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太陽光評価・標準チーム

※掲載情報は、2023年度時点のものです。

太陽電池性能評価技術と基準太陽電池校正技術

研究背景

 再生可能エネルギーの主力電源化に向けた取り組みとして、太陽光発電の更なる利用拡大や自立した長期安定的電源化が推進されています。この取り組みの中で、太陽電池開発では、従来の住宅屋根設置や大規模発電所に加え、新市場の創出に資する新型・高効率太陽電池の研究開発が主要な課題となってきています。

研究目標

 当チームでは、太陽光発電の主要素子である太陽電池の評価・標準に関する校正技術・性能評価技術、また、新型太陽電池の信頼性評価の基盤となる劣化分析技術・耐久性試験などに関する研究開発を行い、我が国太陽電池産業の国際競争力強化、新型太陽電池の実用化促進と大量導入に貢献することを目的とします。 

研究内容

 太陽電池の価値に直結する基準太陽電池校正技術、太陽電池性能評価技術、屋外設置環境における太陽電池モジュールの性能・発電量評価技術の開発を推進し、太陽電池の評価・標準の高精度化およびトレーサビリティ体系の維持・普及促進を図ります。国内・国外の校正・評価試験機関と技能試験・国際比較測定等を実施し、開発した技術の国際的整合性の検証・維持を図るとともに、基準太陽電池の校正サービス・各種太陽電池の性能評価測定等を通じた技術の普及・活用を進めています。合わせて開発した技術のJISやIEC規格への標準化にも積極的に貢献します。
 また、ペロブスカイト太陽電池などの次世代型太陽電池の早期実用化に向けて、劣化機構の解明など、耐久性や信頼性の評価に資する分析技術・試験手法の開発も進めています。
 当チームは、つくばセンター(茨城県つくば市)と九州センター(佐賀県鳥栖市)を拠点に、以下の研究開発課題に取り組んでいます。

<関連情報>基準太陽電池セルの一次校正サービス

1.基準太陽電池校正技術の高度化

 太陽電池の発電性能を評価する際の自然太陽光やソーラシミュレータの放射照度をSI単位系にトレーサブルに測定するための基準太陽電池の校正方法とその高度化に係る研究開発を行い、関連する評価計測装置の開発とその実用化を進めています。
 また、国際比較測定や技能試験を積極的に実施し、基準太陽電池の標準としての国際整合化を推進しています。

2.新型太陽電池の高精度性能評価技術の開発

 太陽電池の性能評価技術として、通常の性能表示値に用いられている標準試験条件/Standard Test Conditions(STC)(分光スペクトルAM1.5G、放射照度1 kW/m²、太陽電池温度25℃)での性能はもちろん、実使用時に重要な様々な温度・照度での発電特性を高精度に性能評価する技術の研究開発を行っています。
 開発した評価技術を活用し、新開発される各種新型太陽電池(新型結晶シリコン・CIGS・ペロブスカイト、多接合・スタック型、集光型等)の高精度性能評価を実施しています。
 また、曲面追従(曲面形状)モジュールの性能評価技術の開発にも取り組んでいます。

3.ペロブスカイト太陽電池の耐久性試験・劣化分析評価技術の開発

 ペロブスカイト太陽電池などの次世代型太陽電池について、実用化に資する信頼性評価試験の基盤となる、耐久性試験方法および劣化分析評価技術の開発を進めています。セル・モジュールの性能を定量化し、電力損失と劣化を正確に測定する特性評価プロトコルの開発、プロトコル試験の実施および検証により、初期故障 (5~10年) や劣化率の予測、劣化モードを特定する加速試験プロトコルの開発に取り組んでいます。

4.屋外環境における太陽電池モジュールの高精度性能評価技術の開発

 太陽光発電の運用・保守点検(O&M)に活用可能な屋外自然太陽光下での高精度かつ低コストな性能評価技術の開発が求められています。その基盤技術となる太陽電池モジュールの屋外高速高精度性能評価技術や非接触電位測定等の新測定技術の開発に取り組んでいます。
 

5.屋外曝露太陽電池モジュールの発電量評価技術の開発(九州センター)

 九州センターには、約70 kW相当(約100 kWまで拡張可能)の太陽電池モジュール長期曝露設備を設けています。実環境性能評価には屋外でのデータ取得が必須ですが、特に新型太陽電池ではデータが不足しています。屋外設備では、各種太陽電池モジュールの電流-電圧データを10分毎に取得し、日射量や気候のデータも用いて、長期にわたる発電性能の変化を解析しています。
 また、当チームはILAC/APAC MRA ロゴ付き校正証明書を発行できるISO/IEC 17025認定ラボとして、鉱工業分野における依頼試験「基準太陽電池セルの一次校正サービス」を実施しています。

主な研究成果

  • 基準太陽電池の一次校正技術に関して、最高校正能力を示す校正不確かさを現在の認定値0.72 %から0.60 %へと大幅に低減しました。校正値と不確かさ評価の妥当性は、世界太陽電池標準スケール(WPVS)根幹ラボとの国際比較により、継続的に検証しています。
  • 世界気象機構(WMO)が開催した世界直達日射比較(IPC)に参加し、世界基準器群(WSG)と開発した国産絶対放射計の差が0.1%以内であることを検証しました。
  • 基準太陽電池セルの一次校正機関としての国際MRA対応認定の定期検査を受け、継続が認められました(ASNITE0021C)。
  • ペロブスカイト太陽電池の性能評価として、IV特性と最大電力点追従制御(MPPT)を組み合わせた高精度性能評価測定技術を開発しました。
  • ペロブスカイト太陽電池において、過渡イオン移動電流測定と光サイクル試験を使用した劣化診断手法を開発しました。ペロブスカイト太陽電池の可動イオン誘起劣化について、簡単で非破壊的な診断手法を提供します。
  • 太陽電池モジュール型照度センサ(PVMS)を使用した屋外での高速IV測定技術を開発しました。各種結晶シリコン系モジュール(従来型)に加えてCIGS薄膜及びヘテロ接合系モジュールのIV測定において、広い照度範囲(0.3~1 kW/m²以上)でPmax測定再現性を従来技術(日射計使用)の±5 %程度から±1 %以内まで改善しました。
  • 各種太陽電池モジュールの発電量評価を実施し、結晶シリコン系およびヘテロ接合系太陽電池モジュールの経年劣化を加味した推定発電量において、±2%以内の精度で推定する技術を開発しました。2016年からはPERC太陽電池モジュールの屋外曝露も開始し、高効率結晶Si系太陽電池モジュールを中心に発電量ならびにモジュールの特性評価を継続しています。(九州センター)

主な研究設備

基準太陽電池セル校正設備

基準太陽電池校正技術の高度化に向けて、基準光源として開発を進める超高温定点黒体炉
【図1】基準太陽電池校正技術の高度化に向けて、基準光源として開発を進める超高温定点黒体炉
絶対放射計での測定が可能な高平行度ソーラシミュレータ
【図2】絶対放射計での測定が可能な高平行度ソーラシミュレータ
広帯域で高速かつ非線形応答誤差が極めて少ない分光放射測定装置
【図3】広帯域で高速かつ非線形応答誤差が極めて少ない分光放射測定装置

太陽電池性能評価実験装置・実験設備

ソーラシミュレータによる太陽電池セル高精度性能評価系 
【図4】ソーラシミュレータによる太陽電池セル高精度性能評価系
【図5】太陽電池モジュール発電性能評価装置:ソーラシミュレータ(左)と太陽電池モジュール設置ステージ(右) 
【図5】太陽電池モジュール発電性能評価装置:ソーラシミュレータ(左)と太陽電池モジュール設置ステージ(右)
屋外環境での高精度性能評価技術を検証するための実験設備
【図6】屋外環境での高精度性能評価技術を検証するための実験設備

太陽電池モジュール長期曝露設備

九州センター屋外曝露サイトの全景
【図7】九州センター屋外曝露サイトの全景

メンバー

※2024年4月1日時点

役職 氏名  
研究チーム長 吉田 正裕 YOSHITA Masahiro
上級主任研究員 太野垣 健 TAYAGAKI Takeshi
主任研究員 猪狩 真一 IGARI Sanekazu
研究員 小島 拓人 KOJIMA Takuto
研究チーム付 原 浩二郎 HARA Koujirou
研究チーム付 千葉 恭男 CHIBA Yasuo
国立研究開発法人 産業技術総合研究所