス情報と、これまでの医学に基いた臨床情報との関係は未だ明確でないものも多く、分子的なオミックス情報を疾患の診断・治療・予後に真に役立てる「新しい医学」の体系化は現在でも確立していません。

研究成果の概要

 本データベースは、東京医科歯科大学のオミックス解析により網羅的な遺伝子発現情報の得られたがん疾患の症例情報に加えて、国立がんセンター研究所らが公開している疾患ゲノムデータベースGeMDBJ*3のデータを併せて、合計400症例以上集積したものです。最も特徴的であるのが、東京医科歯科大学の症例については、生活習慣、病歴、臨床検査、画像診断、病理診断といった詳細な臨床情報を蓄積している点です。これらの詳細な臨床情報とオミックス情報を統計的手法によって解析し、臨床情報と分子情報の関連性から、がんの早期診断や手術後の再発の予測など「患者一人ひとりにあった医療」(オミックス医療*2)の実現のための様々な機能を東京医科歯科大学が中心となって日立ソフトとともにシステム構築を行いました。

 また、オミックス情報解明のスピードが著しい中、理化学研究所のOmicDownload*4PosMed*5や産業技術総合研究所のH-Invitationalデータベース*6との連携によって、常に最新の情報が得られ、オミックス情報によるデータマイニングを支援する仕組みも構築しております。

 医療実現のための知的研究基盤として、医師・研究者の方々が、ユーザ登録をすることで利用可能となっております。今後は、東京医科歯科大学情報医科学センターが中心となってこのデータベースをより多くの方々に利用して頂けるよう、維持・発展させていきます。

補足説明1 臨床オミックスデータベースの実際

網羅的疾患分子病態データベースのトップ画面の画像

網羅的疾患分子病態データベースのトップ画面


臨床情報の表示画面の画像

臨床情報の表示画面(病理組織画像)


臨床-オミックス分子病態の2次元3層表示画像

臨床-オミックス分子病態の2次元3層表示

補足説明2 オミックス医療とは

オミックス医療の概念図

オミックス医療の概念


オミックス情報がもたらすものの図

オミックス情報がもたらすもの



注釈

*1 網羅的分子(オミックス)情報
網羅的分子(オミックス)情報とは、細胞の中にある全遺伝情報、すなわちゲノム(Gen-ome)、細胞の中で発現している遺伝子についての全情報(トランスクリプトームと呼ばれるTranscript-ome)、細胞や体の中で生体機能を果たすために遺伝子から合成されたタンパク質の全情報(プロテオーム;Prote-ome)など、生体内に存在する分子に関わる情報の総称です。[参照元へ戻る]
*2 オミックス医療:Omics-based Medicine
オミックス医療とは、生得的なゲノムの個人による違いに基づいたこれまでの「テーラメイド医療」の枠組みを拡張して、最近発展の著しいDNAチップや質量分析器(田中耕一さんのノーベル賞受賞対象)によって測定可能となった様々なオミックス情報、すなわち疾患に罹患した細胞でどんな遺伝子が発現しているか、あるいはどのようなタンパク質が働いているかなどの情報を駆使して、がんなどの疾患の早期診断、手術後の再発の正確な予測など、「患者一人ひとりに合わせた医療」を実現することを目指すものです。[参照元へ戻る]
*3 疾患ゲノムデータベース:https://gemdbj.nibio.go.jp/dgdb/
疾患ゲノムデータベース(GeMDBJ; Genome Medicine Database of Japan)は、アルツハイマー病、がん、糖尿病、高血圧、喘息および薬理遺伝学(ファーマコジェネティクス)のためのミレニアム・ゲノム・プロジェクト(MGP)研究グループ(SGMGP)により構築された統合データベースです。[参照元へ戻る]
*4 OmicDownload::http://omicspace.riken.jp/gps/download/
選択した遺伝子群に関する情報をゲノムアノテーションの統合データベースOmicBrowse (http://omicspace.riken.jp/gps/) から一括ダウンロードするツール。iCODで選択した遺伝子について、ゲノム上でその周辺に存在するアノテーション情報をOmicBrowseデータベースから取得してダウンロードできます。[参照元へ戻る]
*5 PosMedhttp://omicspace.riken.jp/PosMed/
Positional Medlineの略。医学用語に限らず、あらゆる英語のキーワードによって「機能」と「遺伝子」のつながりを、既存の知識情報に基づき推論的に検索できる強力な検索ツール。PosMedに関する詳しい内容はこちら、http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2008/080319/index.html [参照元へ戻る]
*6 H-Invitationalデータベース(H-InvDB):http://www.h-invitational.jp/hinv/
ヒトの遺伝子と転写産物を対象とした統合データベースです。ヒトのすべての転写産物の配列をあらゆる手法で解析することにより、ヒト遺伝子の構造、選択的スプライシング変異体、機能性RNA、タンパク質としての機能、機能ドメイン、細胞内局在、代謝経路、立体構造、疾病との関連、遺伝子多型(SNP、マイクロサテライト等)、遺伝子発現プロファイル、分子進化学的特徴、タンパク質相互作用、遺伝子ファミリーなどの精査されたアノテーション(注釈付け)情報を提供しています。[参照元へ戻る]



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