発表・掲載日:2006/03/27

産総研開発の校正用熱電対が民間企業により実用化

-白金/パラジウム(Pt/Pd)熱電対作製法の技術移転-

ポイント

  • 産総研にて開発された校正用白金/パラジウム(Pt/Pd)熱電対が、作製方法の技術移転先である株式会社チノーにおいて製品化。
  • 高温で使用した際のドリフトおよび不均質の発生が極めて小さく、特に960℃から1100℃での温度計校正の精度が向上。
  • 民間企業へ技術移転したことで量産が可能となり、産業界における温度測定の精度向上を期待。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)計測標準研究部門【部門長 田中 充】温度湿度科 高温標準研究室 新井 優 室長(現 総括企画主幹)、小倉 秀樹 研究員らは、0℃から1100℃までの温度域においてドリフトおよび不均質の発生が小さな接触式温度計である白金/パラジウム熱電対(Pt/Pd熱電対)を開発した。

 産総研が開発した校正用Pt/Pd熱電対は高純度な白金(Pt)線とパラジウム(Pd)線により構成されており、適切な作製法、熱処理法等を用いると、銅の凝固点(銅点:1084.62 ℃)での熱起電力の変化が150時間で0.03℃以内と従来の熱電対と比較して格段の安定性を示す。これより精密な校正が困難であった960℃から1100℃までの温度範囲での温度計校正の精度が向上する。

 本熱電対は産総研から株式会社 チノー【代表取締役社長 小山 弌万】へ技術移転され、2006年4月より販売される予定である(図1)。これにより、これまで産総研より研究開発品として数量及び用途を限定して頒布していたものと同等の性能を有する熱電対の入手が可能となる。今後は校正用熱電対としてだけでなく、1100℃までの精密温度計測用熱電対としての使用も期待される。

白金/パラジウム熱電対の写真
図1


開発の社会的背景

 熱電対は2種類の金属線または合金線(熱電対素線)の先端同士を接合して測温接点を作るという極めて簡単な構造をしており、発生した出力信号である熱起電力を電圧計で測定することにより温度を知ることができるため、製鉄、ガラス、窯業、半導体などの産業界において温度センサとして最も多く使用されている。これらの熱電対の温度計測結果の信頼性を確保するためには、個々の熱電対の熱起電力と温度との関係を事前に求めておくことが必要不可欠である。こうした熱電対校正に対する産業界からの要求に応えるため、産総研では2002年から1990年国際温度目盛で定義された温度定点である銀の凝固点(銀点:961.78 ℃)および銅の凝固点(銅点:1084.62 ℃)において熱電対による温度標準の供給を開始している。

 温度標準の供給のような正確な測定を熱電対により高温域で行う場合、いかに高温域で熱起電力のドリフトや不均質の発生が少ない熱電対を使用することができるかが測定の精度を決める鍵になる。しかし、高温域でドリフトや不均質が小さい熱電対の作製は簡単ではないため、これが高精度な校正を妨げる原因となっていた。

研究の経緯

 JISに標準用として規定されており、産業界において高温域で一般的に使用されている熱電対は、R熱電対に代表される、白金(Pt)およびロジウム(Rh)を成分とする合金系熱電対である。しかし、これらの熱電対は特に1000℃以上の高温域で使用すると、白金ロジウム合金線に不均質が発生し、出力信号である熱起電力が時間とともに単調に変化するため、高精度な校正を行う際は大きな問題となっていた。これらを克服するため、産総研では、純粋なPt線とPd線より構成されるPt/Pd熱電対の実用化のための研究を進めてきた。その結果、作製法、熱処理法等を工夫することにより、0℃から1100℃までの温度範囲で、世界トップクラスの安定性を示す熱電対を開発した。その成果として、本熱電対は産総研より研究成果品として有料で頒布されていたが、大量生産が困難で数に限りがあったため、販売先は産総研に校正を依頼する校正事業者のみに限定されていた。こうした事業者以外のユーザの購入を可能にするため、本熱電対作製法の民間企業への技術移転を進めてきた。

研究の内容

 図2は、熱電対を用いて高精度な温度測定を行う際の模式図である。熱電対を用いた温度測定では、+脚と-脚の熱電対素線の片端を互いに接続し、それぞれの素線の開放端に、電圧計に繋げるためのリード線(一般的には銅線)を接続してこの接続部を基準接点とする。基準接点は既知の温度(多くの場合0℃)に保ち、+脚と-脚の熱電対素線の接続部は測温接点として測定対象の温度にする。これにより測温接点の温度に対応した熱起電力が観測されるので、予め熱起電力と温度の関係を調べておけば、測温接点の温度を知ることができる。

 図3は、適切な熱処理を行ったPt/Pd熱電対の銅点でのドリフトの測定結果であり、比較のため、JISに従って作製したR熱電対のドリフトも示してある。R熱電対のドリフトは、約150時間で約0.1℃の変化をしており、このまま単調に減少し続けていくと予想されるのに対して、適切な熱処理を行ったPt/Pd熱電対では、0.03℃以内でほぼ一定の値を示すことがわかった。 不均質についてもドリフト同様、R熱電対では単調に変化していくのに対し、適切な熱処理を行ったPt/Pd熱電対では約150時間にて0.04℃以内でほぼ一定の値を示すことがわかった。

熱電対を用いて高精度な温度測定を行う際の模式図

図2
 
適切な熱処理を行ったPt/Pd熱電対の銅点でのドリフトの測定結果図

図3
 

 銅点以下の温度定点である銀点、アルミニウムの凝固点(アルミニウム点:660.323℃)、亜鉛の凝固点(亜鉛点:419.527℃)においても、銅点と同様な方法でドリフトおよび不均質の測定を行った。その結果、銀点では銅点とドリフトおよび不均質の傾向は似ているのに対して、アルミニウム点、亜鉛点ではドリフトおよび不均質の発生は小さく、特に、亜鉛点に関してはほとんど変化が見られなかった。これより、Pt/Pd熱電対では420℃以下の曝露では不均質が生じないといえる。さらに、ドリフトおよび不均質は作製時の熱処理温度に大きく依存し、作製時に適切な熱処理温度を選択することによって、ドリフトおよび不均質をどちらも非常に小さくできることが明らかになった。

 また、Pt/Pd熱電対はPt線とPd線で構成されており、素線のロットを変えるとドリフトの傾向が異なることが報告されているが、異なるロットの素線を用いてPt/Pd熱電対を作製し、銀点にてドリフトおよび不均質の測定を行った結果、熱処理の効果は素線のロットが異なっても有効であることがわかった。以上の結果は、適切な素線および作製法、熱処理法を選択することによって、Pt/Pd熱電対のドリフトと不均質を非常に小さくできることを意味する。こうした特性を持つPt/Pd熱電対は温度の標準供給といった正確な測定に適した熱電対であると言うことができ、このような熱電対を使用することにより、特にこれまで精密な校正が困難であった960℃から1100℃までの温度範囲での温度計校正の精度の向上が期待される。

今後の予定

 開発されたPt/Pd熱電対は作製方法の技術移転を行った株式会社 チノーより2006年4月に販売される予定である。これにより、産総研への校正依頼の有無に関わらず、研究開発品として頒布していた熱電対と同等の性能を有する熱電対の入手が可能になる。その結果、銀点、銅点等の校正用熱電対としてだけでなく、1100℃までの精密温度計測用熱電対としての使用が期待される等、産業界における温度測定の精度向上が期待される。



用語の解説

◆ドリフト
熱起電力の時間的な変化。高温に曝露された場合に起こる。[参照元へ戻る]
◆不均質
熱電能(温度差により発生する熱起電力の1 ℃あたりの大きさ)が素線の場所によって異なること。熱電対の熱起電力は温度勾配部分で発生するため、不均質が大きいと温度分布の違いにより熱起電力の値が変化する。[参照元へ戻る]
◆白金/パラジウム(Pt/Pd)熱電対
+脚に白金(Pt)線、-脚にパラジウム(Pd)線を使用した熱電対。[参照元へ戻る]
◆校正
計器又は測定システムによって指示される量の値、もしくは、実量器又は標準物質によって表される値と、標準によって実現される対応する値との間の関係を、特定の条件下で確定する一連の作業。[参照元へ戻る]
◆熱起電力
2種の異なる金属または半導体の両端を接合し、両接点を異なる温度に保つとき、回路を開いて回路に流れる電流(熱電流)を0とする際に生じる起電力をいう。[参照元へ戻る]
◆温度定点
温度目盛の基準として用いられる温度。物質の相転移などが利用される。[参照元へ戻る]
◆R熱電対
+脚にロジウム13%を含む白金ロジウム合金線、-脚に白金線を使用した熱電対。JISに標準用として規定されており、産業界において高温域で一般的に使用されている。[参照元へ戻る]


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