発表・掲載日:2004/11/09

超高濃度対応小型オゾン濃度計測装置を開発

-超高濃度オゾンの連続濃度計測を実現-

ポイント

  • これまで連続計測が困難であった超高濃度オゾンガス(濃度80vol%以上)の濃度計測が可能な「小型オゾン濃度計測装置」を開発(濃度計測範囲:0~100vol%)
  • 濃度計測センサーに水晶振動子を使用し、計測によるオゾン分解がないため、より正確なオゾン濃度計測が可能。オゾンガス供給配管への挿入使用ができ、従来必要であったオゾン除害処理が不要
  • 高濃度オゾンガスを用いる工業分野や、特に半導体産業分野での超高濃度オゾンガスを用いた製造プロセス等への貢献が期待される

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)計測フロンティア研究部門【部門長 一村 信吾】活性種計測技術研究グループの 黒河 明 主任研究員らは、株式会社バキュームプロダクツ【代表取締役 北條 久男】(以下「VP社」という)と共同で、産総研が開発した二成分ガス濃度測定方法を用いて、酸素とオゾンの二成分混合気体中のオゾン濃度を計測できる、超高濃度オゾンガス(濃度80vol%以上)対応の「小型オゾン濃度計測装置」を開発した。

 オゾン(O3)は高い酸化性を持ち、濃度数ppm程度の低濃度オゾンガスでも殺菌・脱臭・漂白・水質向上等に大きな効果を発揮するため幅広い分野で利用されている。工業の分野では濃度数%の高濃度オゾンガスが利用されているが、反応効率の点からさらに高い濃度のオゾンガス利用への要求が高まっている。

 また、濃度80vol%を超える超高濃度オゾンガスは非常に高い酸化性を持つことから、半導体デバイス製造プロセスなどへの応用が期待されている。実際、SiC等の難酸化性電子材料の酸化処理や400℃以下の低温での電子素子用高品位シリコン酸化膜形成では超高濃度オゾンガス利用の有意性が示されている。このような半導体デバイス製造プロセスなどの実プロセスへ超高濃度オゾンガスを応用していくためには、各種制御のためのオゾン濃度の連続計測手法が不可欠である。超高濃度オゾンガスの濃度は処理時間や反応時間を大きく左右するため、オゾン発生装置やオゾン利用工程でのオゾン濃度の計測が必要とされている。

 しかし、これまで超高濃度オゾンガスの濃度を、安定に連続計測できる計測装置は存在しなかった。従来、超高濃度よりも濃度の低い(濃度5vol%以下)オゾン濃度計測で用いられている紫外線吸光度測定法による計測装置では、計測対象ガスの圧力が変動するとオゾン濃度を正確に計測することができず、また超高濃度オゾンガスは反応性が高く分解しやすいため安定計測に疑問があった。

 産総研では、混合ガスの粘性が濃度と相関があることを利用してガスの粘性を計測し、濃度を算出する二成分ガス濃度測定方法を開発した。ガスの粘性の計測は、水晶振動子を対象ガス中で振動させたときに受ける力が粘性によって左右されることを利用して行う。

 産総研とVP社は、二成分ガス濃度測定方法を用いた「小型オゾン濃度計測装置」を開発した。本計測装置の特長は、従来法で使用される紫外線光源や熱源といった高濃度オゾンガスを分解する要因がないこと、そのため少量の試料気体でも正確なオゾン濃度の計測が可能であること、またオゾンガス供給配管に直接取り付けて使用でき、従来法では必要であった計測後の試料気体を無害化するためのオゾン除害処理が不要であることである。さらにセンサー部は単純な構造であるため小型化(センサー部:15x6x6cm、本体:9x20x33cm)が可能となった。計測応答速度は従来の市販濃度計よりも速く(計測応答速度1秒以下)、計測圧力範囲も広い(計測圧力範囲:大気圧から1/10気圧)。また従来法では10vol%程度までしか対応していなかった濃度計測範囲も0~100vol%まで計測可能である。

 今後、産総研とVP社は、共同研究を推進して「小型オゾン濃度計測装置」の計測精度の向上や安定性の確認を行い、平成16年度末に実用化を行う予定である。

 なお本成果は、平成16年12月1~3日に行われる「全科展 in 東京 2004 科学技術総合展」(東京国際展示場「東京ビッグサイト」(東京都江東区有明))で展示予定である。



研究の背景

 オゾン(O3)は高い酸化性を持つことから、濃度数ppm程度の低濃度オゾンガスでも殺菌・脱臭・水質向上に大きな効果を発揮するため、上水処理でのカビ臭の除去、工業廃水処理やプール水殺菌処理、部屋の悪臭成分(メタンやアミンや硫化水素)の分解による脱臭処理(空気清浄化)や浮遊細菌の除菌処理、オゾン溶存水を用いた病院や食品加工工場・厨房での殺菌処理など幅広い分野で利用されている。工業の分野では濃度数%を超える高濃度オゾンガスを用いて、紙パルプの漂白、半導体製造工程での基板の精密洗浄やフォトレジストの除去処理などに利用されているが、反応性の向上や処理時間の短縮化の点からさらに高いオゾン濃度への要求がある。

 また、濃度80vol%を超える超高濃度オゾンガスは、非常に高い酸化性を持つことから、半導体デバイス製造プロセスなどへの応用が期待されている。難酸化性のSiC材料は、電子素子用の酸化膜形成に従来は高温で長時間の酸素酸化処理が必要であったが、超高濃度オゾンガスの利用により一桁短い時間で処理が行え、素子特性も優れたものとなることが明らかとなっている。また液晶ディスプレーでは、電子素子用の高品位シリコン酸化膜形成を400℃以下の低温で行う酸化処理方法が求められているが、この酸化処理にも超高濃度オゾンガスが利用可能である。このように超高濃度オゾンガスはさらに利用の広がりが見込まれるが、超高濃度オゾンガスを実プロセスとして応用していくためには、各種制御のためのオゾン濃度の連続計測手法が必要である。これにより、例えば超高濃度オゾン発生装置では、一定濃度のオゾンガスを発生するように制御することが可能となり、またオゾン濃度によって反応処理時間が左右されるオゾン利用工程では、濃度管理により製品のばらつきを小さくすることが可能となる。しかしながら、これまでは超高濃度オゾンガスの濃度を安定に計測できる計測装置は存在しなかった。

 従来、超高濃度よりも濃度の低い(5vol%以下)オゾン濃度計測で用いられている紫外線吸光度測定法を用いた計測装置では、計測対象気体の圧力が変動すると単位体積あたりのオゾン量が変動し、紫外線吸光度が変動するため計測精度の低化が避けられなかった。また、オゾンガスは、濃度が50%を越えると熱や光により爆発・引火の可能性があり、紫外線照射によるオゾン分解を伴う紫外線吸光度測定法では超高濃度オゾンガスの計測には安全性に問題があった。さらに計測のための紫外線照射によりオゾンが分解するため、精度よくオゾン濃度を計測するためには、計測によるオゾン分解量が無視できるほどの多量の試料気体(毎分0.5~2リットル)をサンプリングする必要があることや、計測後の試料気体にはオゾンが含まれるため、これを無害化するためのオゾン除害処理が必要であった。

 このため、酸化プロセス等などの工業利用が期待される超高濃度オゾンガスにおいて、その濃度の計測を圧力変動の影響等を抑えて連続計測する手法が必要であった。

研究の経緯

 産総研 計測フロンティア研究部門の 一村 信吾 部門長、黒河 明 主任研究員らは、新たな濃度計測原理として、水晶振動子を用いたガスの粘性計測手法に着目し、超高濃度オゾンガスの計測に対応した機器開発を行ってきた。この超高濃度オゾンガスに対応可能なオゾン濃度計測装置を実用化するため、オゾンガスを分解せずに、また耐オゾン性を持つ材料の探索の研究を進めるとともに、水晶振動子を用いた圧力計を開発してきたVP社と共同研究を行い、計測手法の有効性を実証した。

 本研究の成果は、産総研の地域中小企業支援型研究開発制度(平成15年度)、特許実用化共同研究(平成16年度)により得られたものである。

研究の内容

 産総研では、混合気体濃度の計測方法として、気体の粘性が濃度に相関があることを利用することにより、ガスの粘性を計測して濃度を算出する、二成分ガス濃度測定方法を開発した。ガスの粘性の計測は、水晶振動子を対象ガス中で振動させたときに受ける力が粘性によって左右されることを利用して行う。濃度計測センサー部は粘性式圧力計と感圧式圧力計により構成されており、粘性式圧力計は粘性と圧力の双方の影響を受けるので、圧力成分の除去が必要である。そこで粘性式圧力計と感圧式圧力計の2種類の圧力計で混合ガスの圧力を計測し、圧力成分を除去して粘性成分を算出する。粘性成分から濃度計算機により濃度を求めることができる【図1参照】。


オゾン濃度計測手法の図
図1 オゾン濃度計測手法。2種類の圧力センサーで同一混合ガスの圧力を計測する。粘性式圧力計は粘性と圧力の双方に敏感であるが、感圧式圧力計との併用により、圧力成分を除去し粘性成分を算出する。濃度計算機により粘性成分から濃度を求めることができる。なお本図は温度を一定とした場合の概念図である。

 水晶振動子を用いることにより、次の計測上の利点が得られる。まず、従来法で使用される紫外線光源や熱源といった高濃度オゾンガスを分解する要因がないこと、そのため少量の試料気体でも正確なオゾン濃度の計測が可能であること、またオゾンガス供給配管に直接取り付けて使用でき、従来法では必要であった計測後の試料気体の無害化のためのオゾン除害処理が不要であること、さらに計測に熱や光を使用しないため、紫外線照射等による超高濃度オゾンガスの爆発・引火の危険性が無いことなどである。計測装置は圧力センサーで構成されているため、計測気体の圧力変動が計測に与える影響も小さく、またセンサー部は水晶振動子と圧力計からなる単純な構造なので小型化が可能となっている(水晶振動子は4mm長の音叉型。センサー部:15x6x6cm、本体9x20x33cm)【図2参照】。さらに濃度変化に対する応答が1秒以下と早く(従来は20~30秒程度)、計測圧力範囲もひろく大気圧から減圧まで対応可能(多くは大気圧固定)であり、従来法では10vol%程度までしか対応していなかった濃度計測範囲も0~100vol%まで計測可能である。
 

小型オゾン濃度計測装置の外観写真
図2 小型オゾン濃度計測装置の外観。右側は濃度計測センサー部。左側は濃度計測装置本体。挿入写真はセンサー部内の水晶振動子センサーの拡大写真。濃度と圧力は同時計測されているが、本体表示部には濃度と圧力が切り替え表示される。

 VP社は、産総研とともに二成分ガス濃度測定方法を用いた超高濃度オゾンガスを計測可能な「小型オゾン濃度計測装置」を開発した【図2参照】。この濃度計測装置の仕様は、計測オゾン濃度:0~100vol%、計測分解能:0.5vol%、計測応答速度:1秒以下、計測圧力範囲:大気圧から1/10気圧(10~110kPa(キロパスカル:標準大気圧は101.3kPa))である。センサー部はガス供給配管に挿入取付けが可能であり、低オゾン分解性を持つ材料選択とその表面処理によりオゾンの分解を抑制しているため、計測後のオゾンガスは廃棄することなくそのまま利用できる。これによりオゾンガスの有効利用ができ、またオゾン除害処理が不要となる。現在、このモデル機をもとに実用化に向けた耐久試験や更なる計測精度の高精度化を推し進めるための研究を継続中で、平成16年度末に完成予定である。

今後の予定

 今回開発した「小型オゾン濃度計測装置」は、他の混合ガス系にも応用が可能であり、本計測装置に内蔵している粘性ガスの特性データを書き換えることで対応できる。特にセンサー部に熱源・光源がないため引火性のあるガス系にも対応が可能であり、産総研とVP社は共同研究を推進中である。またさらに小型化を検討中であり、計測精度や安定性の向上も追求している。

 今後、超高濃度オゾンガスはさらに利用の広がりが見込まれるが、小型で軽量な本計測装置の利用により、超高濃度オゾンガスの利便性が高まるものと期待される。



用語の説明

◆超高濃度オゾン
従来利用されているオゾンの濃度は高濃度といわれているものでも10vol%(210g/m3)程度までであり、またオゾン濃度計もこの濃度までしか計測が対応していない。産総研は濃度80vol%(1680g/m3)をこえる超高濃度のオゾンガスの発生・応用技術開発を企業と共同で進めており、超高濃度オゾンガスによる高品位シリコン酸化膜を400℃の低温で作製できること(1)や、難酸化性のSiC材料を、従来よりもはるかに短時間で酸化処理を行うことができ、また電子素子上も優れた酸化膜であること(2)を実証している。超高濃度オゾンガスは酸化力が大きく活性度が高いため工業分野での応用が期待されるが、オゾンを安全かつ有効に利用するための技術開発が不可欠で、このオゾン濃度計測技術開発もその一環として行われたものである。[参照元へ戻る]

参考
(1)2002年8月29日 発表(プレスリリース)
高品位シリコン酸化膜の低温作製に成功
 -超高濃度オゾンガスを用いた画期的な低温プロセスを世界で初めて実現-
(2)特許第3459975号「酸化膜/炭化珪素界面の作製法
 
◆ppm
Parts Per Million の略称で、1ppmは100万分の1を表す。体積比率での1ppmのオゾン濃度とは、1m3あたり1mLをオゾンが占めることを意味する。そのほかオゾン濃度を表す単位としてはg/m3、vol%などがあり、ちなみに1g/m3 = 0.0467vol% = 467ppmである。[参照元へ戻る]
◆紫外線吸光度測定
オゾンガスの紫外線吸収特性を利用してオゾン濃度を計測する方法。オゾンガスは紫外線をよく吸収し、波長254nm付近で最大吸収となり、またその吸収率はオゾン濃度によって指数関数的に変化する特性がある。オゾン濃度の計測は、まずオゾンを含む試料気体が流れる試料セル中に紫外光を照射し、その透過光強度を計測して紫外線吸光度を求め、次にその吸光度からオゾン濃度を算出することで行う。紫外線吸収によりオゾンは酸素分子に分解するため、紫外線を使って計測したオゾンガスは濃度が減少してしまう。そのため精度よくオゾン濃度を計測するためにはオゾン分解量を無視できるだけの十分な試料気体流量が必要である。また単位体積あたりのオゾン量を計測するため、気体の圧力が変動すると吸光度も変動してしまう。このため計測時には圧力が一定であることが必要である。さらに光源強度は時間とともに変動するので、オゾンを含まないガス(参照ガス)と試料気体を交互に計測して背景信号を抑制するなどの補正方法が必要である。[参照元へ戻る]
◆オゾン除害処理
オゾン濃度の作業環境許容濃度は0.1ppmである(日本産業衛生学会許容濃度)。作業環境許容濃度とは、労働者が1日8時間、週40時間程度、肉体的に激しくない労働強度で有害化学物質に暴露される場合に、その物質の平均暴露濃度がこの数値以下であれば、ほとんどすべての労働者に健康上の悪影響が見られないと判断される濃度である。臭気を覚える濃度はそれよりもさらに低く0.02ppm程度である。濃度計測後のオゾンを含む試料気体を環境中に排出するときは、オゾン分解触媒等を用いてオゾンを酸素に分解し、オゾン濃度を十分低くしてから行う必要がある。[参照元へ戻る]
◆地域中小企業支援型研究開発制度(共同研究型)
中小企業ニーズの高いテーマについて産総研で重点的に研究を進め、その成果を広く中小企業に還元する制度。[参照元へ戻る]
◆特許実用化共同研究
産総研の特許を企業が実施するために必要な追加実験や応用研究を共同で取り組み、技術移転を促進するための制度。[参照元へ戻る]


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