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太陽光デバイスチーム

新しいシリコン系太陽電池デバイスの創出にむけて

研究背景

 カーボンニュートラル社会の実現に向け、太陽光発電はその中核的な役割を担うことが期待されています。現在、世界市場の95%以上を占める結晶シリコン太陽電池では、高効率と低コストを両立する技術や、シリコンの限界を超えるタンデム太陽電池、さらなる普及拡大に向けたサステナブルな製造技術、新しい用途展開に向けた新デバイスの開発などが求められています。

研究目標

 当チームでは、結晶シリコン太陽電池を基盤技術とした以下のような新デバイスの創出に向けた研究に取り組んでいます。

  • 新しい材料・プロセス技術開発を通じた結晶シリコン太陽電池の高性能化・低コスト化の同時実現
  • タンデム太陽電池の高効率化(>30%)と産業化に資するプロセス技術の開発
  • 省資源・サステナブルなデバイス製造技術の開発
  • 結晶シリコン太陽電池の新しい用途展開・市場創出

研究内容

 当チームでは、変換効率と製造コストのトレードオフを解消する技術やシリコンの限界を超える多接合技術の開発、新しい用途展開を見据えたデバイス開発に向け、以下のような研究テーマに取り組んでいます。

  • プラズマ化学気相堆積(CVD)や原子層堆積(ALD)などの薄膜成長技術を駆使した結晶シリコン表面の欠陥終端と電荷取出を両立する機能材料(アモルファス・ナノ結晶シリコン、金属酸化物など)の開発
  • ペロブスカイト/結晶シリコン タンデム太陽電池の開発と産業化に資するプロセス技術の開発(ゼロエミッション国際共同研究センターと連携)
  • ビル壁面・窓への応用に向けた結晶シリコン太陽電池のカット加工技術、端面パッシベーション技術、色調制御技術の開発
太陽電池作製に用いる薄膜成長やナノ材料合成プロセス
【図1】太陽電池作製に用いる薄膜成長やナノ材料合成プロセス
(左:プラズマCVD、中央:スピンコート、右:レーザー誘起ナノ材料合成)
(左)太陽電池作製装置と(右)電気特性評価
【図2】(左)太陽電池作製装置と(右)電気特性評価

主な研究成果

1.極薄結晶シリコン太陽電池の開発

 これまで培ってきたアモルファス・ナノ結晶シリコン薄膜の製膜技術を駆使し、結晶シリコン太陽電池の高性能化に重要な表面欠陥を不活性化(パッシベーション)する技術開発に取り組んできました。これにより50ミクロン厚(通常の1/2~1/3)の極薄結晶シリコン太陽電池で23.3%の変換効率と世界トップレベルの開放電圧(754 mV)を実証しました。
 また、このような極薄太陽電池は高温環境下でのパフォーマンス向上につながることを明らかにしました。実発電量の増加やシリコンの消費削減、建物などの曲面への設置応用が期待されます。

(左)50ミクロン厚の結晶シリコン太陽電池 (右)デバイスに用いた結晶シリコン/アモルファスシリコン(a-Si:H)/ナノ結晶シリコン(nc-Si:H)ヘテロ界面の断面透過電子顕微鏡像
【図3】(左)50ミクロン厚の結晶シリコン太陽電池
(右)デバイスに用いた結晶シリコン/アモルファスシリコン(a-Si:H)/ナノ結晶シリコン(nc-Si:H)ヘテロ界面の断面透過電子顕微鏡像

2.新原理を用いた結晶シリコン太陽電池の開発

 アモルファスシリコン系薄膜に代わる新材料の開発も進めています。
 例えば酸化チタンは、結晶シリコンに対して電子選択性コンタクトとして機能することが知られていますが、当チームでは、ドイツ フラウンホーファー研究機構 太陽エネルギーシステム研究所や英国オックスフォード大学との共同研究により、結晶シリコンの表面にALD法で薄い(~5 nm)酸化チタン膜を製膜することで、表面パッシベーション機能と結晶シリコンから正の電荷(正孔)を選択的に取り出す新しい機能を発見し、実用化につながる20%を超える変換効率を実証しました。今回開発した技術をさらに発展させることで、従来型より高い変換効率を低コストで実現することが期待されます。

<関連情報>産総研プレス発表:酸化チタンで接合を形成した新たな結晶シリコン太陽電池を開発(2020/10/22)

(左上)酸化チタンを結晶シリコン受光表面に製膜した新型太陽電池の構造概念図と透過電子顕微鏡写真 (左下)ガラス基板に製膜した薄膜の写真 (右)基準太陽光スペクトルと作製した太陽電池の外部量子効率スペクトル(酸化チタンとアモルファスシリコンの比較)
【図4】(左上)酸化チタンを結晶シリコン受光表面に製膜した新型太陽電池の構造概念図と透過電子顕微鏡写真
(左下)ガラス基板に製膜した薄膜の写真
(右)基準太陽光スペクトルと作製した太陽電池の外部量子効率スペクトル(酸化チタンとアモルファスシリコンの比較)

3.ペロブスカイト/結晶シリコン タンデム太陽電池の開発

 結晶シリコン太陽電池の理論限界効率は約29%で、それ以上の効率をシリコン単体で得ることはできません。シリコンの限界を超える太陽電池として、結晶シリコン太陽電池にペロブスカイト太陽電池を積層したタンデム太陽電池が注目を集めています。
 しかし、高効率化のために積層数が増える傾向にあり、特にペロブスカイト-トップセルとシリコン-ボトムセルを接合する再結合層(p/n逆接合層)には、インジウム系酸化物(ITOなど)が用いられることが多く、製造工数の増加や希少金属の使用増加、光学損失などの課題がありました。
 本研究では、ヘテロ接合結晶シリコンボトムセルの作製プロセスの一環で連続製膜できる「ナノ結晶シリコン薄膜」を再結合層に用いることで、従来のITOを用いたものより高い性能を実証しました(ゼロエミッション国際共同研究センターと連携)。

ペロブスカイト/結晶シリコン タンデム太陽電池の(左)接合界面断面の概念図と(中央)透過電子顕微鏡像 (右)太陽電池の出力特性(開発したナノ結晶シリコンと従来のITOを再結合層に適用した比較)
【図5】ペロブスカイト/結晶シリコン タンデム太陽電池の(左)接合界面断面の概念図と(中央)透過電子顕微鏡像
(右)太陽電池の出力特性(開発したナノ結晶シリコンと従来のITOを再結合層に適用した比較)

4.窓・外壁向け結晶シリコン太陽電池の研究開発

 太陽電池の立地制約解消・多用途化(軽量屋根、車載、ゼロエネルギービル(ZEB)向け建材一体型)に向けた開発が期待されています。一般の太陽電池モジュールは、黒色を呈し、建材には馴染まないといった課題があります。
 本研究では、審美性に優れつつ高効率な発電が可能となる建材一体型色調制御モジュールの技術開発に向けて、誘電体多層膜とテクスチャ構造を統合的に制御することにより、光学損失を抑制しつつ色調均一性の高い(角度依存性の小さい)着色モジュールを実現する技術を開発しました。

誘電体多層膜とテクスチャ構造を用いた太陽電池セル・モジュールの色調制御
【図6】誘電体多層膜とテクスチャ構造を用いた太陽電池セル・モジュールの色調制御

主な研究設備

枚葉式多室プラズマCVD装置

アモルファスシリコンやナノ結晶シリコン薄膜の成長に用います。p型、n型にドープした薄膜シリコンや非ドープ型のもの(i型)を独立したチャンバーで製膜することができます。

枚葉式多室プラズマCVD装置枚葉式多室プラズマCVD装置
【図7】枚葉式多室プラズマCVD装置

原子層堆積(ALD)装置

数nm厚の酸化チタンや酸化アルミニウムなどの金属酸化物薄膜の成長に使用しています。

原子層堆積(ALD)装置
【図8】原子層堆積(ALD)装置

電極・薄膜作製装置(マグネトロンスパッタ装置、蒸着装置)

太陽電池の透明電極(ITOやZnOなど)や金属電極(Ag, Au)、電荷輸送層、反射防止コート膜を製膜する装置です。

電極・薄膜作製装置(マグネトロンスパッタ装置、蒸着装置)
【図9】電極・薄膜作製装置(マグネトロンスパッタ装置、蒸着装置)

グローブボックス

ペロブスカイト太陽電池を乾燥空気や窒素雰囲気で作製することができます。

グローブボックス
【図10】グローブボックス

小型ラミネーター

研究開発用の小型の太陽電池モジュールを作製できます。

小型ラミネーター
【図11】小型ラミネーター

レーザー加工装置

結晶シリコン太陽電池や各種基板を任意の形に切断加工できます。

レーザー加工装置
【図12】レーザー加工装置

フォトルミネッセンス評価装置

フォトルミネッセンス像を取得することにより結晶シリコン太陽電池やプロセス途中のウェーハの特性を画像診断できます。

フォトルミネッセンス評価装置
【図13】フォトルミネッセンス評価装置

分光感度測定装置

タンデム太陽電池を含む各種太陽電池の分光感度特性を測定できます。

分光感度測定装置
【図14】分光感度測定装置

メンバー

役職 氏名  
研究チーム長 松井 卓矢 MATSUI Takuya
上級主任研究員 齋 均 SAI Hitoshi
主任研究員 Svrcek Vladimir Svrcek Vladimir
研究チーム付 上出 健仁 KAMIDE Kenji
国立研究開発法人 産業技術総合研究所