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発表・掲載日:2006/08/17

森林による二酸化炭素吸収量の連続測定技術をアジアへ普及

-人材養成のトレーニングコースを開催-

ポイント

  • 森林の二酸化炭素吸収量を連続計測する新しい技術のトレーニングコース(第一回)を2006年8月21日-30日、つくば市にて開催
  • アジア10カ国から、気象学・林学・生態学などの専門家およそ20名が来日
  • 地球温暖化防止に資するため、アジアにおける温室効果ガス吸収量観測ネットワークの構築をめざす

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)環境管理技術研究部門【部門長 原田 晃】は、アジアの森林が地球大気の二酸化炭素をどれだけ吸収しているかをモニタリングするため、アジア諸国並びに独立行政法人 森林総合研究所【理事長 大熊 幹章】(以下「森林総合研究所」という)、独立行政法人 農業環境技術研究所【理事長 佐藤 洋平】(以下「農環研」という)、独立行政法人 国立環境研究所【理事長 大塚 柳太郎】(以下「国立環境研究所」という)および国立大学法人 北海道大学【総長 中村 睦男】(以下「北大」という)と連携して、森林の二酸化炭素吸収量観測のネットワーク(アジアフラックスネットワーク)構築を進めている。

 このたび、産総研 環境管理技術研究部門 大気環境評価研究グループ【グループ長 近藤 裕昭】三枝 信子 主任研究員らは、独立行政法人科学技術振興機構(以下「 JST」 という))の進める「我が国の国際的リーダーシップの確保」の一環として、森林の二酸化炭素吸収量を観測する技術の教育と普及を行うため、アジアの観測担当者を対象とした第一回トレーニングコースを2006年8月21日-30日につくば市(産総研)で開催する。

 トレーニングコースの目的は、気象学の理論に基づいて森林の二酸化炭素吸収量を連続的に計測できる新しい技術(渦相関法)を普及することである。コースにはアジアの10の国と地域(インド、インドネシア共和国、タイ王国、大韓民国、中華人民共和国、バングラディシュ人民共和国、フィリピン共和国、ベトナム社会主義共和国、マレーシア、台湾)から、気象学・林学・植物生態学などの専門家およそ20名が参加し、10日間にわたり、(1)計測理論、(2)装置の設置やメンテナンスなどの総合的な計測技術、(3)二酸化炭素吸収量を算出するためのデータ処理技術などを短期集中的に学ぶ。

 今回実施するトレーニングコースは、アジアにおける森林の二酸化炭素吸収量の組織的な観測データの蓄積、データ品質の向上、アジアの研究者および政策担当者の連携強化に対して貢献することが期待される。
観測用のタワーの写真
計測装置の一部の写真
観測用のタワー(左)と計測装置の一部(右)


活動の社会的背景

 地球温暖化を引き起こす原因の一つと考えられている大気中の二酸化炭素濃度の増加は、今後どのような速さで進むのだろうか、また、人為的な二酸化炭素排出量をどの程度削減すれば、大気中の濃度増加を抑えることができるのだろうか。それらを予測するためには、地球上の陸地の約3分の1を占める森林の果す役割を正確に理解する必要がある。なぜなら、森林は光合成によって二酸化炭素を吸収すると同時に、植物の呼吸や土壌中の有機物分解によって二酸化炭素を放出するという活動を通して、大気との間で常に二酸化炭素の交換を行っており、その交換速度は、日射量や気温などの気象条件の影響を受けて複雑に変化するためである。また、森林が伐採や火災などの撹乱を受けると、短時間のうちに大量の二酸化炭素が放出されるなど、大気中の二酸化炭素濃度の変動に大きな影響を与えるためである。

 アジアには、亜寒帯から熱帯に至る広い緯度帯に、巨大な炭素蓄積をもつ北方カラマツ林、世界に類を見ないほどの種多様性をもつ熱帯多雨林など、世界的に見ても重要な生態系が各種存在する。そこで、地球温暖化問題に関連して、森林の光合成や呼吸といった生物活動の機能を長期的にモニタリングするために二酸化炭素の交換量の長期観測ネットワークを早急に拡充することが重要である。森林における二酸化炭素交換量の観測には、これまで主として行われてきた林学的方法(樹木の直径成長量を測定する方法)と、最近利用されるようになってきた微気象学的方法(空気中の二酸化炭素濃度の変動量を測定する方法,渦相関法)があるが、このうち特に渦相関法は、気象学の理論を身に付けた上で、少なくとも十種類以上の気象観測装置を使いこなす技術を必要とするため、アジアでこのような観測をすることのできる人材の育成は、最近までは日本や大韓民国の大学や一部の研究機関でしか行われて来なかった。

活動の経緯

 産総研は、アジアの森林が地球大気の二酸化炭素をどれだけ吸収しているかをモニタリングするため、JSTの進める「我が国の国際的リーダーシップの確保」の一環として、アジア諸国並びに森林総合研究所、農環研、国立環境研究所および北大などと連携して、森林の二酸化炭素吸収量の観測ネットワーク(アジアフラックスネットワーク)の構築を進めてきた。森林総合研究所と農環研は、特に森林生態系と農耕地生態系における観測ネットワークの拡充を推進し、国立環境研究所は、国際ワークショップの開催とデータベース構築に取り組んできた。産総研は、これまで渦相関法を観測困難な地域(複雑な地形にある森林や、海外の遠隔地など)に適用し、森林による二酸化炭素吸収量の算定方法の改良に取り組んできた経験を生かし、北大とともに観測技術の教育と普及に取り組んでいる。

活動の内容

 第一回トレーニングコースの目的は、気象学の基礎的な理論と、渦相関法による二酸化炭素吸収量測定の技術をアジアに普及することである。コースは3つのパートから成り、第1パートは基礎的な理論を身に付けるための講義である。ここでは日本、大韓民国、および欧米で第一線の研究を行っている気象学者数名が講師をつとめ、微気象学的観測を行う上で必要不可欠な基礎理論を短期集中的に学び、日本の大学院レベルの知識を身に付ける。第2パートは、室内および野外での観測実習である。ここではさまざまな気象観測装置を組み立て、野外で測定を行い、データを回収するまでの一連の作業を実際に体験する。同時に、このような観測に経験のある研究者から、野外観測を行う上でのさまざまな注意点、特に、電源を安定に確保する方法、落雷の被害を防ぐ方法、動物による被害を防ぐ方法、そのほか長期観測を実施するうえで経験するさまざまな困難に対応する方法を学ぶ。最後に第3パートは、取得した観測データを使って、実際に森林による二酸化炭素吸収量を精度よく算出するためのデータ解析実習である。渦相関法では、1秒間におよそ10回の高頻度で風速や二酸化炭素濃度を連続測定する必要があるため、野外で取得する観測データの量は膨大である。この膨大なデータから、異常値の除去や、各種補正といった何段階ものデータ処理のプロセスを経て、森林が吸収する二酸化炭素量の30分~1時間平均値を算出する。これらのデータ処理プロセスを一つ一つ学び、計算プログラムを自由に編集できる能力を身に付けるため、パソコンを使ったデータ処理実習を行う。

 今回実施するコースでは、アジアにおける二酸化炭素吸収量の観測ネットワークにこれから参加しようとするアジア諸国の担当者が最新の技術を修得すると同時に、地球環境問題の解決に向けて国境を超えた連携強化が不可欠であることを学ぶ。さらに、自分たちの国にある森林がもつ光合成や蒸散、呼吸といった生物活動の機能を長期的にモニタリングすることは、地球温暖化防止のみならず、森林による水源涵養機能のモニタリングや生物多様性の保全のためにも重要であることを学ぶ。

今後の予定

 トレーニングコースは、ひきつづき来年度も実施する予定である。こうした観測技術の教育・普及のための活動は、アジアにおける森林二酸化炭素吸収量の組織的な観測データの蓄積とデータ品質の向上を進めるとともに、アジアの研究者および政策担当者の連携強化に対して貢献することが期待される。


用語の説明

◆アジアフラックスネットワーク
アジアの陸域生態系(森林、草原、農耕地などを含む)と大気の間で交換される二酸化炭素量、水蒸気量、熱量などを微気象学的方法(標準的手法は渦相関法)により長期モニタリングすることを目的とし、技術情報やデータの交換、および研究交流の促進をめざして設立された観測ネットワーク。1999年に主に日本と大韓民国の研究者により活動を開始し、2002年に中華人民共和国が国内のネットワーク構築を開始した。2005年に日本で開催されたアジアフラックスワークショップ2005には、日本、大韓民国、中華人民共和国のほかに、インド、タイ王国、バングラディシュ人民共和国、フィリピン共和国、マレーシアなどのアジア諸国、および欧米やオーストラリアからも多数の参加者が集まり、各種の研究発表や情報交換を行った。[参照元へ戻る]
◆渦相関法
超音波風速温度計と赤外線ガス分析計を用いることにより、大気中の二酸化炭素フラックスを直接測定する方法。フラックスとは、単位時間・単位面積あたりの輸送量であり、地表面に垂直な風速の変動値と二酸化炭素密度の変動の積の時間平均値を取ると、垂直方向の二酸化炭素フラックスを評価することができる。地表面近くでは垂直方向の二酸化炭素フラックスはほぼ一定値となることが知られており、森林地帯でこの値を測定することにより二酸化炭素フラックスを森林の二酸化炭素吸収量と見なすことができる。[参照元へ戻る]



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