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ニュース

2017/08/01

構造材料開発の高度化を加速する小型加速器中性子施設の構築に着手
-中性子の透過力を生かし構造部材の内部のミクロ情報を非破壊で可視化-

ポイント

  • 小型電子加速器中性子源に基づくコンパクトな中性子材料分析施設の構築をスタート
  • 材料特性に関わる材料内部のミクロ情報を中性子で非破壊に可視化
  • 構造材料、接合接着部品、マルチマテリアル構造体などの開発を支援、自動車部材などの軽量化を加速

概要

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)は、新構造材料技術研究組合【理事長 岸 輝雄】に参画し、自動車などの輸送機器の抜本的な軽量化を目指した国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「革新的新構造材料等研究開発」(平成26~34年度)の下、産総研つくばセンターで小型電子加速器中性子源を用いたコンパクトな中性子材料分析施設の構築に着手しました。

 自動車などの輸送機器の軽量化は省エネ化社会の実現に直結します。軽量化のために、鉄鋼などの構造材料の高性能化や、一つの部材に複数の材料を用いるマルチマテリアル化のための高度な接合技術が求められています。そのためにさまざまな材料分析手法が利用されていますが、材料を壊さずに内部の情報を得る手法の重要性が高まっています。

 放射線の一つである中性子線には、比較的大きなサイズ(センチメートルオーダーの厚さ)の部材を透過する能力があるため、部材の内部を非破壊で分析できるという大きなメリットがあります。そのため大規模中性子施設の利用者数が年々増加しており、また、利便性が高い比較的小規模の中性子分析装置の研究開発や利用が進んでいます。これら中性子装置における先行研究の成果と、産総研がこれまで培ってきた電子加速器技術や量子ビーム計測技術等を融合し、構造材料の特性に影響するミクロな分布情報(結晶子サイズ、結晶構造のひずみ、結晶配向など)を可視化して提供することに特徴をもつ、産業利用に特化した小型加速器中性子施設の構築を進めていきます。

 今回構築する予定の小型加速器中性子施設の詳細については、2017年8月1日から北海道大学にて開催される第14回日本加速器学会年会にて発表いたします。

小型加速器中性子施設イメージ図
小型加速器中性子施設のイメージ図

社会的背景

 省エネ化・CO2排出量削減のために取り組むべき重要な技術開発内容の一つとして、自動車や航空機などの輸送機器の軽量化が挙げられています。軽量化の実現には、これら輸送機器に用いられる鉄鋼材料・非鉄金属材料の高強度性を維持しつつ軽量化する技術や、軽量性と強度などを両立すべく複数の素材で一つの部材(マルチマテリアル化)とするための異種材料間の高度な接合技術が必要となります。このような材料の軽量化や接合技術の高度化においては、素材内部や接合界面におけるミクロな構造や欠陥の詳細な情報が重要であり、構造材料・部材に対する分析技術の重要性が年々高まっています。

経緯

 材料の分析・評価を行うために、電子線やX線などを用いた解析技術があります。しかし、分析前の試料の薄片化や、表面研磨などの前処理が必要な場合が多く、比較的大きなサイズの試料、例えば部材そのものの非破壊分析への適用は困難です。

 中性子線は物質に対する透過力が極めて高いため、比較的厚い試料の内部情報を非破壊で直接観察できるといった利点があります。例えば、鉄鋼では実際に部材として用いられる状態に近い厚さ(ミリメートルからセンチメートルオーダー)の試料を分析することができます。そのため、中性子線を用いた解析技術は、構造材料などに適用する研究が進み、応用されつつあります。国内では現在、大規模中性子実験施設であるJ-PARC MLFや、小規模中性子実験施設である北海道大学HUNS、理化学研究所RANSなどが利用できます。大規模施設では高強度かつ高品質な中性子線を用いた高精度な分析が行われています。一方、小規模施設でも計測技術の進歩によって分析精度が日々向上しており、小規模ならではの利便性を活かした利用が進んでいます。今後、中性子による分析の需要はますます増えると期待されます。

 今回、我々は産総研がこれまでに培ってきた加速器技術と中性子関連技術を駆使して、材料分析とそれを基にした材料の高度化をより迅速に進め産業界へ橋渡しをすべく、産業利用に特化するというコンセプトのもと小型の中性子施設の構築を2019年度の運用を目指してスタートさせました。

事業の内容

 今回構築する小型加速器中性子施設は、産業利用に特に効果的と期待される「ブラッグエッジイメージング法」という分析手法に重点化した、他の小規模中性子施設にないコンセプトで構築します。ブラッグエッジイメージング法とは、中性子線のエネルギー毎に材料の透過強度を検出し、画像化してとらえるというもので、構造材料の結晶子サイズや結晶構造のひずみ、結晶配向などについて、材料内での分布状態を視覚的に分析することができます。

 本装置は、主に電子加速器と中性子発生部と中性子計測用ビームラインから構成されます(図参照)。通常、中性子を発生するためのエネルギー源には電子ビームや陽子ビームが用いられますが、本装置では特に高強度な短パルス電子ビームを発生できる電子加速器を活用します。加速した電子ビームを中性子発生装置内の金属ターゲットに照射して、高エネルギー中性子を発生させます。この高エネルギー中性子(速中性子)を、ブラッグエッジイメージング法に適した低エネルギー中性子(熱中性子)にまで冷却(減速)するために、中性子減速材を用います。得られた熱中性子を構造材料に照射し、透過した中性子強度を二次元型中性子検出器でエネルギーごとに計測します。

 本装置では中性子減速材に、高いエネルギー分解能が得られる非結合型を採用します。非結合型中性子減速材は一般的に中性子の強度が弱くなるデメリットがありますが、減速材形状の最適化や、10 kWクラスの高出力な電子加速器の利用などにより、中性子の強度を維持した解析装置の構築を目指します。

 将来的には、材料内部の結晶子サイズや結晶構造のひずみなどの分析結果を画像として見た目にも分かりやすくユーザーに提供するなど、小型でユーザーフレンドリーな加速器中性子施設としての運用を目指していきます。

用語の説明

◆電子加速器
電子銃から出た電子ビームを加速する装置(加速器)。加速器には、高エネルギー物理学実験用、殺菌用等、用途や大きさもさまざまなものがある。今回構築を開始する本施設では、中性子の発生に全長約10メートルの電子加速器を用いる。[参照元へ戻る]
◆中性子
陽子と共に原子核を構成する粒子。陽子と異なり電荷をもたない。単独では不安定で、約10分で電子と反電子ニュートリノ(素粒子のひとつ)を放出して陽子になる。原子炉や加速器を用いて発生した中性子は、素粒子物理、原子核物理、物質科学、生命科学などの最先端研究等に利用されている。[参照元へ戻る]
◆結晶子サイズ、結晶構造のひずみ、結晶配向
実用金属材料は、原子が規則正しく並んだ結晶子で構成されている。内部応力が残留していると原子面間隔が変化する(この変化を結晶構造のひずみと呼ぶ)。結晶子の大きさ、結晶格子欠陥によるひずみ分布、結晶方位等が材料特性を支配するので、これらの定量測定への関心が高い。[参照元へ戻る]
◆ブラッグエッジイメージング法
中性子を用いた分析手法のひとつ。中性子分析手法には他に、小角散乱法、回折法、反射率法、放射化分析法、ラジオグラフィーなどがある。[参照元へ戻る]
◆非結合型中性子減速材
中性子を材料分析に適した速度にまで減速する減速材には、エネルギー分解能を重視した非結合型と、強度を重視した結合型とがある。今回構築を開始する本施設では、非結合型減速材を採用する。[参照元へ戻る]

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