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お知らせ記事2026/02/20

【RIHSA】人間社会拡張研究部門シンポジウム RIHSArch2025 取材レポ「RIHSAが目指すもの」②

情報・人間工学領域 人間社会拡張研究部門シンポジウム RIHSArch2025では、インタラクティブセッションにおいて69のポスター発表を実施。
個人の研究テーマやグループ全体の研究紹介、連携研究や地域連携活動など所外からも研究発表があり、来場者と研究者との熱いコミュニケーションが交わされていました。
研究者による研究紹介を一部ご紹介します。
 
従業員計測に基づくQOW(Quality of Working)の評価
インターバース研究グループ 一刈良介さん

一刈良介研究グループ長


屋内測位技術等を用いた従業員計測に基づき「働き方の質(QoW:Quality of Working)」を評価する研究を進めています。
従業員計測に基づき、様々な現場の客観的評価に基づく業務分析を行っており、従来の生産性だけでなく、職場環境や働き甲斐、成長実感などを働き方の質を総合的に分析し、現場改善を支援することを目指しています。
働き方の質を評価するためには、職場の温度や清潔さ、メンタル面の状態、バイタルの状態など様々な要素を評価する必要があります。
そのような働き方の質の評価・分析のために、従業員計測技術等を用いて行動データを計測・蓄積することで、働き方改革を技術的に支援する仕組みの構築を目指します。
産総研コンソーシアム等での活動を通じて、働き方の質の評価に関する標準化に関しても取り組んでいます。



 
身体活動によるエネルギーコストの標準化
スマートテキスタイル共創研究グループ 中江 悟司さん

中江 悟志さん

日常生活動作や運動時の消費エネルギーを標準化した「身体活動のメッツ表」に資する研究を進めています。
消費エネルギーやメッツ値がわかれば、栄養や健康管理に役立てることができます。例えば、厚生労働省の身体活動に関するガイドラインでは、強度が3メッツ以上の身体活動を週23メッツ・時以上行うことが推奨されていますが、自分の身体活動量がどのくらいなのかを知るための根拠がこの「身体活動のメッツ表」となります。
また、消費エネルギーがわかることでそれに見合った食事量を知ることができるため、生活習慣病の予防・改善のための体重管理(栄養指導)や、スポーツ分野においては食事やトレーニング量の調整等にも活用されています。
しかしながら、海外のデータが中心となっており、日本人の生活習慣や活動様式に合ったエビデンスが十分とはいえないため、国内独自のデータ収集を増やし、日本でのエビデンスを作ることを目指しています。
また、活動によっては計測の困難さからそもそもデータがなく、推定値に頼っている部分もあります。
中江さんは、「いろいろな消費エネルギー計測技術を持っています。一緒にメッツ表のエビデンスを積み上げていくパートナーになりませんか」と呼びかけました。
 
スマートインタラクションデバイス
部門付(兼務:センシング技術研究部門スマートインタラクションデバイス研究グループ) 延島 大樹さん

延島大樹さん


スマートインタラクション研究グループは、人とデバイスの双方向性を追求し、人が使いやすいセンサやウェアラブルデバイスの開発に取り組んでいます。
人の身体に身に着けてもらうための柔らかいセンサ、それが実現可能なデバイス、そのデバイスを作るためのプロセス作りなども研究の対象になります。
例えば、伸縮する圧力センサや延びた時に信号が変わるようなセンサ、体の動きをとらえるセンサ、体から出る熱量を測るセンサ、発汗由来の湿度変化を測るセンサなど、生体情報を採ることができます。
また、1日の血圧変動を把握できるベルト型のウェアラブルデバイスなども作っています。
こうしたデバイスを作るための根本的な技術として、伸び縮みしても切れない配線作りや、布に組み込める機能性糸や、湿度変化で発電する電源技術も開発しています。
取得したデータを活用し、人に働きかける「介入デバイス」も研究中で、ソフトアクチュエータによる物体操作や、VR空間で匂いを提示する嗅覚ディスプレイなど、人の心理状態を促す技術になります。

 
人の嗅覚特性を反映した嗅覚VRシステム
部門付(兼務:センシング技術研究部門スマートインタラクションデバイス研究グループ) 平間 宏忠さん

平間 宏忠さん


産総研では、視覚・聴覚だけでなく嗅覚情報をVR(バーチャルリアリティ)に取り入れる研究を進めています。
これは、嗅覚ディスプレイと呼ばれる装置を使い、においを制御してVR体験と同期させる技術で、より没入感の高い体験を実現する取り組みです。
具体的には、微量の香りをVRのコンテンツと連動して提示することで、教育・医療・エンターテインメント分野で五感を使った体験価値を拡張することを目指しています。
課題としては、においの素早い切り替えや周囲への拡散抑制がありますが、これらの技術が発展すれば、認知機能支援やリハビリテーションなど社会課題への応用も期待されます。
平間さんは、「将来的には、より自然で個別最適化された嗅覚VR体験が可能になり、メタバースや健康支援サービスとの融合が進む見込みです」と話します。

 
介護分野における『実装研究のための統合フレームワーク(CFIR)』の活用
生活機能ロボティクス研究グループ 梶谷 勇さん

梶谷 勇さん

介護や福祉の現場では新しい技術がなかなか使われないという課題があります。
そういう状況を変えていくために、「CFIR(統合フレームワーク)」を活用した実装研究を進めているところです。
良い製品を作るだけでは普及しないため、導入を阻む要因を分析し、現場で使われる仕組みを構築することが重要です。
CFIRは、企業が製品を広める際の戦略立案や、現場側が新技術を取り入れる方法を考える際に役立つ手法です。
梶谷さんは「企業にも現場にも、実装研究という考え方を使うことで、より自分たちの中で使う方法を考えることができるということを知ってもらいたい」と語り、介護分野でのイノベーション普及を目指しています。

 
持久系運動種目の計測と解析
スマートテキスタイル共創研究グループ 鷲野 壮平さん

鷲野 壮平さん


水泳や自転車など持久系運動の計測・解析に取り組んでいます。
特徴は、デジタルヒューマン技術を活用し、自分で採った自分の運動データと自分のモデルを使ってPC上で自分の3Dモデルを動かし、解析をしました。
水泳は水の中でいかに速く動くかという競技なので、水中での抵抗を減らすことが課題です。
この3次元データを使って前方投影面積を解析し、定量化に取り組んでいます。
また流水プールを使った動作解析が可能な計測環境を開発し、従来困難だった100ストロークの連続解析を可能にしました。
自転車競技は、抵抗ではなく推進力の増大で移動速度が決まります。
体重の重みを使ってペダルを回すと無駄な力を使わずに回せるため、それを体得するためのシステムを組んでいます。
また、荷重コーチングを実施しデジタルヒューマンモデルを使って可視化。
これらの技術を現場で展開し、誰もが簡単に運動データを取得できる仕組みづくりを目指しています。

 
“自分が運動している”という感覚の運動主体感-行動変容を実現するための理論構築とその検証― 
身体情報力学研究グループ 宮脇 裕さん

宮脇 裕さん


身体に運動障害を持つ方のリハビリ効果を高めるため、「自分が運動している」という感覚=「運動主体感」に着目した研究を進めています。
運動障害によって思い通りに身体を動かせない状況になると、動かせないという物理的な事実だけでなく、自分が運動している気がしないという心理的なダメージがあると考えられます。
その心理的ダメージにより、リハビリ全体の効果が低くなってしまうという問題がありました。
リハビリ効果を上げるためには心理的な側面を評価し、そこに介入することが重要です。
従来、臨床現場では心理的側面が経験的・定性的にしか扱われず、主体感を定量化する手法がありませんでした。
宮脇さんは、運動障害が招く不快感から運動主体感を分離し評価する質問用紙を開発し、この心理学的尺度と身体機能や認知機能などの臨床多変量データとの関連について統計モデリングにより分析。
その結果、不快感ではなく運動主体感が活動量に関連しており、運動主体感が改善すると、運動障害が改善していなくても活動量が増えることが判明しました。
主体感は行動変容を促す重要な概念であり、今後のリハビリ支援に新しい視点をもたらします。

 
視覚–体性感覚統合と模倣動作課題を統合した短時間・低負担型認知機能スクリーニング法の開発
拡張介入オペレーション研究グループ 大島 賢典さん

大島 賢典さん


現在は、生活に溶け込みやすく、それでいて楽しい「短時間・低負担型認知機能スクリーニング法」の開発に取り組んでいます。
従来の検査では、できなかったり要求が難しかったりすると、強いショックを受ける人が多く、それが不安やうつを招いたり、外出が億劫になり刺激の減少につながることが課題でした。
臨床の現場で検査に関わってきた大島さんは、自然に楽しく受けられて心理的ショックを与えない検査方法を開発すべきと考え、手のものまねをする際の手の動きや挙動をマーカーレスモーションキャプチャで解析し、認知機能評価としてシステム化する研究をしています。
大島さんは、日常の自然な行動から健康情報を取得し、楽しく継続できるヘルスケアの仕組みを構築することを目指しています。



取材レポ「RIHSAが目指すもの」③へつづく
国立研究開発法人産業技術総合研究所