発表・掲載日:2013/06/19

「日本の火山(第3版)」を刊行

-日本列島の第四紀火山を一覧できる最新の火山分布図-

ポイント

  • 32年ぶりの改訂で、日本の第四紀火山の火山数が大幅に増加
  • 2009年国際地質科学連合の新時代区分に対応
  • 国土防災や学校教育現場での利活用のほか、原子力発電所の火山影響評価などへの貢献に期待

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質情報研究部門【研究部門長 牧野 雅彦】火山活動研究グループ 中野 俊 研究グループ付、火山活動研究グループ 石塚 吉浩 研究グループ長、山元 孝広 総括研究主幹らは、200万分の1縮尺の地質編集図「日本の火山(第3版)」を2013年5月10日(地質の日)に産総研地質調査総合センターより刊行した。

 「日本の火山(第3版)」は、2009年の国際地質科学連合(IUGS)による時代区分の定義変更(第四紀の下限が約180万年前から約260万年前に変更)に対応しており、日本の第四紀火山の火山数は「日本の火山(第2版)」(1981年刊行)の302から今回の第3版の456へと大幅に増えた。「日本の火山(第3版)」は、日本列島の過去260万年間の火山活動を示した、現時点における最高精度の火山分布図である。国土防災や学校教育現場での利活用のほか、原子力発電所の火山影響評価などに貢献するものと期待される。

「日本の火山(第3版)」 の画像
「日本の火山(第3版)」

改訂の社会的背景

 日本では気象庁が過去1万年間(完新世)に噴火した火山や活発な噴気活動のある火山を「活火山」として定義している。しかし、1万年という時間は、10万年を超えるような個々の火山の寿命に比べて短く、日本の火山活動の実態を理解するには、より長い時間尺度の「第四紀」を基準として評価する必要がある。

 一方で、これまで第四紀は過去約180万年間の地質時代とされていたが、「現在の気候変動サイクルである氷期-間氷期サイクルが顕著になった地質時代を第四紀とする」という定義を厳格化するための知見の集積が進み、2009年のIUGSによる時代区分の定義変更で、第四紀の下限が約260万年前へと変更とされた。地質時代の定義は世界共通なので、日本もこの基準に準拠する必要がある。例えば、高レベル放射性廃棄物の地層処分では立地選定で第四紀火山を排除することが求められ、また原子力規制庁が策定中の「原子力発電所の火山影響評価ガイド」の立地評価でも新基準の第四紀火山を対象とすることが検討されており、地質時代の新基準に対応した第四紀火山の認定が求められていた。

研究の経緯

 産総研地質調査総合センターは、200万分の1地質編集図「日本の火山」の初版を1968年に、第2版を1981年にそれぞれ旧工業技術院地質調査所当時に刊行している。今回の第3版は32年ぶりの大幅改訂版となる。

研究の内容

 「日本の火山(第2版)」の出版以後、火山噴出物の放射年代測定技術や化学分析技術が飛躍的に進み、膨大な数の年代測定値や化学組成データなどが蓄積されてきた。これらの成果を反映させるとともに、2009年のIUGSによる第四紀区分の定義変更に対応するため、過去260万年間の日本列島の火山活動に関する年代、分布および岩質の情報を全面的に見直した。

 陸域の第四紀火山については、地質時代の再定義により大幅に追加されたほか、新たな年代測定値が得られたことにより新規に組み入れられたものもある。大規模な火砕流を噴出したカルデラ火山については、活動時期が異なる先カルデラ火山、カルデラ火山および後カルデラ火山に可能な限り区分し、陸域および海域とも、原則として直径5 km以上のカルデラ地形を示した。火山群については、時間的、空間的にある程度まとまった活動時期や活動範囲とみなせる火山の集合体を1火山群とした。海域については、海底噴火地点に加え、変色水や海底熱水活動などの火山現象が確認された地点を表示した。

 これらにより日本の第四紀火山の火山数は第2版の302から第3版の456へと大幅に増加した。この結果、「日本の火山(第3版)」は、日本列島の過去260万年間の火山活動を示した最高精度の火山分布図となった。

 日本列島の第四紀火山を一覧できる「日本の火山(第3版)」は、国土防災や学校教育現場などでの利活用のほか、高レベル放射性廃棄物の地層処分安全規制における火山活動場の変遷評価や原子力発電所の火山影響評価に貢献すると期待される。

「日本の火山(第3版)」東北地方の抜粋画像
「日本の火山(第3版)」東北地方を抜粋
火山毎に色分け(分布・年代・岩質の違い)して表示。火山名は海域に示した。

今後の予定

 第3版作成のために用いたデータについては、地質調査総合センターが編集するWeb公開データベース「日本の火山」として2013年後半以降、逐次公開予定である(https://gbank.gsj.jp/volcano/)。このデータベースは、2012年時点で公開されている「日本の第四紀火山」と「活火山データベース」とを統合し、再構築したものになる。

問い合わせ

独立行政法人 産業技術総合研究所
地質情報研究部門
総括研究主幹  山元 孝広  E-mail:t-yamamoto*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)

地質情報研究部門 火山活動研究グループ
研究グループ長  石塚 吉浩  E-mail:y.ishizuka*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)



用語の説明

◆地質の日
地質への理解を推進する日として2008年に制定。明治9(1876)年のこの日、日本で初めて広域的な地質図「日本蝦夷地質要略之図」が作成された。[参照元に戻る]
◆国際地質科学連合(IUGS)
地質分野における国際的な課題に対応するため1961年に設立された非政府の国際組織。現在121か国の団体により構成される。国際標準となる年代層序表を公開している。[参照元に戻る]
◆第四紀
約260万年前から現在までの地質時代で、氷期と間氷期のサイクルが顕著になった時期に対応する。2009年のIUGSによる時代区分の定義変更により下限が約180万年前から約260万年前に変更された。[参照元に戻る]
◆完新世
約1万年前から現在までの地質時代で、第四紀の一部。最終氷期以降に対応する。[参照元に戻る]
◆氷期-間氷期サイクル
氷床が拡大する寒冷期とその間の温暖期が周期的に繰り返すことで、第四紀に入ってから約80万年前までは約4万年周期、それ以降は約10万年周期で繰り返している。[参照元に戻る]
◆カルデラ火山
噴火口に比較してはるかに大きい直径を有する凹んだ地形を形成した火山。[参照元に戻る]
◆火山群
地理的分布が近接し、同時代でかつ成因的に見て類似の関係にあると考えられる火山の集まり。[参照元に戻る]