水素キャリア製造・利用技術
研究背景
太陽光、風力などの再生可能エネルギーは、資源に乏しい我が国にとって貴重な国産エネルギー資源ですが、日照や風況の適地は偏在し、得られる発電電力も変動します。水素キャリア製造技術は、再生可能エネルギーを利用して水素を製造し、その水素を大量、長期、安全に、そして安価に貯めるように触媒等を使って化学変換する技術であり、偏在し変動する再生可能エネルギーを大量に導入するために必要不可欠な技術です。
研究目標
当チームでは、我が国が直面するエネルギー問題の解決に貢献するため、再生可能エネルギーの大量導入を支えるエネルギー貯蔵・利用技術を開発しています。再生可能エネルギーを化学変換して水素や水素キャリアとし、電気、熱、水素など様々な形でエネルギーを供給・利用するための技術開発を行っています。この技術は、自然状況により左右されて変動する再生可能エネルギー発電電力の吸収あるいは電力系統の調整力としても応用できます。また、大量の再生可能エネルギーを、季節や場所を問わず効率的に利用できるようになります。(図1)
【図1】電力エネルギーの貯蔵方式
研究内容
当チームでは、変動電力を使う水素製造から触媒を使う水素キャリアへの化学変換、及び熱機関での利用までの一連の技術を開発しています。水素キャリア製造・利用触媒や水素エンジン制御などの要素技術を大型実証機等へ応用し、実証研究から得られた知見を要素技術の改良や新たなブレークスルーへと導きます。(図2)
- 水素キャリア(有機ハイドライド、アンモニア、ギ酸等)の高効率製造技術:高効率(省エネルギー)な触媒合成技術の確立
※メチルシクロヘキサン(MCH):6wt.%の水素を有する常温常圧で液体の有機物。1LのMCHで500Lの水素ガスを貯蔵。
※アンモニア:17wt.%の水素を有する窒化物。1Lのアンモニアで1,300Lの水素ガスを貯蔵。
※ギ酸:4wt.%の水素を有する常温常圧で液体の有機物。二酸化炭素と水素を合成して製造。1Lのギ酸で600Lの水素ガスを貯蔵。
【図2】再生可能エネルギーからの水素キャリア製造・利用
主な研究成果
1.アルカリ水電解装置のダイナミックシミュレータの開発(図8)
変動する再生可能エネルギー発電電力を基にする水電解装置の水素発生量や劣化特性を予測することは重要です。ここでは、変動電流に対してレスポンスの速い電圧や水素発生量と、変化の遅い温度の時間経過を予測できる、アルカリ水電解装置シミュレータを開発しました。シミュレータは、水素発生量30Nm3/h級の実機により得た30MWh以上の実証データを用い、電気化学反応に加えて電解槽の熱容量や電解ガスの溶存・溶出等をモデル化し、変動電力を基にして時々刻々変化する電解効率等を精緻に予測することができます。これにより、国内外の様々な変動電源を入力値とした水素製造コストの導出やシステム設計が可能となります。
【図8】アルカリ水電解シミュレーション
2.有機ハイドライドを用いた次世代コジェネエンジン技術(図9)
有機ハイドライドの一つであるMCHを用いた次世代コジェネエンジンにおいて、エンジン排熱をMCHの脱水素に活用する排熱回収技術および水素の混焼技術を研究開発しています。ここでは、エンジン排熱を高温に維持しつつ高い熱効率を達成する燃焼技術や、新しい燃焼コンセプトを取り入れた高効率・クリーン燃焼を目指しています。また図9のように、脱水素反応を活発化することで、エンジンでの水素利用率が増加し、エンジンの脱炭素化が促進されます。さらに、鉱物油の代わりに地産のバイオディーゼル燃料を利用することで、一層の脱炭素化に貢献します。
【図9】エンジン排熱回収型脱水素反応システム
3.アンモニア合成(図10)
再生可能エネルギーから製造した水素をアンモニアとして貯蔵するための触媒ならびにプロセスの研究をしています。再生可能エネルギーを利用して水素を製造する場合、太陽光や風力発電の変動の影響を受けるため、一般の化学プラントのような原料一定の運転ができません。そのため変動に対応するための種々の条件での触媒活性の測定と変動運転を可能にするプロセスの開発が必要になります。この研究によって、再生可能エネルギーや水素の効率的な貯蔵技術の発展に貢献します。
【図10】FREA開発触媒の特性評価
4.アンモニア内燃機関の技術開発(図11)
東北大学と共同でアンモニアの直接燃焼利用技術を研究開発しています。小型ガスタービン(50kW定格)での燃焼利用に挑戦し、世界初となる、メタンとアンモニアの混焼発電と、アンモニア100%の専焼発電に成功しました。また、燃焼後の窒素酸化物(NOx)は、基礎燃焼実験に基づいたアンモニア過濃・希薄二段燃焼コンセプトや脱硝装置により、環境規制を十分にクリアするレベルまでクリーン化することを目指しています。
※本研究開発は、内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「エネルギーキャリア」(管理法人:JST)により実施しています。
【図11】アンモニア専焼ガスタービン実験
メンバー
役職 |
氏名 |
|
研究チーム長 |
辻村 拓 |
Tsujimura Taku |
主任研究員 |
小島 宏一 |
Kojima Hirokazu |
主任研究 |
眞中 雄一 |
Manaka Yuichi |
研究員 |
Javaid Rahat |
Javaid Rahat |
研究チーム付 |
難波 哲哉 |
Namba Tetsuya |
研究チーム付 |
倉田 修 |
Kurata Osamu |
研究チーム付 |
松沼 孝幸 |
Matsunuma Takayuki |
研究チーム付 |
伊藤 博 |
Ito Hiroshi |
研究チーム付 |
田中 洋平 |
Tanaka Yohei |
研究チーム付 |
范 勇 |
Fan Yong |
研究チーム付 |
高木 英行 |
Takagi Hideyuki |
研究チーム付 |
西 政康 |
Nishi Masayasu |
研究チーム付 |
井上 貴博 |
Inoue Takahiro |
研究チーム付 |
望月 剛久 |
Mochizuki Takehisa |