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発表・掲載日:2006/02/02

関東平野地下深部に特定された中央構造線

-岩槻の地下3500mボーリング試料の地質学的解析から-


概要

 学校法人 早稲田大学【総長 白井 克彦】 教育・総合科学学術院の 高木 秀雄 教授,独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】地質情報研究部門【部門長 富樫 茂子】の 高橋 雅紀 主任研究員、ならびに独立行政法人 防災科学技術研究所【理事長 片山 恒雄】の 笠原 敬司 防災研究情報センター長は、埼玉県岩槻市の地下3500mから採取したボーリング試料について最新の手法で解析を行った結果、この岩石が、日本で最も大きい断層であり、一部が活断層である中央構造線のごく近傍(およそ500m以内)で変形した特殊な岩石(マイロナイト)であることが明らかとなり、関東平野の地下深部の中央構造線の位置を特定することができた。

 なお、本研究は文部科学省の大都市大震災軽減化特別プロジェクトの一部として、最新の地質学的観点から既存のボーリング試料を見直すことを目的に行ったものである。

この研究成果は、1月15日発行の日本地質学会「地質学雑誌」112巻1号に掲載された。
論文題目:関東平野岩槻観測井の基盤岩類の帰属と中央構造線の位置
著者: 高木秀雄・鈴木宏芳・高橋雅紀・濱本拓史・林 広樹


研究の背景

 中央構造線は西日本を縦断する長さ1000kmに達する断層で、西は九州から東は関東山地まで追跡される。中央構造線を境に形成環境が全く異なる古い基盤岩(花崗岩や変成岩)が接しているので「構造線」と呼ばれるが、長い地質時代を通じて何度も活動してきた日本で最も大きい断層である。このような大断層は基盤の弱線として存在しているため、地殻に力が加わると断層が再活動しやすい。実際、日本列島の活断層の多くは、すでに存在していた基盤の弱線(既存の断層)が再活動したものであると考えられており、中央構造線もとくに近畿から四国地方で右横ずれの活断層として動いている(図1)。

西南日本の活断層と中央構造線地図
図1 西南日本の活断層と中央構造線(日本の活断層図、1992に加筆)。九州から関東まで続く中央構造線の一部は活断層として動いている。

 日本の主要な大都市は平野部に集中し、とくに首都圏が位置する関東平野は日本で最も広い平野である。これらの平野は厚い堆積層からなる平坦面であるが、地下深部に埋もれている基盤の断層は堆積層により覆い隠されている(図2)。基盤に発達する断層のうち、とくに地質時代を通じて何度も活動してきた大断層は今日の圧縮応力場のもとで再活動する可能性が危惧される。したがって、堆積層に覆い隠されている地下深部の大断層の位置を特定することは、平野域の地震防災に対して重要な課題のひとつといえる。

関東平野の地下の基盤岩深度の図
図2 関東平野の地下の基盤岩深度(鈴木,2002より作成)。とくに,関東平野の西部から南部では基盤が非常に深いため、基盤まで到達したボーリングは非常に限られている。

研究の経緯

 今回検討を行った岩石試料は、首都圏の地震防災を目的として1971年に国立防災科学技術センター(現防災科学技術研究所)により行われた岩槻深層地殻活動観測井のボーリングの際に採取された基盤岩である。ボーリング地点は埼玉県岩槻市南東部の末田付近の元荒川の右岸側(図3)で、関東平野で行われたボーリングでは最も深く、深度3510mまで掘削された。地表から深度2864mまでが堆積層であり、その下により古い火成岩と基盤岩が確認されている。なお、岩槻の基盤岩については、中央構造線の南側に分布する三波川帯に属するものとこれまで考えられていた。

関東山地の基盤岩の分布と岩槻のボーリング地点位置図
図3 関東山地の基盤岩の分布と岩槻のボーリング地点位置図。関東山地には基盤岩が広く露出しており、岩石の種類によって北側から三波川(さんばがわ)帯、秩父帯および四万十(しまんと)帯に分けられている。三波川帯の北側には中央構造線を挟んで領家(りょうけ)帯(花崗岩類)が分布するが、関東山地では下仁田(しもにた)地域と比企(ひき)丘陵に領家帯の花崗岩類がわずかに露出している。

研究の内容

(1)なぜ領家帯の岩石なのか?

a. コアの岩石中に含まれる角閃石(かくせんせき)という鉱物を用いて放射年代を測定した結果、この岩石がおよそ8000万年に形成されたことが判明した(表1)。この年代値は白亜紀後期を示し、西日本に広く分布する領家帯や三波川帯の年代に一致する。

 表1 岩槻コアの放射年代測定結果(単位は100万年)。
岩槻 基盤岩年代
 
K-Ar
Sample
岩盤名
年代測定鉱物
K
(%)
40Ar rad
(scc/gm×10-5)
Atm. 40Ar
(%)
放射年代
(単位:100万年)

3506.60
マイロナイト
角閃石
0.48
0.145
0.150
58.1
59.1
77.4 ± 3.9
3510.11
角閃石
角閃石
0.23
0.077
0.075
53.6
45.8
83.1 ± 4.2
壊変定数:λe = 0.581 × 10-10 year, λβ = 4.962 × 10-10 year, 40K/K = 1.167 × 10-4

b. 岩槻のコアには角閃岩(かくせんがん)と呼ばれる岩石とざくろ石を含むマイロナイトがあり、従来の報告で三波川帯の岩石と見なされていた。これらの岩石中に含まれるざくろ石や角閃石,斜長石(しゃちょうせき)といった鉱物の化学組成を分析した結果、それらは領家帯に特徴的な岩石の化学組成に一致し、一方、三波川帯の変成岩のものとは明確に異なることが判明した。

岩槻コア中のざくろ石と角閃石の化学組成の図
図4 岩槻コア中のざくろ石(a, b)と角閃石(c)の化学組成。

(2)マイロナイトと認定した根拠は

 マイロナイトとは、地下10km以上(温度条件が約300℃以上)の深部の断層運動により剪断(ずれ)変形を受けた変成岩の一種である。変形前の岩石は花崗岩や変成岩など種類は問わないが、岩槻のコアでは花崗岩類と角閃岩と呼ばれる岩石由来のマイロナイトが確認された(図5)。マイロナイトは、変形に伴って細かくなりながら水飴のように流動する石英が、より変形しにくい長石(ちょうせき)や角閃石などの鉱物を取り囲む特徴的な構造を示す(図6)。

典型的なマイロナイトとマイロナイトの研磨片写真
岩槻観測井基底部のマイロナイトの顕微鏡写真
図5 中央構造線沿いの典型的なマイロナイト(左: 長野県大鹿村)と岩槻の地下3500mのマイロナイト(右)の研磨片写真。
図6 岩槻観測井基底部のマイロナイトの顕微鏡写真。変形しにくい斜長石の周りを細粒の石英などが流動しつつ取り囲んでいる。薄片写真のスケールは1mm。

(3)なぜ,コアの位置より500m以内なのか?

 中部地方や紀伊半島では、中央構造線の北側1km以内の領家帯の花崗岩や変成岩がマイロナイトとなっている。マイロナイトの石英粒子の大きさ(粒径)は中央構造線に近づくにつれより細粒化(30µm程度)する(図7)。岩槻コアのマイロナイト中の石英の平均的な粒径は50µm以下である。石英粒径が50µm以下になる範囲は、中部地方でも紀伊半島でも中央構造線(断層面)からの水平距離が500m以内に限られていることから、岩槻の地下3500mの南側500m以内に中央構造線が存在すると判断される。
中央構造線からの距離とマイロナイト中の石英の平均粒径の関係図
図7 中央構造線からの距離とマイロナイト中の石英の平均粒径の関係。中央構造線に近づくにつれ、石英の粒径が小さくなる。岩槻コアのマイロナイト中の石英平均粒径は50µm以下であることから、岩槻の地下3500mの500m以内に中央構造線が存在する。

地震防災上の意義

 関東平野下の中央構造線は岩槻ボーリング地点の地下3500mの南側500m以内に伏在していることが明らかとなったが、中央構造線の断層面は北に傾いていると推定されることから、中央構造線の地表への延長はボーリング地点より数km南に位置すると考えられる(図8)。地下深部の中央構造線が活動している証拠は認められず、また地表に延長された位置に活断層は確認されていない。したがって、今回確認された地下深部の中央構造線は現在は活動しておらず、基盤中の既存の弱線として存在していると考えられる。岩槻周辺には活断層である綾瀬川断層が確認されており、地下深部の中央構造線との関連について検討する必要があると思われる。

 また、岩槻の東方の柏や成田周辺においては、温泉ボーリング等により地下深部に三波川帯の変成岩が存在することが報告されており、中央構造線がそれらの北側につづくと推定される(図2)。したがって、岩槻から東方では中央構造線はより東西に近い方向になると予想される(図8)。今後は地震防災上の観点から、岩槻のみならずより広域に中央構造線とこれまでに知られている活断層との関係を調査する必要があろう。

関東地方北西部の中央構造線の図
図8 関東地方北西部の中央構造線(平野部は地表における推定位置)。

用語の解説

◆活断層(Active Fault)
1891年の濃尾地震の際に地表に顕著な断層が出現し、1920~1930年代の北丹後地震や北伊豆地震などの研究を通じて、新しい地質時代に活動した断層が地震とともに再活動するという事実に基づいて活断層という名称が提唱された。今日の日本では、第四紀(およそ200万年前以降)に繰り返し活動し、将来も活動する可能性があると推定される断層を活断層と呼んでいる。活断層は地形に変位を与えている場合が多く、空中写真の地形判読により認識される。さらに、現地の地質調査や実際の断層を掘り起こすトレンチ調査が行われており、最終活動時期の特定や再来周期の見積もりが試みられている。[参照元へ戻る]
◆中央構造線(Median Tectonic Line: MTL)
中央構造線は西日本を縦断する長さ1000kmに達する断層である(図9)。中央構造線の北側にはジュラ紀の地層が白亜紀後期(およそ1億年~7000万年前)に高温(500-700℃程度)で変成した領家(りょうけ)変成岩と、それを貫く多量の花崗岩から構成されている。一方、その南側には、白亜紀にプレートの沈み込みに伴って変成した高圧型の三波川(さんばがわ)変成岩が分布している(図8)。この構造線は、四国~近畿~中部の茅野の南まで連続し、糸魚川-静岡構造線で左にずらされて、さらに諏訪湖の北東から関東山地北東端の比企丘陵までのびていることが確認されている。[参照元へ戻る]
西日本の地質を二分する中央構造線と中央構造線の露頭の写真
図9 西日本の地質を二分する中央構造線(左)と中央構造線の露頭(右;長野県下伊那郡大鹿村北川)。
◆マイロナイト(Mylonite)
断層運動に伴って断層近傍の岩石は変形するが、地表と地下深部では温度および圧力が大きく異なるため、様々な断層岩(断層運動により変形した岩石)が形成される。これら断層運動により形成された断層岩のうち、マイロナイトは、温度が約300℃以上に達する地下約10km以上の深部での断層運動により剪断変形を受けた岩石で、一種の変成岩である(図10)。マイロナイトには細粒化した石英がより変形しにくい鉱物(長石など)を取り囲みつつ流動し、特徴的な縞模様を呈する場合がある(図5)。また、変形せずに残っている固い鉱物が石英の流動に伴い回転したり非対称な形になる場合が多く、それらの形態から断層のずれ(右ずれか左ずれか)を特定することができる。図6の顕微鏡写真の場合では、右ずれ(図の上側が右に移動するセンス)である。[参照元へ戻る]
変形岩の分類図
図10 地表から地下深部までの様々な温度・圧力条件下で断層運動により形成される変形岩の分類。

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