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発表・掲載日:2006/09/04

低品位原料を用いて高強度窒化ケイ素を実現

- 低コスト化と環境負荷低減の両立に向けて -

ポイント

  • 低価格で低品位な原料を用い、環境負荷の少ないプロセスにより、耐熱、耐食性に優れた高強度窒化ケイ素の製造技術を開発
  • これにより、窒化ケイ素部品を低コストで製造することが可能となり、将来、アルミ鋳造部品などの大型部材への展開が期待できる。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)先進製造プロセス研究部門【部門長 三留 秀人】高温部材化プロセス研究グループ 研究グループ長、北英紀らは、株式会社クボタ【代表取締役社長 幡掛 大輔】(以下(株)クボタという)と共同で、低品位ケイ素原料を用いて高強度の窒化ケイ素を合成する技術を開発した。

 今回開発した窒化ケイ素は、低純度で粗大なケイ素粉末と触媒機能を有する焼結助剤の混合粉末を、水と短時間で混合し、成形、窒化焼結で作製できる特徴がある。実際に作られた窒化ケイ素サンプルは、短時間混合のため原料の粒径は粗いままにも関わらず、その状態で成形焼結しても、従来の微細な原料を使用した場合に匹敵する緻密な組織になり(図1参照)、また機械的特性も同レベルになることを確認した。今回開発した窒化ケイ素は、水を溶媒として作製できるため環境負荷が少なく、低品位の原料を使用できるため価格は従来の1/5~1/25程度になり、全体コストに占める原料コストの割合の大きい大型の部材への適用が期待される。

 本技術の詳細は9月19日~21日にかけて山梨大学で開催される日本セラミックス協会秋季シンポジウムで発表される。

原料粉末性状と焼結後の組織の画像
原料粉末性状(粗い、粒度分布広い) 焼結後の組織(緻密で微細) 
(図1)


開発の社会的背景

 世界的な規模で炭酸ガスの排出規制の動きがあり、燃費改善に有効な部品のアルミ化が進んでいる。エンジン等に適用されるアルミ部品は重力・低圧鋳造、ダイキャスト・プロセスにより製造されるが、製造プロセスの熱エネルギーロスの低減や鋳造部材の保守間隔の長期化を必要としている。特に、アルミ鋳造のプロセスでは、上記の課題を解決するために耐熱・耐食性に優れる窒化ケイ素セラミックスが保護管やラドル、ストーク、ヒータチューブ等の製造用部品として活用されつつある。しかし、特性が優れた窒化ケイ素セラミックスを作製するには、高価な原材料を使用する必要が有り、コスト高は大きな課題になっている。このため、低コストの材料を使っても優れた特性を示す窒化ケイ素セラミックスの実現が望まれていた。

研究の経緯

 産総研は(株)クボタと共同で、高価な窒化ケイ素粉末に比べて格段に安価(1/10~1/50程度、キログラム当たり数百円)な低品位なケイ素(Si)粉末を出発原料として、緻密で高強度の窒化ケイ素の開発を進めてきた。

 ケイ素と焼結助剤を使って成形体を作製し窒化後、緻密化させる手法は古くから知られていたが、高強度の窒化ケイ素を得るためにはケイ素粉末を混合過程で微細化する必要があった。また、ケイ素は粉末状態になると活性になるため、混合溶媒としてアルコール等の有機系溶媒を使用せざるを得なかった。その結果、原料が安くても、プロセスで発生するコストが高く、環境負荷を大きくするなどの問題があり普及するに至っていない。

 一方、ケイ素粉末が粗ければ不活性なので有機系溶媒も不要であるが、窒化が困難となり、長時間を要するためにプロセス全体でみると、結局、高コストとなってしまうといった課題があった。

研究の内容

 コストの低減を目指すため、価格の安い低位品なケイ素を主原料とすることを前提として、まず添加する焼結助剤や焼結温度の影響について検討を行った。その結果、図2にみられるように、原材料が平均粒径で45µm、中には100µmの粗大な粒子を含む粉末であり、また高度な精製はなされず純度が99%以下といった低品位なケイ素粉末であっても、ジルコニアスピネルを含む焼結助剤を添加した混合粉末では、容易に窒化が進む事を明らかにした。さらには図3のように、使用するジルコニアの種類によっても窒化速度が異なっていた。

 ケイ素の窒化触媒としては、これまで酸化鉄が有効とされているが、酸化鉄の場合、窒化ケイ素と親和性が低く、焼結後に欠陥となり、強度低下をまねきやすい。一方、ジルコニアはケイ素の窒化に伴う発熱を制御する機能があり溶融を抑え窒化促進に効果がある上、窒化ケイ素と親和性が高く、焼結助剤としての効果を有すると考えている。

 窒化のメカニズムについても解明を進め、その一例として1,750℃で焼結した試料の組織を図4に示す。また、機械的な強度に関しても、表1に示すように本材料では平均で700MPa以上の高強度を有する焼結体を得た。低品位なケイ素粉末を用い、粗大な粒子のまま使用しても、従来と遜色のないレベルの強度を得られることが判った。

ケイ素原料粉末性状と窒化ケイ素焼結体の組織の図
図2 ケイ素原料粉末性状 図4 窒化ケイ素焼結体の組織

イットリウム含有量の異なるジルコニア添加が、ケイ素の窒化に及ぼす影響の図
図3 イットリウム(Y)含有量の異なるジルコニア(ZrO2)添加が、ケイ素の窒化に及ぼす影響(窒素気流中1300℃で保持)

表1
原料価格、及び焼結体強度の比較例
原料価格、及び焼結体強度の比較例の表

今後の予定

 今回開発した材料を使って、アルミ鋳造用の部品を中心とする大型部品をターゲットとして部材化技術を確立し、実用化を図る。



用語の説明

◆低品位な原料
通常ファインセラミックスの原料は良く精製された、文字通り、ファインで高品位=(微細、例えば1µm以下、高純度、粒のそろった)な原料が使用される。これに対して低品位とは「粗く、粒がそろっておらず、しかも不純物の多い」といった意味で使用している。[参照元へ戻る]
◆焼結(焼結体、焼成)
焼結とは接触状態にある粒子を融点以下の温度に保持したときに、粒子系全体の表面エネルギーが減少する方向へ物質が移動する現象として定義され、この現象により粒子の接触部が結合して強固になり、緻密化が生じる。多くのセラミックスは、微細な粉末でなる成形体を、上記焼結現象を利用して固めており得られたものが「焼結体」、焼結体を得る工程が「焼成」となる。[参照元へ戻る]
◆焼結助剤
Si3N4やSiCセラミックスは焼結性が乏しいために、高温で保持しても十分に緻密化することは困難である。そのため高温域で液相を形成するアルミナ等の酸化物を微量を添加することによってし、焼結性をたかめることができる。こうした働きをするものを焼結助剤とよんでいる。[参照元へ戻る]
◆窒化
主に金属元素と窒素との反応により、両者の化合物を形成させることであるが、本稿ではケイ素と窒素を反応させ、窒化ケイ素を得ることを指している。[参照元へ戻る]
◆窒化ケイ素
構造用セラミックスの代表格であり、ケイ素と窒素の化合物。耐熱衝撃性、耐食性に優れ、高強度で破壊靱性も高い。[参照元へ戻る]
◆重力・低圧鋳造、ダイキャスト
アルミ部品の成形方法。最終製品のサイズや形状、精度に応じて使い分けられている。
低圧鋳造、重力鋳造:軽合金を主とした各種合金を型に鋳込むとき低い圧力で下向きの湯口から注入する方法が低圧鋳造であり、上方向から重力のみを使って注入する方法が重力鋳造である。
ダイキャスト:溶融金属に圧力を加えて金型内に注入氏鋳物を作る方法で、精密な鋳物が出来る。[参照元へ戻る]
◆保護管やラドル、ストーク、ヒータチューブ
アルミ部品の製造(鋳造)で使用される部品。保護管は温度計測の熱電対用の保護管、ラドルは溶湯をすくい搬送するための容器、ストークは溶解槽と型との間の通路、ヒータチューブは溶解のための加熱源であり、最近これらの部品のセラミックス化が進んでいる。[参照元へ戻る]
◆ジルコニア
ZrO2で表される酸化物。温度域により結晶変態が生じることが特徴であり、この変態に伴い大きな体積膨張を生じる。こうした変態を抑制するうえでY2O3(イットリア)などを数モル添加し、結晶構造内に固溶させることが有効であることが知られている。[参照元へ戻る]
◆スピネル
複合酸化物セラミックスの1種。MgO-SiO2-Al2O3からなる。[参照元へ戻る]
◆Pa(パスカル)
圧力・応力の単位。1平方メートルの面積につき1ニュートン(N)の力が作用する圧力または応力と定義されている。MPa(メガパスカル)は、百万Pa。700MPaの強度とは、材料に応力をかけていき、平方ミリメートルあたり約70kgfの荷重をかけて破壊することを意味する。[参照元へ戻る]


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