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水素キャリア利用チーム

※掲載情報は、2023年度時点のものです。

水素キャリアを活用する技術

研究背景

 太陽光、風力などの再生可能エネルギーは、資源に乏しい我が国にとって貴重な国産エネルギーですが、日照や風況の適地は偏在し、得られる発電電力も変動します。水素キャリア※は、再生可能エネルギー発電電力を水素、アンモニア、有機ハイドライドなどへ変換することで、大量、長期、安全に貯蔵・輸送することができます(図1)。2050年のカーボンニュートラル(以下、CN)社会の実現のためには、この水素キャリアを様々なアプリケーションで安全かつ効率的に利用する技術を確立する必要があります。

※水素キャリアの例
  • 液体水素:1Lの液体水素で、800Lの水素ガス(常温常圧)を貯蔵。水素の純度が非常に高い。
  • アンモニア:17wt.%の水素を有する窒化物。1Lの液体アンモニアで、1,300Lの水素ガス(常温常圧)を貯蔵。
  • メチルシクロヘキサン(MCH):6wt.%の水素を有する常温常圧で液体の有機物。1LのMCHで、500Lの水素ガス(常温常圧)を貯蔵。
再生可能エネルギーからの水素キャリア製造・利用
【図1】再生可能エネルギーからの水素キャリア製造・利用

研究目標

 製造工場などのCN化の実現には、CN燃料として水素キャリアの発電、コジェネ、産業機械、モビリティ、工業炉などにおける利用がCO2排出削減に直結します。将来的にも産業界での利用が欠かせないエンジンやガスタービンなどの熱機関において、水素キャリアを効率良く、安定利用する技術の確立を目指します。

研究内容

 水素の熱機関における利用において、燃焼性の激しい水素(燃焼速度が天然ガスの5倍)を発電用ガスエンジンなどの大型エンジンにおいて高出力運転で安定燃焼させる技術は未確立でした。水素キャリア利用チームでは、数十kWから数MWまでの幅広いエンジンサイズを対象にした水素専焼エンジン技術の開発実績があり、低圧・直接噴射方式を用いた高出力・高熱効率・低NOx水素エンジンの開発に成功しています。また水素の燃焼生成物が水のみであるという特長をいかした、セミクローズドサイクルと呼ばれる超高効率な熱機関システムに関する研究開発も行っています。
 アンモニアの熱機関における利用において、燃焼速度が天然ガスの1/6ほどしかない難燃性のアンモニアは、失火や不完全燃焼あるいは窒素酸化物(NOxやN2O)の発生が課題でした。当チームでは、燃焼器の最適化設計やリッチ・リーン二段燃焼技術により、100%アンモニアガスで安定燃焼できるマイクロガスタービン(出力40kW以上)を開発し、MW級ガスタービンでの技術実証に貢献しました。また発電などのエネルギー変換分野だけでなく、工業炉のような製造プロセスにおけるアンモニアの燃焼技術の研究開発も行っています。

主な研究成果

1.水素サプライチェーンおよび水素混焼発電機システムの実証

 有機ハイドライドの一つであるMCHを用いた次世代コジェネエンジンにおいて、エンジン排熱をMCHの脱水素に利用する、エンジン排熱回収技術および水素とディーゼル燃料との混焼技術を研究開発しています。ここでは、産総研と株式会社日立製作所、デンヨー興産株式会社が、福島県において導入が促進されている再生可能エネルギー電力で水素を製造し、化学変換、貯蔵、輸送を経て、水素混焼発電機システムで発電するサプライチェーンの技術を実証しました。水素混燃発電機システムについては、発電出力300~500kW、水素混燃率40~60%で、合計1000時間以上の稼働を達成しました。供給した水素の一部は、エンジン排熱を用いてMCHを脱水素して製造され、また福島県内産バイオマス燃料も利用することで、100%地産地消となる脱炭素型発電機システムとして期待できます。

<関連情報>産総研プレス発表:水素サプライチェーンや水素混焼発電機システムを実証(2020/3/18)

水素混焼発電機システム
【図2】水素混焼発電機システム

2.水素専焼エンジンの研究開発

 工場等のコジェネシステムのCN化に向けて、1MW級水素専焼エンジンを研究開発しています。4ストロークレシプロガスエンジン(ピストン径170mm × ストローク220mm)を改良した単気筒エンジンにおいて評価試験を行い、試験を通じてCO2を排出せずクリーンな水素を100%として安定燃焼できる条件を見出しました。6気筒換算/340kW、16気筒換算/920kWでの水素専焼の安定運転に成功しています。

1MW級コジェネシステム用単気筒水素エンジン評価装置
【図3】1MW級コジェネシステム用単気筒水素エンジン評価装置

3.アンモニア内燃機関の技術開発

 東北大学と共同でアンモニアの直接燃焼利用技術を研究開発しています。小型ガスタービン(50kW定格)での燃焼利用に挑戦し、世界初となる、メタンとアンモニアの混焼発電と、アンモニア100%の専焼発電に成功しました。また、燃焼後の窒素酸化物(NOx)は、基礎燃焼実験に基づいたアンモニア過濃・希薄二段燃焼コンセプトや脱硝装置により、環境規制を十分にクリアするレベルまでクリーン化することを実現しました。

<関連情報>産総研プレス発表:メタン-アンモニア混合ガスと100 %アンモニアのそれぞれでガスタービン発電に成功(2015/9/17)
<関連情報>産総研プレス発表:ガスタービンでアンモニアを燃焼させる発電技術(2014/09/18)

アンモニア専焼ガスタービン実験
【図4】アンモニア専焼ガスタービン実験

4.アンモニア・水素燃焼技術開発の基礎試験

 ゼロエミションかつ超高効率な酸素水素燃焼ガスタービンサイクルの実現を目指して、酸素水素燃焼技術の研究開発を行っています。開発した酸素水素衝突噴流型バーナでは、逆火しない利点を持ちながら、燃焼試験において保炎性が優れていることが示されました。

酸素水素衝突噴流型バーナと火炎
【図5】酸素水素衝突噴流型バーナと火炎

 液体アンモニア専焼によるガスタービン発電システムの設備簡略化とコスト削減を目的として、液体アンモニアの燃焼技術開発を行っています。基礎試験において、液体アンモニアの噴霧特性、および燃焼時の保炎範囲と燃焼排出(未燃分とNOx)に与える燃焼器の諸元と実験パラメータの影響を調べました。液体アンモニア用燃焼器を開発し、液体アンモニア専焼によるガスタービン発電の実証運転も行っています。

アンモニア噴霧と火炎
【図6】アンモニア噴霧と火炎

 これまでに計測例が少ない水素原子、酸素原子、窒素系ラジカルの計測を通して、アンモニア・水素の燃焼反応に関する基礎研究を行っています。また、火炎と燃焼器壁面の相互作用について東京大学と共同で研究を行っています。

薄型流路内水素火炎のOH, O, H分布計測例
【図7】薄型流路内水素火炎のOH, O, H分布計測例

主な研究設備

水素・アンモニア等レシプロエンジン評価設備

小型から大型までのレシプロエンジンに対する水素・アンモニア等のCN燃料の評価が可能。水素専焼や、水素と天然ガス、アンモニア、軽油との混焼評価、高圧水素ガス評価の実績あり。

水素・アンモニア等レシプロエンジン評価設備
【図8】水素・アンモニア等レシプロエンジン評価設備

アンモニアガスタービン

アンモニアの専焼、およびメタンとの混焼が可能であり、出力は40kW。

アンモニアガスタービン
【図9】アンモニアガスタービン

ガスタービン用リグ試験機

アンモニアガスタービンの燃焼器内部の状態を再現できるリグ試験機。各種燃焼器や噴射ノズルを試行するベンチスケール試験や燃焼状態の可視化観察などを実施可能。

ガスタービン用リグ試験機
【図10】ガスタービン用リグ試験機

アンモニア・水素燃焼試験装置

アンモニア・水素の燃焼状態の可視化と排気計測、アンモニア噴霧の可視化、レーザ誘起蛍光法によるラジカル分布計測など。

アンモニア・水素燃焼試験装置
【図11】アンモニア・水素燃焼試験装置

LIF(レーザ誘起蛍光法)計測装置

【図6】LIF (レーザ誘起蛍光法) 計測装置
【図12】LIF (レーザ誘起蛍光法) 計測装置

メンバー

※2024年4月1日時点

役職 氏名  
研究チーム長 伊藤 博 ITO Hiroshi
主任研究員 范 勇 Fan Yong
主任研究員 佐久間 雄一 SAKUMA Yuichi
研究員 Shehab Hazim Shehab Hazim
研究員 松田 大 MATSUDA Dai
研究チーム付 辻村 拓 TSUJIMURA Taku
国立研究開発法人 産業技術総合研究所