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発表・掲載日:2008/01/23

赤外線を使ったアスベスト溶融無害化技術の開発

-現場での簡便な処理が可能に-

ポイント

  • アスベストの無害化処理技術として新しい溶融処理技術を開発
  • 赤外線を集光して、簡便にアスベストを溶融無害化
  • 飛散しやすい吹き付けアスベストを剥離せずに現場で無害化できる

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)エレクトロニクス研究部門【研究部門長 和田 敏美】量子凝縮物性グループ【研究グループ長 柳澤 孝】池田 伸一 主任研究員、梅山 規男 テクニカルスタッフは、赤外線の集光加熱によるアスベスト溶融無害化技術を開発した。壁・天井などに吹き付けられた飛散性のアスベスト含有材を、剥離(はくり)することなく、現場で溶融無害化処理ができる。

 回転だ円型の点集光型赤外線反射鏡を備えた加熱装置を用い、集光部を壁などの処理するアスベスト面に一致させ、わずか数秒で1500℃以上に昇温させることにより、飛散性アスベスト含有材を溶融する。

 現在は実験室内の小規模処理装置であるが、今後は大面積を処理できる装置の開発を行っていく。さらに解決すべき課題抽出のために現場での実験を進めていく。

 今回の成果は、1月25日に産総研つくばセンターで開催される「TXテクノロジー・ショーケース・イン・ツクバ2008」に出展する。

溶融前のアスベストの写真

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5秒溶融処理後のアスベストの写真
(左)溶融前のアスベスト(クリソタイル)と(右)5秒溶融処理後のアスベスト


開発の社会的背景

 近年、アスベストが原因の中皮腫などの健康障害が大きな社会問題となり、アスベストの安全な処理技術が求められている。特にアスベストの毒性の本質である、繊維状形態を確実に消失させるための低コスト・安全・簡便・高いエネルギー利用効率の溶融処理技術が期待されている。これまでアスベストを溶融させるには、鉄が溶融する温度に匹敵する1500℃以上の高温が必要であるため、大型でエネルギー利用効率も低い溶融処理炉を利用する方法しかなかった。また、誘導加熱あるいはマイクロ波加熱を利用した溶融処理の研究や、添加剤を使用することにより1500℃以下でアスベストの繊維状形態を溶融・破壊する研究も進められているが実用化には至っていない。

 アスベストを含有する工業材料はアスベストが飛散しやすいものと飛散しにくいものに分けられる。いわゆる飛散性アスベストは、耐火性・断熱性などを持たせるため、ロックウールバーミキュライトパーライトなど無害な材料とアスベストを混合して、建築物の壁や天井の表面に吹き付け材として用いられてきた。この飛散性アスベスト含有材は早急に無害化処理する必要があるが、含有比率が1%以上の飛散性アスベスト含有材は国内に約100万トンが存在するといわれる。2006年には、規制対象となる含有比率が0.1%以上に引き下げられたことにより、さらに多くの飛散性アスベスト含有材が存在しているとされ、早急な対策を必要としている。

 飛散性アスベスト含有材の処理は、アスベストを吸わないよう防じん着とマスクで完全装備した作業員が、飛散したアスベストを外部に漏らさぬようビニールシート等で目張りをした部屋内で、手作業などで剥離(はくり)し、その後厳重に二重梱包され特別管理産業廃棄物として「管理型」の産業廃棄物最終処分場に埋め立て処分される。特別管理産業廃棄物としての飛散性アスベスト含有材は、アスベストが完全に溶融するような高温処理による無害化を行えば、通常の産業廃棄物として、「安定型」の処分場あるいは、「管理型」の産業廃棄物最終処分場に埋め立てることができる。このように、飛散性アスベスト含有材の処理は非常に手間がかかり、極めて高いコストと危険な作業が伴うことから、大気汚染防止法に基づく届け出や飛散防止措置を行わず作業を行う違法なケースも報告されており、新たな社会問題となりつつある。

研究の経緯

 産総研エレクトロニクス研究部門では、高温での金属酸化物の結晶成長技術の開発を進めてきた。特に、ルビーをも溶かす2000℃以上の高温を実現する簡便な赤外線加熱装置を開発した(2004年2月17日プレス発表)。

 本研究は、この赤外線加熱技術がアスベスト処理という大きな問題の解決に役立つのではないかと考え、基盤となる技術開発を行ったものである。点集光型赤外線加熱による昇温技術は、対象物に焦点を絞って重点的にエネルギーを与えることができ、エネルギー利用効率がヒーター加熱などに比べて十倍から数十倍高い。

研究の内容

 本研究におけるアスベスト含有材料を用いた実験では、必要な安全衛生上の対策を取った上で行った。

 典型的なアスベスト材料である、クリソタイル、アモサイト、クロシドライトについて、赤外線加熱装置(100V-650Wのハロゲンランプ2個)を用いて、大気雰囲気中で溶融実験を行った。いずれの試料についても赤外線を吸収し、今回の装置の定格電圧100Vのうち約半分の50V程度の電圧をランプに印加した後、数秒で完全に溶融した(図1、2)。

溶融前のアスベストの写真

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溶融後のアスベストの写真
図1 溶融前のアスベスト(クリソタイル)   図2 溶融後のアスベスト(クリソタイル)

 溶融したクリソタイル、アモサイトおよびクロシドライトの試料中に、繊維状の形態について次の方法で分析した。赤外線加熱処理前と赤外線加熱処理後の試料について、日本工業規格(JIS A 1481:2006)「建材製品中のアスベスト含有率測定方法」に準拠して位相差顕微鏡観察(図3、4)および粉末X線回折を行った。位相差顕微鏡観察において採用した浸液の屈折率、分散色は、クリソタイル(1.550、白色)、クロシドライト(1.680と1.700、白色)、アモサイト(1.680と1.700、白色)である。結果、位相差顕微鏡観察および粉末X線回折いずれにおいても、溶融処理後において繊維状の形態が存在しないことが確かめられた。

溶融処理前のクリソタイルの位相差顕微鏡写真 矢印 溶融処理後のクリソタイルの位相差顕微鏡写真
図3 溶融処理前のクリソタイルの位相差顕微鏡写真   図4 溶融処理後のクリソタイルの位相差顕微鏡写真

 壁や天井のコンクリート上にアスベストが吹き付け施工されている場合、無害なロックウール、バーキュライトやパーライト等と混合し吹き付けられていることが多い。これら混合吹き付け材も飛散性アスベスト含有材である。本技術による処理が可能かどうか明らかにするために、次のような実験を行った。コンクリート板に(1)ロックウール、(2)バーミキュライト、(3)パーライトを吹き付けたモデル試料(それぞれ厚さ15mm、3mm、3mmで、アスベストは含まない)を用意し、吹き付け材表面に赤外線が集中するように、回転だ円面を持つ反射鏡とハロゲンランプからなる加熱装置(図5)を用意して、吹き付け材の溶融を試みた。

(1)ロックウールでは、電圧を上げていき、70V程度になった途端に、集光している部分が局所的に溶融、陥没した(図6)。昇圧開始後約30秒で、直径約15mm、深さ約15mmの部分が溶融処理できたことになる。

(2)バーミキュライトでは、70V程度で溶け始め、85V程度で溶融した液体が沸騰した。溶融領域は直径約10mm、深さ約3mmであった。

(3)パーライトは70V程度で溶け始め、75V程度で溶融した液体が沸騰した。溶融領域は直径約10mm、深さ約3mmであった。

吹き付け材溶融実験の模式図   コンクリート上のロックウールが溶融した後の断面写真
図5 吹き付け材溶融実験の模式図
赤外線加熱装置は、反射鏡とハロゲンランプで構成
  図6 コンクリート上のロックウールが溶融した後の断面写真

 万が一、コンクリート表面が露出し、直接赤外線が照射された場合を考え、コンクリート表面を溶融したところ、表面の深さ2mm程度、直径10mm程度の領域が45V程度の電圧で溶融、65V程度で沸騰した。最終的に70V程度まで電圧を上げても、沸騰の様子は変わらず、ひび割れ、破損などの変化は全くなかった。

 以上の結果から、実際の飛散性アスベスト含有材である吹き付け材に関して、本研究で開発した方法で表面だけを局所的に加熱、溶融処理ができることを明らかにした。アスベストの中で一番融点が高いクリソタイルの融点が約1500℃であり、例えばロックウールの融点が約1600℃であることから、アスベストが混ぜられた代表的な吹き付け材であるロックウールが完全に溶融すれば、それらより融点が低い含有されたアスベストも完全に溶融する。このことから、今回の技術を利用すれば、飛散性アスベスト含有材を壁などから剥離(はくり)することなく、壁についたまま溶融させることができる。さらに、今回の技術を利用し、より大面積の処理が可能な装置が開発できれば、作業コストの大幅削減、作業時の安全性向上など処理コストが大幅に削減できると考えられる。

今後の予定

 今後は、より迅速に大面積処理ができる装置の開発を行い、実際の処理現場での実験を進め、解決すべき課題を抽出していく予定である。既に装置制御に係わる研究を開始しているが、実際の利用に関して想定される課題について、多くの実績がある企業の意見も求めていきたいと考えている。



用語の説明

◆ アスベスト(石綿)
アスベスト(石綿)は、天然に産する繊維状結晶の鉱物で、種類としては、クリソタイル(白石綿)、クロシドライト(青石綿)、およびアモサイト(茶石綿)などがあり、耐酸性、耐アルカリ性、耐熱性、絶縁性や機械的強度に優れており、加工もしやすいため、古くから電気製品、自動車等の工業材料や、建物の屋根材や壁材等の建築材料として幅広く使用されてきた。
アスベスト(石綿)の約9割は建材製品に使用され、鉄骨造建築物などの軽量耐火被覆材として多く使用されてきたが、現在は使用が禁止されている。
アスベスト(石綿)の繊維状結晶は割れるときにどこまでも細く縦に割れ先鋭化し、また丈夫で分解しないため、吸い込んで肺の中に入ると組織に刺さり、15~40年という長い潜伏期間を経て、肺がん、悪性中皮腫(悪性の腫瘍)などの疾病を引き起こすおそれがある。目に見えないくらい細い繊維なので気づかないうちに吸い込んでしまう可能性がある。[参照元へ戻る]
◆ 飛散性アスベスト含有材
建築物などの壁や天井などに施工された、アスベストを混ぜ込んだ保温材や吹き付け耐火被膜のこと。飛散性があることから危険であり、緊急に無害化、減溶化に優れる溶融固化方式による処理が求められている。処理時の飛散防止が最も重要。現状の産業廃棄物の溶融設備では約10年で国内の約100万トンの飛散性アスベスト廃棄物(アスベスト含有量は1%以上)を処理できる見込みである。しかし、2006年にアスベスト含有量の規制による下限値が1%から0.1%に引き下げられたため、どれだけの飛散性アスベスト廃棄物が存在するのか現在のところ不明である。アスベストが混合された母材としては広くロックウール、バーミキュライト、パーライトが使用された。これらは毒性がない。[参照元へ戻る]
◆ 誘導加熱(高周波誘導加熱)
変動する磁場によって、金属のような電気を良く通す材料が電磁誘導によって発熱する原理を用いた加熱方法。変動する磁場はコイル状の電線に交流電流を流すことで発生できる。この原理を利用した加熱調理器(IH調理器)が最近実用化されている。[参照元へ戻る]
◆ マイクロ波加熱(高周波誘電加熱)
変動する電場によって、電気を流さない絶縁体が発熱する原理を用いた加熱方法。電子レンジの加熱原理としても知られている。[参照元へ戻る]
◆ ロックウール、バーミキュライト、パーライト
建築物の壁や天井に施工された代表的な吹き付け材。多くの場合、アスベストを混合し、耐熱性等を上げて使用された。例えばロックウールはケイ素とカルシウムの酸化物からなる人造繊維で、繊維の直径は数ミクロンとアスベストより2~3桁大きい。[参照元へ戻る]
◆ 特別管理産業廃棄物
産業廃棄物のうち、爆発性、毒性、感染性その他の人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有するもの。揮発油類、強酸、強アルカリ、廃石綿などがある。飛散性アスベスト含有材は廃石綿に分類される。産業廃棄物は、事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類などの廃棄物をいう。[参照元へ戻る]
◆ 産業廃棄物最終処分場
産業廃棄物によって3種類に分類される。環境への影響度に応じて「安定型」、「管理型」、「遮断型」に分けられ、埋め立てる。
最も管理の厳重な「遮断型」に埋め立てる特別管理産業廃棄物は、無害化、セメント固化、化学的に安定化、溶融しガラス状のスラグにする、などの処理をほどこせば「安定型」あるいは「管理型」処分場に埋め立てることもできる。埋め立て費用は安定型が最も安い。[参照元へ戻る]

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