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お知らせ記事2026/02/20

【RIHSA】人間社会拡張研究部門シンポジウム RIHSArch2025 取材レポ「RIHSAが目指すもの」④

情報・人間工学領域 人間社会拡張研究部門シンポジウム RIHSArch2025では、人間社会拡張研究部門から3人の研究者による研究紹介と、社会実装に向けた産総研の活動紹介として標準化活動・産総研コンソーシアム・インターバース社会実装メタコンソーシアムの活動紹介がありました。さらに、ゲストを交えたクロストークでは「共創プラットフォーム」について議論しました。
その中から3人の研究紹介と標準化活動、パネルディスカッションについてご紹介します。

 

人間社会拡張研究部門 研究紹介

 

つながりを拡張する:人間社会拡張に向けたXRコミュニケーション支援

インターバース研究グループ 大槻麻衣さん


大槻 麻衣さん


「人間拡張」という言葉に“社会”が加わったとき、私が思い浮かべたのは“コミュニケーション”でした。
コミュニケーションは、人と人が情報を共有し、協力し合うことで社会を構成する重要な要素のひとつです。
人間の脳が同時に維持できる社会的関係は150人くらいと言われていますが、自分の環境を考えた時に生涯で出会う人数は明らかに増加しています。
さらにコロナ禍を経てオンライン化が急速に進んだこともあり、人間の能力はその変化に追いついていないのではないかと思います。
私が考える「人間社会拡張」は、技術によるコミュニケーション支援によって、そのギャップを埋めていくことです。
例えば、指示者が遠隔地にいて作業者が現地にいる場合に、PCやスマートフォン、ヘッドマウントディスプレイなどを介し、現地の人に指示を出す作業をする「遠隔協調作業」の場合、現地に作業員を派遣する時間やコストを制限することができるというメリットがあります。
しかし、対面のように視線や身振り、手振りが伝わりにくく、相手の意図を察することが難しいため、作業効率が下がるという課題があります。
そこで私は、こうした意図を伝えるために、視線を伝えるための「ThirdEye(サードアイ)」、身振りや手振りをARで伝えるシステムの開発を行ってきました。
近年は、人手不足という社会課題の解決のために、1人の指示者が複数の作業者に指示を出す「1対多」の遠隔作業システムの研究を行っています。
さらに、現実と仮想を融合した「インターバースオフィス」を作り、テレワークの人に臨場感を与え、実際のオフィスに出勤している人との円滑なコミュニケーションを支援する取り組みも行っています。
最後に、複数の、多様な立場の人たちがXR技術を使って、一緒に製品やサービスの開発をデザインしていく、という取り組みも行っています。
大槻さんは、「技術によって、コミュニケーションの可能性を広げ、より多様な人々が協働し、創造的に関わりあえる社会の実現に貢献していきたいと考えています」と話して締めくくりました。

 

サイバーフィジカルヒューマンによるヒト運動の理解と応用

身体情報力学研究グループ 鮎澤 光さん


鮎澤 光さん



「サイバーフィジカルヒューマン」という言葉は耳慣れないかもしれませんが、デジタルヒューマンなら聞いたことがあるかもしれません。
デジタルヒューマンは、ヒトの身体機能をサイバー空間にモデル化したもので、体表面にどのような力が加わったのかを解析して製品設計に展開したり、運動中の体に加わる力や筋肉が発揮する力などを可視化したりできます。
こうしたサイバーシミュレーションは身体条件を自由に変更して解析することできますが、製品や環境などそれ以外の物理環境もサイバー空間で再現しなければならず、限界があります。
一方、ヒューマノイドロボットを使ってヒトの身体機能をフィジカルにシミュレーションするという考え方もあり、ロボットにアシストスーツを装着させて製品の効果を検証したり、ロボットに内蔵したセンサによって関節の負担がどう変化したかを直接計測したりできます。
サイバーシミュレーションのように物理環境をそのまま模擬する必要がなく、ロボットをそのまま物理環境に持ってくれば製品や環境を評価できますが、ヒトを完全に再現できるわけではありません。
サイバーシミュレーションとフィジカルシミュレーションは利点と欠点が相補的なので、その両方のアプローチを使って、ヒトの運動を再現する技術である「サイバーフィジカルヒューマン」を開発しています。
サイバーフィジカルヒューマンを用いて、研究グループのミッションとして、ヒトの運動を理解するための技術を開発しています。
そのために、ヒトの運動の計測・モデル化・解析・介入までを体系的に扱える運動最適化理論を開発しています。
この理論を用いることで、複数のモーションキャプチャを臨機応変に組み合わせたり、個人のデジタルヒューマンモデルを構築したり、運動を解析してスポーツトレーニングに活かしたり、ヒトの運動からロボットの運動を自動生成したりする技術も開発しています。
直近では、映像式モーションキャプチャを使って、短時間で多くのヒトの運動データを収集して、力学解析までできるようなシステムの開発を目指しています。
鮎澤さんは、「運動そのものの価値を高め、ウェルビーイングに貢献したい」と話しました。

 

インクルーシブな人間社会拡張の実現に向けて

ソシオデジタルサービスシステム研究グループ 三浦 貴大さん


三浦 貴大さん



障害のある方や高齢者を支援する支援者の社会活動を拡張するシステム作りとアシストする研究をしています。
「個の拡張」と「場の拡張」をキーワードに、個人の特徴を調べ、支援システムの構築、設計など、様々な状況にある当事者との研究を実施し、インクルーシブな技術開発を行っています。
事例として、視覚障害者のスポーツにおいて,練習場所や一緒に練習する人がいないといった課題に対し、VR技術を取り入れたところ、ゴールボールの守備に必要な聴覚的な定位能力が高まりました。
また音と触覚ディスプレイを使い聴覚と触覚の複合知覚によるアクションゲームのインクルーシブ化を行い,視覚障害者におけるプレイしやすさの改善に加えて、晴眼者であってもゲームに慣れた人たちでは問題なくプレイ可能であることを確認しました。
これを踏まえ、最近の新しいゲームの中にはアクセシビリティ機能が実装されたものもあるため、様々な応用ができないか検討しています。
この一例として、ゲームを通じた視覚障害者とそうでない人との相互理解を図り、企業や学校などで、合理的配慮を学ぶためのワークショップを実践しています。
高齢者支援では、情報機器に対するバリアを低減し、社会活動への参加を促す仕組みについて研究しています。
コロナ禍における地域活動継続支援の一例として、オンライン上でフレイルチェックを行う技術を開発し、栄養面、口腔ケア、運動状況、社会性などをチェックするWebシステムを構築しました。
タブレット操作に最適化しており、場所によらずフレイルチェックができます。
このシステムは、音声や動画をデータとして記録できるので、それらの分析によってその時のメンタル評価などが可能になります。
三浦さんは、「当事者との協働による知見を活用した自己実現の場を構築し、継続的実施による事例蓄積とその汎化が必要と考えています」と話しました。

 

社会実装に向けた産総研の活動紹介

 

高齢化社会―地域や企業等でウェルビーイングを推進するためのガイドライン

研究戦略本部 ウェルビーイング実装研究センター ヒューマンステートデザイン研究チーム 細野 美奈子さん


細野 美奈子さん



昨年11月、地域や企業等でウェルビーイングを推進するための国際規格ISO 25554-2024が発行されました。
高齢社会をテーマとする専門委員会TC314の中にある作業部会WG4 “Wellbeing”は、産総研情報・人間工学領域の佐藤洋副領域長が作業部会議長を務め、私はエキスパートメンバーとして開発に参画しています。
本ガイドラインは「ウェルビーイングとは何か」を規定するものではなく、地域や企業等のコミュニティが自ら「ウェルビーイング」として設定した目標に向かって取り組みを推進するためのフレームワークを示す国際規格です。
具体的には、取り組みのPDCAサイクルを持続的かつ効果的に回すためのアウトカムや指標等の要素設計のほか、コミュニティや所属メンバー間のコミュニケーションによる合意形成、コミュニティトップによるリーダーシップの発揮やデータマネジメントなどの推奨事項がまとめられています。
現在、ISO25554-2024のパート2として、国内外の様々なコミュニティにおけるウェルビーイングの推進事例を紹介する事例集(TR)を開発中です。
世界の多様な取り組みを共通のフレームワークで表現し共有することで、新しい取り組みの設計支援や既存の取り組みの改善支援、コミュニティ間の連携支援に繋げます。


 

パネルディスカッション

 

RIHSAが目指す共創プラットフォーム



登壇者
  • ゲストパネリスト 株式会社日建設計 吉備友理恵さん
  • 産総研フェロー 持丸正明
  • 人間拡張研究部門長 蔵田武志
  • 総括研究主幹 小島一浩
  • 上級主任研究員 三浦貴大
  • 主任研究員 赤坂文弥
  • モデレーター 副研究部門長 竹中毅



RIHSArch2025 パネルディスカッション




産総研 人間社会拡張研究部門では、社会課題解決に向けた「共創プラットフォーム」のあり方を議論するパネルディスカッションを開催しました。
ゲストに株式会社日建設計の吉備友理恵さんを迎え、産総研の研究者とともに多様な視点から意見を交わしました。


「共創プラットフォームやっている人!」
吉備さんの元気な呼びかけから、パネルディスカッションはスタート。


パネルディスカッション 吉備さんと赤坂さん
 左から 赤坂文弥さん 吉備友里恵さん



モデレーターの竹中さんは、産業・社会課題の複雑化や生成AIなど新技術の登場により、企業や行政、市民、大学が連携してイノベーションを起こす事例が増えていることから、共創を支えるプラットフォームのデザインが重要になると今回のテーマについて説明。


竹中毅さん
人間社会拡張研究部門副部門長 竹中 毅さん


産総研が進めるリビングラボ(赤坂文弥さん)やデザインスクール(小島一浩さん)の取り組みについて、紹介。
三浦貴大さんからは、当事者起点の共創について紹介がありました。



三浦貴大さん 小島一浩さん
左から 三浦貴大さん 小島一浩さん


議論では、「共通ビジョンの共有」「多様な人材の巻き込み」「共創ファシリテーター」といったキーワードが見えてきて、コスト低減のための制度作り、データの標準化、職能の育成など、今後の課題が挙げられました。


蔵田武志さん 持丸正明さん
左から 蔵田武志さん  持丸正明さん


竹中さんは、「振り返りやモチベーション維持の仕組みづくりが重要」とまとめ、議論を締めくくりました。



取材レポ「RIHSAが目指すもの」①


取材レポ「RIHSAが目指すもの」②


取材レポ「RIHSAが目指すもの」③



 
国立研究開発法人産業技術総合研究所