発表・掲載日:2003/02/03

生活者を見守る住宅

-日常生活の中で生活者の異常を見つけて通報・健康管理を行う技術の開発-


研究開発の概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】のヒューマンストレスシグナル研究センター【研究センター長 二木鋭雄】、および社団法人人間生活工学研究センター【会長 奥井功】は、経済産業省の研究開発プロジェクトの一環として新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託事業「人間行動適合型生活環境創出システム技術」の研究開発において、住宅内での生活者の行動を常時計測し、何時・どこで・誰が・何をしたかを自動検知する技術を開発した。住宅内での生活者の行動情報を行為の時系列情報として自動検知し蓄積する技術は、世界でも初めての技術である。本技術により、独居高齢者の異常状態や、生活習慣病などの異変を早期に検知し、家族や医療機関に情報を伝えることにより、新しい生活見守り(健康管理)サービスを提供できるようになる。

 高齢化や生活様式の多様化が進む我が国において、健康で安心して暮らせる豊かな人間生活を支援するための世界に先駆けた生活見守り技術を開発することができた。



研究開発の背景

 住宅内での事故は高齢化と伴に年々増えており、65歳以上の人の住宅内事故死が交通事故死の1.7倍にもなってきている。少子高齢化や核家族化が進む中で、人が生活者を見守ることが困難になっている現代、生活者を見守る技術に期待が寄せられている。

高齢化に伴い家庭内事故の増加の図

図1 高齢化に伴い家庭内事故の増加

研究開発の内容

<生活行動の計測技術>
 住宅内の行動は人によって様々であるため、異常検知の基準となる普段の生活行動の蓄積が重要になる。生活行動の常時計測・蓄積技術を開発するために、住宅内に15種類のセンサ群を167個配置した実験住宅を構築した。人の動きを検知する赤外線センサ、人の生活動線を抽出するCCD位置センサ、人体の姿勢・活動量・脈拍数を計測するウェアラブルセンサ、窓・扉の開閉センサ、家電製品の使用状況検知センサを開発して組み込んだ。これにより、住宅内での生活者の活動を常時計測することが可能になった。

生活者の状態を常時見守ることができる実験住宅の図


図2 生活者の状態を常時見守ることができる実験住宅

<生活行動の推定技術>
 生活行動の時間幅はいつも同じではなく、センサの応答も人の移動距離や動きの大きさによって異なる。そのためセンサ情報の単純な比較で異常を検知することは困難で、センサ情報から抽出した生活行為の時系列情報として比較する技術の開発が不可欠となる。日常生活で基本的な生活行動として睡眠・食事・トイレなどの13種類の生活行為を選び出し、これらの基本行為を概ね70%の正答率で自動的に推定する技術を開発した。これにより、住宅内での生活者の活動状態を、生活行為の時系列情報として長期に蓄積することが可能となった。

センサ情報から行為の時系列情報変換のコンセプトの図

図3 センサ情報から行為の時系列情報変換のコンセプト

 

センサ情報から行為の時系列情報への変換の図

図4 センサ情報から行為の時系列情報への変換

 

生活行為の推定精度の図

図5 生活行為の推定精度

 

リアルタイムでの生活行動の推定結果の図

図6 リアルタイムでの生活行動の推定結果
 

<異常の自動検知技術>
 生活者の生活行動の長期蓄積により、生活中の異変などの普段と異なる生活状態を自動的に抽出することが可能になる。例えば、我々の既存住宅を対象にした実験では、センサ種が少ないため生活行為の時系列情報を推定することはできていないが、1年間の生活行動蓄積から、子供が幼稚園を休んだ日や、精神的に不安定な日などを自動的に抽出することができるようになってきている。
 今回開発した生活行為の時系列情報を自動的に蓄積する技術を用いることにより、個別生活者の生活パターンを生活行為レベルで理解した上で、生活の中のより詳細な異変を自動的に検知することが可能になる。本研究開発では、次に挙げる3つの異常検知と生活支援技術の開発を目指している。

(1) 生活時間の異常:各生活場面に要する時間は、各人の生活スタイルによって大きく異なる。そこで、生活者の各部屋での滞在時間や個別生活行動に要する時間の長さを長期に蓄積することにより、その人の普段の滞在時間や生活時間を知ることができる。この蓄積された情報と現在の生活時間情報を照らし合わせることにより、その人の生活パターンに応じた生活時間の異変を検知することが可能となる。倒れて動けない状態などの危急時状態の早期発見・早期通報が可能となる。
(2) 生活リズムの異常:加速度センサ情報から昼間の活動量を、体動や心拍から睡眠の質を推定して、一日の生活リズムを評価できるようになった。生活リズムの変調が分かると、光刺激による生活リズムの回復支援などを行うことが可能となり、不眠などを訴えることの多い高齢者などの生活の質の維持・向上が期待できる。
(3) 生活行為の順序・頻度の異常:精神疾患は、ガンや心疾患と同じくらいの重篤な疾患であり、その数も増えてきている。個別生活者の生活行為の時系列情報を自動蓄積することにより、健康状態の変化やうつ状態などの精神状態の変化に伴って生じる生活行為の順序や頻度の乱れを検知することが可能になる。これにより、その人の生活ぶりを見ながら、健康上の異変を本人や家族に知らせることにより疾病予防や健康維持を目指している。

総合的ライフケアシステムの図

(a) 総合的ライフケアシステム
 

人と機械の調和した生活空間の図

(b) 人と機械の調和した生活空間

図7 (a)(b)技術の応用展開(生活見守り技術)

波及効果

 本技術を用いることで、図7に示すように、独居高齢者の異常状態や生活習慣病などの異変を早期に検知し、家族や医療機関へ健康状態や異変情報を伝える新しい生活見守り(健康管理)サービスを提供できる。また、生活者の各人の生活パターンに合わせて、室内の空調や照明状態を自動的にコントロールし、その人に合った生活環境をその場で作り出すパーソナルフィット型生活空間創出が可能となる。これらの技術により、高齢化や生活様式の多様化が進む我が国において、健康で安心して暮らせる豊かな人間生活を支援する技術を提供することができるようになると考えている。




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