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発表・掲載日:2002/09/10

有機色素増感太陽電池で変換効率7.5%の世界最高性能を達成

-安価で高性能な有機色素太陽電池の実現に一歩近づく-

ポイント

  • 色素増感太陽電池は安価で高性能な次世代型太陽電池として注目されているが、高性能化には、高価なRu(ルテニウム)を使用する錯体色素の使用が必須であった
  • Ru錯体色素に代わる、安価で資源的制約のない有機色素の開発が切望されていた
  • 可視光から赤外光領域に吸収を有する新規のクマリン系色素増感酸化物半導体光電極を開発し、Ru錯体色素代替を実現
  • 新規クマリン色素を用いた色素増感酸化チタン太陽電池で、7.45%の太陽エネルギー変換効率を達成
  • この変換効率はRu錯体色素並であり、アモルファスシリコン太陽電池とほぼ同等の性能を示しており、有機色素を用いた色素増感太陽電池で世界最高性能である

概要

 独立行政法人産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)光反応制御研究センター【センター長 荒川 裕則】の太陽光エネルギー変換チームと、株式会社 林原生物化学研究所【代表取締役 林原 健】(以下「林原生化研」という)の感光色素研究所【担当専務取締役 速水 正明】は共同で、可視光から赤外光領域までの広範囲に光を吸収をするクマリン系色素増感酸化物半導体光電極を開発し(特許出願中)、それを用いた色素増感酸化チタン太陽電池で、AM 1.5条件下で7.45%の太陽エネルギー変換効率を達成した。この変換効率はRu(ルテニウム)錯体色素並の性能であり、有機色素を用いた太陽電池ではこれまでの世界最高値である。これにより安価で高性能な有機色素太陽電池の実現が一歩近づくものと期待される。今後は、さらなる変換効率の向上をめざしつつ、実用化への技術的課題を探る予定である。

 本研究成果は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)太陽光発電技術研究開発・革新的次世代太陽光発電システム技術研究開発の受託研究「高性能色素増感太陽電池技術の研究開発」の成果である。

 なお、本研究成果は、2002年9月12日に、東京工芸大学厚木キャンパス(厚木市飯山1583)で開催される 2002年電気化学秋季大会で発表する予定。

新しく開発された高性能有機色素増感酸化チタン光電極イメージ図
新しく開発された高性能有機色素増感酸化チタン光電極のイメージ図


研究の背景

 Ru錯体色素および酸化チタンナノ粒子から形成される多孔質薄膜光電極を用いた色素増感太陽電池(グレッツェル・セルと呼称される)は、安価に製造でき高性能を示すため、次世代型の太陽電池の一つとして注目を集めている。近年、国内外の研究機関において活発に研究開発がおこなわれており、最近では実験室レベルで7~8%程度の太陽エネルギー変換効率が再現性よく得られるようになってきた。ただ、高性能化のために高価なRu金属を含む錯体色素が光増感剤として用いられてきているため、将来、光増感剤に大量のRu錯体色素を用いた場合、資源的な制約が問題となってくる。そこで、光増感剤にRuなどの貴金属を含まず、安価で資源的な制約のない有機色素を用いた高性能色素増感太陽電池の開発が望まれていた。さらに、有機色素は容易に交換できるため太陽電池光電極のリサイクル性が向上することや、様々な色を持つ有機色素を用いることにより、透明でカラフルなファッション性のある太陽電池を作製でき、窓板や室内用等多方面での使用が期待されている。

研究の経緯

 産総研・光反応制御研究センターと林原生化研・感光色素研究所は、これまでの共同研究で、色素増感太陽電池に使用するメロシアニンやシアニン色素などの有機色素光増感剤を開発し、それらを用いた高性能有機色素増感太陽電池を開発してきた。昨年、変換効率5.6%の比較的性能の高い色素を開発しているが、それらの太陽エネルギー変換効率は、従来のRu錯体色素を用いた太陽電池に比べて低いものであった。そこで、平成13年度からは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の太陽光発電技術研究開発・革新的次世代太陽光発電システム技術研究開発の受託研究「高性能色素増感太陽電池技術の研究開発」の一環として、高性能有機色素増感剤の開発を進め、高効率有機色素増感太陽電池の実現を目指してきた。その結果、400nmの可視光から820nmまでの赤外光領域の光を広く吸収し、光電変換できる新規クマリン系色素を用いた高性能光電極を設計・開発し、それらを用いることにより有機色素増感太陽電池の光電変換効率を大きく向上させることに成功した。

研究の内容

 今回、新たに開発した新規クマリン色素は、従来型のクマリン色素の骨格から、チオフェン環を含む共役二重結合系を拡張し、末端にシアノ基とカルボキシル基を有する。共役二重結合系の拡張や電子吸引基であるシアノ基とカルボキシル基の導入が色素の吸収波長の長波長化につながった。色素はカルボキシル基により酸化チタン半導体光電極の表面に化学固定されており、酸化チタン光電極との直接的な相互作用により、高効率な光誘起電子注入が可能となった。

 【図1】には、この色素を用いた酸化チタン太陽電池の外部量子収率の波長依存性を示した。図から明らかなように、この太陽電池は、紫外・可視・赤外領域である350nmから820nmの広い範囲の光を電流に変換できることがわかる。このうち、450nmから600nmの範囲での外部量子収率は、70%を越えており、基板に用いている透明導電性ガラスによる光吸収および散乱によるロスを考慮すると、この波長領域では、照射した光の約90%を電流に変換していることになり、この太陽電池の効率の高さを示している。

 また、【図2】に示したように、この太陽電池のAM1.5条件下での太陽エネルギー変換効率は、7.45%であった。この効率は、有機色素を用いた太陽電池で世界最高の値であり、従来のRu錯体色素を用いた太陽電池に匹敵するものである。さらに、既に実用化されているアモルファスシリコン太陽電池に近い効率となっている。この新規クマリン系色素増感酸化物半導体光電極の開発により、これまで低効率で実現性の乏しかった有機太陽電池の世界で、安価で高性能な有機色素太陽電池の実現に一歩近づくこととなった。

新規クマリン色素を用いた色素増感酸化チタン太陽電池の外部量子収率の波長依存性の図
図1 新規クマリン色素を用いた色素増感酸化チタン太陽電池の外部量子収率の波長依存性

 


新規クマリン色素を用いた色素増感酸化チタン太陽電池の光電流・電圧特性図
図2 新規クマリン色素を用いた色素増感酸化チタン太陽電池の光電流・電圧特性

今後の予定

 色素構造の詳細な制御と酸化物半導体光電極や電解質の最適化により、さらに高性能化高効率化が期待できるため、引き続き研究開発を進める予定。また、実用化へ向けた耐久性、安定性等の課題についても着手する予定である。


用語の説明

◆クマリン系色素
クマリン系色素説明図
上図の構造を骨格とする色素の一群。用途として、色素レーザー材料等として用いられる。[参照元へ戻る]
◆AM1.5
エアマス1.5 平均的な晴れた日に地球上に届く光量を規格化したもの。約1000 W/m2 [参照元へ戻る]
◆色素増感太陽電池
色素増感作用は、写真フィルムと同じ原理。可視光を吸収しない銀塩や酸化物半導体表面上に、色素を吸着させることにより可視光応答性をもたせる。この色素増感作用を太陽電池に応用したのが色素増感太陽電池である。[参照元へ戻る]
◆共役二重結合
一つおきに二重結合でつながった炭素鎖。[参照元へ戻る]
◆外部量子収率
太陽電池の場合、ある波長の光を太陽電池に照射したときに、その光を有効に電流に変換した効率。[参照元へ戻る]


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