産総研:ニュース

お知らせ記事2009/04/01

「活断層・地震研究センター」を設立
-地震の将来予測を目指して-

ポイント

  • 地表の活断層から地下深部の震源断層までを一体的にとらえ、統合的に研究を推進するため、「活断層・地震研究センター」を設立
  • 地震災害の軽減を目指し、地形・地質・地球物理・地震工学などの分野を融合して研究を実施
  • 将来の地震活動と被害の予測研究を進め、地震災害の軽減に役立つ情報を提供していく

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)は、地震災害の軽減に役立つ情報提供を目指し、将来の地震活動と被害の予測研究を進めるため、活断層・地震研究センター【研究センター長 岡村 行信】(「以下「本研究センター」という」)を平成21年4月1日に設立しました。

 今後30年間の東海・東南海・南海地震の発生確率は50%以上に高まっており、また、21世紀に入って内陸地震が多発していることから、今世紀の前半の日本列島は、複数の大きな地震に襲われる可能性が高いと考えられています。これらの地震による被害をできる限り小さくするために、地震の予測が期待されています。この期待に応えるために、産総研では、従来の活断層研究センターと地質情報研究部門に属した地震関連研究グループを統合し、地形・地質・地球物理・地震工学などの専門分野の研究者が活断層および地震研究を融合的に推進して、「地震を総合的にとらえる研究」を開始します。

 本研究センターは、ミッションとして(1)内陸地震の評価手法の高度化、(2)海溝型地震の評価手法の高度化、(3)地震災害予測モデルの高度化を掲げ、過去の地震発生履歴や発生様式の解明を進めつつ、地殻変動や地震活動の観測データに基づいた物理モデルの研究開発を進め、地表の活断層から地下深部の震源断層までを一体的にとらえることによって、今後発生する地震の場所・規模・時期の発生確率の予測精度を向上し、その際の被害状況の予測するための研究を進めていきます。

新研究センターが目指す分野融合的な研究の展開図
新研究センターが目指す分野融合的な研究の展開

社会的背景

 兵庫県南部地震(平成7年1月17日発生)を契機に、国は地震調査研究推進本部を設置し、地震災害から国民の安全を守るため活断層・地震に関する調査・研究を大きく強化してきました。その一環として、過去10年あまりの期間にわたって、100以上の主要活断層の調査・評価および日本全国の強震動予測を進めてきました。しかしながら、最近多発している地震には、それらの主要活断層以外を震源とするものがあります。特に新潟県中越沖地震(平成19年7月16日発生)は危険性が十分に認識されていなかった沿岸域の活断層で発生し、原子力発電所に大きな被害を与えました。このことは、日本列島には未だ多くの未調査の活断層が存在することを示しており、さらに今までの活断層調査・研究手法だけでは地震防災に十分に貢献できないということも明らかになりました。

 一方、駿河トラフおよび南海トラフ沿いでは、歴史記録に基づいて、100-200年間隔でマグニチュード8を超える大地震が繰り返し発生することが知られており、次の東海・東南海・南海地震の今後30年間の発生確率は50%以上であると予測されています。また、東海・東南海・南海地震の前後には内陸地震が多発することも歴史記録から知られており、最近の地震発生状況は、過去の東海・東南海・南海地震発生前の状況とよく似ています。

 以上のようなことから、今世紀の前半の日本列島は、複数の大きな地震に襲われる可能性が高いと考えられています。そのような状況の下、地震調査研究推進本部は「あらたな地震調査研究の推進について - 地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策 -」をまとめ、地震災害を軽減するために、南海トラフ沿いの地震や重要な内陸地震の調査観測を強化する政策を打ち出しています。

 上記のように活断層および地震研究の必要性が高まっている中で、今までの活断層調査が、最近発生した地震に対する防災には十分に役立っていないという指摘もあります。このような指摘に応えるために、活断層および地震に関する正確な情報提供と地震防災・減災に結びつく調査研究が、今求められています。

設立の経緯

 産総研は、日本列島に分布する主要な活断層の調査を進め、平成13年の活断層研究センターの設立をきっかけに、活断層の研究だけでなく、海溝型地震の研究や地震動などの地震災害の予測の研究も進めてきました。活断層の研究では、産総研による活断層調査だけでなく、他機関による調査情報も収集し、活断層データベースをインターネットで公表するとともに、全国主要活断層活動確率地図を発行するなど、活断層研究のナショナルセンターとしての役割を果たしてきました。

 海溝型地震の研究では、北海道東部沿岸域で歴史記録にはない巨大な津波が発生したことを明らかにし、その後発生したスマトラ島沖地震(平成16年12月26日発生)は北海道東部沿岸域と同様な津波が発生したものとして、世界的な注目を集めました。それ以降、同じような巨大津波の発生履歴は、仙台平野、チリ、インド洋沿岸でも解明されています。地震災害の予測の研究では、産総研の強みの一つである地質情報を活かし、大阪平野の地盤構造などに基づいた活断層の活動による地震動予測や海溝型地震による長周期地震動の研究成果などを公表してきました。

 一方、地質情報研究部門では、地震活動、地殻応力測定、地殻変動、地殻構造などの情報をもとに活断層の活動を予測するための物理モデルの構築を進めてきました。このモデルでは、特定の活断層の活動をシミュレーションによって再現することを目指しています。また、東海地震の短期予測を目指した地下水位の観測は過去30年以上継続しており、最近では、南海・東南海地震の予測のための、最先端の観測機器を複合配置した地下水等総合観測施設の整備も進めています。

 しかし、地震活動と災害の予測精度を向上させるためには、地震現象を地表の活断層から地下深部の震源断層までを一体的にとらえる必要があり、地形・地質情報に基づいた活断層・地震研究と地球物理的観測データに基づいた活断層・地震研究を統合し、調査研究することが重要になります。このようなことを受けて、産総研は地震災害を軽減することを目標とする新研究センターを設立することとしました

研究センターの内容

 本研究センターは、一つの研究ユニットに地形・地質から地球物理・地震工学までの多様な専門分野の研究者が集結する特長を活かし、分野融合的な「地震を総合的にとらえる研究」を推し進めます。また、地形・地質の調査データに基づいた過去の活断層活動・地震研究と、最近の地震活動、地下水位および地殻変動などの地球物理学的観測データに基づいた活断層活動・地震研究とを統合した地震の予測モデルの構築を進め、内陸地震、海溝型地震および地震災害の予測精度向上を目指した研究を進めます。

≪内陸地震の評価手法の高度化≫
 陸域だけでなく沿岸海域も含めた主要な活断層の調査を充実させ、その調査結果をデータベース化して情報公開します。地表に明瞭な痕跡を残さない活断層を震源とする内陸地震の発生場所と規模、発生履歴などの過去数千年オーダーの断層挙動の解明を着実に進めます。また、最近の地震活動や地殻変動などの観測データに基づいた活断層の物理モデルの開発を行います。これらを総合的に考察することにより、物理モデルによる過去数千年オーダーの断層挙動の再現と、将来の地震活動の予測精度向上を目指します。

≪海溝型地震の評価手法の高度化≫
 東南海・南海地震を対象とした地下水等総合観測施設網を拡充し、得られる観測データと既存の観測データを統合・解析して、駿河トラフ・南海トラフで発生する東海・東南海・南海地震の短期予測を目指します。また、沈み込み帯に面した沿岸域での地形・地質調査に基づいて、数千年オーダーでの地殻変動と津波発生の履歴を復元し、連動型巨大地震の履歴と発生メカニズムの解明を進め、その発生時期の予測精度の向上を目指します。

≪地震災害予測モデルの高度化≫
 活断層周辺の地形・地質調査・物理探査に基づいて、数千年オーダーの地表変形を復元し、数値シミュレーションを加えて、活断層変位に伴う地表付近の変形予測モデルの構築を目指します。特に堆積(たいせき)物の厚い平野域に分布する活断層が与える広域的な変形について、予測モデルの構築を進めます。また、地震動予測についても、地形・地質情報も取り入れた震源断層モデルや地盤構造モデルを高度化し信頼性の向上を目指します。

今後の予定

 内陸地震評価の研究として、日本列島に分布する陸域および沿岸海域の主要な活断層調査の推進と、糸魚川-静岡構造線の活断層物理モデルの構築を進めます。海溝型地震評価の研究として、東南海・南海地震を短期予測するための地下水観測施設網の拡充整備、南海トラフの連動型地震モデルの構築を進めます。地震災害予測の研究として、関東平野西縁の深谷断層の活動に伴う地表変形のモデル化を進めます。

用語の説明

◆東海・東南海・南海地震
静岡県から四国の南方沖に連続する駿河トラフおよび南海トラフに沿って発生する海溝型地震。西暦684年の白鳳地震以降、歴史資料によく記録されており、100-200年間隔で発生していることが知られている。最近では、1944年に東南海地震、1946年に南海地震が発生していることから、今世紀の前半に次の地震が発生する可能性が高いと考えられている。 [参照元へ戻る]
◆内陸地震
陸域や沿岸海域の深さ20 km以浅で発生する地震で、活断層の活動が原因であることが多い。日本ではマグニチュードは7.5以下であることが多いが、震源近くでは強い揺れを伴うことから、都市の直下で発生すると大きな被害が発生する。 [参照元へ戻る]
◆海溝型地震
プレートの沈み込み境界で発生する地震。マグニチュードは8を超えることが多く、広域的に強い地震動と大きな津波を発生する。発生間隔が内陸地震より短いことと、規模が大きいことが特徴。 [参照元へ戻る]
◆物理モデル
活断層の活動をシミュレーションで再現するためのモデル。地殻構造、断層形状、地下の応力状態、地殻変動などの情報に、岩石の破壊条件や断層面の摩擦条件などのパラメーターを加え、断層の破壊(地震)をコンピューター上で仮想的に発生させることができる。 [参照元へ戻る]
◆地震調査研究推進本部
地震に関する調査研究を政府として一元的に推進するため、文部科学省に設置された政府の特別機関で、地震に関連する総合施策の立案、調査観測計画の策定、調査観測結果の分析、評価などを行っている。 [参照元へ戻る]
◆地下水等総合観測施設
地震予測のために近年整備を進めている、地下水に加えて地殻変動や地震等も観測できる施設。東海・東南海・南海地震の発生前後に、地下水の水位等が変化したことから、それらの地震の短期予測に地下水観測が有効であると考え、東海地方から四国地方にかけて約50点の地下水観測点を保有し観測を続けている。 [参照元へ戻る]
◆沈み込み帯
太平洋などの大洋底の岩盤(プレート)が日本列島などの島弧(とうこ)の下にゆっくり沈み込む場所。日本周辺では、日本海溝や南海トラフが相当する。岩盤がこすれあう場所なので、巨大地震の発生率が高い場所である。 [参照元へ戻る]
◆連動型巨大地震
通常は別々に発生するがまれに同時に発生する地震。地震の規模が大きくなり、特に海溝型地震では巨大な津波を発生させる。その一例として、2004年スマトラ島沖地震や1707年宝永地震(南海トラフ)などが知られている。 [参照元へ戻る]
◆地盤構造モデル
地下に分布する地層や岩石の種類によって変化する3次元的な地震波伝播(でんぱ)速度の分布を明らかにしたモデル。地震動の計算には必要不可欠な情報。 [参照元へ戻る]