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発表・掲載日:2017/06/26

走査型SQUID顕微鏡による磁気イメージングの地質学への応用

-海底のマンガンクラストから過去の気候変動と年代を推定-

ポイント

  • 地質試料用の走査型SQUID顕微鏡によりマンガンクラストを高分解能磁気イメージング
  • マンガンクラストの形成年代の推定と過去の気候変動の影響の検出に成功
  • 地球環境変動の非破壊精密復元に期待


概要

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質情報研究部門【研究部門長 田中 裕一郎】地球変動史研究グループ 小田 啓邦 上級主任研究員、佐藤 雅彦 研究員、野口 敦史 リサーチアシスタントと、金沢工業大学【学長 大澤 敏】先端電子技術応用研究所【所長 上原 弦】(以下「金沢工業大学」という) 河合 淳 教授、国立大学法人 高知大学【学長 脇口 宏】(以下「高知大学」という)大学院生 野口 敦史、臼井 朗 教授、山本 裕二 教授は、走査型SQUID顕微鏡を用いて海底のマンガンクラスト試料に残された磁気的記録を高分解能でイメージングし、年代の推定を行うとともに、過去の気候変動について検討した。

 この成果では超伝導量子干渉素子(SQUID)を利用した走査型SQUID顕微鏡を用いてマンガンクラストの薄片表面を0.1 mmの高分解能で磁気イメージングして、過去の地球磁場逆転の磁気的な記録を測定し、標準地球磁場逆転年代軸との比較(図)によって形成年代を推定した。また、試料に含まれる磁性鉱物の組成が約300万年前を境に変化したことが確認され、気候変動の影響によると推定された。

 なお、この成果の詳細は、2017年6月3日に米国の学術誌Geophysical Research Lettersにて発表された。

マンガンクラスト薄片試料の表面磁場を光学顕微鏡画像に重ね合わせた図
マンガンクラスト薄片試料の表面磁場を光学顕微鏡画像に重ね合わせた図
赤が画面上向き、青が画面下向きの磁場を示す。右は分析したマンガンクラストの断面。


開発の社会的背景

 マンガンクラストには数千万年にわたる海洋環境や気候変動の記録が残されており、その正確な形成年代を決めることで、長期にわたる過去の地球環境情報の精密な復元が期待される。これまでマンガンクラストの形成年代の推定は、化学分離と加速器質量分析装置によるベリリウムなどの同位体分析が主な方法であったが、手間や時間がかかるという課題があった。そのため、迅速に正確な形成年代と成長速度が推定できる計測法が望まれていた。

研究の経緯

 2011年に産総研は、高知大学、マサチューセッツ工科大学、ヴァンダービルト大学とともに世界で初めて0.1 mmの分解能でマンガンクラストに記録された地球磁場逆転の痕跡を測定し、その形成年代と成長速度を推定した(2011年2月28日プレス発表)。当時、分析にはヴァンダービルト大学の走査型SQUID顕微鏡を用いたが、その後、産総研は国内で初めて常温・常圧の試料を分析できる同じタイプの地質試料用の走査型SQUID顕微鏡を、金沢工業大学および(株)フジヒラをはじめとする関連企業と協力して製作した。ヴァンダービルト大学の走査型SQUID顕微鏡は液体ヘリウムだけでなく液体窒素も必要としたが、産総研の装置は液体ヘリウムのみで動作可能となり、連続運転時間が延びたことで計測時間がかかる分析も可能になった。この装置を用いて海底のマンガンクラストの磁気イメージングを進めてきたが、詳細な形成年代を明らかにするとともに、マンガンクラストの形成環境と気候変化との関係について検討した。

 なお、本研究は、独立行政法人 日本学術振興会の科学研究費補助金基盤研究(A)「SQUID顕微鏡による惑星古磁場の先端的研究の開拓」(平成25~28年度)による支援を受けて行った。

研究の内容

 今回の対象は、国立研究開発法人 海洋研究開発機構の2009年の調査航海で南鳥島南西方約150 kmの水深約2200 mに位置する海山の露頭から採取したマンガンクラストである。高品質薄片試料を産総研 地質標本館の高度な乾式薄片作成技術により作製し、地質試料用の走査型SQUID顕微鏡(図1)を用いて0.1 mmの高分解能で、この薄片表面の磁気イメージングを行った。2つの分析範囲についてクラストの成長方向の平均表面磁場分布を求めて地球磁場逆転境界の位置を決定し(図2)、標準地球磁場逆転年代軸と対比して年代を推定した(図3 左)。推定した年代から、成長速度は平均で百万年あたり3.4 mmと推定された。同じ試料のベリリウム同位体分析による成長速度の推定値は百万年あたり2.9 mmであり、両者はおおよそ一致していた(図3 右)。

 また、マンガンクラストに含まれる磁性鉱物の保磁力の磁気イメージングから、300万年前から現在にかけて保磁力が高い磁性鉱物が増えていることが確認された(図4)。これは一般的に知られている約280万年前の北半球の氷床発達にともなってユーラシア大陸から風で運ばれる土壌粒子が、マンガンクラストが成長した場所まで以前よりも多く運ばれるようになったためと考えられる。

走査型SQUID顕微鏡の測定部の図
図1 走査型SQUID顕微鏡の測定部
最下部のサファイア窓に薄片試料を押しつけながらXY方向に走査して磁場の鉛直成分を0.1 mm間隔で測定する。液体ヘリウムで冷却されたSQUID素子により高感度で測定できる。

マンガンクラスト薄片試料の磁気イメージ(右、中央)と光学顕微鏡像(左、中央)の図
図2 マンガンクラスト薄片試料の磁気イメージ(右、中央)と光学顕微鏡像(左、中央)
上が試料表面。赤が画面上向き、青が画面下向きの磁場を示す。中央は左右の図を重ね合わせたもの。AとBの2つの領域それぞれの横方向の磁場平均値を図3左に示す。

マンガンクラストの成長方向(図2の縦方向)の平均表面磁場の分布(左上:図2のA; 左下:図2のB)、標準地球磁場逆転年代軸(左中央)と成長速度線(右)の図
図3 マンガンクラストの成長方向(図2の縦方向)の平均表面磁場の分布(左上:図2のA; 左下:図2のB)、標準地球磁場逆転年代軸(左中央)と成長速度線(右)
標準地球磁場逆転年代軸では、黒が正磁極期、白が逆磁極期を示す。成長速度線では、青がA、赤がB。黒はベリリウム同位体分析による成長速度線。

マンガンクラスト薄片試料の磁性鉱物の成分分布を示した図
図4 マンガンクラスト薄片試料の磁性鉱物の成分分布を示した図
上が試料表面。図左は光学顕微鏡像、図右は磁性鉱物の分布、図中央はこれらを重ね合わせた図。図の右側に図3の年代モデルを元に推定した年代軸を示す。約300万年前から高保磁力の部分(青色)がパッチ状に増えている。また、高保磁力部分はマンガンクラストの柱状構造の隙間に対応している。

今後の予定

 今後は開発した走査型SQUID顕微鏡に液体ヘリウム液化循環装置を導入して連続運転できるようにし、迅速にマンガンクラストの年代を非破壊で推定できるようにする。また、成長過程の解明と長期間にわたる地球環境を復元し、将来の環境変化予測に貢献する。

問い合わせ

地質情報研究部門 地球変動史研究グループ
上級主任研究員  小田 啓邦  E-mail:hirokuni-oda*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)



用語の説明

◆マンガンクラスト
海底の露岩などの表面に殻(クラスト)のように成長する鉄とマンガンの酸化物を主成分とした鉱物。1 mm程度の薄いものから最大で厚さ40 cmのものまで存在する。成長は極めて遅く、数千万年かけて成長したものもある。成長速度が遅く陸起源の物質の影響が少ないため、過去の海洋環境変動や気候変動の長期にわたる記録が残っていると期待される。隕石など地球外物質の痕跡を含む場合もある。コバルト・ニッケル・白金・チタンなどを微量金属として含む。[参照元へ戻る]
◆超伝導量子干渉素子(superconducting quantum interference device; SQUID)
超伝導状態で作動する量子効果に基づく磁気検出素子。微弱な磁場の測定に使用される。液体ヘリウム温度で作動する低温超伝導SQUIDと液体窒素温度で作動する高温超伝導SQUIDがある。[参照元へ戻る]
◆走査型SQUID顕微鏡
微小な検出コイルを持つ高感度なSQUID磁気センサーを用いて、試料表面のごく近くの微弱な磁場の分布を顕微鏡スケールでイメージングできる装置。磁気センサーと同じ極低温の真空容器に試料を入れ、センサーとの距離を近づけて高分解能測定できるタイプと常温・常圧の試料を測定できるタイプがある。半導体や超伝導物質の分析、機械部品の亀裂確認を目的とした非破壊検査などに用いられる。[参照元へ戻る]
◆地球磁場逆転、標準地球磁場逆転年代軸
現在の地球磁場は地球の中心に置かれた棒磁石で近似でき、北極が磁石のS極に対応し、方位磁石のN極が北を指す(正磁極期)。この地球磁場の極性は最初に発生してから何度も逆転してきた。最も新しい地球磁場逆転は78万年前で、その直前は北極が磁石のN極に対応し、方位磁石のS極が北を指していた(逆磁極期)。これら地球磁場逆転の起こった年代はこれまでの研究から正確にわかっており、標準地球磁場逆転年代軸として確立されている。この標準地球磁場逆転年代軸と未知の試料に連続的に記録された地球磁場逆転の境界を1つずつ対応づけることで試料の年代が推定できる。[参照元へ戻る]
◆加速器質量分析装置
対象とする元素イオンや元素を含む分子イオンを加速器で加速し磁場をかけてイオンの軌道を変え、質量の異なる同位体を分離・検出できる装置。[参照元へ戻る]
◆同位体分析
各種元素を試料から化学分離した後にその元素の同位体存在量や同位体比を求める分析。半減期がわかっている放射性同位体(今回の研究では大気中で宇宙線により生成される質量数10のベリリウム同位体)の同位体分析を行うことにより、地質試料の年代を推定できる。[参照元へ戻る]
◆保磁力
強磁性体は自発磁化を持ち、結晶方位や形状などに関係した複数の磁化しやすい方向を持つ。これらの磁化方向を変化させるのに必要な外部磁場の強さのことをいう。磁性鉱物の種類や粒子サイズなどによって異なる値を示すことが知られている。[参照元へ戻る]
◆北半球の氷床発達
海底堆積物などから過去の地球環境を復元する研究により、約280万年前から南半球の南極氷床に加えて北半球の氷床が発達し、地球の寒冷化が進んだとされている。ほぼ同時期に、中国内陸部で乾燥-湿潤のサイクルを示す堆積物がみられるようになった。[参照元へ戻る]


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