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発表・掲載日:2006/08/02

寒冷地用最適コジェネ・システムの開発

-スターリングエンジン採用で家庭用の発電・給湯バランスを自由自在に-

ポイント

  • 発電量と給湯量のバランスを自在に調整できるスターリングエンジン発電システムを採用
  • 寒冷地向けの使用バランスでは、従来のコジェネ・システムに比べ高効率
  • 環境負荷低減を目指したバイオマス燃料にも容易に対応可能

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)エネルギー技術研究部門【部門長 大和田野 芳郎】関谷 弘志 招聘研究員らは、ベンチャー開発戦略研究センター【センター長 吉川 弘之】の支援を受けて、多種多様な燃料を利用できる高効率な1kW級スターリングエンジン発電機を搭載した寒冷地向け家庭用発電・給湯システム(コジェネ・システム)を開発した。今後、同システムの事業化を目指している。

 開発した一般家庭用発電・給湯システムを図1に示す。本システムは、使用するバーナの出力によって発電量と給湯量のバランスを自在に調整できるメリットがある。灯油および都市ガスに対応し、開発目標性能は、発電出力800W(システム補機動力は200W弱)、温水出力10kW、補機動力を含む総合効率80%であり、寒冷地の家庭用に適した出力バランスのシステム構成となっている。また、本システム構築のために開発したスターリングエンジン発電機は、2ピストン型機関構成、機械式駆動機構を採用し、発電機を内蔵したエンジン発電機である。作動ガスにはヘリウム(He)ガスを用いている。発電出力は 841W、エンジンへの熱入力を基準とした発電効率は 30%(電気ヒータ加熱による単体試験結果)であり、機械式駆動機構を採用したスターリングエンジン発電機としてはこれまでにない高い発電効率を達成した。発電出力は目標値を下回っているが、Heガスの高圧化により1kWまで容易に向上できる。寒冷地(特に北海道)向け灯油焚きシステムのシミュレーションでは、年間42,000円程度の光熱費削減、11%のCO2削減が可能であった。

 バイオマス燃料の使用や、燃料電池と複合したシステムへの応用等も期待され、本スターリングエンジン発電機により、環境負荷低減、燃料コスト削減に貢献できるものと考えている。

 なお、開発中のスターリングエンジン発電機を搭載した灯油焚き発電・給湯システムは「環境広場札幌2006」(札幌市主催、8/4~6開催)にて展示予定であり、詳細は日本機械学会第10回スターリングサイクルシンポジウム(10/21~22、神奈川大学)にて発表予定である。

スターリングエンジン発電・給湯システムの写真
図1 スターリングエンジン発電・給湯システム


開発の社会的背景

 近年、地球環境問題やエネルギー問題から、産業用や業務用電力のみならず家庭用電力においてもクリーンエネルギー化かつ省エネルギー化が要求されている。そのため燃料電池や太陽光発電も考えられているが、太陽熱やバイオマス、排熱等のあらゆる熱源を利用できるスターリングエンジンも候補の一つと考えられている。いずれの機器でも、事業化までの諸問題や使用上の制約があるが、スターリングエンジンもこれまでに本格的な事業化の例はなかった。しかしながら、最近の技術開発によって高性能化、実用化レベルの低コスト化や長寿命化が可能となってきている。スターリングエンジンの最大の特長は、外燃機関であることから燃料を選ばず容易に利用できることであり、環境負荷低減や省エネルギー化を目的とする多種多様な応用展開が期待される。また、発電量と給湯量のバランスを変えることが容易で寒冷地での使用に対応しやすいことも特徴である。ヨーロッパでは、来年度にスターリングエンジン発電機を搭載した家庭用コジェネ・システムの商品化が報じられており、わが国でも国産スターリングエンジンによるコジェネ・システムの商品化が望まれている。

研究の経緯

 産総研では、1975年度からスターリングエンジンの基礎研究を開始し、1977~1981年度には、国家プロジェクト「ムーンライト計画」の先導的・基礎的省エネルギー技術研究開発の一環として研究開発を行い、独自の研究用エンジンMELSE I、MELSE II(1979年~1980年)を開発した。1982年度からは、同プロジェクトの大型省エネルギー技術研究開発「汎用スターリングエンジンの研究開発」に参画し、研究用エンジンMELSE III、IIIs(1983年)を開発した。この後、先進的な研究開発を進め、将来の水素社会に向けた水素内燃スターリングエンジンや、高効率なSOFC(固体酸化物燃料電池)とスターリングエンジンとの複合システム等の基礎研究を行ってきた。

 本開発は、平成14年度に採択された文部科学省科学技術振興調整費「戦略的研究拠点育成」事業である産総研ベンチャー開発戦略研究センターのスタートアップ開発戦略タスクフォースの案件として採択され、同センターの支援を受けて実施したものである。

研究の内容

 本開発は一般家庭用をターゲットとした発電・給湯システムを構築することであり、その成否はスターリングエンジン発電機の開発に因るところが大きい。スターリングエンジン発電機の目標性能は、都市ガス仕様で発電出力1kW、発電効率32%(有効熱入力ベース、LHV基準)であり、2ピストン型機関構成、機械式駆動機構を採用した。作動ガスにはヘリウム(He)ガスを用いている。高効率化のため、構成要素である3つの熱交換器(ヒータ、再生器、クーラ)を最適化するとともに、熱的な各種損失や駆動系の機械損失等を低減させた。エンジンのヒータ(加熱部)を電気ヒータで加熱して基本性能試験では、有効熱入力をベースとした発電性能は

  発電出力 841W (発電端出力)
  発電効率 30%  (=発電出力/有効熱入力(エンジンへの熱入力)、LHV基準)
   運転条件:Heガス平均圧力 3.5MPa、回転数 1,400rpm、
   高温室Heガス平均温度 600℃、冷却水入口温度 25℃

であり、機械式駆動機構を採用した1kW級スターリングエンジン発電機としては、これまでにない高い発電効率を達成した。本機の仕様を表1に示す。

表1 スターリングエンジン発電機仕様
スターリングエンジン発電機仕様の表

 エンジン回転数に依存した本機の基本性能は図2に示すようであり、回転数の上昇に従って発電出力は線形的に増大する。一方、発電効率は回転数への依存度が小さく、高い効率を維持しており、スターリングエンジンの特性を顕著に表している。発電出力は1kWを下回っているが、これはHeガス平均圧力の高圧化、あるいはエンジン回転の高速化によって容易に1kW以上に向上させることができる。

スターリングエンジン発電機の基本性能図
図2 スターリングエンジン発電機の基本性能

 実用化に際しては、灯油燃焼器あるいは都市ガス燃焼器でヒータを加熱するが、これらの燃焼器を用いた試験では、空気予熱器を用いない場合でもボイラ効率70%(LHV基準)が得られた。空気予熱が可能な都市ガス(ボイラ効率80%以上)では実用上の発電効率は24%以上となり、空気予熱を用いない灯油でも発電効率は21%程度である。また、排気ガス中のCOやNOxに関しても既存のボイラよりも低い値を示した。なお灯油燃焼器による評価試験は産総研北海道センター、都市ガス燃焼器については産総研つくばセンターにおいて実施した。

 今回発表する一般家庭用発電・給湯システム(図1)は、スターリングエンジン発電機、温水熱交換器一体型の灯油燃焼器、エンジンを冷却するための水空冷式ラジエータ、コントローラからなる。発電出力800W(システム補機動力は200W弱)の灯油および都市ガスに対応したシステム構成である。温水出力は開発ベース機として暖房に対応した10kWとした。本システムは昼夜連続運転を想定しており、耐久寿命は50,000時間を目標としている。また、年1回程度Heガス漏れや冷却水の漏れ等を点検する簡単なサービスメンテナンスのみで対応できる。

 本開発では、燃料代が安価な灯油暖房機器に依存している寒冷地(特に北海道)向けの灯油焚き発電・給湯システムを実用化の第一ターゲットとしており、発電と温水供給を合計した総合エネルギー効率の目標値は80%である。北海道における一般家庭での電力消費パターンを考慮したシミュレーションの結果では、現行の従量電灯+灯油ボイラと比較して、灯油価格を1L当たり70円とした場合、本灯油焚きシステムは年間当たり42,000円程度の光熱費削減、同時に11%のCO2削減が可能となった。

 本スターリングエンジン発電機のさらなる応用については、最大の特長である燃料多様性から、最近各方面で注目されている木質バイオマス燃料やメタン発酵によるバイオガス等を燃料とするシステムが可能であり、環境負荷の低減、燃料コストの削減に貢献できる。また、最適な応用システムとしては、燃料電池との複合システムがあり、例えば発電出力5kWで発電効率55~60%を期待でき、将来の分散発電システムとして有望と考えている。

今後の予定

 本スターリングエンジン発電機ならびに灯油焚き発電・給湯システムの実用化、事業化に向け、エンジン発電機については、生産性を考慮した実用化設計、一般家庭での設置に耐えうる振動・騒音の低減と、さらなる性能改善を行う。システムについては、実用的な自動コントローラの開発、総合エネルギー効率80%を達成するための最適化等を行う。コスト低減および耐久寿命の実証についても、エンジン発電機やシステムの開発と並行して進める。

 2、3ヶ月後を目途としてベンチャーを起業し、事業化に関連するメーカーとの協業を進めていきたいと考えている。



用語の説明

◆スターリングエンジン
スターリングサイクル機関は、密閉式外燃機関であり、1816年にRobert Stirlingによって発明された。本機関は、作動流体(作動ガス)にヘリウムや水素などの非凝縮性ガスを用い、エンジンとして、また冷凍機(逆スターリングサイクル)としても開発が進められており、エンジン動作の場合には作動ガスの膨張圧縮によって外部出力を発生する熱機関となる。最も基本的なスターリングエンジンは、シリンダとピストンで囲まれた膨張室(高温室)および圧縮室(圧縮室)、加熱器(ヒータ)、再生器(再生熱交換器)、放熱器(クーラ)、各シリンダ内のピストンを往復動させるための駆動機構から構成されている。[参照元へ戻る]
スターリングエンジンの基本構造図
基本構造

 

◆外燃機関
スターリングエンジンのように、外部から加えられた熱(エネルギー)によって動作する機関のことである。これに対して、例えば自動車用のエンジンは内部でガソリン等の燃料を爆発燃焼させて動作するので内燃機関と呼ばれている。[参照元へ戻る]
◆スタートアップ開発戦略タスクフォース
有望な技術シーズをベンチャー創業に結びつける追加研究を行うためにベンチャー開発戦略研究センターで審査・採択され各研究ユニットとの合意の下に設置する研究組織。センターが招聘したスタートアップ・アドバイザーと協力してハイテク・スタートアップス(先端的な技術シーズを基に革新的な製品・サービスを提供し、高い成長性が期待される新規創業企業)創業に必要な追加的研究開発を実施する。
スタートアップ・アドバイザーはベンチャー開発戦略研究センターが招聘し、ハイテク・スタートアップスの基礎となる技術シーズの発掘からビジネスモデルや事業計画の構築。創業後の経営面のサポートまで一貫して行う経営人材(カンパニービルダー)。研究者と同等の立場で協力し将来経営者として独立するまでに複数のタスクフォースを立ち上げる。[参照元へ戻る]
◆LHV
Lower Heating Valueの略称であり、燃料の低位発熱量。燃料の持つ発熱量から燃焼によって生じる水蒸気の凝縮潜熱を差し引いた発熱量のこと。[参照元へ戻る]


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