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最近の研究成果

リチウムイオン電池劣化機構 2017年8月16日発表

軟X線発光分光法によるリチウムイオン電池充放電機構の解析-電子状態からひもとくリチウムイオン電池電極材料の構造安定性-

機能性材料の構造安定性を解析するため、放射光軟X線発光分光を用いて各元素の電子状態を詳細に分析する手法を開発した。この手法により、リチウムイオン電池の正極材料では、充放電動作を経た後の構造安定性と、遷移金属と酸素からなる混成軌道での電荷移動の充放電前後の変化とに密接な対応があることを見いだした。革新的なリチウムイオン電池材料を創成するためには、これまでにない革新的な評価手法により得られた学理に基づくブレイクスルーが不可欠であり、電子状態に基づく材料設計指針の立案への期待は高い。本技術は大型放射光施設SPring-8の軟X線ビームラインBL27SUの放射光軟X線発光分光によって得られた発光スペクトルの電荷移動効果に注目した解析手法で、結晶を構成する元素間の結合の強度を電子状態から議論し、電極材料の構造安定性と充放電サイクル特性とを関連づけたものである。今回開発した手法は電子状態の理解に基づいた高い充放電サイクル特性を示す革新的リチウムイオン電池材料の開発への貢献が期待される。

軟X線発光スペクトルと今回得られたマンガン-酸素間の化学結合の情報の図

共生細菌 2017年9月19日発表

ゾウムシが硬いのは共生細菌によることを解明-チロシン合成に特化し、外骨格の硬化・着色に必須な共生細菌-

ゾウムシ4種の細胞内共生細菌ナルドネラの全ゲノム配列を決定し、アミノ酸の一種であるチロシンの合成に特化した極めて小さいゲノムであることを解明した。さらに、外骨格がとても硬いことで知られるクロカタゾウムシにおいて、ナルドネラがチロシン合成を介して宿主昆虫の外骨格クチクラの着色と硬化に関与していることや、チロシン合成の最終段階が宿主側の遺伝子によって制御されていることを実証した。本研究により、共生細菌が甲虫の硬さに関わる仕組みを世界で初めて明らかにした。多くの甲虫類が重要な農業害虫、森林害虫、貯穀害虫であるため、この成果に基づくクチクラ形成を標的とした新たな害虫防除法の開発につながる可能性が期待される。

とても硬い体で知られるクロカタゾウムシの写真

モデル動物 2017年9月12日発表

脳卒中後に生じる痛みを解明し治療するためのモデル動物を確立-"最悪の痛み"の克服を目指して-

脳卒中後に生じる痛みである脳卒中後疼痛のメカニズムの解明や、脳卒中後疼痛のために開発した治療法を評価するためのモデル動物を開発した。今回、モデル動物であるサルの脳で、皮膚に触れたときの感覚の情報(体性感覚情報)を中継する視床の後外側腹側核に局所的な脳出血を作成し、感覚刺激に対する逃避行動を調べた。脳損傷が安定してから数週間経過した後には、脳損傷前は逃げることがなかった軽い触覚や温度を与えたときにも逃げる様子が見られたことから、アロディニアと呼ばれる症状が生じたと考えられた。これまで、げっ歯類をモデル動物とした研究は複数あったが、いずれもアロディニアの発症に至る時間経過がヒトと異なっていた。今回の研究はヒトに近い脳を持つサルをモデル動物としており、また実際にヒトの患者に近い病態が得られたため、世界で最もヒトの病態に近い脳卒中後疼痛モデル動物であるといえる。このモデルを用いることで、脳卒中後疼痛を引き起こすと考えられている不適切な脳の変化の解明や、この病気を根治する治療法の開発につながる可能性がある。

脳卒中後疼痛のメカニズムの解明や、治療効果の評価につながる可能性のあるモデル動物の図

カーボンナノチューブ生分解性計測 2017年9月12日発表

スーパーグロース単層カーボンナノチューブの生分解性を確認-免疫細胞内カーボンナノチューブ生分解率の測定技術を開発-

近赤外光吸収測定法を用いてカーボンナノチューブ(CNT)の細胞への取り込み量を定量化する産総研独自の技術により、スーパーグロース法で作成した単層CNT(SGCNT)量の免疫細胞内での経時変化を測定し、SGCNTが生分解されることを明らかにした。さらに、発生する活性酸素の経時変化を測定した結果、SGCNTが生分解されると活性酸素の発生量は減少し、細胞への毒性が低下することが示唆された。この測定技術は、CNTの安全管理に重要な新しい定量測定法を提供するのみならず、現在産業化が進んでいる単層CNTの安全性に関わる重要な知見をもたらし、CNT産業の発展に貢献することが期待される。

免疫細胞内でのCNT生分解概念図

圧電素子 2017年8月31日発表

世界最高性能の窒化ガリウム圧電薄膜をRFスパッタ法で作製-金属配向層の利用で窒化ガリウム薄膜の配向性が向上-

低コストで成膜温度の低いRFスパッタ法を用いた、単結晶と同等の圧電性能を示す窒化ガリウム(GaN)薄膜を作製できる方法を見いだした。さらに、スカンジウム(Sc)添加で圧電性能が飛躍的に向上することを実証し、GaNとしては現在、世界最高性能の圧電薄膜を開発した。GaNはLEDやパワーエレクトロニクスへの利用で知られているが、窒化アルミニウム(AlN)と同様に機械的特性に優れた圧電体でもあり、通信用高周波フィルターや、センサー、エナジーハーベスターなどへの利用も期待されている。さまざまな応用が期待される一方で、GaNはAlNに比べて圧電薄膜の作製が難しく、RFスパッタ法では圧電体として利用できる十分に良質な配向薄膜を作製できなかった。今回、ハフニウム(Hf)またはモリブデン(Mo)の金属配向層の上にGaNの結晶を成長させることで、良質なGaN配向薄膜を作製できた。この薄膜は単結晶並みの圧電定数d33(約3.5 pC/N)を示した。さらに、Scを添加するとd33が約4倍の14.5 pC/Nまで増加した。今回の成果により、GaNの圧電体としての応用が広がるだけではなく、GaN薄膜の製造技術への波及効果も期待できる。

今回作製したGaN圧電薄膜の電子顕微鏡写真(左)と構造の模式図(右)

鳥羽地質図 2017年9月14日発表

恐竜化石はなぜ鳥羽で見つかったのか?-志摩半島の地殻変動の歴史を編んだ5万分の1地質図幅「鳥羽」を刊行-

三重県鳥羽地域における地質調査の結果をまとめた5万分の1地質図幅「鳥羽」を刊行した。紀伊半島の東端、志摩半島に位置する鳥羽地域は、古生代~中生代のさまざまな種類の地層・岩石が分布する日本列島でも有数の場所で、1996年には恐竜「トバリュウ」の化石が発見されたことでも知られる。しかし、これまでこの地域の詳細な地質図は作製されていなかった。今回、詳細な地表踏査を基に、複雑に分布する地質を把握して鳥羽地域の精緻な地質図を作製した。また、これまで時代未詳であった地層の年代を決定し、地層名の定義や、地質のまとまりである地質帯の区分と整理を行った。鳥羽地域の地質の成り立ちを解明する上で重要な地殻変動の復元を行った結果、鳥羽で恐竜化石が発見された理由や、この地域の最高峰である朝熊ヶ岳あさまがたけが形成された過程を解明できた。鳥羽図幅は、今後、学術研究に加え、防災・減災計画、都市計画、観光産業、地学教育の基礎となる重要な資料として利活用されることが期待される。

今回刊行した5万分の1地質図幅「鳥羽」の図

結晶欠陥検出 2017年9月21日発表

透過電子顕微鏡画像から結晶欠陥を容易に検出する技術を開発-欠陥の分布表示で次世代半導体のデバイスプロセス技術の改良を促進-

結晶の透過電子顕微鏡画像から欠陥を検出できる画像処理技術を開発した。近年、半導体の性能・寿命を保証するため、半導体デバイスの製造時に発生する構造欠陥を精密に制御するプロセス技術の確立が求められている。原子レベルの欠陥は、従来、透過電子顕微鏡で撮影された高分解能原子配列画像を人が観察して評価していたが、高倍率にするほど視野が狭くなるため、広い領域で欠陥を評価するには非常に手間が掛かっていた。今回開発した技術は、結晶の透過電子顕微鏡画像の広い領域で欠陥を容易に検出できる画像処理である。この技術を次世代パワーデバイスとして期待されている窒化ガリウム(GaN)半導体の透過電子顕微鏡画像に適用したところ、画像全体で欠陥の一種である転位の分布を評価することができた。開発した技術は、半導体デバイスの製造プロセス改良への貢献が期待される。

透過電子顕微鏡画像から転位を可視化する技術の図

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