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発表・掲載日:2006/09/07

酵母を利用して高機能バイオサーファクタントを開発

-天然セラミドと同等の保湿効果、従来品に比べコストを10分の1に-

ポイント

  • 酵母と植物油を使って、天然の保湿剤であるセラミドと同様の保湿効果を示す「バイオサーファクタント」と呼ばれる天然脂質を生産する技術を確立しました。
  • 本技術により、従来の天然セラミドに比べ、コストを10分の1以下に低減できます。
  • 天然セラミド同様、化粧品や皮膚外用剤等への利用が可能になります。
  • 本バイオサーファクタントは、液晶形成にも優れ、新しい高機能バイオ素材として応用できます。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)環境化学技術研究部門【部門長 島田 広道】バイオ・ケミカル材料研究グループ 北本 大 研究グループ長は、東洋紡績株式会社【代表取締役社長 坂元 龍三】(以下「東洋紡」という)と共同で、新しい高機能素材「バイオサーファクタント」の開発に成功しました。

 今回開発した素材は、皮膚の保湿剤として知られている天然セラミドと同様、優れた保湿効果を示し化粧品や皮膚外用剤等へ利用できます。本素材は、糖と脂肪酸が結合した構造であり、環境にも優しく、高機能洗浄剤や液晶形成といったナノテク(超微細技術)材料にも適しています。

 また、この素材は、ナノ(ナノは10億分の1)メートルサイズのカプセル(リポソーム)を形成する性質があり、化粧品素材の安定性や、皮膚への浸透性を高める効果も発揮できます。

 天然のセラミドは優れた保湿効果を示し、ヒアルロン酸と並ぶ重要なスキンケア素材ですが、動植物を原料としているためキログラム当たり数十万から数百万円と高価でした。そのため天然セラミドと同等以上の特性を示し、安全で安価な高機能素材が求められていましたが、これを酵母と植物油を使って実現できました【図1参照】。

酵母菌を利用したバイオサーファクタントの生産の図

図1 酵母菌を利用したバイオサーファクタントの生産


研究の背景

 近年のスキンケア志向の高まりに加えて、皮膚の構造、老化、肌荒れ、日焼け、シミのメカニズム解明などの科学的な進展に伴い、新しい素材や処置方法が紹介され、機能性スキンケア化粧品、皮膚外用剤の市場は拡大しています。

 特にスキンケアの基礎である保湿については、ヒアルロン酸などの水分蒸散「抑制」タイプの素材や、アミノ酸やセラミドなどの生体保湿成分「補充」タイプの素材が用いられています。天然セラミドは優れた保湿効果を示しますが、動植物を原料としているため分離精製が煩雑であり、高純度品では、キログラム当たり数十万から数百万円と非常に高価です。また、化学的な手法で天然セラミド、あるいは疑似セラミドが合成されているが、高度な反応技術が要求されるため、大きなコスト低下には繋がっていません。そのため、効果は低いが安価な化学合成品も代替的に利用されており、高機能と低コストを併せ持つセラミド代替素材が求められていました。

 また、化粧品素材としては、安全性や環境保全の観点から天然志向が高まっており、脱石油素材である植物由来の素材が求められています。

研究の経緯

 産総研は、環境にやさしい材料開発の一環として、バイオサーファクタントの研究に取り組み、酵母菌を用いた発酵プロセスにより、植物油から効率的に生産可能であることを発見していました。同時に、バイオサーファクタントの物性や機能の解析にも着手し、その特性を生かした応用研究を進めていました。

 一方、東洋紡は、これまで蓄積してきたバイオ技術を生かした高機能のバイオ素材事業を新事業として位置づけ、機能性素材の探索および用途開発を行っていました。東洋紡が、産総研のバイオサーファクタントの研究開発に着目し、共同研究をスタートする運びとなりました。

研究の内容

 バイオサーファクタントは、酵母菌や納豆菌といった微生物が作り出す天然脂質であり、その構造を反映して多様な機能を示します。多くは、界面活性剤としての機能(乳化・分散・湿潤作用など)を持ちますが、合成界面活性剤に比べ「極めて低濃度」で効果を発揮できることが特徴です。また、合成界面活性剤には見られない、ユニークな特性(色々な液晶形成、抗腫瘍活性など)を示す場合もあります。しかし、これまで量産が困難であり、用途開拓や、工業的な利用は限られていました。

 産総研では、まずバイオサーファクタントを量産可能な微生物を探索することから、研究に着手しました。その途上、ある種の酵母菌が、今回のバイオサーファクタントを比較的多く生産可能なことを発見しました。生産条件を検討し、オリーブ油などの植物素材からの量産法の基礎を固めました【図1参照】。東洋紡との共同研究により、本バイオサーファクタントの製造法の効率化を進めるとともに、機能性材料分野への本格的な用途開拓に取り組みました。

 用途開拓を進めるにあたって着目したのが、本バイオサーファクタントのユニークな構造(糖、糖アルコール、および脂肪酸を同時に含有する)であり、分子モデリング評価から、細胞間脂質である天然セラミドに類似した構造であることが推定されました。当初、皮膚に対する保湿作用を、精度良く効率的に評価できる手法が限られていたため、効果の確認が困難でした。しかし、東洋紡がその後、自社製造している培養細胞によるヒト三次元皮膚モデル(テストスキン)の活用が突破口となって、バイオサーファクタントの優れた保湿効果の検証が加速され、スキンケア成分として、化粧品や皮膚外用剤へ応用可能になりました【図2参照】。バイオサーファクタントの保湿作用のメカニズムとしては、1)構造がセラミドに類似しているため、角質層の細胞間に取り込まれやすい、2)液晶を形成し易いため、細胞間で皮膚の水分保持や状態維持に効果を発揮できる、ことなどが予想されました【図3参照】。

三次元皮膚モデルにおける保湿効果の図

図2 三次元皮膚モデルにおける保湿効果


肌荒れに対するバイオサーファクタントの効果の図

図3 肌荒れに対するバイオサーファクタントの効果

 さらに、本バイオサーファクタントは、ナノメートルサイズのカプセル(リポソーム)を容易に形成することから、化粧品成分と混合することで、これらの成分の安定化(カプセルによる保護効果)や、皮膚浸透性の向上(カプセルの示す皮膚親和効果)も期待できます。

 一方、製造面では、酵母の発酵プロセスを利用することで、高い純度でバイオサーファクタントが得られるため、植物からの天然セラミドを抽出する方法や、化学的に天然あるいは疑似セラミドを合成する従来の手法に比べ(キロ当たり数十から数百万)、コストを5分の1から10分の1以下まで抑えることができます。石油素材を使わず、バイオマス資源である植物油から発酵により一段階で製造でき、また化学合成に比べて低環境負荷なプロセスであることから、省資源・環境保全への効果も期待できます。

今後の予定

 スキンケア製品(化粧品や皮膚外用剤)へ利用できる機能性バイオ素材は、大きな関心を集めています。産総研では、微生物バイオ技術の活用により、新たな構造や特性を持つバイオサーファクタントの探索・開発を続けます。東洋紡は、自社で培ったバイオ技術を活用した機能性バイオ素材を、新事業の主軸と位置付けており、今秋から、業界各メーカーにサンプルの供給を開始し、市場開拓を進めながら2~3年後の事業化を目指します。また、製造のコストダウンも進め、優れた界面活性作用を生かした高機能洗浄剤などスキンケア製品以外の用途への展開も狙います。

 本件に関する成果の一部は、平成18年9月8日から東京理科大学野田キャンパス(千葉県野田市)で開催される第45回日本油化学会年会、および9月11日から大阪大学豊中キャンパス(大阪府豊中市)で開催される第58回日本生物工学会大会で報告される予定です。


用語の説明

◆バイオサーファクタント
微生物が生産する天然脂質。糖系、アミノ酸系、高分子系など各種の構造があります。特徴は、1)人や環境にマイルド、2)幅広い界面活性作用(乳化・分散・保湿)を持ち、化学合成品に比べて低濃度で効果を発揮する、3)自己組織化(自発的な分子の集合)や液晶形成に優れているため、ナノテク材料に好適なことです。環境適合性と機能性を兼ね備えた材料として、食品、化粧品、ライフサイエンス、環境・エネルギー分野での応用が研究されています。[参照元へ戻る]
◆天然セラミド
表皮(肌の表面)の一番外側にある角質層に存在する細胞間脂質の中で、約50%を占める保湿成分。皮膚のバリアー機能に大きく貢献する重要な物質で、細胞間脂質として特異な層状構造を形成し、水分の蒸散を防御します。細胞間の脂質量が減り角質層にすき間ができると、保湿力は低下し、外からの刺激を受けやすくなり、アレルギー物質が浸入しやすくなります。[参照元へ戻る]
◆液晶形成
液体と固体(結晶)の中間的な状態にある物質。全体が液体のような流動性を示しながら、なお結晶に似た構造上の規則性をもち、光学的に異方性を示します。電磁力・圧力・温度などに敏感に応答するので、広くディスプレーなどの表示装置などに応用されています。特に、界面活性を示す物質(界面活性剤やバイオサーファクタント)は、濃度や温度の違いによって、色々な構造を持つ液晶を作ることが知られています。[参照元へ戻る]
◆リポソーム
リン脂質を主成分とする人工の膜で、カプセル状(直径50ナノメートルから、数マイクロメートル)の構造を持ちます。内部に、色々な化合物を封入できるため、物質のキャリアー、保護カプセルとして食品、化粧・医薬品分野で利用されています。リポソーム内に薬品を内包し、体内に注入することで、薬効の持続、特定の器官だけの治療が可能となります。化粧品成分を内包させると、皮膚への浸透性や、皮下での滞留性が改善できます。[参照元へ戻る]
◆ヒアルロン酸
生体内(皮膚、関節など)にある多糖類の一種で、吸湿・保湿作用や弾力化作用を示します。体内では、加齢に伴い減少します。セラミドとともに、代表的な保湿素材です。動物由来(鶏)のものや、微生物由来のものが、化粧品や医薬品(目薬、関節炎治療)等に利用されています。[参照元へ戻る]
◆スキンケア素材
皮膚に対して、保湿や保護効果など、皮膚の機能を正常化する素材で、化粧品(乳液、クリーム、パウダー)や皮膚用医薬品等に利用されています。ヒアルロン酸やセラミド以外にも、界面活性剤、コラーゲン、アミノ酸、精油、ワセリン、グリセリンなど様々な素材があります。[参照元へ戻る]

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