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太陽光デバイスチーム

太陽電池モジュール技術

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「太陽の無限のエネルギーを掴む」
薄型結晶シリコン太陽電池技術
[ YouTube 3分39秒 ](外部サイトへのリンク)

研究背景

 太陽光発電は、再生可能エネルギーの主力電源として導入が拡大しており、事業用の大規模発電のみならず自家消費や地産地消を行う分散型エネルギー源として、災害に対する強靭化の観点からも活用が期待されています。更なる導入拡大に向けて太陽電池の立地制約を克服するための技術革新を図るとともに、太陽電池の新たな価値を見出すための取組が必要です。

研究目標

 当チームでは、太陽電池の用途拡大や新市場の創出を目指して、以下の技術開発・実証研究等に取り組んでいます。

  • 太陽電池の設置形態の多様化に向けたモジュール技術開発
  • 次世代高効率「ペロブスカイト・タンデム太陽電池」の実用化
  • 太陽電池搭載電気自動車の社会実装に向けた実証
  • 新しいコンセプトの「熱回収型太陽電池」の理論構築と実証

研究内容

 これまで太陽電池はメガソーラーと呼ばれる大規模発電所や住宅の屋根に設置されてきました。太陽電池を工場の屋根や移動体等に設置して幅広く活用していくために、発電コストの低減を維持しつつ、設置対象に応じた課題を克服するための研究や、太陽光発電の社会実装を加速するための実証研究に取り組んでいます。
 以下に現在取り組んでいる主な研究課題を紹介します。

1.設置形態の多様化に向けたモジュール技術の開発

 耐荷重が小さく重量制限のある工場や倉庫の屋根へ太陽電池を設置するためにはモジュールの軽量化が必要です。さらに、屋根の形状に追従し、加えて風や積雪に対する耐性を持たせるためには、フレキシビリティの高いモジュールが必要となります。また、自動車やドローンを始めとする移動体の多くは流線形であるため、曲面に追従できる軽量モジュールが必要とされます。モジュールの重量と剛性は表面ガラスによるため、当チームではガラスレスの軽量・フレキシブルタイプのモジュールの開発を行っています。設置対象に応じた強度や信頼性、耐久性を考慮しながら開発を進めています。

【図1】FREAのセル・モジュール一貫製造ラインで作製したガラスレス軽量・フレキシブルモジュール
【図1】FREAのセル・モジュール一貫製造ラインで作製したガラスレス軽量・フレキシブルモジュール

2.次世代高効率ペロブスカイト・タンデム太陽電池の実用化研究

 これまで当チームでは低コスト化を主眼にPERC型、裏面電極型、両面受光型の結晶シリコン太陽電池や、スマートスタックセル(ゼロエミッション国際共同研究センターと共同)など高効率太陽電池セル・モジュールの開発を行ってきました。

【図2】FREAのセル・モジュール一貫ラインで作製した両面受光-裏面電極型モジュール
【図2】FREAのセル・モジュール一貫ラインで作製した両面受光-裏面電極型モジュール

 自動車を始めとした移動体では、太陽電池を設置する面積が限られます。より高い出力を得るためには、高いエネルギー変換効率をもつ太陽電池セルが必要とされます。当チームでは結晶シリコン太陽電池にペロブスカイト太陽電池を積層したタンデムセルの開発を行っています。シリコンとペロブスカイトのタンデム化により、個々の特性を凌駕する高いエネルギー変換効率が期待できます。当チームでは、タンデムセルの実用化を目指し、ボトムの結晶シリコン太陽電池セルサイズでの開発を進めています。

【図3】ペロブスカイト・シリコンタンデムセルの構造例
【図3】ペロブスカイト・シリコンタンデムセルの構造例

3.太陽電池搭載電気自動車の実証実験

 カーボンニュートラル社会の実現に向け運輸部門の二酸化炭素の削減が喫緊の課題であり、自動車の電動化が加速しています。自動車の電動化と太陽電池の搭載は脱炭素化社会の実現に向けて親和性が高く、太陽電池を搭載することによりユーザーの利便性やサービスの向上につながると期待されます。当チームでは、このような太陽電池搭載電気自動車(PVEV)の社会実装を加速させるための実証実験に取り組んでいます。まずは商用車に着目し、地元の路線バス会社やスーパーマーケットとの連携のもと、太陽電池を搭載した商用電気自動車を活用して、実際のユースケースの中で走行ルート・日射量・バッテリー状態等のデータを取得し、電気自動車へ太陽電池を搭載することのメリットを分析・明確化していきます。

【図4】実証実験で活用している太陽電池搭載路線バス【図4】実証実験で活用している商品配送用電気自動車
【図4】実証実験で活用している太陽電池搭載路線バスと商品配送用電気自動車

4.太陽電池の新コンセプト「熱回収型太陽電池」

 半導体材料へ光を照射したとき熱となって失われていたエネルギーを利用し、より高いエネルギー変換効率が得られる「熱回収型太陽電池」を理論的に提案しました。この太陽電池では、Shockley-Queisser limit(SQ限界)として知られるシリコンの限界効率(約29%)を超えるエネルギー変換効率を得ることが可能です。この理論に基づき太陽光-熱電ハイブリッド素子の一般論を整備しました。そしてモジュールを試作し、その温度特性の検証を進めています。理論的検討と実証実験を繰り返しながら、この新コンセプト太陽電池の実現を目指しています。

【図5】熱回収型太陽電池の理論に基づき設計・試作した太陽光-熱電ハイブリッド素子
【図5】熱回収型太陽電池の理論に基づき設計・試作した太陽光-熱電ハイブリッド素子

主な研究成果

  1.  軽量・フレキシブルモジュール(4セルモジュール)を固定翼ドローンへ搭載し、試験飛行を実施しました。モジュールの剥がれや破損は起こらず、離着陸時の衝撃や飛行時の風圧に耐えられることを実証しました。
  2. スクリーン印刷による電極形成や細線ワイヤーを用いることで、量産に適した両面受光-裏面電極型セル(図2)を作製し、変換効率22.1%を達成しました。
  3. 結晶シリコンスマートスタック技術を、GaAs/Si系の3接合セルに適用し、変換効率27.7%を達成しました。
  4. タンデム太陽電池のトップセルに用いるペロブスカイト太陽電池の作製に関し、100mm角基板において均一な特性を実現しました。
  5. 太陽電池を搭載した電気自動車を導入し、走行ルート、日射量、発電量とバッテリーのデータを取得する実証実験を開始しました。
  6. 熱回収型太陽電池の理論に基づき設計、試作した太陽光-熱電ハイブリッド素子の開放電圧と最大出力が温度とともに上昇し、正の温度特性を示すことを明らかにしました。

主な研究設備

ペロブスカイト用グローブボックス

小サイズのペロブスカイト太陽電池の作製に使用しています。

【図6】ペロブスカイト用グローブボックス
【図6】ペロブスカイト用グローブボックス

スピンエッチング装置

基板を回転させながら片面をエッチングする装置です。保護膜なしで片面のみをエッチングできます。

【図7】スピンエッチング装置
【図7】スピンエッチング装置

熱拡散装置

高温の炉内でリンやボロンを基板へ拡散させてp/n接合を形成します。一度に複数枚の基板を処理できます。

【図8】熱拡散装置
【図8】熱拡散装置

イオン注入装置

リンやホウ素のイオンを加速して基板に打ち込むための装置です。精密な拡散の制御が可能です。

【図9】イオン注入装置
【図9】イオン注入装置

電極焼成炉

電極に用いる銀ペーストと拡散層とのコンタクトやアルミBSF層を形成するための装置です。

【図10】電極焼成炉
【図10】電極焼成炉

大型真空ラミネーター

フィルム、封止材、バックシートなどの部材と太陽電池セルをラミネート加工し、軽量・フレキシブルモジュールを作製します。

【図11】大型真空ラミネーター
【図11】大型真空ラミネーター

荷重試験装置

野外に設置したときと同じ風荷重を太陽光パネルへ印加し、パネルの強度特性を調べます。

【図12】荷重試験装置
【図12】荷重試験装置

メンバー

役職 氏名  
研究チーム長 棚橋 克人 Tanahashi Katsuto
主任研究員 望月 敏光 Mochizuki Toshimitsu
主任研究員 上出 健仁 Kamide Kenji
主任研究員 立花 福久 Tachibana Tomihisa
研究チーム付 水野 英範 Mizuno Hidenori
国立研究開発法人 産業技術総合研究所