地中熱ポテンシャル評価とシステム最適化技術
研究背景
地中熱利用システムは、もともと世界オイルショックを契機として1980年代から欧米諸国で広まった技術です。技術的には新しいものではないものの、日本においては2000年頃までほとんど知られていなかったことや、大都市における地下水の汲み上げ規制などの理由により、その普及が遅れています。日本における地中熱利用では、地下水の存在が熱交換量に大きく影響するため、地下水の水位や流量の把握が重要です。
研究目標
当チームでは、一般的なエアコンや融雪システムよりも高効率(高いCOP)、省エネルギーである地中熱利用システムの普及促進に向けた研究を行っています。地下水流動・地質特性に応じたシステムの高性能化・低コスト化を目指しています。
地中熱利用システムには、地下に埋設した管に不凍液や水を循環させて熱交換するクローズドループ、井戸から地下水を汲み上げて熱交換するオープンループ、帯水層蓄熱(Aquifer thermal energy storage、以下ATES)などがあります(図1)。 ATESシステムとは、季節間で揚水用と還元用の井戸を入れ替えることで、夏季の冷房排熱を帯水層に蓄熱し冬季の暖房時に利用するという、効率のよいオープンループシステムの一種です。日本においては、いずれの場合も地下水の存在が熱交換量に大きく影響するため、地下水の水位や流量の把握が重要です。また、地下水を考慮した日本式の地中熱研究は、東南アジア諸国に対しても大きく役立ちます。このため、当チームでは、地域の地質や地下水流動の特性に適応した地中熱システムの開発を目指して、以下の研究目標に取り組んでいます。
※COP: Coefficient of Performance(成績係数)の略
【図1】地中熱システムの主な利用形態
※ATESでは、夏と冬で汲み上げと還元の井戸を入れ替えます。
【図2】地中熱利用のためのポテンシャル評価技術
※地下水流れの効果を考慮した地中熱ポテンシャルの評価は世界初のものです。
研究内容
地中熱を利用するには、地下の地質や地下水流動の状態を知ることが大切です。そのため、当チームでは、ボーリング(掘削)による地質調査や深度別の地下水温度の調査、広域地下水流動熱輸送シミュレーションなどを行い、地域の地下環境に応じた地中熱の利用可能性(地中熱ポテンシャル)を調べる研究を行っています。
そして、様々な地下環境に応じた地中熱利用方法を開発する研究も行っています。FREAの地中熱利用システム実証試験場では、浅部・深部の地下を利用する2種類の熱交換器を組み合わせた実験を行っています。また、同様のシステムを茨城県つくば市の産総研・地質標本館にも導入しており、地質や地下水の流れの異なる地域での採熱量・最適な運転方法の違いを調べています。
主に以下の研究開発テーマに取り組んでいます。
1.地中熱ポテンシャル評価の研究
地中熱利用の対象となる地下数m~100m付近には、地下水が豊富に存在している地域が多く、その流動性に応じた地中熱の利用が有効と考えられます。当チームでは、適切な地中熱利用の普及促進のため、地質・地下水環境や地下熱環境について、産総研・地質調査総合センターと協力し、調査・研究を行っています。また、現地調査や数値解析による地中熱のポテンシャル評価手法の開発を進めています。
2.地中熱利用最適化技術開発
浅層(深度1~2m)と深層(深度おおよそ100m程度まで)の地下を効率的に活用できる地中熱利用システムの運転方法最適化評価や水文地質を活用したより効率的な熱交換器の開発を行っています。FREAの地中熱利用システム実証試験場および茨城県つくば市の産総研・地質標本館では、様々なタイプの水平埋設型の熱交換器に、従来の垂直埋設型熱交換器を組み合わせた地中熱利用システムを導入し、水文地質環境の異なる地域での運転方法や効率の違いについて、長期計測や数値シミュレーションを用いて検討・評価しています。
また、リアルタイム稼働状況のモニタ表示や熱交換井部分の「見える化」により、地中熱利用システムの普及促進を目指します。
【図3】地中熱利用最適化技術開発
主な研究成果
1.大阪平野の地中熱ポテンシャルマップ
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)委託事業「再生可能エネルギー熱利用技術開発」(2014年度~2018年度)において、東北地方を対象として地中熱ポテンシャル評価手法を開発しました。さらに開発手法を応用し、東北地方よりも冷房負荷が大きい大阪平野の地中熱ポテンシャルマップを作成・公表しました(図4、5)。
【図4】大阪平野におけるクローズドループシステムの地中熱ポテンシャルマップ(必要熱交換器長さの分布図)
【図5】大阪平野におけるオープンループシステムの適地マップ
2.見かけ熱伝導率推定手法の開発
地中熱利用システムを設計する際に重要なパラメータとなる「見かけ熱伝導率」は、現状では原位置試験(熱応答試験)を実施する以外に計測・推定する方法がありません。システム導入サイトの見かけ熱伝導率を事前に精度よく推定できれば、適切なシステム設計が可能となり、導入コストと運用コストの適正化に繋がります。そこで当チームでは、NEDO委託事業「再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト削減技術開発/高度化・低コスト化のための共通基板技術開発」(2020年度~2023年度)において、見かけ熱伝導率の推定手法を開発しています。
主な研究設備
FREA地中熱利用システム実証試験場
深度1~2mの地下に設置するシート型熱交換器とスリンキー型熱交換器および深さ約40mの鉛直型(ボアホール型)の熱交換器を利用した地中熱システムです。
【図6】FREA地中熱利用システム実証試験場
タイ・チュラロンコン大学に設置したGSHPシステム
タイ・チュラロンコン大学の施設を利用して、バンコクでも地中熱システムによる冷房運転の可能性を実証しました。
※GSHP: Ground Source Heat Pump(地中熱ヒートポンプ)の略
<関連記事>タイにおける地中熱ヒートポンプシステム実証試験(PDF)
https://www.gsj.jp/data/gcn/gsj_cn_vol4.no10_306-308.pdf
【図7】タイ・チュラロンコン大学に設置したGSHPシステム
メンバー
役職 |
氏名 |
|
研究チーム長 |
冨樫 聡 |
Tomigashi Akira |
主任研究員 |
Shrestha Gaurav |
Shrestha Gaurav |
主任研究員 |
石原 武志 |
Ishihara Takeshi |
主任研究員 |
Arif Widiatmojo |
Arif Widiatmojo |
研究員 |
島田 佑太朗 |
Shimada Yutaro |
研究チーム付 |
内田 洋平 |
Uchida Youhei |
研究チーム付 |
町田 功 |
Machida Isao |
研究チーム付 |
吉岡 真弓 |
Yoshioka Mayumi |
研究チーム付 |
小野 昌彦 |
Ono Masahiko |
研究チーム付 |
神宮司 元治 |
Jinguuji Motoharu |
研究チーム付 |
伊藤 忍 |
Ito Shinobu |
研究チーム付 |
金子 翔平 |
Kaneko Shohei |