発表・掲載日:2004/12/02

産総研、タンパク質立体構造予測コンテストで世界最高レベルの成果を達成

-日本の研究機関として上位入賞は6年ぶりの快挙-


 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)生命情報科学研究センター【センター長 秋山 泰】の 富井 健太郎 研究員らは、今夏に3ヶ月にわたって開催されたタンパク質立体構造予測技術に関する国際コンテスト「CASP6Critical Assessment of Techniques for Protein Structure Prediction)」において、世界200チームを超える参加チーム中、最高レベルの成果を達成した。この成果により主催者からの招待を受け、12月4~8日にイタリアで開催される同コンテストの結果発表会の席上で招待講演を行う。日本の研究機関からの招待発表は、6年前のCASP3で国立遺伝学研究所のチーム以来。参加チームが増え、世界的に競争が激化している近年においての上位入賞は大きな快挙と言える。

 CASPは、2年に一度世界的に行われるタンパク質立体構造予測コンテストの名称で、今回が第6回目。実験的に立体構造が解明される寸前のタンパク質ばかりが数十問出題されるため、方法論の実力と安定度が問われる、まさに“実戦”のコンテストである点が特徴とされている。参加者の多くは計算機生物学や生物物理学分野に携わる研究者で、コンテスト開催期間中は、主催者が公開しているホームページ上で次々と出題が発表される。参加者はそれに対して指定された締め切りまでに解答(予測した構造)を所定の形式で、インターネットを経由して提出する。今回のCASPは、6月7日に最初の一問が発表されたのを皮切りに、9月2日の最終問題の解答締め切りまで87問(タンパク質数)が出題されたが、その後、問題の取り消しなどで最終的には、64問が評価の対象となった。

 今回、産総研のチームが上位入賞を果たしたのは“Template based modeling”(テンプレートに基づく予測)と呼ばれる部門。既知のタンパク質の立体構造との類似性を、配列相同性解析構造認識技術などを用いて感度良く発見することでモデル構築が競われる。産総研は独自に開発した構造認識法「FORTE」を軸に参加を行った。

 ヒトゲノム配列が決定され、新規の遺伝子が次々発見されているが、まだまだ機能が未知な遺伝子が多い。配列情報だけからは機能推定できない場合でも、もし立体構造がわかれば、機能を推定できる可能性が高まる。進化の過程で配列は変化してしまっても、構造だけは長く保たれる性質があるため、遠縁のタンパク質の機能から推定できるからである。また正確な構造がわかれば、そのタンパク質と相互作用する薬剤を設計する道も開ける。

 今回CASP6で評価された産総研のタンパク質立体構造予測技術は、今後、ゲノム解析で急増する遺伝子の機能や構造を推定する手がかりとして応用が期待される




用語の説明

◆タンパク質立体構造予測技術
タンパク質の立体構造をそのタンパク質を構成しているアミノ酸配列の情報だけから計算科学的手法で予測する技術。[参照元へ戻る]
◆CASP6
Critical Assessment of Techniques for Protein Structure Predictionの略で、タンパク質立体構造予測技術の評価のために世界的規模で行われるコンテスト。2年に一度開催される。主催者は、タンパク質立体構造解析研究者から提供される問題を取りまとめ、参加者へ出題する。参加者の投稿した予測構造は、主催者が選んだ査定担当の専門家により評価され、優秀者には会議での招待講演や専門論文誌の特集号への論文掲載の権利が与えられる。[参照元へ戻る]
◆配列相同性解析
共通の祖先を持つ遺伝子間の相同性を比較する技術。比較する情報には、アミノ酸配列やDNA配列が用いられる。代表的な応用例として進化系統樹作成や配列検索などがあげられる。[参照元へ戻る]
◆構造認識技術
タンパク質立体構造予測法の一つで、既に立体構造が解明されているタンパク質立体構造データを参照しながら予測する手法。予測したいタンパク質のアミノ酸配列が、どの構造既知のタンパク質と適合するかは、配列相同性、物理化学的特性、情報科学的手法などで評価されている。[参照元へ戻る]
◆構造認識「FORTE」
産総研で開発された構造認識技術によるタンパク質立体構造予測法。タンパク質配列情報を最大限に活用した方法により、精度良く類似構造を認識することができる。特にアミノ酸配列の変化を特徴化したプロファイルの利用と類似尺度計算法に独自性を持つ(詳細は、以下、参考文献を参照)。 インターネットによる対外的に利用可能なサーバーも公開している。
(参考文献:Tomii & Akiyama, Bioinformatics, 20, 2004) [参照元へ戻る]



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