#科学技術週間「なんで、あなたは研究者に?」

なんで、あなたは研究者に? 産総研で活躍する4人の研究者にこれまでのルーツや、産総研に入ったきっかけを聞いてみました。
  • 0101中村文さんの写真
    研究に没頭できる環境が、
    ここにあるから。

    研究に没頭できる環境が、
    ここにあるから。

    学生時代からシリコンフォトニクスの研究に携わり、現在はその光回路をプリント基板上に引き出す3Dミラーの作製に取り組んでいる中村文さん。将来の夢は「光の力でスマホを動かすこと」。そこに込める想いについて話を聞きました。

    中村文さん
  • 0202冨田峻介さんの写真
    他者を通じて、
    世界の可能性を広げたいから。

    他者を通じて、
    世界の可能性を広げたいから。

    ヒトの味覚を模倣した画期的な分析技術を開発している冨田峻介さん。ご自身の研究人生について、「行き当たりばったり」と表現します。しかし、そのゆるやかな行動や考え方は、実は産総研で新たな可能性を生み出しているようです。

    冨田峻介さん
  • 0303加藤淳さんの写真
    クリエイターたちの
    “創造”に寄り添うために。

    クリエイターたちの
    “創造”に寄り添うために。

    自らの研究アプローチを「道具鍛冶」と表現する加藤淳さん。メディアインタラクション研究ができる環境を求め、産総研への入所を決意したのだとか。今、産総研で感じるのは、「想像以上の研究のしやすさ」。その真意を聞きました。

    加藤淳さん
  • 0404渡邉真莉さんの写真
    「ずっと研究したい!」
    を叶えるために。

    「ずっと研究したい!」
    を叶えるために。

    「小学校の頃から、研究者になることが夢だった」という渡邉真莉さん。産総研への入所を決意したのは、「その研究者という仕事を長く続けられる場所だったから」だと言います。その言葉に秘められた、渡邉さんの想いとは?

    渡邉真莉さん
研究に没頭できる環境が、ここにあるから。

光を屈折させる“極小のミラー”

私たちの生活に欠かすことができない、スマートフォンやパソコンなどの高性能デバイス。実は近年、これまで行われてきた半導体の微細化による高性能化には、限界が見えてきている。という現状があります。そこで進められているのが、従来個別に利用されてきた電子回路と光回路を連携させ、両者の長所である演算能力と伝送能力を最大限に発揮させる“光電融合”と呼ばれる技術の開発です。

中村文さんが所属するプラットフォームフォトニクス研究センターの光実装研究チームでは、将来の光電融合技術である“光電コパッケージ”の実現を目指して、電子機器に光デバイスを集積する技術などを研究しています。中でも、中村さんがテーマに掲げているのが、シリコンフォトニクス(シリコン電子デバイスの製造技術をベースとした光回路)からプリント基板上に光を引き出すための3Dミラーの作製です。

実験で使用するモールド。
このサイズに微小加工が凝縮されています。

「光というのは、いわゆるビームのようなもの。そこに小さな3Dミラーを用いることで、その光を曲げたり上に跳ね上げたりしながらつなげることができるようになります。今はそのプロセス開発を進めている最中ですね」

研究室の資料を使いながら、半導体内の光の動き方について説明する中村さん。

思い通りに設計できる、光回路の面白さ

現在、研究の第一線で活躍している中村さんですが、実は高校生のときは「私が研究者になるとはまったく考えていなかった」と言います。大学も「なんとなく身の回りで使われている科学技術について知りたい」と考え、理工学部を選択。その中で一番興味のあった電子電気工学科に進むことにしました。「光回路にハマったのは、光ファイバーに関する光学の講義です。光というのは全反射しながらファイバーの中を通っていくんですが、そのときに電磁波が漏れ出る『エバネッセント波』という現象が起こっていることを知って。『目に見えない世界の中で、そんなことが起こっているんだ』と思って、もっと詳しく学びたいと思ったのがきっかけでしたね」

その後、「思い描いた通りに光回路の設計ができる」ということに魅力を感じ、シリコンフォトニクスの研究室に入ることになった中村さん。その面白さから「ずっと研究を続けたい」という気持ちを強く抱くようになり、博士課程にも進むことになります。

「当時から学会に参加することが少なくありませんでしたし、共同研究先が産総研だったということもあって研究者に接する機会も多かったんです。そのような研究者の方たちを見ていると、みなさん自分の研究を毎日楽しそうに行っているのが印象的で…。『私もそんなふうに仕事をしていきたいな』と思うようになって、研究者として生きていくことを考えるようになりました」

研究ビジョンの重要性を実感したプレゼン

産総研への入所を考えるようになったのは、実は偶然の積み重なり。そもそも中村さんは、修士課程を半年短縮していたため、4月に就職するためには博士を2年半にするか、もしくは3年半にするかという選択肢があったと言います。

「そんなとき、たまたま産総研で募集がかかっていることを知って。産総研は学生時代から慣れ親しんだ研究所でもありますし、実用化から少し距離のある研究も取り組めます。それで『まずは一度産総研に挑戦してみて、ダメだったら次の3月から別企業への就活をしよう』と考えたんです」

とはいえ、産総研への就活にハードルの高さも感じていたという中村さん。特に身が引き締まる思いをしたのは、面接のときに研究ビジョンをプレゼンするときでした。

「やっぱり、私よりもその分野のことに詳しい人に説明するわけですから、すごく緊張しましたね。でも、『あなたのやりたい研究テーマだったら、所内にいいチームがあるよ』と言われて(笑)。その後、領域面接と幹部面接をこなしていって、なんとか内定をもらうことができたんです」

中村文さんの年表

目指すのは、光学分野の新しい領域

現在、産総研で3年目となる中村さんですが、現在の様子を改めて尋ねると「今はますます研究が楽しくなっていますね」と答えます。

「私はテニュアトラック型の任期付採用制度(博士型任期付研究員制度)で入所したこともあって、最初は『はやく成果を出さないといけない』という気持ちがあったんです。でも、2年目に所内でテニュアトラック型を廃止する動きがあって、パーマネント型研究員(定年制・任期無)に切り替わることができました。それ以来、とてものびのびと研究していますね。もちろん、成果を出さなければいけない状況は、変わらないんですが(笑)」

「産総研には自由な雰囲気があるだけでなく、若手でも好きな研究に集中できる環境があるのがメリット」だと中村さん。特に、産総研が独自で設計・開発した「UVナノインプリントリソグラフィ装置(紫外線を利用した微細加工を行う装置)」をはじめ、リソースが整っていることはとても大きな魅力になっていると話します。

研究室には大規模装置をはじめとする、潤沢な設備が整っています。
UVナノインプリントリソグラフィ装置を操作する中村さん。
紫外線の影響をカットするため、室内は黄色のフィルタで覆われています。

中村さんのこれからの夢は、スマートフォンのような日常的な機器に光回路を組み込み、次世代の製品開発につながる技術を生み出すこと。「光学で新しい研究分野を開拓する」という目標を叶えるために、研究と向き合う日々が続いています。

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中村さんの写真

プラットフォームフォトニクス研究センター
光実装研究チーム

中村 文さん

  • 入所年2021年4月
  • 研究内容 光電コパッケージに向けた光結合構造の開発、
    シリコンフォトニクスでの光スイッチの研究
他者を通じて、世界の可能性を広げたいから。

画期的な分析技術“ケミカルタン”を開発

私たちは一口ジュースを飲んだとき、それが何味なのかをすぐ判別できます。これは、口に含まれている分子の複雑な組成のパターンを瞬時に認識して、その情報から味を特定する能力を持っているからです。健康医工学研究部門・ナノバイオデバイス研究グループの冨田峻介さんが開発しているのは、このようなヒトが舌(tongue)で味を感じるメカニズムを化学(chemistry)の力で模倣してバイオテクノロジーに必要な試料の特徴を判別する、“ケミカルタン(chemical tongue)”という分析技術です。

「ケミカルタンでは、舌の細胞の代わりに蛍光プローブ材料を、脳の代わりに機械学習を使用することで、タンパク質や細胞、微生物、血液、尿などのバイオ試料のわずかな違いを認識。試料の高精度な識別や分類、さらには状態変化をモニタリングすることができます」

しかもこの技術は、迅速・簡便・安価に試料の組成が判別できる上に、あらゆるバイオ試料に使うことが可能。その汎用性の高さから「バイオ検査に革新をもたらす技術」として注目を集めています。

研究室にて、「試料をミスで無駄にしてはサイエンスに失礼」と語る冨田さん。冨田さんの研究室では、人為的なミスを防ぐために設備のロボット化が進められています。

「現在は材料や製薬、そして酒造業界のメーカーとの共同研究や、創薬ベンチャーの設立など実用化への道も開拓しています。ただ、新しい技術ということもあってまだ事例が少ない。トライ&エラーを繰り返しながら、どのようなニーズに活かすべきなのかを模索している段階です」

冨田さんがバイオ試料の実験を行う際に使用しているロボット(左)と
試料を入れるプレート(右)ロボットの使用で手動よりも精度の高いデータを得られます。

“ゆるさ”という研究者としての強み

このように研究者として活躍を続けている冨田さんですが、実は大学時代は「授業にまったくついていけていない学生」だったのだとか。その原因は、学園祭の実行委員会に入ったこと。活動に没頭するあまり成績が悪く、研究室の選択の際には第一志望に入れない状況になっていたと言います。

「結局入ることになったのが、タンパク質に関する研究室です。大学の授業で生物学を落としていたくらいですから、タンパク質に興味があったわけではなかったんです。でも、研究を進めていくと、これが面白いことに気づいて…」

ターニングポイントが訪れたのは、修士2年生のとき。指導教員が学会発表や共同研究などの機会をたくさん経験させてくれた上、冨田さんの“楽観性”を肯定して背中を押してくれたりしたことがきっかけとなり、研究者の道を意識するようになりました。

「あとで気づいたのは『私はこういう研究者になる』と心に決めている人は、意外と自分の目標と研究の実際のギャップに苦しんでしまうケースが多いということです。そういう意味では、私は本当に行き当たりばったり(笑)。その指導教員からは、『研究者という仕事では、問題に真摯に向き合う"厳格さ"だけでなく、その時々に面白いと思った方向に流される“ゆるさ”も同時に大切なんだ』ということを教えられたんだと思います」

産総研で得た、研究に対する心境の変化

産総研の入所を決めたのも、やはり「たまたま」。元々は「博士研究員の任期中にどこかの大学の研究スタッフとなり、そこでキャリアを積んでいく予定だった」と言いますが…。

「働きだして1年が経った頃、ちょうど受け入れ教員が学会のメーリングリストで産総研の公募情報が回ってきたのを目にして、『試しに受けてみてもいいんじゃないか』と声をかけてきて。そこから知り合いを伝って研究室訪問をして、軽い気持ちで応募したんですが、そのおかげで自然体で面接に臨むことができ、 運良く内定をもらうことができたんです」

とはいえ、入所当初の冨田さんとしては「そのうち大学に戻って、自分の研究のためのラボを持ちたい」と考えていたそう。しかし、産総研で研究を続ける最中、次第に心境の変化が生まれていきます。

「産総研の研究職には、キャリアの途中で他の部署や機関に1、2年ほど移って、そこで組織のことを学ぶという仕組みがあります。私の場合、1年間だけ“研究企画室”に異動して、生命工学領域の組織マネジメントや予算計画、アウトリーチ活動などを経験しました。その経験を通じて気づいたのは『自分のやっている研究は、想像以上に多方面で社会に貢献できるかもしれない』ということ。それで、『ならば、産総研の環境を活用して、社会の問題解決に直結する実践的な研究をやってみよう』と考えるようになったんです」

冨田峻介さんの年表

自分の中にはなかった世界を明らかにする

最近の新しい発見は、「自分の当たり前は、他の研究者の当たり前ではない」ということ。

「『自分の技術を使えば、こういう結果が出るだろうな』とわかっているような現象でも、大学や企業の共同研究者から提供してもらった試料で行うと、『こんなことができるんですね』と改めて驚かれたり、喜ばれたりする。それは非常に大きな気づきでした」

このような驚きが議論を深める糸口となって、「自分の中にはなかった新たな視点や仮説が生まれていく過程は本当に楽しい」と冨田さん。「『他者を媒介することで、世界は想像以上に広がるんだ』ということを日々教えてもらっています」と説明します。

多岐にわたって活動されている冨田さん。
現在、スタートアップ企業(株)モルミルの 科学顧問もつとめています。

「産総研で行う研究は非常に多様で、なろうと思えば何者にでもなれる環境があります。入所希望者には、産総研という組織に身構えたり、自分の可能性を限定したりせず、そこで得られる色々な経験をもとに自分のあるべき姿を見つけていってほしいですね」

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冨田さんの写真

健康医工学研究部門
ナノバイオデバイス研究グループ

冨田 峻介さん

  • 入所年2014年4月
  • 研究内容 味覚を模倣したバイオ試料認識技術“ケミカルタン”の開発
クリエイターたちの“創造”に寄り添うために。

「道具鍛冶」として研究するということ

人間情報インタラクション研究部門のメディアインタラクション研究グループ・加藤淳さんの専門は、HCI(Human-Computer Interaction)。人とコンピューターの関係を調べながら、その未来にあり得る姿をシステムとして構築し、一方でそれらが社会に適応したときに何が起きるかを実証していくという、言わば「未来学+エンジニアリング」の学問です。

「特に力を注いでいるのが、クリエイターやプログラマーたちの“創造性”に対するサポート。プログラミング環境技術を使って、現場が抱える課題を解決するためのユーザインタフェース、ツール・環境設計を行っています。なので、最近では『道具鍛冶研究者』を自称しているんです」

加藤さんがこれまでつくり上げてきたものは、どれも興味深いものばかり。IoT機器の筐体設計とファームウェア開発を同時に行える設計ツール、音楽に同期して歌詞がアニメーションする動画を制作できる統合制作環境、日本のアニメ制作で不可欠な絵コンテのためのWebベースの制作支援ツール…と、私たちに身近なコンテンツの制作を支えるプロダクトを数多く開発しています。

背後のスクリーンに映っているのが、加藤さんが開発したリリックビデオ制作支援サービス「TextAlive」。
楽曲中の歌声に合わせて歌詞をアニメーションさせる「リリックビデオ」を、Webブラウザ上で誰でも簡単に制作できるWebサービス。
加藤さんがアニメ制作会社のメンバーと開発している絵コンテ制作支援ソフト「Griffith」。
インストール不要で、手軽にたくさんの絵(コマ)をスケッチでき、大量のコマを俯瞰したり他の人と共有したりできるWebアプリケーションです。
筐体設計とファームウェア開発を同時に行える設計ツール「f3.js」。
カメラ、楽器、ゲーム機などの電子機器を、誰でも簡単にカスタマイズして組み立てることができます。

「人の創造性を支える」という原点

“道具鍛冶”を意識するようになったのは、大学1年生のとき。「元々中高のときからDTP(Desktop Publishing)やWebデザインに明るかった」という加藤さん。あるとき、ゼミ生が書いた記事を管理する専用Webメディアをひとりでつくり上げることになり、その経験が「道具鍛冶の面白さを感じたきっかけになった」と言います。

「また、ゼミの担当教授であったジャーナリストの立花隆さんからも影響を受けました。立花さんと言えば、生物学、環境問題、医療、宇宙、政治経済…と、非常に多岐にわたるテーマを執筆されていたことで知られていますが、研究者の取材前には必ず大量の下調べを行って、取材時に核心に迫る質問を投げかけるんです。そうやって研究者たちの創造性をわかりやすい言葉に翻訳していく。そのアプローチを間近で見ることができたのも、非常に貴重な経験でした」

加藤さんの居室前には、今も大学時代に制作したゼミ小冊子が飾られています。

立花さんの取材姿勢は、本格的に研究者になることを決めたきっかけにもなりました。

「修士の頃、立花さんが言葉で研究者たちの目に見えない“何か”を浮き彫りにしていたように、私自身もソフトウェアを通して同じことができないかとずっと模索していて。そんなとき、ソフトウェアエンジニアのインターンに参加したんです。そこで『自分のソフトウェアエンジニアのスキルを使えば、なんとか生活はできる』ということに気づいて(笑)。『だったら、とりあえず研究を続けてみて、行き詰まったらエンジニアになろう』と決心して、それで博士課程に進むことにしたんです」

状況に合わせて、働き方を変化させる

その後、無事に博士課程を修了し、就職先として産総研を選択した加藤さん。就活では研究を続けることは考えていたものの、「自分はまだ学生を教える立場ではない」という気持ちがあり、大学に残ることはあまり考えていなかったのだとか。

「そんなとき、現在同じグループの首席研究員を務めている後藤真孝さんが、Web上の楽曲の中身を解析して可視化やサビ出しができる『Songle』というサービスを開発していることを知って。『メディアインタラクション研究ができる環境があるなら、後藤さんのグループに入るしかない』と思い、産総研に入ることを志望しました。海外も考えましたが、日本のコンテンツ文化に浸かっていて、クリエータ支援に興味があったので国内に絞りました」

入所して改めて感じたのは、「自分で研究をする時間をしっかりと確保できる」ということ。実際、入所直後は研究に集中することができ、論文の執筆も非常にはかどったと言います。

「一方、子どもが生まれてからは、働き方を変えることにして。育児をするようになると、どうしても集中できる時間が限られてきますよね。そこで、集中する時間が必要な研究にではなく、断続的な作業時間でも思考の切り替えがしやすい開発にウェイトを置くことにしたんです。このように、そのときのタイミングや自分のやりたいことによって、仕事の仕方を変えることができるというのは、産総研の大きなメリットだと感じました」

加藤淳さんの年表

自分の研究を、より社会に届けるために

「産総研はどのような研究者に向いているのか」と加藤さんに尋ねると、「学術に対する興味を超えて、さまざまなことに興味が向いている人」という返答が。

「学術的に面白い技術であっても、実際に使ってもらおうと思ったらいろいろなハードルがありますよね。産総研は、そうしたハードルの越え方を真面目に考えて取り組んできた研究所。個々の研究者が企業と手を携えて進めたり、スタートアップをつくったり、エンジニアの力を借りたり、さまざまなアプローチを採れるのがいいところだと思います。私は今度、フランスのパリ=サクレ大学にあるHCI分野で国際的にトップクラスの研究室に1年間、長期出張することになっていて。そこでは、自分が築き上げてきた“道具鍛冶”という研究スタイルを一度棚卸して、改めて科学や技術の進歩に貢献できるように定型化しようと考えています」

従来の産総研のイノベーションモデルは、あくまで研究者が“種”を持っていて、それをどう社会展開するかという考え方が一般的です。しかし、加藤さんは「それと対をなす相補的なアプローチもあるはず」と続けます。

「個々のクリエータの課題の中にこそ、汎用的で、一般的な科学的技術的知見の種がある。それを現場まで行って発見して、言語化し、道具化することが私の仕事だと思っていて。こういうアプローチを『定型化』したいんです。産総研では、現場の支援から科学や技術の進歩までを幅広く扱いたいという人にはベストな環境だと感じていますね」

今後の目標について「これからもクリエイターの人たちを幸せにしていきたい」と答える加藤さん。新天地でのさらなる活躍に期待が高まります。

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加藤さんの写真

人間情報インタラクション研究部門
メディアインタラクション研究グループ

加藤 淳さん

  • 入所年2014年4月
  • 研究内容 HCI全般、特にPX(プログラミング体験)の向上や創造性支援に関する研究
「ずっと研究したい!」を叶えるために。

産業部品の「基準の基準」をつくる

「大袈裟な表現かもしれないけど、生活をするために研究をしている一方で、研究をするために生きているような気もしていて。そのくらい毎日が充実していて、ワクワクしていますね」

そう答えるのは工学計測標準研究部門の幾何標準研究グループに所属する渡邉真莉さん。

研究について語る渡邉さん。
楽しそうに話す姿がとても印象的。

渡邉さんが産総研で日々向き合っているのは、「産業部品の複雑な三次元形状を測ったときの信頼性を突き詰める」という研究です。中でも特に力を入れているのが、樹脂中に測定球を埋め込んだ新たな基準器(ゲージ)の開発。

開発したゲージの試作品。
改良をたくさん重ねています。

X線CT測定装置そのものの精度を測定する上で、空間座標の歪みを評価・補正するゲージというのは言わば「基準の基準」。しかし、従来のゲージは非常にコストがかかるため、製品の精度評価を常に行う必要があるメーカーとしては大きな負担になっていると言います。

「その点、私たちが現在開発を進めているゲージは、取り扱いやすく,安価な素材でつくることが可能。メーカーさんがもっと気軽に自社装置の精度評価ができるようにするため、日々改良を重ねています」

開発したゲージ(左)と従来のゲージ(右)。
従来品よりも価格や取り扱いやすさを意識して開発を進めています。

自分の手で、音速を測定

そもそも渡邉さんが研究者に憧れを抱いたのは、小学生のとき。家族に連れて行ってもらった「愛・地球博」で目にしたパビリオンに衝撃を受けたのがきっかけでした。そして中高で物理という学問に出会い、本格的に研究の面白さに目覚めることになります。

「高校に入ってから音速の数式(331.5+0.6t m/s)を学びますよね。あるとき、『数式を鵜呑みにしないで、自分で測ったらどうなるんだろう?』と疑問が湧いてしまって。そこで『自分の手で一から実験したい!』と思ったんです」

早速、“共同研究者”として祖父と祖母に協力してもらうことにした渡邉さん。予備実験を重ねた上で、実際に近所の公園で実験を実施しました。拍子木を鳴らしたときの合図を目で確認して、そこから音が聞こえるまでの時間を計測したのです。

「その実験結果をレポートにまとめて、『全国物理コンテスト』に提出したんです。以来、私はあのときの『自らの手で結果を出す』という面白さがずっと忘れられなくて…。今でも、研究を行う上での大きなモチベーションになっているんです」

高校時代に自分で音速の公式を検証したレポート。
渡邉さんの“自ら探求する”原点です。

産総研は、長く研究を続けられる場所

その後、理系の道に進むことになった渡邉さんは、放射光やレーザを使った測定の研究に没頭することに。「目に見えない世界でも、光を使うことで可視化できる」ということに魅力を感じ、研究者の道に進むことを決心しました。

「就職活動するときはあまり範囲を狭めないで、企業の研究所や大学に残るという選択肢も考えていました。その中で、産総研という存在は、私の大学院と連携大学院だったこともあってよく知っていて。産総研は自分らしく研究が続けられる上に、オープンな雰囲気があって他の研究者ともディスカッションがしやすい。そういう環境で研究を続けられるのは魅力的だなと思いました」

入所を希望する特に大きな決め手になったのは、修士卒研究職の採用があるということ。「自分の大好きな研究を長い時間をかけて続けられる」という環境を探していた渡邉さんにとって、「できるだけ早い段階から研究が始められるという点は大きなメリットになった」と言います。

また、「いろんな分野を経験できるのは学生のときしかない」と産総研の生命工学領域のインターンにも参加しました。

「専門分野ではないところにあえて入ることで、『この技術は私のテーマにも使えるんじゃないか』というような新しい視点も得ることができました。何よりも、学生のうちから産総研の空気に触れたことで、実際に働いたときのイメージを明確にできたのは良かったと思いますね」

渡邉真莉さんの年表

さまざまな人たちへの恩返しをするために

現在、研究の傍ら、博士号の取得も目指しているという渡邉さん。研究に必要なデータの計測や論文の執筆を続けています。

研究室にて。
測定のための機械を動かす渡邉さん

渡邉さんが目指すのは、「息の長い研究者」です。

「実は亡くなった後に知ったんですが、私のおじいちゃんというのは元々企業で働く研究者だったんです。だから、音速の測定を行ったときも、何も言わずに私の研究にそっと寄り添ってくれたんだな、と。おじいちゃんや家族だけではありません。グループの上司や恩師、研究仲間たちといったさまざまな人たちの影響を受けて、今こうやって大好きな研究を続けることができています。だからこそ、私はできるだけ長く研究を続けていたい。その人たちの想いを継いで研究の道を切り開いていくこと。それが、私ができるみんなへの恩返しだと思いますから」

ひとつの道を突き進み、その上でしっかりとした成果を出せる研究者になる——。その目標のために、渡邉さんは今日も研究に没頭しています。

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渡邉さんの写真

工学計測標準研究部門
幾何標準研究グループ

渡邉 真莉さん

  • 入所年2019年4月
  • 研究内容 複雑形状の三次元測定における精度保証に向けた研究

本ページで紹介した研究者たちの研究現場をおとずれて「なんで、あなたは研究者に?」と直接質問する動画配信を開催します。
(配信日時:2024/4/19 19:00-21:00)