研究ハイライト 千葉県の太平洋岸で歴史記録にない津波の痕跡を発見

地質調査総合センター
千葉県の太平洋岸で歴史記録にない
津波の痕跡を発見
約1000年前に発生した房総半島沖の巨大地震によって九十九里浜地域が浸水
  • 活断層・火山研究部門澤井 祐紀
  • 行谷 佑一

掲載日:2021/9/3

房総半島沖のフィリピン海プレートと太平洋プレートの境界も津波の波源として注意

千葉県九十九里浜沿岸において、掘削調査により津波堆積物を2層発見し、年代の古いほうの津波堆積物は約1000年前の歴史上知られていない津波の痕跡であった。津波浸水シミュレーションを行ったところ、房総半島東方沖に位置する、フィリピン海プレートに対して太平洋プレートが沈み込む領域が破壊する場合、比較的小さなすべり量でも九十九里浜地域を浸水させる津波が発生することがわかった。この結果は、相模トラフや日本海溝に加えて、フィリピン海プレートに対して太平洋プレートが沈み込む領域も巨大地震・津波を起こす場所として注意すべきであることを示している。

左:山武市蓮沼地域で行った調査風景。右:地層抜き取り装置を用いて採取した連続柱状堆積物。
試料は年代測定などに利用した。
 

地震・津波の発生履歴の調査

海岸低地地下の堆積物は過去数千年間の環境変動を記録しており、数百~千年に一度と言われる低頻度の巨大津波の履歴を調べるのに適している。九十九里浜地域は、太平洋プレート、大陸プレート、フィリピン海プレートが1カ所で接するプレートの三重点に隣接する地域であるため、各々のプレート境界で形成されている日本海溝、相模トラフ、伊豆・小笠原海溝の周辺で発生する地震・津波の脅威にさらされている。これらの海域の沿岸における代表的な津波被害として、1677年の延宝地震(延宝五年)と1703年の元禄地震(元禄十六年)によるものが古文書などに記録されている。しかし、これらより古い時代の地震・津波の発生履歴は明らかになっていない。

 

九十九里浜で過去の津波堆積物を発見、房総半島沖の地震による津波浸水が発生する可能性を指摘

千葉県九十九里浜沿岸において掘削調査を行い、泥炭層の中に明瞭な2層の砂層を発見した。海に生息する生物化石と堆積構造から、両砂層は津波堆積物であると判断した。年代の古いほうの砂層は約1000年前の歴史上知られていない津波の痕跡であった。この砂層の起源を津波浸水シミュレーションにより考察し、フィリピン海プレートと太平洋プレートの境界で地震が発生した場合、他のプレート境界と比較して小さなすべり量(10m)でも、九十九里浜地域に津波浸水が生じることが分かった。これまでは、相模トラフと日本海溝で発生する地震の繰り返しが主に検討されてきた。本研究の結果は、房総半島東方沖におけるフィリピン海プレートと太平洋プレートの境界のすべりも九十九里浜地域に津波浸水を発生させる可能性があることを示している。

 

調査・研究を継続して巨大地震・津波の発生履歴の解明へ

日本の太平洋沿岸は沈み込み帯に面しており、これまで繰り返し巨大地震・津波に見舞われてきた。地質学・地球物理学的な調査・研究を継続し、巨大地震・津波の発生履歴の解明を目指す。

 
 

本研究テーマに関するお問合せ先

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活断層・火山研究部門 海溝型地震履歴研究グループ

研究グループ長 澤井 祐紀(さわい ゆうき)

主任研究員 行谷 佑一(なめがや ゆういち)

〒305-8567 茨城県つくば市東1-1-1 中央第7

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