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お知らせ記事2016/04/12

名古屋大学東山キャンパスに「産総研・名大 窒化物半導体先進デバイスオープンイノベーションラボラトリ」(GaN-OIL)を設立
-窒化物半導体からサステナブル社会・産業の実現をめざす-

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)は、平成28年4月1日に「産総研・名大 窒化物半導体先進デバイスオープンイノベーションラボラトリ」(AIST-NU GaN Advanced Device Open Innovation Laboratory;GaN-OIL)【ラボ長 清水 三聡】を国立大学法人 名古屋大学【総長 松尾 清一】(以下「名古屋大」という)と共同で設立しました。産総研におけるオープンイノベーションラボラトリ(OIL)は、平成27年度から始まった産総研の第4期中長期計画で掲げている「橋渡し」を推進していくための新たな研究組織の形態で、GaN-OILがその第一号となります。

エネルギー問題解決や高度情報化社会の実現には、半導体機器が省エネルギー性に優れ、高速に動作することが重要です。その中で、従来よりも高性能な半導体の素材として注目されるガリウム(Ga)系の窒化物を使った半導体技術の開発とその発展は、グリーンイノベーションの達成に大きな役割を担うと考えられています。

名古屋大は、平成26年にノーベル物理学賞を受賞した天野 浩教授を中心に、窒化ガリウム(GaN)に関する革新的な基礎研究を行っています。一方産総研は、結晶装置メーカーや大手家電メーカー、大学などとの共同研究を通じ、デバイスの産業化につながる多数の研究開発の実績があります。また、名古屋大を中心に産総研などの関連研究機関や幅広い業界にまたがる民間企業が参画する、「GaN研究コンソーシアム」の活動も活発化しています。

そこで、産総研と名古屋大は幅広い窒化物半導体デバイスの研究開発を連携して行い、実用化と社会実装を推進させていくため、新たな産総研の拠点を名古屋大内に設置します。GaN-OILでは、産学官ネットワークの構築による「橋渡し」につながる目的基礎研究の強化、窒化物半導体技術の産業化・実用化のために必要な結晶技術、デバイス技術、回路技術などの開発を行います。

概要図

GaN-OILで行う主な研究

1) 窒化物半導体を用いたパワーデバイス技術の開発

パワーエレクトロニクスの回路技術、パワーデバイスの設計/評価技術・製造プロセス技術開発に焦点を当てて進めていきます。

パワーエレクトロニクスは、電力の直流・交流の切り替えや周波数の変換などを高速、高効率に行う技術で、電力の変換や制御は半導体素子(パワーデバイス)によって行われています。パワーデバイスの材料には、これまでシリコン(Si)が使われてきましたが、電力変換時に生じる電力ロスを削減する技術開発はもはや限界に達しており、新たなパワーデバイスの材料として炭化ケイ素(SiC)やGaNの研究が進められています。

SiCやGaNなどを用いたパワーデバイスは、その材料特性からSiと比較すると電力ロスがより少ないという利点がありますが、実用化するにはデバイスや回路としての高い信頼性が確立されていることやデバイス単体だけでなくシステム全体として簡略化・効率化が達成できることが必要になります。

現在のGaNパワーデバイスは、高速動作は可能ですが信頼性などに課題があり、GaNの材料特性を十分に生かしきれていません。そこでGaN-OILでは、結晶欠陥や製造プロセスのばらつきとデバイス特性の関係の解明や新たなデバイス構造・製造プロセスの開発、さらには単なるデバイス開発に留まらず、回路技術にも踏み込んだ開発を推進して、今後一層の省電力化が求められる自動車、家電分野や、研究開発の加速が期待されるロボット分野への技術の普及を目指します。

2) 窒化物半導体を用いた発光デバイス技術の開発

これまでGaNは、青色LEDなどの実現を通じて発光デバイスとしての利用範囲を広げてきました。そのポテンシャルはまだまだ大きく、GaN高指向性・高輝度LEDの研究、インジウム(In)含有量の多いInGaN結晶成長による発光波長制御技術の開発に焦点を当てて進めていきます。

GaN高指向性マイクロLEDは、光の方向を集中させることができるためエネルギー効率がよく、次世代の携帯型・ウェアラブル型情報機器用の低消費電力ディスプレイや高耐温・高速光通信用モジュールへの活用が期待されています。しかし、安定した指向性を実現する技術は未だ確立されておらず期待される省電力性能は実現されていません。そこでGaN-OILでは、産総研が提案する独自の指向性制御技術をもとに、GaN/InGaNの結晶成長技術で世界最高水準の実績を持つ名古屋大と連携し、GaN系高指向性LEDの開発と実用化を推進していきます。

また、真空状態を必要としない準大気圧プラズマ源搭載MO-CVD(有機金属化学気相成長法)によるIn含有量の多いInGaNの結晶成長技術を確立すれば、窒化物半導体によるフルカラー発光デバイスの実現や、全く新しい機能を有する電子デバイスなどの研究開発にもインパクトを与えることが予想されます。


GaN-OILでは、窒化物半導体の結晶成長など基礎物性に関する高い研究ポテンシャルをもつ名古屋大とクロスアポイントメント制度などを活用して、窒化物半導体デバイス開発のための技術シーズのくみ上げと人材連携を行い、産業界への「橋渡し」研究を進めていきます。また、NEDOプロジェクトなどを通じて国内企業と共同研究を行い、より実用化に近い技術開発を進め、GaNデバイスに関する研究開発を推進していきます。

開所式の様子

平成28年4月12日(火)、名古屋大学東山キャンパスに設立した「産総研・名大 窒化物半導体先進デバイスオープンイノベーションラボラトリ」(GaN-OIL)の開所式を行いました。

中鉢理事長の挨拶・設立趣旨説明の後、名古屋大学 松尾総長より開会ご挨拶、経済産業省、文部科学省、愛知県、産業界からのご来賓よりそれぞれご祝辞を賜りました。

式典の後半では、名古屋大学 天野教授の記念講演の後、清水ラボ長(産総研)と宇治原副ラボ長(名古屋大学)よりGaN-OIL研究方針・内容紹介、NEDO佐藤理事よりプロジェクトについてご紹介いただきました。

多くの方にご来場いただき、エネルギー問題の解決や高度情報化社会の実現に寄与できる窒化物半導体技術の開発と、産学ネットワークの構築による橋渡し機能の強化を目的に設立された、初の産総研オープンイノベーションラボラトリ(OIL)となるGaN-OILをご披露しました。

記念写真
記念撮影
  設立趣旨を説明する中鉢理事長の写真
設立趣旨を説明する中鉢理事長

用語の説明

◆オープンイノベーションラボラトリ(OIL)
経済産業省が平成28年度から始める「オープンイノベーションアリーナ」事業の一環として行われるもので、卓越した基礎研究に基づく技術シーズをもつ大学などに近接した研究拠点を産総研が設置し、当該大学と産総研が集中的・組織的に研究を行うことで、技術の実用化・「橋渡し」の加速化、あるいは「橋渡し」につながる目的基礎研究を強化することを目的としたものです。[参照元へ戻る]