発表・掲載日:2001/12/06

光照射による簡易型着色ガラス技術の開発

ポイント

無色のガラスに、X線や紫外線を照射することによって、着色ガラスとして使用可能な濃さで、また安定な着色を得る方法を開発しました。このガラスは、300-550℃程度の温度での加熱、あるいは、再溶融により無色ガラスに戻すことができるので、無色ガラスとしてリサイクルが可能であり、着色ガラスのリサイクルの問題解決に貢献するものと期待されます。

概要

 リユース、リサイクルに適した着色ガラスを開発するために、無色のガラスに光を照射することによって着色し、また、加熱によって脱色し無色ガラスに戻すことが可能なガラス材料の開発と、容易に着脱色が可能な手法の開発を行っている。

 本研究開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「地球環境産業技術研究開発関連事業」の一環として、当機構より委託を受けて、大阪精巧硝子株式会社、セントラル硝子株式会社、産業技術総合研究所生活環境系環境ガラス研究グループが共同で推進しています。



開発内容

X線、紫外線等の光照射によって着色し、300-550℃程度の加熱により脱色。着脱色は、何回も繰り返すことが可能。
 着色の原理
  1)光照射によるカラーセンターによる着色(茶系統の発色)
  2)銀超微粒子による着色(黄系統の発色、但しフルカラー着色の可能性あり)
  3)イオン価数の変化による着色(紫系統の発色)

本法の特徴

  1. 装置の維持管理が簡単
  2. 既存の製造プロセスへの簡単な導入
  3. ガラスの表面硬度を損なうことなく着色可能
  4. 全面着色ももちろん可能であることに加え、文字・図柄等も容易に描画
  5. ガラスの形状を保ったままでの脱色可能
  6. 作業環境の安全・浄化

背景と目的

 循環型社会の構築に向けてあらゆる分野における資源のリサイクルとそのための技術開発が重要な課題となっています。

 ガラスの分野では、年間約178万t出荷(平成10年度)されているガラスびんのうち、半数以上の約93万tは着色びんですが、着色びんは、それ自体リサイクルされにくく、また、着色びん混入のため本来リサイクルされるべき無色びんもリサイクルされずに廃棄されるなどリサイクルの障害にもなっています。また、板ガラス(主として建築用、自動車用)においては、年間37万t程度の着色板ガラスが生産されており、消費者の嗜好の変化から増々着色板ガラスの生産量は増加する傾向にあります。従って、今後、板ガラスにおけるリサイクルのシステムを構築する上で、着色板ガラスのリサイクルは大きな問題となることが予想されます。

 本研究開発では、無色のガラスを光照射により着色し、更に熱により脱色して無色ガラスとしてリユース、リサイクルすることが可能な着色ガラスを開発し、また、そのようなガラスを容易に着脱色できる手法を開発することによって、リサイクルにおける着色ガラスの問題を除き、ガラスにおけるリサイクル率の向上に資すことを目標としています。

 リサイクル図

研究の内容

 本研究開発で用いている光照射によるガラス着色の基本的なメカニズムは、カラーセンター(欠陥)による着色、イオンの価数変化による着色、微粒子生成による着色の3つです。

 今回、無色のガラスに、X線や紫外線を照射することによって、着色ガラスとして使用可能な濃さで、また安定な着色を得る方法を開発しました。着色の色は、茶系統(カラーセンタによる着色)、紫(Mnイオンの価数変化による着色)、黄色(銀微粒子の生成による着色)です。これらの着色ガラスは、300-550℃程度の温度での加熱により無色ガラスに戻すことができます。この温度では、ガラスは変形しないので、形状を保ったまま脱色することが可能です。もちろん再溶融すれば無色ガラスに再生し、再びX線や紫外線を照射することによって着色することが可能です。

光照射によるガラス着色の基本的なメカニズムの図

 例として、図に銀微粒子による着脱色の繰り返しを示します。極微量の銀(0.02 wt%)を含有させた、通常のびんガラス組成のソーダライムシリケートガラスに、X線を照射し、400℃で30分熱処理を行うと黄色に着色し、そのガラスを更に500℃で30分加熱することによって完全に脱色することができます。更にX線を照射し、400℃で熱処理すると再び黄色に着色し、500℃で加熱すれば、脱色します。このような着脱色は繰り返し行うことが可能です。

 今回開発した光照射と加熱によるガラスの着脱色技術の特徴は、乾式なので、装置等の維持管理が簡単、既存のガラス製造プロセスに簡単に導入することが可能、ポリマーコートなどによる着色とは異なってガラスそのものに着色するので、着色表面の硬度が問題にならない、全面着色、図柄の描画なども可能(写真参照)、ガラスの形状を保ったままで、脱色が可能、着色工程では、揮発性有機溶剤などの問題がなく作業環境の浄化がはかられる、などの特徴を有しております。

 また、本研究開発では図のような小型着色装置の開発も行っております。

銀ドープガラスにおけるX線照射と加熱による着色と、加熱による脱色の繰り返し課程の図
レーザを用いた小型着色装置の概念図
産業技術総合研究所作成の写真
産業技術総合研究所作成
セントラル硝子株式会社作成の写真
セントラル硝子株式会社作成
 

今後の課題

 現在は、3系統の色しか実現しておりませんが、本技術を実用化するためには、多色化が重要なポイントとなります。リサイクルの観点から、ガラスの基本組成は、市中でも最も一般的に使用されている、ソーダライムシリケートを基本とし、また、着色に必要な添加成分の種類、数、添加量は、かなり制限されると考えられます。このような技術的な制約のもとで、多色化を実現することが今後の大きな課題となります。



用語の説明

カラーセンタ(欠陥)による着色
 ガラスに紫外線、X線、γ線などの比較的高エネルギーの電磁波を照射すると、電子が開放される。開放された電子は、大部分元に戻るが、一部は、ガラス中の不純物などにトラップされ、ホールとトラップ電子の対が生成する。これらを欠陥と呼ぶ。これらの欠陥は、紫外域から可視域にかけて吸収を持つので、色中心(カラーセンタ)とも呼ばれる。本研究で用いているソーダライムシリケートなどのような組成のガラスでは、1つのシリコンと結合した酸素(非架橋酸素と呼ぶ)から電子が飛び出すことによって生成した非架橋酸素ホールセンタが生成するが、これは、可視域で吸収を持つので、ガラスは茶系統に着色する。[参照元へ戻る]


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