発表・掲載日:2001/10/02

耐摩耗性に優れた窒化ケイ素セラミックス

-粒子配向により無潤滑で低摩擦、低摩耗を達成-


概要

 窒化ケイ素セラミックスは、高い強度とねばり強さを合わせ持つ代表的な構造用セラミックスとして知られており、タ-ボチャ-ジャ-などの自動車部品や圧延ロ-ラ-などの構造部材として用途が広がっている。一方、往復摺動部材などへの適用においては、炭化ケイ素やアルミナなどのセラミック材料と比較して耐摩耗性に劣るという問題点があった。これは、窒化ケイ素セラミックスが窒化ケイ素粒子と約10%程度のガラス相から構成されるため、摺動時に微視的な破壊がガラス相を通して進行し、粒子の脱落に至るためである。

 今回、シナジ-マテリアル研究センタ-とFCRAは「シナジ-セラミックスプロジェクト」とにおいて、柱状粒子を配向させた窒化窒化ケイ素焼結体の摺動特性を評価し、粒子配向に垂直な面を摺動面とすることで、無潤滑下において0.3という低い摩擦係数と、従来の窒化ケイ素に比べて比摩耗量が約十分の一と高い摩耗特性を発現することを見いだした。また、摺動後の面も極めて滑らかであった。これは、本材料が摺動面に対して柱状の粒子が垂直に配向した構造を持つため、アンカ-効果により粒子の脱落を生じなかったためである。この配向構造を持つ本窒化ケイ素焼結体は、「シナジ-セラミックスプロジェクト」において開発されたものであり、既に高い強度、靱性、放熱性を示すことを明らかにしており、今回新たに高い耐摩耗性を持つことが示されたことで、高い精度が要求される摺動部材、さらには高速高加重など従来の材料では使用が困難であった過酷環境下での用途が期待される。 


研究内容

 近年、産業用あるいは民生用の機器が大型化、高性能化するにつれ高荷重下あるいは長期の運転においても摩耗が少なく高い精度を維持する摺動部品が求められるようになってきた。現在、機械部品のほとんどは金属材料で作られているが、このような厳しい要請を金属材料で達成することは容易ではない。セラミックスは金属と比べて、高い硬度、耐熱性を持つため精密摺動材料として高い可能性を持つと期待されている。

 窒化ケイ素は、高い強度、耐熱性、ねばり強さを合わせ持つ、優れた構造用セラミックスとして知られている。しかし、摺動時に微視的な破壊が粒界を通して進行し粒子脱落を生じやすいため、アルミナや炭化ケイ素と比べると耐摩耗性は高くない。シナジ-マテリアル研究センターでは、国家プロジェクト「シナジーセラミックスの研究開発」の一環としてファインセラミックス技術研究組合と共同で優れた耐摩耗性を持つ窒化ケイ素の開発に取り組んできた。

 今回、窒化ケイ素柱状粒子を一方向に配向させることにより、粒子配向に垂直な面において低い摩擦係数(無潤滑で0.3)とともに高い耐摩耗性(比摩耗量が従来の窒化ケイ素の約1/10)を同時に発現することを見いだした。この配向構造を持つ窒化ケイ素は、柱状の種結晶粒子を数%添加した原料粉末のシート成形・積層体1)あるいは押出し成形体2)を焼結することにより作製することができる(図1参照)。粒子配向に垂直な面は摺動後においても極めて滑らかであった(図2参照)。これは、粒子配向方向に垂直に摺動を行った場合アンカー的な効果により粒子脱落が抑えられたことによると考えられる3)

 粒子配向窒化ケイ素は、また高い放熱性を持つこともこれまでに明らかにしている4)。摺動時に発生する熱を逃がし安定した摺動を実現するためには部材が高い放熱性を持つことも非常に重要である。

 今回、配向窒化ケイ素が高い放熱性に加えて高い耐摩耗性をも合わせ持つことが示されたことで、高い精度が要求される摺動部材、さらには高速高荷重など従来の材料では使用が困難であった過酷環境下での部材など幅広い用途が期待される。


粒子配向窒化ケイ素組織写真

図1.粒子配向窒化ケイ素の組織写真
(エッチング処理により粒子の境界を鮮明にした)


摺動試験後の摺動面写真

図2.摺動試験後の摺動面の写真: (a) 粒子配向窒化ケイ素
(配向方向に垂直な面)、(b) 通常の窒化ケイ素

関連情報

1) K. Hirao, M. Ohashi, M. E. Brito and S. Kanzaki, J. Am. Ceram. Soc., 78, pp.1687-90 (1995).

2) H. Teshima, K. Hirao, M. Toriyama and S. Kanzaki, J. Ceram. Soc., Japan, 107, pp.1216-1220 (1999).

3) M. Nakamura, K. Hirao, Y. Yamauchi and S. Kanzaki, J. Am. Ceram. Soc., 84, pp.2579-2584 (2001).

4) K. Hirao, K. Watari, M.E. Brito, M. Toriyama, S. Kanzaki, J. Am. Ceram. Soc., 79, pp. 2485-88 (1996) .



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