産総研:ニュース

お知らせ記事2015/04/01

理事長 挨拶:「ナショナル・イノベーションシステムの中核を担う」
~産総研第4 期中長期計画の目標~

社会・産業構造の変化する時代に

国立研究開発法人産業技術総合研究所 理事長 中鉢良治(ちゅうばちりょうじ)の写真
国立研究開発法人産業技術総合研究所
理事長
中鉢 良治(ちゅうばち りょうじ)
2015年4月から産総研の第4期が始まりました。
第1期は、経済産業省傘下の15研究所と計量教習所が統合され、独立行政法人となった2001年に始まり、研究所としての基本骨格を確立、整備しました。
2005年からの第2期では研究所内組織の融合が進み、地域との連携が活発化し、産業技術の総合研究所として、活動が軌道に乗ってきました。
そして、2010年に始まった第3期では、持続可能な社会構築を目指して、グリーン・テクノロジー、ライフ・テクノロジーを中心に基礎研究から実用化までを統合的に行う「本格研究」を推進し、外部研究機関との連携を活発化するオープンイノベーション・ハブ構想を進めてまいりました。
2011年3月の東日本大震災は、多くの貴重な人命と財産を失っただけでなく、エネルギーの安定供給という大きな課題を残しました。被災地の産業復興という問題も継続して取り組まなければなりません。また、以前より想定されていた総人口の減少と高齢化は、特に地方において、人々の生活に影響を与え始めました。
気候変動や地球温暖化、水資源や食糧問題など、地球規模の課題も山積し、日本の貢献は国際社会からも期待されています。
一方、日本の産業を見ると、最先端を走る技術を持ち、優れた製品を送り出してきた競争力ある企業が次第に減少してきており、今日では自動車などの一部産業を除いて、世界市場における存在感が希薄になっています。日本企業が、再び世界で活躍し、産業をリードするためには、日本発のイノベーションを数多く生み出すシステムを、日本全体として構築していく必要があります。

世界最高水準の研究と成果の「橋渡し」

私たち産総研には、日本で最大級の公的研究機関として、我が国の社会と産業が抱えるこれらの課題解決に貢献し、科学・技術の力を持って社会・産業の指針を示すことが期待されています。それと共に、日本全体としてイノベーションを継続的に創出するために必要なイノベーションシステムの構築に、産総研が中核的な役割を担うことが強く求められております。
今般、第4 期の事業を開始するに当たり、私たちは、自らの目指す姿を次のように定めました。


私たちは、「社会ニーズ、産業ニーズを踏まえた世界最高水準の研究とその成果の “橋渡し”により、イノベーションの中心となって持続可能な社会の実現に貢献し、社会から信頼される研究所」を目指す。


世界をリードする日本の産業を支え、日本が科学・技術で国際的に貢献するためには、産総研は世界最高水準の研究活動を推進しなければなりません。また、研究成果を効率よく 「橋渡し」するには、研究内容が社会のニーズ、産業のニーズを的確に捉えることが必要です。
産総研は、基礎から応用・実用化まで統合的な研究活動を行ってまいりましたが、今後基礎研究は、将来の「橋渡し」に繋がることを明確に想定した「目的基礎研究」と位置づけます。この考え方の下に、応用研究に発展させ、更に実用化に向けて研究を進め、研究成果の「橋渡し」を目指します。この「 橋渡し」のためには、社会や産業のニーズを的確に把握し「目的基礎研究」として具現化させる機能と、産総研の研究成果を企業等のニーズに結び付け事業化を促進する機能が必要です。産総研は、これらの機能を技術マーケティングとして、その役割を明確化し、活動体制を整備してまいります。
また、産業界により利活用いただけるよう、相互に関連する技術を分かりやすく集合化し、7 つの領域 (5 領域・2 総合センター)に再編しました。
新しい領域は、①エネルギー・環境、②生命工学、③情報・人間工学、④材料・化学、⑤エレクトロニクス・製造、の5領域と⑥地質調査総合センター及び⑦計量標準総合センターとなります。
2014 年度、研究開発力強化法の改正により、産総研は、研究成果を事業活動に利用する企業等に現物出資することが可能となりました。また、2014 年11月には、企業等との共有特許についての方針を変更し、共有者がその特許を非独占的に使用する場合は補償料を請求しないこととするなど、企業等との連携を促進するための環境整備を進めております。

地域の産業と経済への貢献

地域の産業と経済の再活性化は、日本経済にとって重要かつ喫緊の課題であり、産総研が果たすべき役割は大きいと認識しています。
産総研は国内7カ所に地域センターを有し、それぞれの地域の産業構造や技術シーズ、地域のニーズに適合した研究開発に重点的に取り組み、その成果を地域企業に還元する活動を続けています。今後は、地域センターの 「橋渡し」機能を更に強化するために、各拠点の研究開発能力を再評価し、地場の産業集積や地域に存在する大学・公的研究機関などの地域的特徴を踏まえて、各地域センターの役割を明確化してまいります。地域センターは、本部との緊密な連携の下、世界最高水準の研究体制を保持し、地域の大学や企業などとの人事交流を進め、地域に必要な技術シーズの研究開発に取り組み、地域産業への 「橋渡し」にこれまで以上に注力いたします。

開かれた組織・開かれた人材

第3期より産総研はオープンイノベーション・ハブ構想を推進しています。
つくばイノベーションアリーナ・ナノテクノロジー拠点(TIA-nano)では、外部の研究者が、産総研の研究者と共同で研究開発ができるよう優れた環境を提供しています。また、TIA-nanoに加えて、福島再生可能エネルギー研究所及びバイオ・IT融合研究拠点である臨海副都心センターも、オープンイノベーションプラットフォームとして、大学・他の研究機関・企業などが活用できる体制を整えると共に、諸外国の研究機関との連携を進め、国際的な研究開発の場としても発展させてまいります。
このための人事施策の一つとして、クロスアポイントメント制度を創設し、大学や企業の研究者が、産総研にも籍を置いて研究活動を行えるようにいたします。
この制度により、他の研究機関との協力・連携が密接になるだけでなく、企業等に対しての「橋渡し」活動も円滑に進むことを期待しております。さらに、この制度により、大学の先生方が産総研で学生を指導することも可能となり、先に制度化した大学院生を受け入れるリサーチアシスタント制度の活用と合わせて、次の時代の人材育成に大いに貢献することができるものと考えております。

「そうだ、産総研があった」

先に述べましたように、これからの日本にとって、いわゆるナショナル・イノベーションシステムの構築が不可欠です。これは、政府、地方自治体、大学、企業、そして私たち公的研究機関が力を合わせて作り上げなければなりません。
産総研は、研究成果の 「橋渡し」とオープンイノベーション・ハブ機能、そして人材育成を通して、日本のイノベーションシステムの構築と運用に中核的な役割を務めたいと考えています。
第4 期は、産総研として優れた研究成果を生み出すことに注力すると共に、企業や大学が、研究開発活動のパートナーとして、「そうだ、産総研があった」と思い起こしていただけるような活動と実績を積み重ねてまいる所存です。
皆様の益々のご理解とご支援をお願い申し上げます。