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発表・掲載日:2017/06/23

地下構造が推定できる「重力図」の和歌山地域版が完成

-断層の位置や地下に眠る鉱物資源の発見、観光開発に貢献する重力値-

ポイント

  • 断層の位置や地下の鉱物資源の有無が推定できる「重力図」の和歌山地域版が完成
  • 地域別重力図として初のデジタル版の公開により、ウェブサイトから誰でも利用可能に
  • 防災・減災、資源探査、観光開発などへの貢献に期待


概要

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質調査総合センター 地質情報研究部門【研究部門長 田中 裕一郎】地球物理研究グループ 宮川 歩夢 研究員ら、京都大学防災研究所、岡山理科大学、鳥取大学は、20万分の1の「和歌山地域重力図」を完成し、平成29年3月に出版した。

 現在、地質調査総合センターでは、全国の「重力図(ブーゲー異常)」40枚を順次作成中で、今回の和歌山地域は32枚目に当たる。地表面の重力は場所によって異なり、重力の測定により、断層の位置や地下の鉱物資源の有無など“地下構造”を推定できる。そのため、現在、防災・減災や資源探査などに役立てられている。また産総研では、“地表面”にどのような岩石や地層が分布しているかを表した「地質図」も作成してきた。これら重力図と地質図を照合することで、日本における地表面から地下に至るまでの詳細な地質構造の高精度な特定や、それによる日本列島の成り立ちの歴史の解明につながる。

 これら目的のため、全国の重力図の編集、出版に取り組んできた。今回の和歌山地域の重力図の完成により、その目標に一歩近づくこととなる。

和歌山地域重力図(ブーゲー異常)の画像
和歌山地域重力図(ブーゲー異常)


出版の社会的背景

 地下構造の密度の不均質性によって、重力が異なってくることを「重力異常」という。重力異常を発生させるものには、断層や鉱物資源、火山、カルデラなどがある。例えば、断層があると、地層にずれが生じるため、断層の両側で重力が異なってくる。また、地下に金属鉱床があると、周囲の物質よりも高密度で重いため、重力が増加する。さらに、重い玄武岩質の火山地帯では、重力が増加する一方で、カルデラがある場所では、密度の低い火山性堆積物により、重力が減少する。このように、地表面から重力分布を測定することで、地下構造を推定できるので、重力値はこれまで防災・減災や資源探査などに広く利用されてきた。また、全国の地質図を作成、整備してきた産総研では、重力図と地質図を照合することで、日本における地表面から地下に至るまでの詳細な地質構造の高精度な特定と、それによる日本列島の成り立ちの歴史の解明につながることから、重力値を重視してきた。

 しかしながら、全国を網羅した重力図は存在せず、しかも重力値が細かく測定されている場所と、まったく測定されていない場所があるなど地域や場所によって大きなムラがあった。

出版の経緯

 そこで、産総研は1990年より、全国各地の重力値を網羅的に測定し、地域別に順次31枚の重力図を出版しており、今回新たに「和歌山地域重力図」が完成し、出版するに至った。

研究の内容

 現在、重力値の測定方法には、「絶対測定」と「相対測定」の2通りがある。「絶対重力計」と呼ばれる大型の装置を使った精密な絶対重力値が、「重力基準点」として国土地理院により公開されている。しかし、重力基準点の数はごく限られる上、測定も大掛かりなので、絶対測定を補完するため陸上重力計による相対測定が行われている。これは、2点間の重力の差を求めて相対的に重力値を測定するもので、測定機器が小型で容易に屋外での測定ができる。重力の測定法には、人工衛星や飛行機によるものもあるが、いずれも広域の重力分布を測定できるが、分解能が低く、精度という面では絶対重力計や陸上重力計に大きく劣る。

 そのため、産総研では、相対測定によるさまざまな地点の重力値の測定結果から重力図を作成してきた。特に今回、出版した和歌山地域重力図では、編集に用いた重力測定点は合計1万4828点で、そのうち陸域は1万4170点、海域は658点である。陸域の1万4170点のうち、産総研が測定したのは3387点で、それ以外の測定点では、他の機関や組織から相対重力値の測定結果を提供してもらい、まとめ上げたものである。

 提供のあった機関は、名古屋大学、京都大学、帝石石油株式会社(現・国際石油開発帝石株式会社)、石油天然ガス・金属鉱物資源機構、東京大学、地学団体研究会、金沢大学、新エネルギー・産業技術総合開発機構、国土地理院、鳥取大学、米国防衛地図作成局 (現 米国全国画像地図作成局)、海上保安庁海洋情報部、静岡大学、秋田大学、中部大学、岡山理科大、千葉大学(測定点数順)である。しかし、各機関の重力観測は、防災・減災や資源探査、地質学研究などそれぞれ目的が異なるため、測定した地域や場所も大きく異なっていた。そのため、産総研は、これまで測定されていなかった地域や場所を重点的に測定、すべての測定結果を編集して和歌山地域を網羅する重力図を完成させた(図1)。

測定点の分布の図
図1 測定点の分布

 また、今回初めてデジタルデータによる出版となった。これにより、産総研のウェブサイトにアクセスすれば、誰でも簡単にデータをダウンロードして利用できる(ダウンロードサイトURL: https://www.gsj.jp/Map/JP/geophysics.html)。また、目的に応じて重力図の表示法を変更することも可能になった。重力図には、その地域の重力値を表示する上で前提となる「仮定密度」と呼ばれるものがある。これまでは、砂岩や泥岩など一般的な堆積岩の密度である2.3 g/cm3を仮定密度とし、この密度を基準に重力値を算出して重力図を表示していた。しかし、地域や場所によっては堆積岩よりも重い花崗岩や火成岩で広く覆われたところや、逆に、堆積岩よりも軽い堆積物で広く覆われたところがあり、そこでの密度に即した仮定密度を使って重力値を算出すべきである。今回、デジタルデータ化したため、仮定密度を選択できるようになり、見たい地域や場所の実態に即した重力図を簡単に表示できるようになった。例えば、火山地域では仮定密度を2.3 g/cm3よりも重い2.67 g/cm3に変更して表示したり、逆に、密度の低い火山性堆積物で地表面が覆われているカルデラのある場所では軽い2.0 g/cm3に変更して表示したりできる(図2)。

 併せて、細かい地名は表示しない、測定した地点は表示しないといったこともできるので、重力値の分布だけを見ることもできる。さらに、重力図の説明文中では重力値の変化の大きさを色で表示することもできるので、重力値が変化している場所やその度合いが色によって一目瞭然になった。

「仮定密度」を変えて表示した重力図の画像
図2 「仮定密度」を変えて表示した重力図

 一方で、今回、和歌山地域における重力図が完成したことにより、この地域では重力異常の強い場所と弱い場所があることが明瞭に示された。大阪湾やその周辺平野地域では重力異常値が低く、紀伊山地、潮岬に向かって高くなる傾向を示すが、詳細にみると紀伊半島南東部では複雑に変化している。また、日本第一級の大断層である中央構造線、大阪平野周辺の活断層である上町断層や、生駒断層は明瞭な重力変化として確認される。三波川変成岩など密度の大きい地質が地表に現れる地域では、重力異常においても高い重力異常が確認される。

 特にこの地域には、世界遺産にも指定されている「熊野古道」を含む「南紀熊野ジオパーク」がある。南紀熊野の大地は、プレートの沈み込みによって造られた3つの地質体でできた地質学的にも興味深い地域である。ここでは、1500万~1400万年前に激しい火山活動があったため、マグマが上昇して冷え固まった火成岩体と呼ばれる地質体が広がっており、今回、重力値の高さからも、昔の火山活動の痕跡を確認することができた。一方、密度の低い火山性堆積物で覆われている地域は、重力値が低くなっているため、複雑な変化を生じていることが確かめられた(図3)。このように重力図は、地表では確認できない地下構造の情報、例えば、断層や鉱床の分布を推定し、防災・減災、資源探査の計画立案に貢献する。また、ジオパークのようなその地域の地形や地史を生かした観光資源の発掘など幅広い分野で重力図の利用が進むことを期待している。

20万分の1日本シームレス地質図の3D版で富士山周辺を表示した例の図
図3 世界遺産にも登録されている熊野古道を含む南紀熊野は、1500万~1400万年前は火山地帯だった。マグマが上昇して冷え固まった火成岩体と呼ばれる地質体が広がっており、重力値の高さからも、昔の火山活動の痕跡を確認することができる
(地形図の作成にはNASA's Shuttle Radar Topography Mission (SRTM)による90m DEMを使用)

今後の予定

 今後、南アルプスや中央アルプスなどの山岳地域を中心に、まだ重力値が測定されていない地域の相対重力値を測定して残りの重力図の完成を目指す。

問い合わせ

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
地質調査総合センター 地質情報研究部門 地球物理研究グループ
研究員  宮川 歩夢  E-mail:miyakawa-a*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)



用語の説明

◆重力図(ブーゲー異常)
重力図とは、測定した重力値から「ブーゲー異常」と呼ばれる値を計算し、それを地図上に等値線(コンターライン)で示したものである。[参照元へ戻る]
◆ブーゲー異常、仮定密度
通常、重力を検討する際には、海抜0 mから測定点までに平均的な岩石があると仮定して、その岩石による引力の影響を取り除く補正を行っている。「ブーゲー異常」とは、このような補正を行った重力異常のことをいう。なお、この時に仮定する岩石の密度をここでは「仮定密度」と呼ぶ。[参照元へ戻る]




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