お知らせ

お知らせ記事2015/01/01

理事長年頭所感
-新春に想う 2015-

革新的な技術シーズの「橋渡し」で日本の社会と産業の発展に貢献したい 理事長 中鉢良治

はじめに

新年明けましておめでとうございます。昨年は、為替市場における円安傾向の定着もあって、製造業を中心に多くの企業が業績を改善させ、雇用環境も一部で回復するなど、産業界にとっては明るい話題が増えた一年でした。

しかしながら、日本の社会は、依然として多くの課題と将来に対する不安を抱えています。エネルギーコストの上昇と供給問題、地球温暖化とそれに伴う諸問題、少子高齢化問題などは、避けては通れない喫緊にして継続的な課題です。また、昨年は地方の産業と経済の疲弊が大きく取り上げられ、地方を再活性化する「地方創生」の動きが際立った年でもありました。

現在、日本の社会と産業が直面しているこれらの課題や将来の潜在的課題に対して、政府、地方自治体、公的機関、企業、大学などがさまざまな取り組みを行っています。その中で、私たち産総研は、産業技術を中心に研究・開発活動を進め、新たなイノベーションを創出することで、公的研究機関として日本の社会と産業に貢献してまいりたいと決意を新たにしています。


福島再生可能エネルギー研究所を郡山市に開設

昨年4 月、福島再生可能エネルギー研究所が、福島県郡山市にオープンいたしました。開設にあたりましては、政府、福島県、郡山市、関係企業ほか、多くの方々にご支援いただきました。

当研究所は、将来、日本が再生可能エネルギーの大量導入を実現するために必要な種々の技術開発を推進します。次世代太陽電池モジュール開発、高効率風車技術、水素キャリア製造・利用技術、地熱・地中熱利用のための評価技術などを総合的に行うとともに、発電と蓄電を組み合わせた再生可能エネルギーネットワークの実証実験も進めています。また、この研究所は国際的な研究拠点として、米国立再生可能エネルギー研究所と包括研究協力覚書を結ぶ一方で、福島県を中心とする東北地方の企業・大学と共同研究開発を行い、成果の事業化を推進することで、東北地方の産業活性化に貢献し、復興活動を支援する役割も担っています。

将来、この福島再生可能エネルギー研究所を中心に、新しいイノベーションが次々と生まれ、企業との協業が活発化し、日本を代表する再生可能エネルギーの研究拠点となるよう、産総研全体として注力してまいります。


技術シーズの「橋渡し」

現在、産総研は、2015年4月より実行する新たな中長期計画を策定しています。この中長期計画につきましては、作成完了後、その内容を改めてご説明したいと考えておりますが、この計画の一つの柱となりますのが、革新的な技術シーズを製品化・事業化に磨き上げていく「橋渡し」機能の強化です。

ご承知のように、産総研は基礎研究から製品化に至るまで幅広い研究を行っており、また、その内容は国際的にも上位レベルにあると評価されるものが多く含まれています。加えて、私たちは、この数年、産業界との協業基盤を構築・強化するため、企業とのネットワークづくりを着々と進めてきました。

日本でも有数の豊富な技術シーズと産業界との協業基盤を併せもつ産総研は、これらのリソースを活用することにより、技術シーズを民間企業に「橋渡し」し製品化・事業化していく研究所として、日本の社会や産業界から強く期待されています。

「橋渡し」機能の強化は、日本企業が再び力を取り戻し、経済を活性化するためのイノベーション創出による産業支援であり、「技術を社会へ」を標榜する産総研のミッションにも合致する方針です。


人材の育成と交流
 

技術シーズの橋渡しとイノベーション創出の最大の鍵は、いうまでもなく人材です。産総研は、これまでも幅広い研究分野において、優秀な研究者を積極的に採用し、その育成に取り組んできました。昨年度は、能力ある大学院生に、有給で研究業務に従事する機会を提供するリサーチアシスタント制度を創設し、運用を始めました。今後も、このような人材採用に加え、企業が行っている研究開発の現場を研究者に実際に経験させるなどのプログラムにより、成果の事業化に対する理解と意欲を高め、実践的な研究者を養成してまいります。

さらに、産総研として、企業やほかの研究機関からの研究者・技術者を受け入れ、共同研究や事業化に向けての協業を進めると同時に、つくばイノベーションアリーナ ナノテクノロジー拠点、福島再生可能エネルギー研究所、臨海バイオ・IT融合研究拠点など、産総研がもつオープンイノベーションプラットホームを活用して、国際的な産学官連携拠点の形成を目指します。


中小企業・ベンチャー支援と地方創生

日本の産業の強さの一つは、優秀な技術・技能をもつ中小企業が元気に活動できることです。産総研は、これまでも中小企業に対し、共同研究・人材育成などの面で支援を行ってきましたが、研究開発力強化法の改正により、昨年度より、知的財産や施設・設備などの現物出資もできるようになりました。

これにより、産総研は、高い技術力をもちながら、研究設備や人材などの制約で事業化に苦労している中小企業やベンチャー企業を、これまで以上に包括的に支援することが可能となりました。

先に述べましたように「地方創生」は日本の喫緊の課題の一つです。

産総研は全国7カ所に存在する地域センターを核として、各地域にある公的機関、大学などと連携しながら、地方の産業・企業の課題解決に取り組み、地域経済の活性化に貢献してまいります。


おわりに

昨年のご挨拶でお伝えしました「豊かで環境に優しい社会を実現するグリーン・テクノロジー」と「健康で安全な生活を実現するライフ・テクノロジー」は産総研の二枚看板として職員に定着し、外部の方にも徐々にご理解が広まってきています。

産総研は、この二枚看板を中心とした研究開発によって革新的な技術シーズを生み出し、それを産業界、とりわけ地方企業や中小企業・ベンチャー企業に「橋渡し」し、「持続可能な社会の構築」に貢献する、私は、理事長として、このことを改めて強く認識し、職員とともに力を合わせて、目標に向かって邁進したいと存じます。

本年も益々のご支援とご鞭撻を賜りますよう、お願い申し上げます。