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発表・掲載日:2004/03/22

世界最高精度での平面度測定を実現

-平面度標準を供給-

ポイント

  • 世界最高精度のフィゾー型大口径平面度干渉計を開発、測定対象物の平面度を直径約300mmの測定範囲にわたって10nmの精度で測定可能
  • これまで日本には無かった平面度の依頼測定業務(平面度標準の供給)を4月より開始予定
  • 集積回路やハードディスクの高密度化と歩留まりの向上に寄与

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という) 計測標準研究部門【部門長 小野 晃】は、富士写真光機株式会社【代表取締役社長 樋口 武】(以下「富士写真光機」という)の協力を得て、測定対象物の平面度を測定するための、フィゾー型大口径平面度干渉計【写真1参照】を開発し、世界最高精度での平面度測定を実現した。本装置は、直径約300mmの測定範囲を持ち、測定精度は世界最高の10nm( 1ナノメートル:10億分の1メートル)である。

 また、産総研では公的な研究機関として、計量標準に関する試験・測定サービスを行っており、今回開発したフィゾー型大口径平面度干渉計を用いて、4月より平面度の依頼試験業務(平面度標準の供給)を開始する予定である。

○これまで日本には平面度の標準が無く、平面度の客観的な評価が不可能であった
平面度は「もの」の表面がいかに平らであるかを表す指標である。半導体やハードディスクの高密度化や歩留まりの向上のためには、素材となるシリコンウェファーやハードディスク基板などの平面度が極めて重要である。そのため、公的機関による平面度の客観的な評価が求められていたが、これまで日本では、公的機関による平面度の標準を供給する測定サービスは行われていなかった。

○世界最高精度のフィゾー型大口径平面度干渉計を開発
産総研は、富士写真光機の協力を得て、世界最高精度のフィゾー型大口径平面度干渉計を開発した。本装置は、直径約300mmの測定範囲において、10nmの精度で測定対象物の平面度の測定が可能であり、世界最高精度である。この精度を例えて言うならば、関東平野の広さに存在する凹凸を3mmの精度で測定することができることに匹敵する極めて高い測定精度である。

○世界最高精度での平面度の標準供給を開始
産総研では公的な機関として、計量標準に関する様々な項目(長さ、幾何学量、質量、力、トルク等)の試験・測定サービスを行っており、各種測定結果に基づき証明書の発行を行っている。今回開発した、フィゾー型大口径平面度干渉計を用いて、4月より平面度の依頼試験業務(平面度標準の供給)を開始する予定である。

○集積回路やハードディスクの高密度化と歩留まりの向上に寄与
今回開発したフィゾー型大口径平面度干渉計を用いた、平面度標準の供給により、シリコンウェファーやハードディスク基板などの平面度を客観的に評価することが可能となり、集積回路やハードディスクの高密度化や歩留まりの向上を図ることができるものと期待される。

フィゾー型大口径平面度干渉計の写真

写真1 フィゾー型大口径平面度干渉計
 
平面度測定結果の一例の図
平面度測定結果の一例

研究の背景

 半導体の製造において、ガラスの上に大きく描いた半導体の回路を、素材となるシリコンウェファー上に、光を使って縮小して焼き付ける工程が存在する。その工程においてシリコンウェファーが平らでないと、ピントの合う部分と合わない部分ができる。そうすると細かい回路を作ることができなくなったり、無理に作っても製品の歩留まりの悪化につながる場合がある。

 また記憶装置であるハードディスクの内部では、アルミニウムやガラスでできた円盤が高速で回転している。この円盤の表面に読み取りヘッドをぎりぎりまで近づけ、円盤の表面に記録されたデータの読み書きを行っている。その際、円盤の平面度が良くないと、円盤の回転が安定せず、読み取りヘッドが円盤の上下の動きに追従するのが困難になり、ハードディスクの記録データ高密度化の妨げになる。これらの理由から半導体製造の素材となるシリコンウェファーの平面度は極めて重要であるため、半導体などの製造メーカーは、所有する市販の平面度測定機によりシリコンウェファーの平面度の測定を行っているが、市販の平面度測定機の測定精度を客観的に評価する手段が存在せず、特に近年主流となっている、12インチ(約300mm)の大型シリコンウェファー用の平面度測定機に組み込まれている参照平面、あるいは平面度測定機の精度をチェックするための原器(原盤)の平面度標準の供給が求められていた。他にも例えば、最新の物理学の実験においては光を何kmも飛ばす必要があり、そこで使用する鏡の平面度は非常に重要である。

 これまで日本には、平面度の標準を供給する測定サービスが行われていなかったため、市販の平面度測定機を使って得られる測定結果を信用するしかなかった。しかし、市販の平面度測定機の測定精度は30nm程度で十分とは言えず、また装置ごとに測定精度が微妙に違う値を示すため、公的機関による、より高精度な測定に基づいた平面度標準の供給が求められていた。 

研究の経緯

 産総所では、富士写真光機の協力のもとに1990年代後半より、フィゾー型大口径平面度干渉計の開発を進めてきた。平成14年度からは、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構【理事長 牧野 力】の委託事業「ナノテクノロジープログラム・ナノ加工・計測技術・3Dナノメートル評価用標準物質創成技術プロジェクト【プロジェクトリーダー 産総研 計測標準研究部門 先端材料科長 小島 勇夫】(平成14~18年度)」により研究を加速し、フィゾー型大口径平面度干渉計を開発した。

 本プロジェクトでは、半導体を構成する薄い膜の厚さを、X線を使って測定する装置の開発を行っている。その際、試料の平面度が重要な要素となるため、これまでの研究成果をもとに平面度を高精度で測定可能な装置の開発を行い、その結果として本装置が開発された。

研究の内容

 フィゾー型大口径平面度干渉計は、高精度に研磨された参照平面を下向きにし、測定対象を上向きにして向かい合わせ、それにレーザー光を照射したときに観察される縞模様の曲がり具合から、測定対象の形状を測定するものであるが【図1参照】、参照平面と測定対象の相対的な形状の違いを測定しているので、もし参照平面の方も平らでないならば、どちらがどれだけ平らでないのか判断がつかなくなるという問題がある。そして、実際に理想的な平面をした参照平面は存在しない。

 この問題を解決するために、参照平面と測定対象以外に第3の試料を使用した三枚合わせ法【図2参照】と呼ばれる技法を採用した。三枚合わせ法は、原理的には単純であるが、実際の計算は非常に複雑である。そこで、東京電機大学【大学長 当麻 喜弘】 古谷 涼秋 教授の協力により、三枚合わせ法の計算プログラムを完成した。本装置に組み込まれている参照平面は、できる限り理想的な平面になるように超高精度な研磨が施されているが、それでも微細な形状誤差が存在する。三枚合わせ法によりその形状誤差を計算し、測定結果から引き算することにより、測定対象の絶対的な形状を求めることが可能になった。

 さらに、参照平面は重力により変形するため、その変形量を補正する必要がある。株式会社ミツトヨ【代表取締役社長 手塚 和作】つくば研究所の協力により、計算機シミュレーションを使ってその変形量を解析し、さらなる高精度化を図った。

 本装置は、富士写真光機が設計・製作したもので、高純度な合成石英ガラスを超高精度に研磨した参照平面、振動に強い構造、正確に三枚合わせを行うための試料ステージ、ノイズの少ない干渉縞を観察するための高精度なレンズとCCDカメラ、などにより構成されており、市販の装置に比べてはるかに高精度な測定が可能である。

 本装置は、シリコンウェファーや鏡など、表面がきれいに磨かれたものの平面度を精密に測定することが可能である。測定可能な大きさは直径約300mmの円形であり、12インチシリコンウェファーをカバーすることができる。

 測定誤差は10nmであり、この測定サイズと測定誤差は他国の国立標準研究所を抜いて世界最高である。この精度を例えて言うならば、関東平野の広さに存在する凹凸を3mmの精度で測定することができることに匹敵する極めて高い測定精度である。

今後の予定

 これまで日本では、平面度標準を供給するサービスが存在しなかったため、他国の標準研究所に依頼し、平面度の証明を得ていた。そのために輸送による費用と時間がかかっていたが、今後は国内で世界最高精度の平面度の校正証明を短時間で得ることが可能となった。

 本装置の測定対象は、シリコンウェファーやハードディスク基板以外にも、半導体の製造に使用するリソグラフィー用マスク、大型ディスプレイ用のガラス基板、工作機械のガイド面、さらには望遠鏡など科学の分野における、高い平面度が要求される測定対象に対しても適用が可能であり、今後多くの分野への貢献が期待される。


用語の説明

◆フィゾー型干渉計(フィゾー型大口径平面度干渉計)
極めて高精度に磨かれた参照平面と、測定対象を互いに向かい合わせた配置で、光の干渉現象を利用して測定対象の形状を測定する技法。両者が共に理想的な平面形状を持つ場合は、真っ直ぐな干渉縞が観察されるが、いずれかが理想的な平面からずれていると曲がった干渉縞が観察される。したがって干渉縞の曲がり具合を観察することにより、測定対象の形状を知ることができる。[参照元へ戻る]

フィゾー型干渉計の原理の図

図1 フィゾー型干渉計の原理
◆依頼測定業務
産総研では従来から、平面度以外にも各種の有料測定サービスを行っている。ユーザからの依頼に応じて、ユーザの持ち込んだ測定試料の測定を行い、その結果に基づき証明書の発行を行っている。
URL:http://www.nmij.jp/kosei.html [参照元へ戻る]
◆三枚合わせ法
図2に示すような同一形状の試料を3枚(A,B,C)用意し、それらを相互比較することにより、各々の絶対形状を求める方法。相互比較により、3枚の試料に対して、3つの干渉縞が得られる。これは、3つの未知数に対して、3つの式が存在する連立方程式とみなすことができる。未知数の数と式の数が等しい連立方程式は解くことができるので、各々の試料の絶対形状が求められる。実際の計算は、未知「数」ではなく未知の面「形状」なので、膨大なデータ数になり、方程式を解くのは容易ではない。この方法は他の参照標準を必要とせずに、自らの形状を求めることができる自己校正法の一つである。[参照元へ戻る]

三枚合わせ法の原理の図

図2 三枚合わせ法の原理


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